それもひとつの義務

 それは当然といえば当然のことだったかもしれない。






 既に師走に入り、この世界に来て側室となって4ヶ月になろうというある日、彰子は成実と共に厩に向かっていた。奥州にしては珍しく雪の降らない暖かな日が続き、彰子は成実に誘われて遠乗りに出かけようとしていたのだ。

 城の中ばかりでは退屈だろうし、気も滅入ってしまうだろうからと政宗は彰子の外出を許可してくれていた。但し、政宗か成実、小十郎、喜多のうちの誰かと一緒ならという条件は付いている。これまでにも何度か政宗と城下に下りたり、小十郎の畑の収穫を手伝ったり(小十郎は恐縮しまくっていたが)、喜多や衛門や小督と買い物を楽しんだり、こうして成実と遠乗りに出かけたりしていたのだ。

 この日は久々に天気もいいということで、遠乗りに出かけることにした。これから雪も深くなれば当分そんなことは出来なくなるから、それまでに楽しんでおこうというわけだ。

「梵、拗ねてたねぇ」

 くすくすと笑いながら言う成実に、彰子も苦笑しながら答える。

「仕方ないわ。書類溜め込んじゃってたんだもの」

 大量の書類を抱えた小十郎と綱元によって行く手を阻まれていた政宗を思い出す。小十郎と綱元の笑顔が、目だけが怒っていて怖かった。

「だねぇ。だけど、甘藷っていいね。甘くて美味しいし、あんな荒地でもちゃんと根付くし、たくさん収穫出来たしね」

 政宗のサボタージュの原因を思い出しつつ、成実も頷く。

 彰子が綱元に提案してイスパニアから購入した苗を放置していた畑に植え、つい先日その第1回目の収穫をしたのだ。初日にはシンプルでかつ一番甘藷の味を楽しめる焼き芋にし、翌日は蒸かし芋にして、政宗たちに食べさせた。

 それからは彰子が厨に赴き、芋雑炊やらだご汁やら豚汁やらあれこれと作ってみたのだ。そうなると、料理好きで好奇心旺盛な政宗もじっとはしていられず、結局彼も厨に篭って彰子とあれこれと試行錯誤して甘藷の調理方法についての研究をすることになった。しかも配下の武士たちの妻を集めて、お料理教室擬きまで始めたのだから、当然その間の通常業務は滞る結果となったわけである。

 因みに収穫した芋の半分は苗を作る為に小十郎や幾人かの部下に管理させ、ある程度の数まで苗が増えれば近隣の農民に分け与えて栽培させていくことになる。出来れば2年以内には奥州全土に苗を配ることが出来るようにしたいと政宗たちは考えていた。

「まだまだ甘味は高級品だからね。甘薯がたくさん収穫出来るようになればきっと民たちも喜ぶだろうなぁ」

「そうですね。幸村殿に食べさせたら……如何なるかしら」

「弟御は甘味大好きだっけ?」

「ええ。それはもう。食べさせたら五月蝿そうです」

『うぉぉぉぉぉぉぉ美味でござるうぅぅぅぅぅぅ』と叫ぶ幸村を想像して彰子はクスリと笑う。

 そんなふうに和やかに話をしながら二人が厩に着いたところで、中から数人の話し声が聞こえた。どうやら、馬の世話をする為に下級武士たちが集まっているようだった。

「でな、姐さん、いー匂いしててさー」

「ずりぃな、お前。姐さんの匂い嗅いだのかよ」

「だってよ、気軽に俺らに蒸かし芋持ってきてくださったんだぜ」

「じゃあ、そのいー匂いって甘薯じゃねーの?」

 如何やら、彰子についての噂話をしているらしい。先日、下級兵士たちに世論調査(?)を兼ねて甘薯を試食してもらう為に喜多や衛門・小督と共に差し入れしたときのことを話しているようだった。

 成実は悪戯っ子の表情になると彰子を連れて物陰にこっそりと隠れ、立ち聞きをする。

「違うってー」

「でも、姐さん、お優しいよな」

「うんうん。頭が大事になさるのも判るってもんだ」

「もうさ、筆頭、姐さんのこと目に入れても痛くないって感じだよな」

「そうそう。俺さ、ほんの偶然で姐さんに触っちまったんだけどさー、射殺されそうな目で筆頭に睨まれたぜ」

「仕方ねーぞ、それは。ってかさ、あんなに仲睦まじいんだから、筆頭に御子が出来るのも近いかもな。なんか、筆頭毎晩姐さん呼んでるらしいし」

「筆頭も若いねぇ。けど、筆頭と姐さんの御子ならさぞかしお綺麗な御子になるんだろうな」

「楽しみだよなー」

 当の本人が近くにいるとは知らぬ兵たちは勝手気ままに話をしている。いつの間にか話は近い将来に政宗と彰子の間に生まれるだろうと思っている子供についてのものになっていた。

 初めはあまりの誤解による賛美ともいえる話に苦笑していた彰子も、その話題になると次第に表情が硬くなり始めた。それに気付いた成実は彰子にその場に留まるように言うと、コホンと咳払いをして兵たちの前に姿を見せた。

「口ばかり動かしていないで、ちゃんと手も動かさないとね」

 突然姿を見せた成実に兵たちは慌てて平伏する。そんな兵たちに作業を続けるように言うと、成実は己の愛馬と優瞳に鞍をつけ、厩から引き出す。優瞳が引き出されたことで兵士たちは彰子も近くにいることに気付き慌てる。自分たちの会話をきっと姐さんも聞いていたに違いない。お優しい姐さんがお怒りになることはないだろうが、自分たちのような下級武士が気軽に話題に出していい身分の方ではない。

「御方様は恥ずかしがりやだからね。お前たちがそんなふうに噂してたら顔見せてくれなくなるよ。特に御子のことはさ。こればっかりは神仏からの授かり物だからね」

 慌てている兵士たちに苦笑し、成実は言う。だが、この話題──政宗と彰子の間に出来るであろう子のことは、下級兵士たちよりも重臣たちの間でのほうがよく話題に上るようになっている。流石に面と向かって政宗や彰子に言うものはいないが、『あれだけのご寵愛なのだから、そろそろお慶びのことがあってもよいのではないか?』『いやいや、仲睦まじすぎて逆に御子が遠慮なさっておいでかもしれんぞ』などと寄ると触るとその話題が出るようになっているのだ。そのたびに問いかけるような視線を向けられる成実や小十郎や綱元は苦笑しつつ『こればかりは天に任せるしかござらぬ』と応じているのだが。

 厩から離れたところで待っていた彰子の許へ成実は2頭の馬を連れていく。優瞳は彰子の姿を見つけると嬉しそうに蹄の音も軽やかに駆け寄っていく。そして何処か物憂げな表情の彰子を心配するようにその鼻面を彰子に摺り寄せた。

「優瞳、ありがとう。大丈夫よ」

 彰子は愛馬の優しさに応えるように鼻面を撫でると、早く行こうと急かすような優瞳の表情にクスリと笑う。奥州に来てからは上田にいた頃よりも制約が多くなってしまい(側室という立場があるのだから仕方ないが)、中々遠乗りには出かけられなくなっているから優瞳としては不満だったのだ。彰子は鐙に足をかけ優瞳の背に跨ると、憂いを振り切るかのように馬を走らせた。






 成実との遠乗りから戻ってきた彰子は呆と庭を眺めていた。いつもなら清々しい気分で楽しめる遠乗りも今日はそうもいかなかった。成実は気にするなと言ってくれたが、やはり気になってしまう。

 既に側室となって4ヶ月になろうとしている。直接その声を聞いたのは初めてだったが、家中の人々が如何に政宗の後継者を熱望しているかは彰子も感じ取っている。毎日のように寝所に呼ばれている彰子と政宗が仲睦まじく愛しみ合っているのだと家臣たちは信じているのだろう。時折顔を合わせる老臣たちの目は自分に『1日も早いお世継ぎの誕生を』と言っている。それが彰子にとっては辛く居た堪れない。

 自分は本当は『側室』ではないのだ。毎夜のように政宗と過ごしているが、ただ政宗は自分を労わってくれるだけで、体を求めてきたりしない。飽くまでも側室なのは建前なのだから当然なのだが、申し訳なくもなる。自分がいる所為で、政宗が他の女性の許へいけないのではないのかと。政宗が他にそういった女性を持っていないことは判っている。けれど、政宗とてまだ10代の青年だ。女性の肌を求めたくなることだってあるに違いない。

 政宗の優しさは心地いい。今の彰子にとって一番安心出来る存在が政宗だった。けれど、それにいつまでも甘えていて良いはずはない。もし自分がいることによって政宗が他の側室を入れられないのであれば、自分は城を去るべきなのではないか。自分が政宗の子を産むことなど有り得ないのだから。そんなことを彰子は考えてしまう。

「御方様、片倉様がお見えにございます」

 衛門の声に彰子は意識を現実に引き戻す。午後は小十郎から講義を受ける予定だったのだ。ちょうどいい、小十郎に相談してみよう。そう決めると、彰子は小十郎が待つ居間へと向かった。






 小十郎の講義がひと段落したところで、彰子はずっと考えていたことを口にした。

 政宗は他の妻妾を迎える気があるのか、他の妻妾候補が自分──同盟国から来た側室を憚って遠慮しているのではないか、自分の存在が他の女性を迎える障害になっているのではないか。自分が子を産むことは有り得ず、そんな側室がいる為に他の女性が奥に入れないのであれば、伊達家にとっては非常に良くないことになる。ならば、自分は城から出たほうが良いのではないのか。彰子はそんなことを小十郎に告げた。

 彰子の言葉を聞いた小十郎は暫し沈黙した後、口を開いた。表情も声もいつもどおりのものだが、内心では酷く焦っていた。政宗が知れば激怒しかねない内容だ。自分たちとて彰子が去ることなど望んでいない。逆に本当に政宗の妻になってほしいと願っているのだ。

「御方様は何ゆえ、そのように思われたのでございますか? 政宗様は面倒なことは望んでおられない。政道様・秀雄様がおられるし、その子が継げばよいとお考えなのでございますが」

 自分たちの望みは隠したまま、小十郎はそう応じる。彰子が伊達家のことを思って言ってくれているのが判るだけに、『何を馬鹿なことを』と言うことも出来ない。

「でも、皆さん、政宗さんの子を望んでいらっしゃるでしょう? 政宗さんを心から慕っていて、主君として敬愛している。そんな主君の子を望むのは当然だと思います。謙信公のように生涯不犯の誓いを立てているわけでもないし、子供を作ろうとして出来ないわけでもありません。だとしたら、仮に政宗さんが納得して弟さんに跡を継がせても、家臣は納得出来ないでしょう? 納得出来ない跡継ぎでは争いの火種になりかねません」

 急速に勢力を拡大した今の奥州を纏めているのは、政宗の持つカリスマ性だ。一部には自分たちを下した政宗に対する反感を持つ者もいるが、殆どの者は政宗を新たな主と認め、忠誠を誓っている。譜代家臣にも劣らないほどのそれは、まさしく政宗のカリスマ性によるものだった。この主の為ならば命を投げ出すことも喜びとなると思わせるほどの。

 そんな家臣たちにしてみれば、政宗の後継者はその息子しか有り得ず、仮に政宗が弟や甥に跡を継がせようとしても納得出来ない者も多いだろう。──そして、それは政宗の考えを知ったときから、小十郎たち側近が危惧していることでもあった。

 だから、彰子の考えは小十郎にも納得出来るものだった。

「確かに、御方様の仰ることも判ります。我らも出来れば政宗様ご自身の御子をと願っているのですからな。とはいえ、政宗様もまだお若い。然程急がずとも良いでしょう。御方様がご帰還の後、そういった方が現れましょうしな」

 だから気にしなくて良いのだと小十郎は彰子に告げる。彰子が帰還すれば、政宗の想いにもけりがつくだろう。或いは政宗は生涯彰子を思い続けるかもしれないが、二度と手に入らないと判れば、奥州の為伊達家の為と割り切って妻を迎える気になるかもしれない。もし如何しても彰子を忘れられず妻も迎えないとなれば、そのときは政宗の意向どおり、政道か秀雄に跡目を継がせれば良い。

「そうでしょうか……。それならばいいんですけど」

 それでも納得しかねるように、彰子は首を傾げながら言う。この時代に20歳目前で側室の一人もいないというのは、あまり良いことではないように思える。戦国の世なのだ。万一に備え、早いうちに後継者を作っておくべきではないのか。だからこそ、この時代は早婚だったのではないだろうかと。

 かといってそれを口にすることも憚られる。万一に備えるというのは、つまり、政宗の死を考えるということだ。そんなことは考えたくもない。

「ええ、お気になさいますな。それに御方様が城を出るなど冗談としても口に出されませぬよう。御方様は政宗様にとっても我らにとっても、非常に得難いお方です。充分に側室以上の役割を果たしてくださっておられます。政宗様が家督相続以降、これほどに心から寛いでおられるご様子を我らは存じません。御方様がおられるからこそ、政宗様は……なんと申しましたか、そう、りらっくすしておられるのです」

 だから気にするなと小十郎は言葉を重ねる。

「第一、御方様を城から出そうものなら、即日真田幸村が怒鳴り込んできて、城内が破壊されるでしょうからな。それだけは御免蒙りたい」

 小十郎の不器用な冗談に、漸く彰子も笑みを零す。

「確かにそれは嫌ですね」

 クスクスと笑う彰子に小十郎もホッと胸を撫で下ろす。だが、ふと他に側室を迎えるのもいいかもしれないと考えた。たった一人しかいない側室、しかも政宗が熱愛している側室の存在を快く思わない者がいるのも事実だ。もう一人二人『側室』がいればその分彰子への危険は分散されるのではないか。

「御方様のご懸念もご尤も。伊達家の為を思ってくださってのことですからな。御方様よりそれを政宗様に申し上げてみてはいかがか」

 小十郎はそう提案する。それは一つの賭けでもある。密かに愛している彰子から他の妻を持てと言われたら政宗は如何するのか。怒りを感じ激情のまま封じている想いを彰子に告げるのではないか。そうすれば状況は動く。既に彰子が城に入って4ヶ月。この世界に来て半年が過ぎているのだ。最早彰子は元の世界に還れない可能性のほうが高い。そこに政宗と彰子が肉体的にも結ばれれば、それはこの世界に彰子を留める決定的な楔になるのではないだろうか。

「余計なこと言うなって怒られそうですね」

 クスっと笑いながら彰子は応じる。けれど、それもいいかもしれない。政宗が妻を娶ることについて如何考えているのか、それを聞くだけでも何かの役に立つかもしれない。ついでに好みの女性なんてものまで聞き出せれば、それを小十郎たちに伝えて今後の検討材料になるかもしれないではないか。

 小十郎の言葉に力を得た彰子は、今夜にでも政宗に話してみようと決めたのだった。






 その夜、布団の中で寄り添いながら、彰子は昼間の話題を政宗に持ち出した。冬も深まり寒さが厳しくなった所為か、政宗はいつも彰子を抱き枕のように腕に抱え込んでいる。南国生まれで南国育ちの彰子も寒さには弱く、暖房器具といえば火鉢程度しかない為人肌の温もりの誘惑には勝てず、大人しく腕の中に収まっている。尤もそれは青年期の政宗にとってはかなりの理性と忍耐を試される状況なのだが。

「政宗さん、私の他にちゃんとした側室とか、正室とか迎える気ないの?」

 いきなりの彰子の問いかけに政宗は驚く。今までそんな話をしたことはなかったのに一体如何したのだと思うのも無理はないだろう。

「いきなり如何した。誰かに何か言われたのか」

「直接言われたわけじゃないんだけど、私に対する家臣の人たちの目がね……。お世継ぎはまだですかって言ってるみたいで……」

 彰子は苦笑しながら応える。それには政宗も覚えのあることだからやはり苦笑してしまう。合議の際に欠伸でもしようものなら『殿、お盛んですな』とニヤニヤとした笑いを向けられてしまうのだ。流石に面と向かって子供はまだかなどと言われたりはしないが、それもで家臣たちがそれを期待していることは政宗にも判っている。

「気にするな。爺どもはそれくらいしか楽しみがねぇんだ」

「んー、でも気にはなるよ。私が子供を生む可能性はないのに、こんなに政宗さん独占してていいのかなぁって思っちゃう。私は仮初の側室なんだしさ」

 はっきりと彰子の口から出た言葉に、十二分に頭では判っていたことなのに政宗の胸が痛む。

「あのね、好きな人いるんだったら私に遠慮とかしないで、奥に入れてね。あ、相手の人が気にしちゃうか。相手の人には面白くないよね」

 呟く彰子に徐々に政宗の中に苛立ちが湧き上がる。彰子が自分の為に、伊達家の為にそう言っていることを頭では理解している。それでも、想う女にそんなことを言われれば、怒りが湧いてくる。

 そんな政宗の内心に彰子が気付くことはなく、彰子は言葉を継ぎ続ける。

「私に遠慮はなしね。私は建前上側室ってことになってるだけなんだし、全然気にしないから。というか、政宗さんがここまで女っ気ないと心配だから、寧ろ他に側室とかいたほうが安心するし」

 普段は耳に心地いいはずの彰子の声が政宗を苛立たせる。

 オレが欲しいのはお前だけだ、彰子。

 決して言ってはならない言葉が喉元へせり上がってくる。何の警戒もせずに腕の中にいる彰子をこのまま貪ってしまいたい。己の想いを、激情をぶつけてしまえればどんなにいいだろう。

 けれど、そうした瞬間に自分が永遠に彰子を喪ってしまうことを政宗は知っている。彰子は自分を信頼してくれている。それを踏み躙った瞬間、彰子は政宗を蛇蝎の如く忌み嫌うようになるに違いない。二度と自分に対してこれまでのような笑顔や安堵した表情を見せてくれることはなくなる。

「ね、誰かいい人出来たら教えてね。大丈夫、巧くやるから」

「てめぇには関係ないことだ。余計な差し出口きくんじゃねぇ」

 彰子の言葉に、政宗は荒々しく言葉を投げつける。荒れ狂う激情を抑えつけ、それでも抑え切れない感情の昂ぶりが政宗の語気を荒くした。その語気の荒さに腕の中の彰子の体が強張り、居心地の悪い沈黙が落ちる。

「……ごめんなさい。余計なこと言って……」

 か細い彰子の声に政宗はハッと我に返った。腕の中の彰子は青褪め微かに震えている。だが、今の政宗にはそんな彼女を労わるだけの余裕はない。

「寝るぞ」

 政宗はそう言って背を向ける。──彰子と共寝をするようになってから初めてのことだった。

「──はい。おやすみなさい、政宗さん……」

 如何やら自分は竜の逆鱗に触れてしまったらしい。彰子はそれを感じ取り、己も政宗に背を向けた。

 自分を拒絶するような政宗の背を見ることが、彰子には耐えられなかった。言い様のない寂しさと哀しさが彰子の胸を締め付ける。

 その寂しさの正体に彰子はまだ気付いていなかった。