伊達三傑

 老臣たちとの評議を終えた政宗は腹心の部下──小十郎・綱元・成実と共に自室へと戻った。

 評議は予想通りの展開であり、政宗は小十郎と二人、独断で甲斐に赴いたことを責められた。評議といえば聞こえはいいが、実際は爺たちに散々嫌味を言われたのだ。尤も、元々武田・上杉との同盟については老臣たちの了承も得てあり、後はいつ打診し締結するのかという段階だったから、それについてはそれほど嫌味を言われたわけではない。言われたのは何も告げずに小十郎と二人で行動したことだけだ。

 しかしそれも無理はない。なんせ政宗は成実・綱元・喜多以外には何も言わずに甲斐へ行ってしまったのだ。殆どの家臣たちにしてみれば、朝登城してみれば主とその片腕は既に甲斐へと旅立っていたという寝耳に水の事態だったわけである。『我が殿ッ!!』という怒りの声が、『わ』が『は』になり『が』の濁点が移動していた(つまり『馬鹿殿!!』)としても仕方のないことだろう。

 政宗も小十郎もこれについては予想の範囲内であったし、老臣たちも『事が事であるゆえに慎重に内密に動く必要があったのだ』と小十郎が言えばひとまずそれで納得はしてくれた。

 だが、政宗たちの予想外だったのは『側室』についての老臣たちの反応だった。いきなり連れ帰った『側室』に老臣たちの反応は二つに分かれたのである。一つは政宗が側室を迎えたことを喜ばしく思う者たちであり、もう一つは逆に側室の存在を忌避する者たちだった。

 これまで政宗は正室どころか、一人の側室すら持たなかった。領主の勤めである子を為すことに関心を示さず、自分の跡は弟かその子が継げばよいと思っていた。そんな政宗が漸く側室を迎えたのだ。つまりそれは子を為す意志もあるのだと周りに告げたのと同意である──と老臣たちは解釈した。

 政宗のことを『我らが殿』と慕う者たちはこれを喜んだ。流石に事後承諾で既に側室を連れ帰っていたことには『早いだろ、殿!』と内心突っ込みを入れたのだが、『ははははは。政宗も情熱的な若い男だったということだな』と大笑した父輝宗に代表されるように、大半の老臣たちは苦笑しつつこれを受け容れたのだ。

「しかし、姉上の慧眼には恐れ入るといったところでございますな」

 評議の際の一部の老臣たちを思い浮かべつつ、綱元が言葉を発する。一部の老臣──『側室』の存在に否定的だった者たちのことだ。

「うん、流石は喜多殿だ。彰子ちゃんに黒脛巾をつけたのは正解だったね」

 成実も綱元の言葉に同意を示す。

 これまで空っぽだった奥に彰子を迎えるにあたって、喜多は護衛を手配した。何が起こるか判らないからと。そして彰子付きの侍女もかなり慎重に選んでいたのだ。衛門一人しかつけなかったのは彰子を守る為でもあった。

 伊達家臣団は決して一枚岩ではない。急速に領土を拡大し奥州を平定した歪みのようなものが存在するのだ。そこが時間をかけて領内を纏めてきた武田とは異なるところでもある。最上や葛西、大﨑、葦名、南部といった元領主たちは決して心から政宗への忠誠を誓っているわけではない。隙あらば独立しようと狙っている者もいれば、政宗ではなく弟の小次郎を伊達家当主に据えようと画策している者もいる。そんな者たちにすれば、政宗が側室を迎えたことは決して喜ばしいことではない。

 また、そこまで深い確執はなくとも上田からやってきた側室を快く思わない者もいる。彼らにとって『側室』という存在そのものは忌避するものではなく、政宗が側室を持つ気になったこと自体は喜ばしいと思っている。彼らにとって問題なのは、政宗が一目で気に入り信玄や幸村に請うて貰い受けるほど、その側室に執着していることだった。つまり、彼らは己の娘や縁者を政宗の寝室に送り込み、あわよくば外戚として力を持ちたいと画策していたというわけである。

「彰子の存在が思いもしなかった効果を生んだみてぇだな」

 負の反応を示した老臣たちの顔を思い浮かべながら政宗は呟いた。それに小十郎たちも頷く。たった一人の側室を迎えただけでこれほどの反応があるとは予想していなかった。けれどそれは決して悪いことではない。奥州の真の平定に繋がるといえなくもないものだった。

「小督もついてるし、衛門だって目端が利くし、心配は要らないだろうけどね」

 己も黒脛巾による護衛と侍女の選別に立ち会った成実は言う。喜多が信頼する衛門と黒脛巾頭領お墨付きの小督は、恐らく期待通りの働きをしてくれるだろう。

 それに何より彰子の後ろ盾は甲斐なのだ。何度も戦いを交えながらも決着のつかぬ雄敵であり、今回同盟を結んだ相手。信玄の娘でこそないが、重臣であり信玄の秘蔵っ子である真田幸村の姉だ。同盟締結と共に連れ帰ったのであれば、その存在は『同盟の証』に等しい。彰子に手出しをすることは同盟に罅を入れようとすること、真田──甲斐を敵に回すことを意味する。

 つまり、彰子の存在を快く思わぬ者たちであっても、現時点では何も出来ないのだ。精々、早々に政宗が側室に飽きることを願うか、子が出来ないように祈るか……といったところだろう。勿論、政宗たちも油断する心算はない。

「さて、Honeyの顔を見に行くか」

 城に戻って一刻は過ぎているし、彰子もそろそろ落ち着いた頃だろうと判断し、政宗は腰を上げる。

「あ! 私も彰子ちゃんに会いたいな。いいだろう、殿」

 政宗につられるように成実も立ち上がり、既に同行する気満々だ。見れば成実だけではなく綱元も、小十郎までもが当然のように同行しようとしている。

「……遠慮しようって気はねぇのか。無粋なヤツらだな」

「状況が状況でございますからな。一刻も早くお目通り願いたいと思うのは至極当然のことと存じます」

 面白くなさそうに呟いた政宗に、何食わぬしれっとした表情で綱元は応じる。遠慮する気は欠片もなさそうだ。

 とはいえ、綱元の言う『状況』も確かにそうと思えるものではあるし、彰子自身も成実や綱元に会うことを楽しみにしていたから、政宗もそれ以上は何も言わなかった。

「仕方ねぇな。ついて来い」






 小十郎・綱元・成実を伴って彰子の部屋を訪れた政宗を出迎えたのは、猫たちの賑やかな声だった。

「おー、よく来たな、ま、入れよ」

 すっかり寛いでいる萌葱はそんなことを言い、これには政宗と小十郎は苦笑した。衛門と小督は部屋の隅に控え、彰子と喜多は座を下座に移して頭を下げて政宗を出迎える。が、猫たちは相変わらず偉そうに踏ん反り返って政宗らを招き入れた。一体ここは誰の城で、部屋の主は誰だと突っ込みたくなったのは政宗だけではないだろう。

「うわー、本当に白虎だ。凄いなぁ」

 政宗に続いて部屋に入り座に就きながら、成実はマジマジと物珍しそうに萌葱を見ている。実際、白虎などそうそうお目にかかれるものではないから無理もない。

 腹心の部下たちも座に就き政宗が紹介しようと口を開きかけたところで、今度は撫子による邪魔が入った。撫子は持ち前の好奇心を発揮して、座ったばかりの成実と綱元の元へ寄っていくと、じっと二人を見上げた。

「判ったー。こっちのクールビューティー風仏頂面がつなもっちーで、こっちのやんちゃ系チャラ男がなるだ」

「That's right.よく判ったな、撫子」

 彰子や真朱が窘める前に政宗が応じてしまい、二人の『母』は叱るタイミングを逸してしまう。

「えーっと……撫子、だっけ。私はなるじゃなくて、成実だよ」

 微妙に自分も綱元も失礼なことを言われた気もするが、取り敢えずそれは横に置いて名前を訂正する。

「細かい男はもてないよー、なるみ」

「成実だってば……」

「なるー」

「しげ」

「みー」

「ざね」

「なるみ」

「し・げ・ざ・ね」

「じゃあ、なるみちゃん! はい、決定~」

 聞いちゃいない撫子である。というか、完全に成実で遊んでいる。『だからさ……』と再度成実が修正しようとしたところで、今度は後ろから萌葱が圧し掛かってくる。体重200キロを超えている萌葱に圧し掛かられて、成実は『ぶへっ』と情けない声を出して潰れる。

「もうなるみでいいんじゃね?」

「お……重い……潰れる……」

 対面して僅か1分で萌葱と撫子は成実をおもちゃと認識してしまったようだ。猫たちにしてみれば自分たちよりも上位者は彰子だけで、政宗ですら子分認定なのだから、政宗の部下である成実は当然、子分の子分扱いなのだ。即ちおもちゃ。

「騒がしくて申し訳ありません、鬼庭綱元さん。わたくしは真朱と申しますの。これからお世話になりますわね」

 いつの間にか真朱は綱元の前にいる。何気に真朱は面食いだ。ちょこんとお座りをして、綱元を見上げ、挨拶をしている。最早彰子も政宗も口を挟む気は失せている。こうなったら猫たちの好きにさせるしかないのだ。

「……いや、構わん。こちらこそ、よろしく頼む」

 何と答えるべきかたっぷり迷って綱元は漸くそれだけを口にする。滅多にない冷徹な能吏の戸惑った様子に政宗と小十郎は面白そうな表情を浮かべている。

「俺は萌葱だよ、よろしくな、つなもー。なるみもこじゅも改めてよろしく」

「つなもっちゃん、なるみちゃん、よろしくね。あ、こじゅさんも」

 何処までもマイペースな猫たちに成実も綱元も反論する気をなくしたらしく、低い声で『こちらこそ』なんて返している。その様子が可笑しくて政宗と小十郎はニヤニヤと、喜多はクスクスと笑っているし、衛門や小督ですら部屋の隅で微かに肩を震わせている。

「いきなり申し訳ありません。この子たちが失礼なことばかり言って」

 挨拶をして満足したのか彰子の許に猫たちが戻ったところで、漸く彰子は口を開くことが出来た。そして3匹の鼻を指で弾いてお仕置きをする。

「まぁ、いいじゃねぇか、Honey。巧い具合にどっちも肩の力が抜けただろ」

「それはそうだけど……」

 確かにその通りではある。綱元や成実は純粋に興味と好意だけでこの場に来たわけでもなかった。政宗の話は話として自分たちの目で彰子を品定めする心算だったのだ。だが、猫たちの行動ですっかり毒気を抜かれてしまった。

 伊達三傑──伊達軍の幹部に会うのだからと彰子としては若干緊張気味だったが、その緊張が解けたのも確かで、もしかしたらまた真朱はそれを狙っていたのかもしれないなんて深読みしてしまう。恐らく撫子は単に好奇心の赴くままに行動しただけではあろうが、真朱は判らない。

「しかし、本当に人の言葉を話すんだねぇ……」

 漸く大人しくなった撫子たちを眺めながらある意味感慨深そうに成実は呟く。政宗から聞いていたとはいえ、ここまで流暢に話すとは思ってもみなかった。しかもかなり3匹とも頭の回転は速いようで打てば響くように言葉を返してくる。

「ああ、こいつらは化け猫なんじゃねぇかってくらい頭がいいぜ」

 と政宗が応じれば、真朱たちがピクリと反応を示す。

「誰が化け猫です。失礼なことを申すのではありません、政宗」

「こんなに愛らしい私を捕まえてバケネコはないと思うよ、政宗。ひどーい」

「そーだよ。バケネコなのはねーちゃんだけで、俺たちは至って普通の幼気いたいけな猫だっての」

「パパは今虎じゃない」

「元々は猫だぞ」

「わたくしは化け猫ではないと申しているでしょう、萌葱。わたくしはママに似て頭脳明晰なだけです。変身するお前のほうが化け猫ですよ」

「家族を守りたいっていうケナゲな願いで変身した俺にその言い方はひどくね?」

「おいおい、オレは化け猫みたいに頭がいいって言っただけで、化け猫だとは言ってねぇだろ」

「政宗の喩えが悪いんだよ。政宗のくせにナマイキだぞ」

「そうだよ、ナマイキだよ、政宗ー」

「あちらの世界での常識や生活に必要な知識を教えたのはわたくしたちですのに。恩人に向かって反論するなんて、政宗生意気ですわ」

 政宗の言葉に倍返し以上の反論をする猫たちに、人間たちは苦笑するしかない。仮にも奥州筆頭に向かって名前を呼び捨てにして上から目線で言いたい放題の猫たちだ。これが人間なら『無礼者!』となるところだが、相手は猫。猫を相手に大人げないことも言えず、小十郎も綱元も成実も喜多も笑う以外には何もしようがないのである。

 猫たちはそんなことを言い合いながら、いつの間にやら場所を移動しており、真朱は小十郎の膝の上に、撫子は綱元の頭の上に乗り、萌葱に至っては背後から成実を押し潰している。

「小十郎さん、貴方、政宗に一体どんな教育をなさったんですの。政宗って失礼ですわよ」

「おい、俺にまでとばっちりか」

「あら、小十郎さんが政宗の傅役なのですもの。だったら責任の一端はありますでしょ」

 今度は小十郎にまで文句を言い始める真朱に、対岸の火事と眺めていた女性陣は堪らずに吹き出してしまう。それまで一応主君と重臣に遠慮して笑いを堪えていた衛門や小督までもが口元を袖で押さえ必死に声を殺し笑っているくらいだ。

「いい加減にしなさい、真朱。小十郎さんを困らせて如何するの」

 彰子もクスクスと笑いながら真朱を窘める。真朱が小十郎を気に入っていて心を許していることはその態度を見れば明らかだ。これもまた真朱流の甘え方なのだが、それを理解しているのは彰子と政宗くらいのものだから、小十郎は如何していいやら困っている。

「そうですわね。まぁ、政宗はこれからわたくしが教育することに致しますわ」

「あ……ああ」

 困惑した表情の小十郎にスリスリと額を擦り寄せ真朱は膝の上で寛ぎはじめる。本当にGoing My Wayな猫たちである。

「Honey、あっちにいた頃に比べてこいつらPower upしてるんじゃねぇか」

 好き勝手な言動で、成実のみならず小十郎や綱元までブンブン振り回している真朱たちに政宗は苦笑を零す。

「上田にいた頃は、この子たちも大人しくしてたから……。政宗さんのところに来て安心したんだと思うわ。ずっと私を守る為に気を張り通してくれてたんだもの」

 虎となった萌葱は言うに及ばず、真朱も撫子も常に彰子の傍にいて、彰子を守ろうとしてくれていたのだ。普通ならば猫は1日の3分の2は寝て過ごす。猫の平均睡眠時間は16時間で『寝子』といわれるくらいに。その猫たちが交代しながらとはいえ、ずっと彰子の傍にいて気を張り通していたのだ。その分、猫たちのGoing My Way行動は当猫比50%減となっていて、安心した今、溜まっていた分パワーアップしてしまったのだろう。

「そうか。あっちにいた頃から、あいつらはHoneyのBody Guardだったしな」

 普段は子供のように彰子に甘えていても、事あれば彰子を守ろうとしていた猫たちのかつての姿を思い出して政宗は頷く。戦国乱世にトリップしてきたのだから、それ以上に猫たちは神経を張り詰めて彰子を守っていたのだろうことは容易に想像がつく。

 その猫たちが今安心してリラックスしているのだと彰子は言う。つまりそれは、彰子自身が奥州へやって来て心の平安を得始めたからだ。彰子の心身状態が良くなったからこそ、猫たちも漸く肩の力を抜いたのだ。それを思うと政宗は嬉しくなる。自分が彰子にとって安心出来る場所になれたことに喜びを感じた。

「Honey、安心していていいぜ。ちゃんとオレがHoneyや真朱たちを守ってやるから。必ず無事に還してやる」

 自然にそう口にしていた。彰子や猫たちの信頼に応えたい。そこまで彰子たちが信頼してくれているのであれば、必ず彼女たちを守り通し、彼女たちが最も幸福に生きられるであろう世界に還してやる。

「ありがとう、政宗さん」

 優しく、そして頼もしげな目で自分を見つめる政宗に、彰子は笑みを返す。自分でも不思議なくらいに落ち着いて安定しているのが判る。政宗と再会してからずっとそうだ。楽に呼吸が出来る。この人の側にいれば大丈夫だと確信出来る。『還れる』という確信ではないが、ただ『大丈夫』と思えるのだ。

「……」

 そんな政宗と彰子を見ていた萌葱に突然変化が起こった。

「あ!」

「おお?」

 その姿を見て、真朱も撫子も目を丸くする。周りの人間にしてみれば更に何をか況やというところだ。

「へっ? 何、突然軽くなったんだけど」

 成実を背後から押し潰していたはずの白虎の姿が消えていた。その代わりに、成実の背中にちょこんと1匹の猫が座っている。

「萌葱、戻ったんだ」

「……かーちゃん!!」

 己の姿が猫に戻ったことを知ると、萌葱はそのまま成実の頭を踏み台にしてジャンプし、彰子の膝の上に着地した。

「かーちゃん、かーちゃん、かーちゃん」

 膝の上でごろごろと額を擦り寄せ、肩によじ登り頬に再び額を擦り寄せ、萌葱は彰子に甘える。虎の姿のときには出来なかったことだ。元々、萌葱は3匹の中では一番甘えん坊で一番抱っこされるのが好きだった。けれど虎の姿ではそれが出来ようはずもなく、この3ヶ月余り我慢を強要されていたのだ。普段なら彰子独占に文句を言う真朱と撫子も今回ばかりは何も言わなかった。一頻り甘えて一息ついた萌葱は彰子の膝の上に丸くなり、ご機嫌な状態でゴロゴロと喉を鳴らしている。

「いきなり戻ったな。如何したんだ、萌葱」

 目の前で突然虎が猫になったのだ。彰子と猫たち以外は呆然としている。その中でいち早く立ち直ったのは当然ながら萌葱が元々猫であることを実感として知っている政宗だった。

「あー? ああ、よく判らんねーんだけどさ。かーちゃんと政宗見てて、なんかホッとしたんだ。これからは政宗がかーちゃんのこと、ちゃんと守ってくれるんだなーって。そしたら戻ってた」

 政宗がいるからもう大丈夫だ、何も心配はいらない。そう思った瞬間に、虎から猫へと戻っていた。虎である必要はもう無くなったのだと。

「そうか。今までご苦労だったな、萌葱。安心しろ、これからはオレがちゃんと彰子を守るから」

 それほど萌葱が信頼してくれたことが政宗には嬉しかった。己の姿を変化させるほど強い想いで彰子を守ろうとしていた萌葱。その萌葱が再び変化へんげするほど自分を信頼してくれたのだ。

「ご苦労って生意気だろ、政宗。俺の子分のくせに」

 尤も萌葱の台詞は相変わらずだったが。

「Oh,sorry,萌葱Boss」

 大げさにホールドアップして応じる政宗に漸く周囲からも笑いが漏れた。






 猫たちの自然体の姿は、彰子が政宗を、奥州を『己の居場所』と感じ始めていることの何よりの証左であった。