キュー○ー1時間クッキング

 そんなこんなで一応さしあたっての今後の方針も決まったところで、時間もいい感じに午後5時を過ぎた。夕食を作り始めるにも丁度いい頃合だろう。

「夕食──夕餉の仕度を致します。政宗様はテレビでもご覧になっていてください」

 そう言うと彰子はキッチンへ行き、エプロンをつける。お気に入りのキャラクター、くまのプーさんだ。特にディズニー好きというわけではないが、このキャラクターはほんわかするので気に入っている。

 今日の献立はご飯にお麩のお吸い物、豚の生姜焼き、胡瓜とわかめと蛸の酢の物にした。味噌汁は江戸時代に生まれたものらしいから、説明に疲れた今日はあの時代でもありそうな食材にしておいた。

 お米を研ごうとして何合にしようか一瞬迷う。普段は3合炊いてそれを小分けにして冷凍し、6回に分けて食べる。平日の晩御飯用にしているのだ。毎回炊いてもいいのだが、1合ずつちょこちょこと炊くよりも美味しい気がするし、僅かばかりとはいえ塵も積もれば山となる節電・節約だ。恋人が共に夕食を摂る週末は2合炊いておいて余ったら翌日の昼──大抵はブランチになるが──に食べる。恋人が来るときと同じでいいかなと思いつつ、多めに3合にしておいた。

 というのも、戦国武将は1日に5合ものお米を食べていたという記事を読んだ記憶があったからだ。当時は朝夕2食、朝はご飯と吸い物と漬物の一汁一菜、夕はそれに魚などのおかずがプラス一品だったという。その分、1回の米の摂取量が多いらしいのだ。

 まぁ、今日は昼食を摂っているし、おかずもあるからそこまで食べはしないだろうが、足りないよりはいい。残ったら明日の昼食に焼き飯でも作ればいいだろう。

 米を研ぎ、6時に炊きあがるように炊飯器をセットして、冷蔵庫から食材を取り出す。

「ここで見ていていいか?」

 調理台に材料を並べていると、いつの間にやら政宗もキッチンにいた。

「オレも料理をするんでな。この時代の料理に興味がある」

「判りました。手際がいいとは申せませんが……ご自由にどうぞ」

 というわけで、彰子は政宗にじっと観察され、少々居心地の悪さを感じつつ、料理に取り掛かるのだった。






 彰子が料理をする間、政宗は邪魔をしない程度に質問をしてきた。

 例えば、肉のパック。この時代の肉は凡その使いきりの量と種類部位別に小分けで売られていることを説明する。職業的料理人や一部の地元特有の料理を除いて、現代人は自分で丸ごと肉を捌くことはない。牛であれば料理人でも丸ごと一頭捌いた経験のある人は稀ではないだろうか。

 彰子の場合、一応魚を下ろすことは出来るが、肉はさっぱりだ。そもそも丸焼きどころか、豚足程度の原型保持率でもアウトなのだ。捌くどころか食べることも出来ない。元々の世界で小学1年のとき、泣いて嫌がったのに雀の姿焼き(まさに丸焼き。後に東京名物と知った)を叔父に無理やり食べさせられたことがトラウマになっているのかもしれない。いくらコラーゲンたっぷりなのだと判っていても、豚足無理。

 他にも、調味料について、スライサーや下ろし金、鍋の種類といった調理器具、IHヒーターの使い方など、政宗はあれこれ尋ねてきた。勿論、何を如何いう手順で作っているのかも。

 それらの質問に答えながらだったから、いつもより若干の時間がかかった。後はご飯が炊きあがる頃を見計らって肉を焼けば終わりだ。酢の物は味を馴染ませる為に冷蔵庫に仕舞う。

 テーブルに二人分の食器を並べ、使った調理器具を洗い終えると、政宗を促して彰子は一旦リビングへ戻る。

 政宗は便利や調理器具や豊富な調味料を知ることが出来てそれなりに満足そうだ。更に興味は沸いているらしい。

(確か、史実の政宗公もお料理が趣味だったような……)

 彰子は何処かで読んだ記述を思い出し、月曜からの自分の不在中の政宗の暇潰しを思いつく。

 今度は大人しくテレビを見始めた政宗をリビングに残し、彰子は自分の部屋へと戻る。そして本棚から数冊の本を取り出す。某国営放送のテキスト、『今日の○理』の一昨年から今年までの4月号と5月号だ。献立を考えるのと料理の腕を磨くのと、両方の為に毎号定期購読しているのだ。料理に興味があるのならば、これで充分に暇潰しになるだろう。和洋中色々な料理が載っている。

 とはいえ、これだけでもなんなので、更に数冊の小説も選ぶ。

 現代物はベースとなる日常の知識がないから面白くないだろう。歴史物も戦国時代以降は止めておいたほうがいい。異世界と判れば別に構わない気もするが、似た世界観の世界なのだから、どんな影響を与えてしまうか判らない。やはり避けておいたほうが無難だろう。

 というわけで取り出したのは彰子が一番好きな作家の中国史を題材にした作品だった。史実における中国諸国の興亡を描いた作品が多いだけに、戦闘の描写や政治に関するエピソードも多く含まれているから、政宗にとっても興味が持ちやすいのではないかと思ったのだ。これが現代人ならば一番有名なスペースオペラをお勧めしたいところだが、それは基礎知識がないからと断念した。

 ついでに趣味と受験勉強を兼ねて買った『史記』と『十八史略』も手に取る。受験勉強も兼ねているからともに白文・訓読文・口語訳併記のもので、政宗なら白文でも読めたりするのかもしれない。

 そんなことを思いながら本を持つと結構な量になった。少ないよりは多いほうがいいだろうと小1時間前と似たようなことを考える。

 20冊を超える本を腕に抱えリビングに戻ると猫たちに呆れ顔をされた。うん、あんたたちの言いたいことは判る、『一度に持ってくる必要はないだろう』でしょと猫たちの視線の意味を正確に読み取りつつ、取り敢えずスルーしておく。

「政宗様、これからの暇潰しになりそうな物をお持ちしました」

 そう言ってテーブルに本を並べる。

「Oh,Thanks. 昼間も何か書物はねぇかって思ったんだが、どれを読んでいいものやら判らなくてな。LadyのBedroomに勝手に入るわけにもいかねぇし」

 政宗は嬉しそうに笑う。知識欲旺盛な政宗にとって、この時代の書物を読めることは願ってもないことだった。並べられた本をざっと眺め、政宗が手に取ったのは確り『今日の料○』だ。因みに写真の存在については猫たちが折り込みチラシを使って説明済みだったらしく、彰子に質問を向けてくることはなかった。

 が──パラパラと中身を見ていた政宗は眉間に皺を寄せる。

「真名は判るんだが……これは仮名か? オレたちの時代とは違うな」

 政宗の言葉に、ネックとなることを忘れていたと彰子は気付く。

「然様ですね。今から100年ほど前に仮名は統一されたのです。これも教育の普及の為の政策の一つだったと聞いております」

 明治政府によって始まった学制。その一環として現在の五十音に仮名は統一されたのだ。それ以前には同じ『あ』という文字にしても何種類もあったのだ。

 彰子はトリップ前の世界では大学で中古文学(所謂平安時代の文学)を専攻していた為、文献解読にかなり苦労したものだ。当時の仮名は変体(変態に非ず)仮名といわれ、専門課程に入った初期の講義ではまず、その日本語なのに読めない平仮名を読み解くところから始めなければならなかった。寧ろ漢字のほうが読めたくらいだ。なんせ「’」に似た文字が「か」だったり「の」だったりするのだ。

 当然政宗の時代は五十音という考え方も今の平仮名もない。そこで彰子はメモ帳を取り出すとそこに文字を書きつけた。

 いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ

 うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす

 所謂『いろは歌』である。『ゐ』と『ゑ』が不恰好になったのは書きなれていないゆえのご愛嬌だ。

「今の仮名はこのように統一されているのです」

 いろは歌は弘法大師が考えたという説があったくらい古いものだし、最もポピュラーな手習い歌だから政宗も知っているだろう。一文字ずつ辿りながら発音し、ついでに濁音と半濁音も説明する。

 更に同じ紙に片仮名でも同じいろは歌を書き付ける。平仮名と違って片仮名はあの時代でもそれなりに統一されていたから比較するのに判りやすいだろう。

「I see. 暫くはこのMemoが必要だろうな」

 政宗はそう言うと、早速『今日の○理』のページをめくり始める。そんな政宗を微笑ましく思いながら、彰子は料理を仕上げる為にキッチンへ戻った。そろそろ6時、ご飯も炊きあがる頃合だろう。

 が、それに気付いた政宗も本を閉じ、立ち上がる。

「あとは肉を焼くだけですから、見ることも殆どないと思いますが」

 彰子がそう言えば、

「手順やら、IHヒーターの使い方やら、まだ見ることはある。気にするな」

 と返された。別に気を遣っているわけではないのだが。

 まぁいいかと半ば諦め、彰子は豚肉を焼きつつ付け合せのキャベツの千切りを用意し、盛り付けていく。生姜焼きと酢の物を盛り付け終わったときに丁度いいタイミングで炊飯器が炊きあがりを電子音で知らせる。案の定、電子音に政宗が一瞬ビクッと反応したことに彰子はこっそり笑ったのだが。

「猫たちの食事を準備しますから、もう少しお待ちください」

 冷蔵庫から湯がいておいたささみを取り出し、細かく裂いてドライフードと混ぜ合わせ、猫たちのご飯は準備OKだ。

「真朱、萌葱、撫子、お待たせ。ご飯よ」

 と呼びつつ、政宗にもダイニングテーブルに就くように促す。猫たちが定位置にお座りしたのを確認しつつ、まずは人間の食事だ。それぞれの器にご飯とお吸い物をよそい、『いただきます』と手を合わせる。

 彰子が箸をつけるよりも先に政宗が食べ始めたのは、彰子を信用してくれたのか、それとも作るところから全てを見ていて危険はないと判っていたからなのか。前者だったら嬉しいなと彰子は思った。

 一口食べたところで、猫たちの食事である。猫たちの前にそれぞれ皿を置き、お座り・お手・お代わりと犬のように食事の前の決まりごとをする。3匹とも終わったところで暫く待たせてから『よし』と言うと、3匹は餌に飛びつく。いつもよりも早めの晩御飯ではあるが、猫たちも気苦労があったらしくその分お腹も空いていたのだろう。

「ほう、猫が芸をするのか。cleverだな」

 政宗が感心したように呟く。というか、そもそも喋っているのだから、何を今更、という感じではある。

 それでもお手お代わりをする猫は珍しいかもしれない。猫はあまり芸をしない。しかし教えればちゃんとするのだ。この猫たちの場合は特に教えたわけではなかったのだが、前の世界で犬と一緒に育ったことによって、自然と食事の前にはお座りをし、お手お代わりをするものだと覚えていた。

 犬派猫派でいえば断然猫派な彰子は、実は猫は犬よりも賢いと思っている。異論は認める。もしかしたらこの子たち限定かもしれないとも思っている。これは完全な親馬鹿だが。ただ、猫は人と馴れ合わない動物であり、犬は古くから『人間の良き友』という位置にいる動物である。それぞれの性格の違いから、猫は出来るけれどやらないだけだと勝手に確信している彰子なのだった。

「お味は如何ですか、政宗様」

 文句を言わずに箸を進めているのだから不味くはないのだろうが、やはり作った身としては味の評価は気になる。相手が料理をする人間ならば尚のこと。父親に『旨い』と言われるよりも母親に『美味しい』と言ってもらえるほうが嬉しいのと同じことだ。

「ああ、deliciousだ。手際も良かったし、料理が巧いんだな、Lady」

「ありがとうございます」

 お世辞かもしれないがホッとする。なんせ彰子の料理はほぼ我流だ。一応レシピは見るが、それは初回だけ。2回目以降は適当な目分量での味付けだ。全体の食材のバランスは考えるが、細かいカロリーや塩分糖分はそれほど意識していない。味も自然に自分好み──正確には彼氏好みになる。

「ところで、彰子。その『政宗様』ってのと、馬鹿丁寧な口調は止めろ」

 突然話題が変わる。『ところで』という話題転換の接続詞が出ているのだから換わるのは当然なのだが。

「ですが……政宗公はわたくしにとって歴史上の偉人ですし……仮にも奥州のご領主様であらせられますし……」

 まぁ、自分はあの時代であれば肥後の国の民だし、現住所でいえば武蔵の国の住民だから、奥州の領主であれ関係はないのだが。しかし仮にも奥州筆頭。下手に砕けるとボロが出そうだし、砕けすぎてご機嫌を損じてしまうこともあるかもしれない。

「言っただろう。When in Rome do as the Romans do.この時代には身分制度がねぇって言ったよな、アンタ」

 初期にこの時代の説明をしたときに、簡単に身分制度がないことには触れている。

「ええ……100年少々前に武士はいなくなりましたし、60年ほど前に公家もいなくなりました。基本的に国民の身分は同等です。唯一政宗様の時代と変わっていないのは皇室──天皇家くらいでしょうか」

「ほう、帝はおわしますのか」

「はい。今は天皇陛下とお呼びしますが。──確かに身分制度はありませんが、目上の方を敬うという礼儀までなくなったわけではありません」

 だから、改める気は余りないと言外に告げる。

「アンタがオレを敬う理由は、歴史上のオレが有名な武将で敬意に値すると思ってるってことだろうが……それは『オレ』じゃねぇ。少なくとも今のオレじゃねぇことは確かだ。だからオレはアンタに『様』を付けられる謂れも、馬鹿丁寧な言葉遣いをされる謂れもねぇんだ」

 別に目の前の政宗に敬意を払っていないわけではない。隻眼というハンデを克服しゲーム主役の一人となるほどの力量を持っていることは純粋に凄いと思っているのだし。

 とはいえ、政宗の言葉には一理あるかもとも思う。確かにこの政宗と歴史上の初代仙台藩主伊達政宗は完全に別人だ。歴史上の繋がりもない。名前が同じで経歴が似ている別世界の人物なのだから。

 彰子が政宗に『様』をつけ、馬鹿丁寧な敬語を使っているのは政宗の身分に配慮しているに過ぎない。しかし政宗はこの時代の常識に則って身分など考えなくていいというのだ。

「そう……ですね。判りました。もとい、判ったわ。これからは政宗さんと呼ぶことにする」

 敬語を使う場面は学校での立場上、それなりに多い。生徒会副会長ともなれば教師陣との交渉なども多いのだ。だから、敬語を使うこと自体は別段苦にはならない。しかし、自宅でまで使うのは確かに面倒ではある。普段のままの言葉遣いでいいのなら、それが楽に違いない。

「政宗でいいぜ」

「一応、貴方の方が年上だから。そこは譲れない」

 本当は同じ歳なのだが、数えと実年齢の違いなんて説明も面倒臭い。

 それに彰子にとって名前の呼び捨てはかなり特別なことなのだ。親しい友人たちの中でも親友と恋人の二人しか呼び捨てにはしていない。異性であれば尚のこと、恋人限定ともいえる呼び方なのだ。そんな彰子基準の呼称ルールにおいて、親密度からいえば政宗は彰子にとって『伊達さん』レベル。それを名前呼びするところまでは妥協しているのだから、これで勘弁して欲しい。

「Ah-Han.まぁ、いいか」

『様』ではなくなったことと言葉遣いが変わったことで、政宗は一応納得することにしたらいい。

「そういや、武士はいねぇっつったな。だからテレビ見ていても刀持ってるやつがいねぇのか」

 また話題転換だ。無理もないだろう。政宗にとってこの世界は好奇心をそそる対象だらけなのだろうから。

「そうね。一般人は刀やそれに類する武器は持ってはいけないことになってるの」

 銃刀法(正式名称は『銃砲刀剣類所持等取締法』)という法律によって禁止されていること、この法律により刀を無許可で所持しているだけで3年以下の懲役か50万円以下の罰金となることを説明する。

「刀を所持出来るのは、本来役所に届出をして許可が下りた人だけ。そういった人たちは刀を使うことが目的じゃないの。殆どは美術品として所持してるわ。その刀で人を傷つけることは禁じられているの」

 居合い術やら剣道の一つとして所持している人もいるだろうが、刀といわれて彰子が真っ先に思いつくのは骨董品蒐集家だ。

 本来以外の犯罪目的で所持している人たちのことは割愛する。禁じる法律があり罰則があるということは、違法に所持しようとする者がいるということだ。その辺は政宗も薄々察しているようだ。

「美術品ねぇ……。観賞用か。人斬りの道具を鑑賞するなんざ、Crazyだな」

 政宗にとって刀は武器だ。人を斬る為、殺す為の道具に過ぎない。戦場で自分の身を守る道具でもあるから、大切には扱う。優れた道具は確かに宝でもある。しかし、それは使ってこそ意味のある宝なのだ。ただ眺めて鑑賞するだけなど考えられない。

「そうかもしれないけど……古美術品の刀は、歴史の証でもあるんじゃないかしら」

 古いものだと室町時代のものが残っていたりする。それだけの歳月を経た刀であれば付喪神となっていてもおかしくはないのではないかなんて思う彰子だ。それが名のある人物の刀であれば、その価値は更に高くなる。

「例えば、政宗さんが使っていた刀が現代に伝わっていたとしたら……その刀を見ることで政宗さんの生涯に思いを馳せたりするんじゃないかしら。政宗さんが持っていた……政宗さんと共に生きたその刀を見ることでね」

 刀剣愛好家の全てがそうであるとは思わないが、そう考える者もいるだろう。少なくとも自分にとって古美術品、歴史的遺物として現存している刀は『人殺しの道具』ではなく、かつて生きていた武将たちの生きた証であり、遺された証人なのだ。

「なるほどね……。そういう考え方もあるのか」

 彰子の言葉に改めて政宗はここが本当に戦のない時代なのだろ感じる。人殺しの道具が、人の生きた証とは。そういう考え方も命を掛けた争いがなくなり、遠い過去を振り返る余裕のある時代だからこそなのではないかと思ったのだ。

「私の個人的見解にすぎないけど。まぁ、そういうわけで、この時代は刀を持っているだけで犯罪者……罪人になるから、外出するときには絶対に持っていかないこと」

 本当は家にあること自体拙いのだが、それは言っても仕方ない。

「外出なんて出来るのか?」

 この時代の人間ではない自分だから、外に出ることは出来ないだろう……そう政宗は思っていたのだが、それは彰子があっさりと覆した。

「ずっと家の中にいても退屈でしょ。明日、食料品の買出しついでに町をある程度案内するわ。そのときに簡単な交通ルールとか公共交通機関の利用方法なんかも説明するね。退屈が嵩じて勝手に抜け出されるよりも先にある程度説明して、やっていいことと駄目なことを区別出来るようにしておくほうがいいだろうし」

 彰子とて政宗を閉じ込めておく気はなかったのだ。

 政宗の好奇心の強さからして、閉じ込めておくことは彼のフラストレーションを溜める結果にしかならないだろう。領主としての責任と役割を強制的に一時放棄させられて異世界に飛ばされたのだ。狭い部屋に閉じ込めていては彼の精神安定の為にも良くないだろう。

「それに戦国武将が体を怠けさせるわけにも行かないでしょう。せめて散歩くらいはね。ああ、それから、室内で出来る筋力トレーニングの本も後で持ってくるわ。流石に室内で刀を振り回されても困るけど……腕力や筋力を鍛える分には問題ないだろうし」

 腐っても名門強豪テニス部のマネージャーである。筋トレ関係の書物も数冊持っている。

「Thanks.いい女だな、アンタ」

 今日知り合った不審人物の為に色々と配慮をしてくれる彰子に、政宗は素直に感謝するのだった。