合格発表

 2月に入り。無事に2校の入試が終了した。心配していた迷子にもなることはなく……。というか、過保護な人が2名いることが判明。

 つまり……立海入試の時にはにおちゃんが駅まで迎えに来てくれた……。

「彰子は方向音痴じゃけん心配じゃ。どうせ部活には顔出すきに、ついでに迎えにいっちゃる」

 前日に電話がかかってきてそう言われた。

「におちゃん、過保護すぎ……」

 と反論はしたものの、におちゃんが私の言うことを聞いてくれるはずもなく、しっかり当日はにおちゃんと一緒に登校することになったのだった。試験の出来は……多分問題ないと思う。




 そして、氷帝では当然ながら侑士。尤も氷帝の場合、当日は侑士も学校があるわけで、タイムスケジュールも一緒だから自然と同じ時間帯の登校になったわけだけど。まぁ、氷帝の特別教室棟へ行くまでは確実に迷子になりそうな道のりだったから、これも大変に助かりました……。

 お昼には侑士が迎えに来てくれて、交流棟の中にあるVIPルーム……もとい、生徒会用のミーティングルームを貸してもらって前回の訪問で知り合ったテニス部の面々とランチを取った。そこで試験が終わったら、侑士と自己採点しようと話していたら跡部も加わってきた。で、どうせなら3年全員一緒にやろうかということになり。

「若干名、赤点が心配な奴がいるからな」

 という跡部。

「赤点……がっくんとジロちゃん?」

 私がそう反応すると……

「なんで即答で俺出てくんだよ、クソクソ長岡っ!」

「えー、彰子ちゃん酷いC~~」

 がっくんとジロちゃんがぷりぷりと怒る。

「彰子ちゃん鋭いね……」

 滝が苦笑し、名指しされた2名以外は笑ってるところを見ると、そうなんだろう。

「だって、侑士君は学年トップクラスで、跡部君もいつも競い合ってるって言うからやっぱりトップクラスでしょ? 滝君は何でも卒なくこなしてそうだし、宍戸君だってコツコツやって、少なくとも平均点以上は取ってそうだし……」

 赤点取りそうなのって、やっぱがっくんとジロちゃんしか思い当たらないんだけどなぁ。

「事実だろうが」

 跡部が冷たく切り捨てて、がっくんとジロちゃんは沈黙。そう言うわけで試験終了後、テニス部の部室で3年生6人+私で自己採点。取り敢えず厳しめにみても8割は超えていたので安心する。

「長岡は合格圏内だな。じゃあ、発表の後、テニスコートにきてくれ。マネの仕事について教えるから」

 跡部にそう言われて頷く。合格したら、テニス部の臨時マネージャーをやって、マネージャー出来そうなら、入学後正式に入部することになる。

 入学後が楽しみだった。




 そして、合格発表当日。立海も氷帝も発表は同じ日で。神奈川まで見に行くのは面倒だし、郵送でも合否連絡は来るので立海には行かず、氷帝だけ。本命は氷帝だしね。

 におちゃんは私の本命が氷帝だと知ったときには『彰子が立海にこんのは寂しいのう』と言ってくれた。

「まぁ、学校が違うとっても友達であることに代わりはないきに」

 とも言ってくれて、とても嬉しかった。

 午前10時の合格発表にあわせて家を出る。校門には侑士がいた。……授業は?

「まー、細かいことは気にせんとき」

 いや、気になるから……。私の為に授業をサボらせてしまったわけで……気にする私に侑士は優しく笑う。

「俺が気になってしゃーないから、見に来ただけやし彰子ちゃんは気にせんでええって」

 とまた気遣ってくれる。そして2人で合格者が張り出してある掲示板を見に行き……

 受験番号25番。無事自分の受験番号を発見する。確か、受験者は50人程度だったはずだが、合格者はたった3人。定員は10名前後と聞いていたのに……。定員に満たなくても一定レベルに達していなければ合格はさせないというわけだ。昨今の子供不足から経営難に陥る私立高校も多いご時世でありながら、この厳しさ。氷帝経営陣の自負の高さを窺わせる。

「やったな、彰子ちゃん!」

 自分のことのように嬉しそうに侑士が言う。

「ありがとう、侑士君……」

 ホッとした。大丈夫だろうとは思っていたけど、それでもやっぱり不安だったから。

 事務局で入学に関する書類を受け取り、制服を発注。事務局の隣の部屋に業者がスタンバイしていて、そこで発注をするらしい。流石にお金持ち学校、制服は完全オーダーメイドで生地はかなり上質っぽい……。採寸をしてもらい、身長はこれ以上あまり伸びないだろうから多分問題はないだろう。(実際、あちらの世界では高校に入って身長は1~2センチしか伸びなかったし)ブラウスを5枚(夏冬それぞれ)、スカート・ジャケットは2枚ずつ注文して、発注終わり。出された請求金額に目が飛び出そうになる……。流石、氷帝……。

 因みに入学時に掛かる費用もとんでもない金額で、いくら神様とはいえ、悠兄さんに申し訳なくなる。

「今日は午前中で授業終わるよって、あと1時間ちょい待っとってや」

 書類を受け取り、制服の発注を終えると、廊下で待っていてくれた侑士が言う。今日は放課後跡部からマネージャー業務の説明をうけることになっているから。

「部室で待っててええって跡部に言われとるから」

 そういいながら、侑士が部室に連れて行ってくれる。

「退屈かもしれへんけど……」

「大丈夫、本でも読んでるから」

 待ち時間があることは予想してたから、小説を持ってきてるし、実はノートPCも持ってきてる。ノートPCはこっちにきて自分で買ったもの。マネージャーやるなら、データとか纏めるのにノートあったほうがいいかなと思って。……何だかんだとかなりやる気になってるね、私……。

 侑士が授業へ戻り、1人になる。部室を見渡すと、流石にレギュラー用の部室。豪華だわ。男子の部室だから、散らかってるかと思いきや、綺麗に整理整頓されている。

 さて、時間まで何しようかな。入学必要書類を書こうとしたけど、保護者が記入するように書いてあるし……。今夜悠兄さんが来ることになってるから書いてもらうしかないか。

 持ってきた小説でも読もうとソファに座り、本を取り出したところでメール着信。2件立て続けに来た。1つはにおちゃん、もう1つは跡部だった。

 におちゃんからのメールは『合格しとったぜよ、おめでとう』というもの。休み時間に見に行ってくれたらしい。今は授業中かなと思いつつ、『ありがとう。氷帝も合格したよ』と簡単な返事を打つ。直ぐさま、『おめでとさん。立海にこんのは残念じゃがな』とレスがきた。『いつでも会えるよ。受験終わったし、また遊びに行くね』と再度レスをして、終了。

 それから跡部からのメールを開くと、キャビネットにこれまでの部誌が入っているから見ていいとのこと。それを見ればある程度のこと……練習のプログラムやスケジュールが解るだろうからと。

 早速キャビネットから、今年度の部誌を取り出し、ノートPCを起動。部誌の書式作っておけば、これからはPCで管理も出来るだろうしね。折角部室にPCあるのに(しかも無駄に高性能のPCだ)それを使わないのも勿体無い。

 先ずは部誌にざっと目を通す。殆ど書いているのは跡部。部長だからかな。中々跡部は綺麗な字を書くなぁ。今時の男子中学生にしては珍しい。あっちの世界では半年前まで塾講師をしてたから、中学生の文字がどんなのかは知ってる。中には書道5段なんて美麗な字を書く生徒もいたけど、殆どはかなり雑な字を書いてた。字はその人の印象を左右すると思ってるから、綺麗な字を書けるというのは中々ポイントが高い。そういえば侑士もにおちゃんも結構綺麗な字を書いてたな。




 ざっと目を通して、年間スケジュールを確認する。大体月に1回は外部との練習試合を組んでるみたいね。立海や青学が多いかな。まぁ、実力的にも距離的にも必然的にそうなるのかな。

 それから、部内での対抗戦も月に1回。ゴールデンウィーク・夏休みには合宿。それからテスト休み(流石私立ゆえか、1週間も休みがある)にもやってるなぁ。GWとテスト休みは大体3泊くらいの合宿で、夏休みは約2週間といったところ。

 5月に地区予選、6月に都大会、7月に関東大会で8月が全国大会。10月には選手権があってるけど、高校だとまた違うだろうから、帰宅したらネットで調べてみようかな。

 そういえば、漫画では団体戦しかなかったけど……中体連って普通に個人戦もなかったっけ……? まぁ、過去のことだからいいか。こっちでの高校総体がちゃんと団体と個人に分かれてるかも、確認しとこっと。




 取り敢えず、部誌から把握できたスケジュールをPCのメモ帳にメモし、再度部誌に目を通す。さっきは年間スケジュールを把握しようと思って、試合・合宿をキーワードに読んだから、細かい通常の部活のメニューは読んでない。

 きちんとレギュラーのメニューと非レギュラーに分けて書いてあるから解りやすい。どちらも共通なのがロードワークか。

 それから、レギュラーとそれ以外に分かれて練習。レギュラーは試合形式が多いみたいね。

 しかし、このメニューって誰が考えてるんだろう? 跡部かな、太郎ちゃんかな?

 ともかく、大まかなメニューもPCのメモ帳に書き出して、保存しておく。まぁ、私がメニュー考えることとかはないだろうけどね。素人だし。




 ひとまず、部誌に目を通し終えたところで時間を見ると、12時を過ぎていた。うーん、ちょっとお腹すいたなぁ。おにぎりでももってくるんだった。

 そんなことを思いつつ、ワードを立ち上げ、部誌のフォーマットを作る。マネージャーやることになったら、部誌を書くのは私の役目になるだろうし。ああ、部員名簿もあったほうがいいだろうな。これはエクセルのほうがいいかな。アクセス使えればもっといいんだろうけど……。うーん、これを機に勉強するかな。

 幸いお金は余るほど貰ってるから、ソフト購入も問題ないし。よし、帰りにPCショップ行って買っちゃおう。

 氷帝の部員と、ある程度のライバル校のデータベース作っておけば役に立ちそうじゃない? 名前・学校名・身長・体重・握力・背筋力・100mか50mの記録・プレイスタイル、それに過去の戦績とかあれば、少しは何かの役に立ちそうな気がする。確か、氷帝ってデータマンいなかったし……まぁ、データ化してなくても必要なデータは頭に入ってるんだろうけどね。

 必要そうな項目を部員用と他校用に分けて書き出す。部員だと、学年クラス、レギュラー・準レギュラー・一般の項目をつけて、学年別に分けて、それから、身長・体重・握力・背筋力・足の速さ・持久力・プレイスタイル・部内戦績・対外戦績ってとこかな。身長から持久力の項目は新年度にやる体力測定のデータを自己申告してもらえばいいし。

 他校だと、学校名・プレイスタイル・過去の戦績くらいかなぁ。まぁ、その他の項目は入手出来ればということで。青学の乾とか、立海の柳とかは把握してそうだよねー。柳教えてくれないかしら……。無理だろうなぁ……。いっそ、ハッキング……ってそんな技術も知識もないし。大体犯罪だし。




 そんなことをぶつぶつ言いながら考えているとなにやら騒がしくなってきた。もう1時近い。皆きたのかな?