第八話 恋の花が咲く
事件が解決してから、数日が過ぎた。
エティエンヌは、ロクサンヌを幼いころに初めて出会った庭園へ誘った。そこには、昔と変わらず、たくさんの花が咲いていた。
「懐かしいですわね」
「ああ。君と初めて会った場所だ」
二人は、ゆっくりと庭園を歩いた。
幼いころ、ここで初めて手を繋いだ。ここで、恋をしているのに恋ではないと思い込んだ。ここで、叔父の魔法によって、二人の周りに花が舞った。そして今、二人は自分たちの意思で未来を選ぼうとしている。
エティエンヌは、足を止めた。
「ロクサンヌ」
「はい、殿下」
「君は、私と結婚したいと思ってくれている?」
ロクサンヌは、目を丸くした。
「……勿論ですわ。わたくしたちは婚約者ですもの」
「うん。けれど、私たちの婚約は、幼いころに大人たちが決めたものだろう?」
エティエンヌは、真剣な顔をしていた。
「私は、君と結婚したい。でも、君にも自分の意思で私を選んでほしいんだ」
ロクサンヌは、胸が熱くなった。
幼いころから、彼はいつも自分の気持ちを大切にしてくれた。そして今も、彼女が自分自身の意思で未来を選ぶことを望んでくれている。
「……わたくし、エティエンヌ様のお嫁さんになりたいですわ」
ロクサンヌは、頬を赤く染めながら答えた。
「殿下と一緒に笑って、困ったときには相談して、嬉しいことがあったら一緒に喜んで……そうやって、ずっと一緒に生きていきたいです」
エティエンヌは、嬉しそうに笑った。
「よかった。私も、君の夫になりたい」
二人は、手を取り合った。
そのとき、エティエンヌは少しだけ悪戯っぽく笑った。
「そういえば、昔、君は私に恋をしていないと言ったね」
「……あら。そんなこともございましたわね」
「花が舞わないから、恋ではないと思ったんだろう?」
「ええ。絵本では、あんなにも美しい花が舞っておりましたもの」
「今は?」
ロクサンヌは、微笑んだ。
「今でも、花は舞いませんわ」
「そうか」
エティエンヌは、彼女の手を握り返した。
「ならば、これから二人で咲かせていこう」
「……ええ」
「絵本に描かれた花ではなく、私たちの人生に咲く花を」
ロクサンヌは、頷いた。
エティエンヌが指先を動かす。桜色の花びらが、ふわりと舞い上がった。続いて、青い花びらが、彼の周りをくるくると巡る。
幼いころと同じ魔法。けれど、今はその意味が違っていた。花が咲いたから恋をしているのではない。
二人が互いを大切にし、何度も相手を選び、共に歩んできたからこそ、花が美しく見えるのだ。
「エティエンヌ様」
「うん?」
「わたくし、今、とても幸せですわ」
「私もだよ、ロクサンヌ」
二人は、そっと額を寄せ合った。そして、どちらからともなく笑い出した。
花びらが、二人の周りを舞い続けていた。
こうして、エティエンヌとロクサンヌの恋は、二人だけの物語として続いていく。