「え、うちへの婿入り? なんで!?」
「なんで、って。アビーと結婚するからに決まってるでしょ」
どうしてそんな当たり前のことを聞くの?って顔で、目の前のギルバートは首を傾げる。
おかしいのはそっちでしょ!? だって、ギルバートは現王太子の第一王子じゃない! だったら、次の王太子で、次の次の国王でしょ! 今の王様は年寄りだから、多分、あと数年でぽっくり行くんじゃないかってパパも言ってたし! そしたら、ギルバートは王太子になって、あたしは王太子妃になって贅沢三昧で楽しく暮らせると思ってたのに!!
うちなんて、小さな領地しか持たない、田舎の男爵家だよ! 余りに田舎だから大貴族の領地に組み込まれなくて、男爵家には珍しく、自分の領地持ちだけど。
そんなあたしが貴族皆通わなくちゃいけない王都の貴族学院に入って、そこで王子様と出会って、恋をして! 物語みたいに王子の婚約者に苛めらることはなかったけど、でも、関係ない令息や女どもに文句言われて! やっとギルバートから婚約解消できたから、一緒になれるよーって言われて、喜んでたのに!!
「あのさ、俺、王位継承順位、兄弟の中で一番下なんだよね。知ってるでしょ?」
知らないわよ、そんなの! 王太子の第一王子なんだから、次の次の王様でしょ!?
「あー……確か学院で習うはずなんだけど……アビー真面目に授業聞かないもんね」
溜息交じりにギルバートが教えてくれた。
知らなかった……。うちの国、生母の地位じゃなくて出自によって王位継承順位が決まるなんて。
ギルバートのお母様の王太子妃様は今の王太子様が学院で出会った一代男爵の娘で、貴族とは言えない身分で。でも、世論が盛り上がっちゃって、仕方なく今の王様は正妃に迎えることを許したんだって。
それが許されたのは、生母の出自で王位継承順位が決まるってルールがあったから。生母の家って、その妃や王子王女の後ろ盾でもあるから、重要らしい。
ギルバートのお母さんは他に子供を産んでいなくて、他の兄弟は皆側室様の子供らしい。側室様は王太子様の元の婚約者だったみたいで、王子2人と王女3人を産んでて、王太子妃様のお仕事をしてるんだって。
お城に行ったとき、王太子妃様、オシャレして、お茶飲んで、お友達とおしゃべりしてるだけだったから、王太子妃ってそういうものだと思ってたけど、違ってた。王太子妃様が余りに馬鹿で、お仕事させると失敗するし、余計な問題起こすから、お仕事させてないんだって。だから側室様が全部そのお仕事を押し付けられてるらしくて、真面な貴族なら皆知ってることだったみたい。
うち、真面な貴族じゃないのかな。って言ったら、ギルバートに呆れられた。
「真面な貴族なら、俺たちが恋人になった時点で領地に連れ帰って強制的に別れさせてるよ」
って言われた。身分が違いすぎて苦労するし、真面な貴族はギルバートが将来は平民になるって解ってるからって。
「え、平民ってどうして!」
「そりゃ、母上が一代男爵の娘だからね。後ろ盾がないから、貴族に残るには婿入りするしかないんだ」
ギルバートのお母さんは一代男爵家の娘。つまり、ギルバートのお母さんのお父さんが死んだら、ギルバートのお母さんのおうちは平民に戻る。だから、ギルバートも将来は平民になるはずだったって。
でもそれじゃギルバートが苦労するからって、王様がヴィヴィアン様との結婚を決めた。ヴィヴィアン様は侯爵家の跡取りだから、そこに婿入りすれば、苦労することはないからって。おうちのことはヴィヴィアン様が優秀だから全部任せて、ギルバートのお仕事は跡継ぎを作ることとヴィヴィアン様のサポートだったんだって。
全然知らなかった。ロマンス小説みたいに、今の王太子妃様みたいに、あたしがお妃さまになれると思ってたんだけどな。
「アビーに王族の妻は無理だよ。礼儀作法、全然身についてないだろう」
ギルバートに言われてそれもそうかなと思う。お辞儀の角度とかカップを持つときの小指の角度とか言われても意味わかんないし。それで小麦が豊作になって、牛の乳の出が良くなるわけでもないんだし。
「うん。だから、アビーは実家の男爵家で領地のことを考えるのが一番だよ。俺も助けるから。一応王子だから、それなりに勉強したし、人脈もあるし。女男爵の夫としては結構優良物件だと思うよ」
そういうもんかなぁ。折角華やかな王都で綺麗なドレス着て、綺麗な宝石たくさん着けて、楽しく暮らせると思ってたのになぁ。
あたしが男爵になるなんて思ってなかったなー。お兄様いるし。
でも、なんか、あたしがギルバートの恋人になったとき、ママはパパと離婚して、実家の子爵家に戻っちゃって、お兄様もついて行っちゃったみたい。今は子爵領の役人やってるらしい。
「アハハハ、君の母上と兄上は賢かったというか、真面な貴族だったみたいだねぇ」
なんてギルバートは笑ってたけど。あたしがギルバートの恋人になったことで、王太子妃様や王太子様は怒ってたみたい。ヴィヴィアン様のお父さんも娘が馬鹿にされたって怒ってたって。それで、男爵領は制裁ってのを受けそうになってたんだけど、ヴィヴィアン様がお父さんを説得して、なしにしてくれたんだそうだ。その代わり、婚約破棄した後に慰謝料として、領地の収入3年分を支払うことが決まったらしくて、王様からそれを聞いたパパは真っ青になってたみたい。まぁ、パパ、がっぽりため込んでたから問題ないでしょ。
ギルバートもヴィヴィアン様に慰謝料を払ったんだって。だから、財産殆どなくなったって。ドレスとか宝石とか、もう買ってあげられないって言うけど、男爵領じゃ着る機会もないし、領地に帰る前に売っちゃおうって二人で決めた。宝石も売って、そのお金はいつか男爵領が困ったときのために使おうねって。非常時用の備えってヤツね。
ヴィヴィアン様はギルバートの側近候補だった伯爵家の次男と結婚することが決まったらしい。あたしには殿下に近づくなとか身の程知らずとか五月蠅いヤツだったけど、ヴィヴィアン様にはすっごく丁寧な態度だったなぁ。あれって下心あったってことじゃない?ってギルバートに言ったら、貴族令息として当たり前の態度だって笑われた。
うーん、やっぱあたしって、貴族令嬢として非常識なのかな。
ま、これからは王都に来ることもないだろうし、別にいっかー。
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