突然の関先輩からの呼び出し。一体何なのだろう?
3限目が終わったとき、携帯にメール着信。
詩史からランチのお誘いかな、なんて思いつつ見てみれば、思いもかけず関先輩からで。珍しい。
昼休みに図書館の書庫に来て欲しいというメールだったんだけど……何なのだろう?
跡部にも侑士にも内緒の話があるって。テニス部のことなら、別に内緒じゃなくてもいいはずだよね。
そんなわけで、今日は図書館に行くからと早めにランチを切り上げる。
ほぼ日課(?)化しているテニス部1年生メンバー(侑士・跡部・宍戸・滝・がっくん・ジロちゃん)との屋上でのランチなんだけど、ここでも氷帝がブルジョワ校だって再認識させられたわ。
普通に落下防止の柵にコンクリート剥き出しじゃないんだもの。
ウッドデッキみたいに木が敷いてあってベンチが設置してあって、適度に影を作る樹木(植木に非ず)。
まさに『屋上庭園』なんだよね。
まぁ、それはさておき。
図書館に行くと言うと『ほな、俺も』と一緒に侑士も行こうとしてちょっと焦った。
どうしようかと困ってたら、跡部が何か話があるとかで侑士を引き留めてくれたんでラッキーだったけど。
屋上を出て関先輩に『今から行きます』とメールしたら『第3書庫で待ってる』との返事。
氷帝の図書館にはいくつか書庫があって、第3書庫は1番利用者が少ない、政治・経済系の史料を収蔵した持ち出し禁止蔵書の書庫。内緒話をするにはちょうどいい場所、かな。
「お待たせして申し訳ありません、関先輩」
「俺も今来たところだから然程待ってないよ」
関先輩はいつもと変わらない穏やかな表情。テニスしてるときも穏やかな笑顔浮かべてる。もしかして笑顔が地顔なんじゃないかと思うくらい。その割りに結構プレイスタイルは攻撃的なパワーテニスだんだけど。
「こっちこそ、突然呼び出して悪かったな」
「いえ。でも、跡部や侑士に内緒って……何か彼らに知られたら不味いトラブルでも?」
そう問えば、先輩は一瞬呆気に取られたような顔をした後、可笑しそうにクスクスと笑い出した。
「テニス部関連のトラブル発生だと思ったんだ、長岡は」
「……違うんですか?」
関先輩と私の接点なんてテニス部しかないし。あ、一応生徒会もか。関先輩って前副会長だし。
「まぁ……場合と状況によってはテニス部に絡むトラブルに成り得るかもしれないね」
まだ関先輩は可笑しそうに笑ってる。
「でもさ、長岡。俺は男で君は女だよ。普通こっそりと男が女を呼び出す場合、どういう状況って考える?」
え……?
「自分には関係ないことって思ってるから、予測してないってわけだ。長岡らしいというか……」
関先輩は明らかに苦笑してる。
人気のないところにこっそり男が女を呼び出す。跡部と侑士──私の1番近くにいる異性で保護者的存在には内緒に……って。
……。
……。
え……?
あ……?
「……まさか、告白……?」
んなわけないよねー。
「正解」
にっこりと関先輩は笑う。マジデスカーーーー!?
「俺、長岡のこと好きなんだ。付き合ってほしい。勿論、彼氏と彼女って意味でね」
──人生初の恋の告白を受けてしまいました。
突然の、完ッ璧予想外の関先輩の言葉に思考停止。あっちの世界にいたときのボロパソコンのようにフリーズしてしまう私。
「長岡、そんなに驚くことか?」
どれくらい固まってたのか判らないけど……。数分のような気もするし、一瞬のような気もするけど、取り敢えず、先輩の言葉で解凍。
「え……あ……あの、全く予想外で……。ドッキリとかじゃないですよね」
「長岡がこんなリアクション取ると知ってたら、ドッキリでも面白かったかもな。でも違うよ。真面目に愛の告白中」
愛って……。
その言葉を聞いた途端、恥ずかしいのと照れくさいのと、嬉しいのと……
色んな気持ちが沸いてきて、顔に血が上って頬が赤くなるのが判る(頬だけじゃないと思うけど)。
「照れてるのか? 意外だな。長岡ならこんな状況慣れてるだろうに」
「慣れてるとか有り得ないです。生まれて初めての体験なのに!」
過去32年、告白はするほうで、されたことなんてないし。まぁ、軽く『そろそろ付き合おうか』って言われて『そうだね』と答える……なんてことはあったにはあったけど。
でも、こんなふうにちゃんと、如何にも私の学生時代の少女漫画の定番シチュエーションで告白されたことなんて皆無!
かなり自分でもテンパってて、頭の中では『 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!』な顔文字やら、踊りまくっているAAやらが飛び交ってる。
「初めてなんだ。本当に意外だな。長岡モテるのに」
いやー……。前の世界では良く見積もっても十人並の容姿で、控えめに言ってもちょっと太めだったし。堅物そうな外見してるのに何故か付いてた仇名は『裏番』なんて物騒なものだったしさ。全然モテなかったし、片思いの数>両想いになれた数だったし……。
「長岡、どう? 俺と付き合わない?」
関先輩の声に再び我に返る。いかんいかん、自分の思考に入り込んでた。
私を見る関先輩の目は真っ直ぐで、揶揄ってるわけでも、冗談言ってるわけでもない。
「先輩のお気持ちは嬉しいです。ありがとうございます。でも、先輩とお付き合いは出来ません」
関先輩の告白にはびっくりしたけど。でも答えは決まってる。
確かに関先輩はとても好い人で頼りになるし、優しいし、先輩としては大好きな人。
でも、異性として意識したことはない。少なくとも恋愛対象の男性としては。
「うん、長岡が俺をそういう対象として見てないのは知ってる」
関先輩は穏やかに笑って言う。
うーん、これは手強いかもしれない。慌てるでもなく、落ち込むわけでもなんでもなく。冷静に言葉を継いでくるってことは、多分私のこの返事は予想済みで対策済みなんだろう。
「長岡が俺たちを恋愛対象として全く見てないってのは普段の長岡の様子から判るよ。跡部たちだけじゃなくて、俺たち3年すら、時々長岡は弟みたいに扱うし……向日や芥川に至っては息子扱いしてるんじゃないかって思うこともあるからね」
関先輩鋭い……確りばれてるし。
だってほら、今は15歳だけど、元々あっちでは32歳だったわけで。ジロちゃんたちなんて17歳違いなわけだし(あ、ジロちゃんはもう16歳だから16歳違いか)、親子でも可笑しくない年齢差だもんね。
「だから、今すぐ、俺に惚れて恋人になってくれとは言ってないんだ。お試しで付き合ってみないか? 無期限ってのもズルズル行きそうだから、期間は俺の卒業まで。その間に長岡が俺に恋愛感情を抱いてくれれば恋人にステップアップ。長岡がどうやっても俺のことを先輩以上には思えないっていうなら元通り先輩後輩の関係に戻る」
「お試し……ですか?」
そうきたか……。
…………。
なんか、変。
強引すぎて、関先輩らしくない気がする。
確かにプレイスタイルは力攻めっぽいところあるけど、普段の言動……特に後輩に対しての関先輩は相手の気持ちを尊重してくれるのに。
普段の関先輩なら『じゃあ、これから少し意識してくれるか』って言って終わると思う。その上で、今までより少しだけ私と接する時間を増やしていく……って行動をしそうなんだけど。
でも、今の関先輩は違う。『私が先輩を好きになること』よりも『先輩と私が付き合うこと』を重視してる印象。
そりゃ、恋は思案の外とも言いますし。恋をしちゃうと普段と違う言動になる人もいるにはいる。だけど、関先輩はそういうタイプじゃないと思う。
何より、目が。
関先輩の目が、『何かがある』と伝えてくる。告白を断られているのに少しも動揺を見せない、穏かな優しい目。そして何処か強い意志を秘めた眼。
先輩の気持ちが嘘だとは思わないけど……それより別の何かを関先輩は重視してる感じがする。
伊達に32年生きていたわけじゃない。
「先輩、これ、何か裏がありますね?」
疑問系で言うけど、確信がある。
「どうしてそう思う?」
関先輩は笑みを崩さない。穏やかな表情で、目だって穏かだ。伊達に政治家一族の後継者じゃないな……。
「先輩の言葉は……私が先輩を好きになることは2の次で、先輩と私が付き合っているという事実が欲しいと聞こえます」
付き合えば自分を好きにさせる自信があるんだろうかとも思ったけど、それもなんだか違う気がする。
「先輩が卒業するまで、私が先輩の『彼女』ポジションにいるということが先輩にとっては重要なんじゃないかと……そう感じます」
「お試しで付き合おうっていうのは、俺が長岡をそれだけ好きだからだよ。他のヤツに横から持っていかれたくない。長岡が結論出すまでは他のヤツに手出しされたくないからね」
独占欲というわけですか。でも、それは嘘でしょ。
「もう、先輩ってば、そんなに私のこと好きなんですか!? ……って言ったほうがいいですか? 嘘の情報出されたって、YESなんて答えるわけないじゃないですか」
先輩の真意が判れば、何が目的なのか判れば、付き合うということも選択肢の1つとして考えることは出来る。
「……参ったな。長岡は頭良いし思考回路が大人びてるとは思ってたけど、予想以上だ」
関先輩は溜息を1つつくと、表情が変わる。笑みが消える。
「俺が長岡に向ける気持ちに嘘はない。でも、正直、俺は告白するつもりも長岡と恋人になるつもりもなかったんだ」
政治家の跡取りだから……かな。氷帝の場合、家を背負っている人が多いから、恋愛は将来のないものと割り切ってる人が多い。関先輩も多分そうなんだろう。
「だけど、状況が変わった」
そう言って先輩は事情を話してくれた。
私を守るため。そして、私を守ろうとする侑士や跡部に危ない橋を渡らせないため。
3年の1部の素行の良くない連中に私が狙われているらしい。欲望の対象として。
ぞっとした。
欲望を否定はしない。性的な欲求を持つことは動物の本能だし、好きな人と体を重ねたいと思うのは自然なことだから。
でも……自分の欲望のみを満たすためにただの『女』という器として扱われることには嫌悪感を感じる。冗談じゃない。
「跡部たちが知れば、長岡を守ろうとするだろな。だけど、相手が悪い」
自分の欲望を他者に押し付けようとする屑だもの。跡部たちが私を守ろうとガードを固めたら、暴力や権力を使ってでも跡部たちを排除しようとするだろう。でなきゃ、私に手を出す計画なんて立てたりしない。そもそも跡部たちは考えられる限りのガードをしてくれてる。尤も主に『苛められない』ための守りだけど。その跡部たちの『配慮』を完全無視してる時点で普通の論理が通じる相手じゃないだろう。
そう言えば、関先輩も頷く。
「そういうことだ。あいつらを跡部じゃ牽制出来ない。あいつらとっては家の権力財力が全てでね。跡部財閥とはいえ、新興の跡部家じゃ、家の力もあいつらにとっては恐れるに足りないんだ」
関先輩は軽蔑を含んだ声で言う。先輩の言う『あいつら』に対しての。
確か、先輩も名家と言われる家柄のはず。少なくとも鎌倉時代まで遡れる家系だと美弥子さんに聞いたことがある。民主政治の始まった頃から政治家として生きてきた家で、政治家の家系として、また旧家としての誇りも持っているんだと美弥子さんは言ってた。
そんな関先輩にすれば、ただ安穏と親の権力を当然のことと思い、自分の力と勘違いしている馬鹿野郎どもは軽蔑にすら値しない屑なんだと思う。
「でも俺なら違う」
あいつらの尺度に合わせるのは癪なんだけどな。先輩は苦笑する。
「長岡が俺の恋人なら、あいつらは長岡には手出ししない。したくても出来ないんだ。それがあいつらと俺の家の力関係だからな」
なるほど……。だから、『付き合うこと』を重視してたのか。
ただの後輩じゃそこまでの影響力はないけど……でも次期関家当主の彼女だったら、流石の馬鹿野郎どもでも少しは考えるってことか。
「理由は判りました。でも……」
先輩の行動の理由は判った。理性的に考えれば、ここでYESと返事をするべきなのかもしれない。
跡部たちが知れば、何らかの手を打とうするだろうし、相手の状況を考えればその対策は容易にはいかないだろう。
そうなったら……間近に控える全国大会に影響するかもしれない。それだけは避けたい。跡部たちが何の憂いもなくテニスに打ち込めるようにするのが、マネージャーとしての私の役目。
それに……関先輩はじめ、井上先輩、塩沢先輩、鈴置先輩の3年生にとっては最初で最後の全国大会だから。悔いの残らない大会にして欲しい。そのためにも跡部たちには意識の全てを全国大会に向けて集中して欲しい。
だから、先輩に『はい』と言えば、それでOK。
でも……言えない。
マネージャーとしてではなく、女として。
好きな人がいる。なのに関先輩の気持ちを利用することなんて出来ない。仮令先輩がそれを納得しているのだとしても。
そして……好きな人に『私は関先輩と付き合ってる』なんて思われたくない。
漸く自分で認めた気持ち。意識しているのに、異性として見てるのに、友達なんだと自分を誤魔化して気付かない振りをしていた私の恋。
侑士が好き。
侑士は私のことを友達としてしか見ていない。弱いところも知り合って間もない頃に結構見せちゃってるから、侑士は私に対して保護者的な感覚も持ってるかもしれない。
侑士にとっては私は恋愛対象外だろうし、また片思いで終わる恋に違いはないだろうけど。
侑士が気付いてしまったら困らせるだけだから、気付かれないように密やかな恋で、気付かれたら封じる想いだけど。
それでも今、私は侑士に恋してる。だから、この計画には乗れない。
理性では乗るべきだって思ってるけど、でも、感情がそれを拒否してる。
関先輩は私やテニス部のことを思ってこうして提案してくれてるのに、私は自分の感情を優先して断ろうとしてる。これじゃあいつらと大した違いはない。そう思うと、自然に顔を俯けてしまう。申し訳なくて自分勝手が恥ずかしくて、先輩の顔を見れない。
「もしかして、長岡、好きなヤツいる?」
沈黙してしまった私に関先輩は訊いてくる。
「……はい」
頷けば、『そうか』と呟いて、暫く思案顔。
「井上や塩沢なら、俺と似た環境にいるからいいんだけど……違うな。……忍足か」
先輩の言葉に驚いて顔を上げる。
自分ではポーカーフェイス出来てると思ってた。詩史には気付かれたけど、他に気付いてる人はいないってそう思ってた。でも、そうでもなかったんだろうか。
「気付いてるヤツはいないと思うよ。俺も長岡に好きな人がいるって前提で考えてもしかして……って思った程度だから」
先輩の言葉に少し安心する。
「でも……そうなると厄介だな」
関先輩は更に深刻な表情になる。私の感情を慮ってくれてるというだけではなさそう。
もしかして、他にもトラブル要素があるの?
「忍足を好きな長岡にはちょっと面白くない話だとは思うんだけどな」
そう前置きして先輩が話してくれたのは、過去の侑士の『女友達』(ぶっちゃけて言えばセックスフレンド)の存在。
高等部にはいないらしいけど、大学部には元セフレがそれなりの数いるらしくて。この前まで中学生だったのにそれはどうよと思わないわけでもないんだけど、まぁ、侑士や跡部なら仕方ないかな。女が放っておかないだろうというか……。どんな過去であれ、それを経てきたからこそ今の侑士や跡部がいるわけだしね。彼らが自分たちの責任においてやってきたこと、それも知り合う以前のことを不満に思ったり、況してや責めたりするつもりも権利もないし。……まぁ、ちょっとショックなのは確かだけど。
で、まぁ、そういう過去の女性たちは侑士の側にいる私に対して不満がいっぱいあるってことらしい。仮令友達とはいえ、これまでこんなに近くに特定の女がいたことはなかったみたいだし。
「侑士が私を好きってわけじゃなくて、私の片思いなんだから……別にこれまでと変わらないし、問題ないと思うんですけど……」
そりゃ彼女とかだったら嫉妬で元カノたちがなんか仕出かすとかはありそうだし、侑士が私を守ろうとしてそれが負担になってしまうってのは有り得るけど。
そう言うと先輩は少々呆れ顔で私を見て軽く溜息をつく。
「女たちにとっては、彼女だろうがそうじゃなかろうが如何でもいいんだよ。でも長岡が忍足に好意を持ってたら更に面白くないってのが倍増するってこと」
それがあるから、先輩は私と付き合うことを提案してきたと言った。
もし、馬鹿野郎から私を守ろうとすれば、跡部たちが取る行動の中で常に私に張り付く役目は侑士に割り振られるだろう。家も隣、クラスも同じだし、それが自然だからって。
でもそうなると、今度は元カノたちが暴走するかもしれない。
だから、侑士が私のガードに入るのは効果がないだけじゃなく、更なるトラブルを招きかねないんだって。
「女の子としての長岡の気持ちも理解出来るつもりだよ。俺だって恋する男の子だしな」
私の気分が少しでも軽くなるようにと、関先輩はお茶目な口調で言う。
「好きなヤツに他に男がいるなんて思われるのは嫌なことだと思う。だけど、長岡。非道いとは思うけど、敢えてテニス部のために、そして君自身の安全のために俺と付き合おう」
関先輩は真剣な目をして、そう言った。
もし……先輩が私を単なる後輩としか思っていないのだったら、ここで頷けたかもしれない。要は自分の気持ちだけなんだから。
侑士への想いは、片思いと割り切ってるもの。侑士に気付かれちゃいけないって思ってる気持ちだから、寧ろ彼氏がいると思われたほうが気持ちは気付かれないだろう。
でも……先輩は私を好きだと言ってくれた。先輩の好意を利用してしまっていいんだろうか? いいはずない……。
「鴨が葱背負って『利用しろや』って押し売りしてきたんだから長岡は黙って買えばいいんだよ」
私の考えを見透かしたように関先輩は言う。
「それに俺だって長岡のテニス部を大事に思う気持ちと状況を利用して、長岡の彼氏って立場を手に入れてあわよくば本当の彼氏にランクアップを狙ってるんだ。お互い様だろ。というか俺のほうが何気に利己的だと思うぞ」
本当に利己的な人ならそんな言い方しないと思いますよ、先輩。
「期間は、先輩の卒業まで、ですね」
「ああ、馬鹿野郎どもは同学年だしな。あいつらの興味が他に移ったらやめてもいいんだが、俺が離れると手を出しやすくなったと思われるかもしれないし、卒業まではカモフラージュしといたほうが無難だろう」
約半年……か。
本当にこれでいいのかな、と迷いはあるけれど……。
でも、侑士や跡部に面倒をかけずテニスに打ち込んでもらうにはこれが一番いい方法かもしれない。
「じゃあ……よろしくお願いします、関先輩」
「こちらこそ。状況は状況として……嘘から出た真になるように俺も頑張らせてもらうよ」
関先輩はニッコリと笑う。……ちょっとコワイです。
「そうだな、俺は彰子って呼ぶことにするから、長岡も俺のこと玲彦って呼んでくれ」
「……玲彦先輩?」
「玲彦さん、玲彦……のほうが嬉しいけど、長岡……いや、彰子の性格からはそれも無理だろうし、それでいいよ」
こうして、自分でも全く思いもしない予想外の形で……しかも打算だらけの状況で、こちらの世界に来て初めての『彼氏』が出来た。
当然ながら、侑士たちには裏面の事情は内緒。飽くまでも玲彦先輩と私だけの取引であり決め事。
巧くいけばいいんだけど……。