本日は神奈川県に来ております。
相変わらず心配性なにおちゃんは東京まで迎えに来ると言い張ったんだけど……流石にそこまで迷子になったりはしないから……(地下鉄の駅ではいつも迷子になりかけるけどね……)。
で、神奈川の駅には確り迎えに来てくれたにおちゃん。そして、そこにはにおちゃんだけではなく、幸村と柳もいた。
「今日は随分大人びた格好しとるのう」
開口一番、そう言うにおちゃん。そうかな? 別に普通の格好なんだけど……シャツの上に黒のセーター、下は黒のスリムパンツで。まぁ、コートはトレンチっぽいし、パンプスはヒールが結構あるけど。あ、あっちの世界の感覚で選んだからかも。
「ヒールの高い靴を履いてるからそう感じるのかもね」
ニッコリと笑う幸村。うーん、美人。女装させてみたい(待て)。絶対女装させたらお姉様系美女になると思うんだよね(だから待て)。3人とも背が高いから今日は敢えてヒールの高い靴履いてきてみました。
「折角の休日なのに、つき合わせてごめんなさい、柳君」
そう、今日は柳に用があって、におちゃんに連れてきてもらったのだ。因みに幸村に言わなかったのは、幸村とも結構メールのやり取りをしてるから。更に序に言うと、携帯でのメールが多いのは、がっくん、ジロちゃん、におちゃん。跡部と幸村はPCメールのほうが多い。跡部とは色々打ち合わせもあるから長文になるし、そうするとPCメールの方が楽だからね。幸村は私が携帯メール苦手と言うのを聞いてからはPCメールにしてくれた。
で、昨日のメールで今日におちゃんと柳に会うことを書いたら、『じゃあ、俺も行くよ』と返事がきてたわけ。
「いや、構わない」
相変わらずの糸目で答える柳。その眼本当に見えてるんだろうかというのは全読者の疑問に違いない。
「とりあえず場所移すかのう」
におちゃんが先導して、移動する。話によっては時間が掛かるかもしれないから、無難にファミレス。奥のほうの人のいないテーブルにつき、私が奥に座り、隣はにおちゃん、正面には幸村でその隣が柳。
「聞きたいのは、氷帝テニス部のファンクラブについて……だな?」
何も言わないうちから、柳が切り出す。流石、立海の参謀。
「うん、知ってる?」
「ある程度はな。入学前から跡部・忍足らと親しく、入学直後にはマネージャー就任・生徒会副会長就任が決まっているのだろう。やはり気になるか」
…………そこまで知ってるんですか……。
「へぇ……マネージャーは知ってたけど、生徒会副会長になるのかい?」
幸村……驚いてる台詞だけど、それ絶対既に知ってたって顔でしょ……。
昨日のことだった。跡部から言われたのだ、入学後の4月中旬に行われる生徒会選挙で私を副会長に指名するって。
氷帝高等部は4月に生徒会役員選挙がある。これは全校生徒の99%が持ち上がりだから出来ることでもあるんだけど。そして、既に跡部が会長となることはほぼ確定らしい。……流石は跡部様。
で、副会長は基本的に選挙なんだけど、会長が指名することも出来るらしい。正確に言うと、会長候補が副会長候補を指名し、会長候補が当選すれば副会長候補も自動的に当選……ということらしいのよね。つまり……跡部が私を副会長候補に指名するってことは、確実に私は副会長になってしまうわけ。跡部が落ちるわけないもんね……。
勿論、抵抗しましたよ! 外部生がいきなり副会長なんて無理だって。何も学校のこと知らないのに。
「マネージャーとしてのお前を見て、お前なら俺の片腕が勤まると判断したんだ。文句あるか」
あるに決まってるでしょ! と反論したけど、跡部様は聞く耳なんてもっちゃいねー。学校のこと知らないのにそんな大事な役目出来ないといったら、知るにはいい役職じゃねぇかと反論を封じられてしまった。
ブツブツとぼやいていると、跡部が帰宅した後侑士が教えてくれた。
「あれは彰子を守る為でもあるんや」と。
跡部が私を副会長にしたがる理由はいくつかあるらしく。
1つは結構跡部はワンマンだから、副会長というのはあくまでも跡部のサポート役。で、結構親の会社の利害関係も絡む(高等部になるとそう言う意識も出てくるらしい。流石エリート校)。純粋に生徒会長としての跡部をサポートできる生徒などいないというのだ。その点私は利害関係は一切ない。
2つ目として、跡部が自分のサポートを任せられるだけ、私を信頼してくれたということ。これは嬉しい言葉だった。
そして、最大の理由であり、侑士たちテニス部のメンバーの願いでもある理由。
それが、私を守る為。私はテニス部のマネージャーになる。そして既にテニス部のレギュラー陣(新旧含む)とはそれなりに仲が良くなっている。テニス部のマネージャーは、テニス部ファンにとって面白くない存在だ。確かにそうだろうとは思う。自分たちの大好きなテニス部メンバーに1人の女が当然のように側にいるんだから。
これまでにもテニス部のマネージャーが虐めにあったこともあったらしい。跡部や侑士たちも彼女たちを守ろうとしたけど、それでも限界はあるし、何よりもメンバーをサポートするマネージャーがメンバーの重荷になっていった。テニス以外に神経を使わないといけなくなったから。結局、テニス部はそれ以降マネージャーを採らない方針でやってきたというわけだ。そこに、高等部から私がマネージャーになる。また、虐めが起こるのではないか。
「彰子なら、巧く回避したり対処したり出来る気ぃもするねんけどな……。けど、事前にそうならんように防御策採ったほうがええやろ。俺らも安心やし」
防御策の一つが、跡部の指名による生徒会副会長就任ということ。つまりそれは、跡部が私を片腕なのだと公言するのに等しい。氷帝において教師よりも力のある跡部の片腕に手を出す者などいない……と侑士たちは判断したのだと言う。
「そっか……。解った。私が虐めにあったりしたら、皆に心配かけちゃうもんね。皆が私を守る為に考えてくれたことだから、受けるわ。…………学校にいるときは常に跡部のお守り役ってことで」
だから、明るく笑って答えた。
「ご苦労さんやな」
侑士も安心したように笑ってくれた。
でも……本当にそれでいいんだろうか?
まぁ、昨日そんな経緯があり、思うところがあってにおちゃん経由で柳に連絡をとったわけだ。
「これまでマネージャーは虐められてたらしいからね。跡部たちも防御策を練ってくれたらしいの」
「跡部の片腕だと認知させると言うわけか。確かに帝王の片腕に手を出そうとはしないだろうな。だが……」
やっぱり、柳は話が早い。
「全ての生徒がそれを理解してるわけでもなかろう」
「そう言うこと」
跡部や侑士たちの意図が伝わらない生徒もいるかもしれない。侑士は跡部を敵に回すことはテニス部を敵とすることで、テニス部を敵にすると言うことはほぼ全校生徒を敵にすることだと言った。
凄い自信だなって思った。でも、ファンクラブと言うからには女の子が相手。女の子にはそんな理屈が通じないことだってある。感情で動くことが多いから。そしてまだ高校生程度であれば、その確率は更に高くなる。
「彼れを知りて己を知れば、百戦して殆うからず。先ずは相手がどういう人達なのかを知っておけば対処方法もあるでしょ?」
会話は殆どが柳とのもので、におちゃんも幸村も口を挟まない。今は自分たちが口を出すべき場面ではないと思ってるんだろう。彼らも頭がいい。
「さほど詳しい情報はないかもしれん。長岡が聞きたいことを聞いてくれ。答えられるものだけ答える」
「ありがと。じゃあ、先ず、ファンクラブと言ってるけど、組織として存在してるの? それともファン個々人の集団?」
つまり統率者がいるのか否か。
「組織としては存在しない。故にルールもない」
つまり、ルールが存在しないから野放しになってるというわけか。
「但し、幾人かのリーダー格がいる」
「その影響力は?」
「事実上のファンクラブの支配者だな」
影響力が大きいリーダー格か……。その人たちがどういう人かによって、私のとるべき対処法も変わってくる。
「まず、トップに立つ者がいて、その下に各学年のリーダー的立場の者たちがいる。かといってファンの野放図な振る舞いを止めるわけでもないな」
止めてれば虐めなんてないでしょうしね。
「主に、抜け駆けしないように眼を光らせているということと、練習・試合に際して選手の邪魔になる行動はとらないよう注意喚起している程度だな」
ああ、道理でファンが多い割には練習中静かだと思った。
「トップとリーダー格の名前や学年ってわかる?」
他校だし、そこまでは情報ないかな……と思いきや。流石立海のデータマン。
「トップは現2年の冷泉美弥子、その下に久我由紀子・庭田那津子、恐らく俺たちと同学年は久世詩史がリーダー格だろう」
頼っておいてなんだけど……どうやってここまでの情報を得てるんだろう……。他校だよ!
「冷泉……ねぇ。じゃあ成金の似非お嬢様じゃなくて、本物のお嬢様だ」
「何故解る」
解るってことは本当にお嬢様か。
「冷泉って姓は羽林家藤原北家御子左流だからね。平安時代から続く由緒正しいお家柄でしょ。だとしたら正真正銘本当のお嬢様」
伊達に大学で平安女流文学専攻してませんわよ。現実生活に全く役に立たない知識だけど、平安文学に関することなら、それなりには知ってるんだから。
正真正銘のお嬢様なら、なんとかいけるかも知れない。似非お嬢様と違って、由緒正しいお家柄のお嬢様は家という伝統があるが故にきちんとした躾を受けてるはずだし、プライドではなく誇りというものを知っているはずだから。それに、多分冷泉さんの下にいる久我さん・庭田さん・久世さんもそれなりの家柄のはず。苗字が同じように羽林家のものだったと思うし。まぁ、彼女たちの家が本当に羽林家の出とは限らないけどね。
「何かやらかす気じゃな、彰子」
漸くにおちゃんが口を開く。ニヤニヤと面白そうに笑いながら。
「お手並み拝見させてもらうよ」
幸村もニッコリと笑う。
……幸村さん、白ですよね? 白って信じていいですよね?
「巧くいったらちゃんと報告するね」
入学後、行動開始。
柳とはそこで別れて、その後はにおちゃん、幸村と一緒に色々見て回った。水族館に行ったり、ウィンドウショッピングしたり、カフェでお喋りしたり。流石に帰宅があまり遅くなっては拙いと、6時前には別れて東京へ戻ることにした。
「心配性の忍足あたりが五月蝿いか?」
合格発表の日に侑士が電話してきたことを当然におちゃんは知ってるから揶揄うように言ってくる。
まぁ……侑士もあるんだけど。それよりネコたちが……。あの子達、私の帰宅が遅いと拗ねるから……。何故か通常の帰宅時間を把握してるらしく、それよりも遅いと怒る・拗ねる。昔からそうだった。やっぱりネコは賢いなぁ。
「流石にまだ中学生が8時過ぎたりしたら拙いでしょ」
午後8時からは中学生の外出は深夜徘徊扱いなんですよー。因みに高校生だと午後10時以降だったかな。現実に合わないよねぇ……。(※各自治体によって違います。実際は18歳未満だと11時~4時が深夜徘徊にあたる自治体が多いようです)
「じゃあ、またね。長岡さん」
「うん、幸村君も」
遠出して来た甲斐があって、充実した1日を過ごし、私は東京へと戻った。
因みにネコたちはやっぱりご機嫌斜めだったので、大好物のミルクプリンを慌てて買いに行き、なんとか機嫌を直してもらいました。