春休み

 2月と3月はあれよあれよという間に、あっという間に過ぎた。

 うん、かなり忙しかった。先ずは部内の財政改革をしなきゃいけなかったからね。

 そもそも、部活動には学校から与えられる部費というものがある。その範囲内で色々やりくりしなきゃいけないんだけどね……。

 テニス部って変なのよ。部費は試合の遠征費に使われるくらいなの。こまごまとした備品は太郎ちゃんか跡部のポケットマネーなんだもん。それって絶対変だと思う。跡部曰く手続きが面倒臭いとのこと。たかたが4万5万でいちいち申請書を書くのが面倒臭いとか抜かしおってからに!! 立派に庶民の1ヶ月の食費(しかもちょっと贅沢め)だっつーの!

 まぁ、確かにね、ドリンクや薬とか買うのに値段申請して教師の許可貰ってそれからお金貰って……となると面倒臭いといえば臭いんだけど。でも、そういうルールでしょうが。生徒会長御自らルール破ってどうするのよ……。

 それにちょっと思うところあって、これは速攻止めさせた。特に跡部がポケットマネーで出すのは。太郎ちゃんの場合は臨時の立替ということにして、申請書は後日提出ってことにしてもらったけどね。

 高等部も同じ手続きなのかなと思ったら、違っているらしくて……。なんでも……部活ごとの口座があるらしい。で、顧問若しくは部長がそのカードを持っていて、それからお金を引き出して買い物するんですと。まぁ、それなら楽だね。

 で、年度初めにその口座に部費が入金される。……テニス部の部費聞いて私は驚いたなんてもんじゃなかった……。だって、あっちにいた頃の私の年収より多かったんだもん(ま、しがない派遣社員だから年収も低かったんだけどね)。というか、実家年間所得(父が現役だった頃)より遥かに多くて……。ええ、ぶっちゃけて言えば、8桁でしたわよ!! 200人を超える部員がいるからとはいえさ……高校生の部活の部費が8桁って……。一瞬意識が飛んだ私は正常よね!?

 ともかく、テニス部の備品の購入に関しては価格に無頓着すぎる。というわけで、跡部の意識改革含め、財政見直しを図ったわけですよ。

 まず、ドリンク。これまではポカリとアクエリアスの粉末をデパート(!!)の中のスポーツ用品店で買って作ってたらしいんだよね……。ということは割引なしの正規価格じゃないですか……。で、部員200人×1日1人1袋×1ヶ月の部活平均日数20日=4000袋。1箱5袋入りで800箱。税込み685円だから、月に54万8000円。……はい? それだけで私の手取り月収の3倍超えてますから!! というわけで、ドリンクをイ○ングループで売ってる5袋298円のものに変更。いっそ薄ーく作ってやろうかとも思ったけど、それだとスポーツドリンクの本来の目的を果たせないから止めたけどね。これで30万9600円の経費削減。年間371万5200円の経費削減になるんだから、学校経営陣、私を誉めてくれ! ってなもんですよ……。

 消毒薬なんかも普通に安売りしないお店で買ってたらしいから、ドラッグストア(マ○モト○ヨシとか)で買うことにして、タオルやユニフォームの洗濯も洗剤や柔軟剤が聞いたこともないような外国のメーカー(しっかりお高い)だったから、これも柔軟材いらずの洗剤ボー○ドに変えてやった。

 レギュラーにはシャワールームなんてものもあって、そこにはこれまた外国製のボディソープ・シャンプー・コンディショナーが備え付けてあったんだけど……。そもそもシャワールームあること自体が贅沢だろ。いっそ使用禁止にしてやろうかとも思ったけど、思いっきり反対されたんで妥協。シャンプー・コンディショナー・ボディソープは各人好みがあるだろうという建前の許、自腹切れということにした。序にボトルには名前書けと言ったら『恥ずかしい』と抜かしやがった。

 なんだかんだと、私の案どおりに行けば、来年からテニス部は約500万円は経費を削減できます!

 唯一、変えなかったのはテーピングのテープ。これは安いものにすると伸縮性や耐性に問題がでる。ああ、変えなかったと言うのは違うな。テープに関しては、これまでよりも単価が上がったんだった。跡部や侑士と一緒にスポーツ用品店を周り、実際に使ってみて一番良さそうなものを選んだからね。

「長岡ッ」

 部誌を纏めていると、練習を終えてシャワールームに向かった跡部が怒った顔で戻ってきた。手には紙を持ってる。あー、あれか。

「なんだ、この、『シャワー使用は5分以内』ってのは!!」

「うん、そのまま」

 パソコンに視線を戻し、部誌を入力。大体、地下水が豊富にある私の元の世界の地元とは違って、ここは結構毎年水不足が深刻な話題になる都会。水道料金だってお高いのよ。まぁ、水道料金は部費からじゃなくて学校の運営費用から出てるんだけどね。でも、経費削減&エコよ!

「彰子先輩がマネージャーになってから、色々細かくなりましたね……」

 チョタが苦笑してる。とはいえ……

「今までが可笑しかったんだ」

「だよなー」

 なんて、庶民派の宍戸やがっくんは頷いてる。(尤も、氷帝に通ってる時点でそこそこお金持ちではあるはず。だって、あの入学費用だもん……)

「そういうこと。無駄に贅沢なのよ、ここは。普通は中学の部室にシャワールームなんてありません。高校だって殆どないのよ」

 こういったやり取りは既に日常茶飯時なんで、私はPC画面を見たまま言う。

「あんまりグダグダ五月蝿いと、ドリンクをベーキングパウダーりんご酢入りに変えるわよ」

「………………」

 途端に侑士が大笑いする。侑士は実際にベーキングパウダー+りんご酢のスポーツドリンク飲んだことあるからね。この前実験的に自宅で作ってみて味見してもらったのだ。味は悪くなかったみたいだけど、成分的に不安があったからやっぱり既製品のスポーツドリンクにしたんだけど。

「跡部の負けや。諦めぇ」

 振り返ると、跡部は苦虫噛み潰したような顔をしていて、周りは侑士と滝は遠慮なく笑い転げ、他は笑いを堪えている。因みにジロちゃんは夢の中。

「早くシャワーしてきてよ、跡部。明日のメニューのことで相談と確認したいことあるんだし」

「…………わかった」

「3分以内ね」

「また短くなってるし!!」

 今度はがっくんが大笑い。

「……!」

 跡部は何も言わずにシャワールームへ向かいましたとさ。






 3月中旬には氷帝の卒業式があり。入学までの間は侑士たちも部活も何もない状態。そうなると暇になったのか、何故かうちに皆が頻繁に遊びに来るようになった。別にいいんだけどね……。

 ただねー、真朱がねぇ……。生まれ変わってもあの子の警戒心の強さは変わらなかったらしくて、初めの頃は直ぐに皆に唸ってた。萌葱と撫子は社交性のある子たちだから、適当に懐いてたけど。まぁ、頻繁に来るから、真朱も徐々に慣れていったけどね。今のところ、萌葱と撫子は誰にでも懐くけど、萌葱はがっくんがお気に入りで(凄く遊んでくれるから)、撫子は宍戸がお気に入り(優しいから)みたい。真朱は元飼い主である跡部とお隣さんということもあって始終出入りしている侑士には比較的懐いているってところかな。

 そんなわけで、今日も旧3年レギュラー陣が遊びに来てるわけでして……。

「もう疲れたC~~」

「数学なんてやりたくねーよぉ」

 と、テーブルに突っ伏すジロちゃんとがっくん。今日は入学式までにやっておかないといけない課題を皆でやってる。いやー、量が半端じゃないわ。各教科問題集1冊ずつあるんだけど。結構分厚いのよね。約1ヶ月の休みの間にそれぞれ1日に4~5ページは解いていかないといけない量あるからねぇ。

 まぁ、侑士も跡部も宍戸も滝も私も、殆ど終わってる状態なんだけど……。案の定と言うか、ほぼ手をつけてないのがジロちゃんとがっくん。今日は2人に課題をやらせるために集まってるんだよね。

 私は跡部と侑士にドイツ語を教えてもらってるところ。氷帝は中等部から第二外国語があるから、外部生の場合第二外語は苦労することになる。内部生は中学からやってるけど、外部生は3年遅れてることになる。そのために、1学期の間は外部生は第二外語の時間は別に取られていて、更に補習もあるんだけど……。3年分を1学期でやろうとすることに無理があるでしょ! というわけで、少しでも勉強しておこうと跡部と侑士に頼んだんです。幸い2人はドイツ語を選択していて、私も大学でドイツ語を第二外語にしてたから解らないことはないこともない。でも、大学出てから10年経ってるし、そもそも大学でも教養課程のときにしかやってないし、単位取得に必要な、最低限度しかやってないから……喋るとか原書読むとかとてもじゃないけど出来ないレベル。

「飽きたC~~~」

「もう勉強いやだーーー」

 相変わらず叫ぶ氷帝小動物コンビ。駄々をこねる2人が可愛くて思わず笑いが漏れる。元々五月蝿いガキは嫌いだったはずなんだけど、屈託なく懐いてくれる2人にははやり私だってほだされてくる。原作やアニメでは「うっせーな、こいつら」なんて思ってたくせに、今じゃ「もー、可愛いんだから」と頭グリグリしたくなってるくらいだ。

 もう梃子でも課題やらない! と言い張る2人に皆呆れ顔。私たちがやってる問題集を写させることは簡単だけど……。

「ジロちゃん、がっくん。全部解け、って言ってるわけじゃないんだよ」

 というか、彼らには解けないでしょ……って問題も半分以上あるし。

「とりあえず、わかる問題だけでも答えておこうよ。一応最後まで眼を通しましたーって解ればいいんじゃない?」

 解る問題は解いて、解んない問題には問題番号に×を付けておけば、ちゃんと最後まで取り組んだって主張にはなるでしょ。

 解らないの判断基準はそれぞれだけどね。1時間悩んで解らないと判断するのか、問題読んだ瞬間わからないと判断するのかは自由だし。なんて、ちょっと狡い? 手も教えちゃう。学校側にしてみれば、長い休みに問題が起こらないようにとりあえず勉強させとけーってことで課題出すわけだしね。……氷帝でもそんな配慮するのかな。

「課題終わらなければ、今度の日曜はお前ら連れて行かねぇぞ」

 と駄目押しの跡部。そう、今度の日曜は皆で遊園地に行くことにしてるのだ。遊園地というか某ネズミーランド。元の世界では行ったことがなかったんだよね。東京なんて、東京でしかやらないお芝居を見に行く程度で、それも1泊くらいの強行軍で行ってたし。派遣だと連休なんて中々取れないしね。だから、凄く楽しみにしてる。

「がっくんやジロちゃんと行けないの、寂しいなぁ……」

「仕方あらへんやろ。ま、俺がちゃーんと彰子は楽しませてやるから、安心しぃ」

「忍足が言うと別の意味に聞こえるよね、エロいというか……」

「だな」

「失礼やなぁ。せやけど、楽しみやな。彰子とディズニーランドやなんてー」

 確りとホテルも取り1泊する予定のDL。今からワクワクなんだけどー。一番はしゃいで楽しみそうな小動物コンビがいないと寂しいなぁ。

「「……」」

 ジロちゃんとがっくんは顔を見合わせ頷くと、再び問題集に取り組む。

「俺だってぜってー行く!」

「俺だって行くC!!」





 がっくんとジロちゃんも、ちゃーんとネズミーランドには行きました。