出逢い~1人目忍足侑士~

 とりあえず、轟サンと一緒に買い物に出ることにした。服や下着は十分にあるから、問題ないとして、携帯の契約と、それから、本屋に行って、入試問題集。それと、音楽がないのは寂しいから、適当にCDも見繕いたい。

 私は轟サンの運転する車で出かけることになった。






「悠兄さん」

 轟サンにそう呼びかける。ここでの設定は私の叔父さんなわけだが、轟サンの姿をしている妄想神に「叔父さん」という呼称は似合わない。だから、兄さん。

「質問2個」

「なんだ?」

「受験する学校って、何処? テニプリの世界だから……氷帝と青学?」

 ここは都内だと言ってたから、この2校かな?

「惜しい。氷帝と立海だ」

 なんで、立海なんだ。あれって神奈川でしょ?

「お前のテニプリお気に入りキャラが、忍足と仁王だろう。だから、この2校」

 配慮していただいたというわけですか……。まさに至れり尽くせりじゃん……。

「じゃあ、2個目。いきなり高校入試だけどさ、中学ってどうなってるの?」

 行かなくていいのかなぁ?

「ここでのお前のデータってのはさっぱり真っ白だからな。だから、書類上以外では白紙でもOKなように高校生活から始められるようにしてあるんだ」

「つまり、中学は行かなくていいわけね」

「そういうこと。お前は体が弱くて、殆ど学校には行っていないことになってる。家庭教師と通信教育で勉強していたって設定な。俺の姉……つまりお前の母親が心配して行かせなかったということにしてあるから、もし高校で同じ中学の生徒がいても、面識がなくて当然」

 ふむふむ。

「だったら、高校の入学式スタートでも良かったじゃん……」

 高校入試なんてめんどくさー。

「何言ってんだ。選択権を与えたんだから感謝してほしいね。それに高校受験することで、お前さんの中の中学生までの学習内容も蘇るだろ」

 まぁ……確かにね。半年前まで学習塾で中学生の受験指導やってたとはいえ、その後半年間は妄想育成(つまり2次創作)とゲームにしか脳みそ使ってなかったから、ちょうどいいかも。

「お前さんは何も心配せずに高校入試をクリアして、第2の青春を楽しめばいいんだよ」

 第2の青春か……。確かに、第2だね……。






 悠兄さんにつれられて、Do●om●shopにいき、前々から欲しかった、FomaのN901を購入。最新型ではないが、このデザインが気に入っていたのだから大満足だった。

「じゃあ、俺はここで消えるな」

 契約を終えて、支払いも済んだところで轟サンは言う。

「色々と自分の目で町の様子とか確かめたほうがいいだろう」

 それもそうだと、私は頷く。

「月に1回、顔出すから、なんか設定ミスとか、不具合あったらそのときに言え。緊急で対処しなきゃいけない事態が起こったときには強く念じれば来る」

 そういって、悠兄さんは消えていった。ってか……車できたから……自分ちとここの位置関係よくわかんないんですけど……。まぁ、マンション名と住所はさっきの携帯の契約書の控えに書いてあるからわかるわけで……。とりあえず、本屋に行ってゼンリン地図でもみてみっか……。

 私はちょっとした探検気分でワクワクしながら、街に出たのだった。






 大型書店とCD屋が一緒に入ってるビルがそう遠くないところにあり、ラッキーとばかりにまずはCDショップへ。流石にこっちにジャニーズはいないだろうなぁ……なんて思いつつ探してみたけど、やっぱりない。仕方なく無難に洋楽のオールディーズを選択して、3枚ほど買い込む。幸いというか、洋楽に関してはあっちと一緒だったし。それからDVDコーナーで面白そうな映画か何かないかな……と見てみるが、めぼしいものはなく、仕方なく本屋に移動する。

 まず真っ先に向ったのは地図コーナー。比較的細かく町の様子が載っているヤツを見つけて、現在地と私が住んでいる町を探し、路線図を確認。

 なーんだ、バス1本で余裕じゃん。ここからだと5駅程度だから、結構近いな。

 地図に書いてあったバスの路線番号と降りる停車場をメモして、地図コーナー終了。

 次は~受験資料……の前に、テレビガイドよね。

 雑誌コーナーで色んな雑誌を物色する。ふむふむ。あっちと殆ど変わらないな。違うのは、WJにテニプリが載っていないことだけ。

 ついでだ、と少女漫画のコーナーに行き、文庫でお気に入りのものを数冊手に取る。なれない世界にやってきたんだから、暫くはハートウォーミング系の漫画がいいな、と『わかつきめぐみ』と『渡辺多恵子』の漫画を買うことにした。

 あ! 折角高性能パソコンあるんだし、パソコンゲームも何か買おうかな。やっぱりスペック的に諦めてたリネージュⅡか、グラナドエスパダか、A3か、FFXIか……。あ、A3はあれ、18歳未満禁止だ。今の私は15歳だからダメじゃん。

 なんて考えながら確りゲーム雑誌のコーナーにいた私。ハッと気づく。……イカンイカン、私は受験生だった。

 そして、書店にきた本来の目的である、入試用問題集や参考書のある並びに行く。受験まであと1ヶ月しかないというなら、手っ取り早いのは過去問をやっつけること。出題傾向と難易度を測りつつ、解けなかった問題を中心にして勉強していけばいい。

 えっと……立海と氷帝ね。あ、立海めっけ。氷帝はどこだー。あー、あった……。でも……届かないよ。

 手に持っていた立海問題集と漫画とテレビガイドを棚に置き、手を適当な段に掛けて、背伸びをしてみるものの、届かない! 流石氷帝。問題集までタカビーだ(いや、違うダロ)

「これでええん?」

 横に立った誰かが、私が取り出そうとしていた氷帝問題集をひょいと抜き取り、差し出してくれる。

「あ、ありがとう」

 差し出された本を受け取ろうと、相手に向き直った私は、その場でフリーズした。

(お……忍足侑士……)

 いきなり、初日からの出逢いだった……。






「……どないしたん?」

 心の準備も何も出来ていない状況で出会った忍足侑士に……私はフリーズしていた。そんな私を忍足は不審そうに見る。いや、胡散臭さテニプリ随一の忍足にそんな目で見られたら私、人間・失格だよぉ。などと……とんでもなく失礼なことを考える頭の回転はあるのに。言葉は出てこない。

「姫さん?」

 が。突然耳元で囁かれた言葉と、その声で解凍。体温が一気に180℃くらい上がった気がする(死ぬだろ)。

「あ……すっ、すみません。ありがとうございました」

 今の私は茹蛸も裸足で逃げ出すくらいまっかっかだろう。

 てゆーか……いきなりエロヴォイスを至近距離(耳元!!!)で囁かれて、実は腰が砕けそうなんだけど……。第一、『姫さん』って何!? あんた燕青で私秀麗ですか?

「大丈夫か? なんか……おもろいな、姫さん」

 …………よく叫ばなかった、私!

「そ……そうですか……?」

 誰の所為だと思ってるんですかぁぁぁぁ。

「で……これでええんやな?」

 忍足が差し出したものを見れば、全ての元凶(?)、氷帝学園入試問題集。まだ受け取ってなかったんだったわね……。

「あ、はい。ありがとうございます」

 ふう。なんとか落ち着いてきた……。

「自分、氷帝受けるん?」

「受けない人が問題集取ったりしないと思いますけど」

 素直に『ハイ』といえない自分がちょっと悲しいかな……。

「それもそやな。ってことは……自分俺と同じ年っちゅーことやん。中学3年やろ」

「はい……。……え?」

 目の前の忍足を思わずマジマジと見てしまう。轟さんにテニプリの世界だということは聞いていたし……実際にテニプリキャラの忍足にも会ったわけだけど。時代?がいつなのかは聞いてなくて。

「おし……貴方も、中学生?」

「ああ、おない年や」

「……見えない……」

 そう、見えない! 確かに漫画でも15歳には見えなかった(というか、私が知ってるのは全国大会で跡部が丸坊主になるまでだから、忍足は14歳!!のはずだけど)けど……目の前にいる忍足はどう見ても15歳には見えない。

「大人びてますね……」

 そうとしか言えない。これが真田や手塚だったらぽろっと『老けてますね』と言っちゃってただろうけど……。

「一応褒め言葉として聞いとくわ」

 そう言って忍足は笑う。

「うまく行けば、4月から同級生かもしれんっつーことやし。がんばり」

 忍足は私にそう言うと、あっさりと去って行った。






 ……ああああああああああ。折角のテニプリキャラとの出逢い。絶対、不審人物だったな……私。これじゃ出逢い最悪じゃないかぁ……。

 そんなことを思いつつ、問題集を買った私は、とぼとぼとバス停に向かい、バスに乗り、自宅のマンションがある町へと帰ったのだった。






 バス停まで迷うことなく行けたし、バスも間違えずに乗って降りたし。問題はないはずだった。

 が……。バスを降りて、困ってしまった。右と左、どっちに行けばいいんだろう? 何処にも番地表示はないし……困ったなぁ。

 あ、コンビニ発見。もう時間も遅いし、冷蔵庫の中身確認してないから晩御飯の材料もあるかどうか解らないし。とりあえず、今日の晩御飯はコンビニ弁当で済ませてしまおう。ついでに……恥を忍んで、マンションの場所、聞こうっと……。

 そう決めて、ロー○ンに入り、夕食にするお弁当と明日の朝ご飯のサンドイッチ、それから1リットルパックの牛乳、若干のお菓子を篭にぶち込む。それからレジに向かい、会計を済ませたところで……

「あの……『メゾンドシェルマン』ってマンション、どう行ったらいいんでしょう?」

 と思い切って訊ねてみた。すると……

「それやったら、俺が住んどるとこやし、案内しよか?」

 レジのお姉さんが応えるよりも早く……後ろから『エロヴォイス』が答えた。

 2度目の、忍足との遭遇だった。