法律の多い魔導王国 / 革命前夜

サフィーナ・ノーフ

カヌーン魔導王国初代女王。旧アクバラー王国のノーフ公爵家令嬢として生まれ、幼少期から次代の王后候補として徹底した英才教育を受けた。王后教育を施された令嬢たちの中でも特に優秀で、政治、外交、法、軍事、魔術など幅広い分野に優れた才覚を示す。王太子マカーンの婚約者となったのも、単なる政略ではなく、将来の王国を託せる人物として王后アフクームや政府首脳から期待されたためである。
しかし、卒業記念パーティでマカーンから理不尽な婚約破棄と冤罪を突きつけられたことで、ついにアクバラー王家を見限る。国民を巻き込む内乱を避けるため、王后や宰相らと協力して政変を成功させ、新王国建国への道を開いた。冷静沈着で聡明だが、決して冷たい人物ではなく、国家と民を守ることを何より重視する現実主義者。自らが王となることにも私欲はなく、「国を守るために最も適した者が統治すべき」という信念を持つ。
新王国では過去の王侯貴族の愚行を徹底的に研究し、それを防ぐための『王国特殊法』を制定。神との交渉すら臆せず行い、正義と裁きの神アダーラを新王国の主神として迎える胆力も持つ。ザミールを夫とし、一児の母でもある。若くして王者の器を示し、旧王国の失敗を未来への教訓へと変える新時代の女王である。


モサーネド・ノーフ

サフィーナの実弟で、ノーフ公爵家の嫡子。姉を深く敬愛し、その補佐役として行動する青年である。王立学院時代からサディーク、ザミールと親しく、三人組としてサフィーナを支えてきた。王族である王太子マカーンに対しても、身分に怯むことなく理路整然と正論を叩きつける胆力の持ち主。学院で行われた婚約破棄騒動では、姉に代わってマカーンの主張を一つずつ論破し、男爵令嬢マラークによる冤罪の多くが自作自演であることを暴いた。
政治的な判断力にも優れ、姉が王位を継ぐことを決意した後は、政変の実行部隊を率いる立場となった。軍務卿カーレサとともに王城を制圧し、旧王家を排除するという重大な任務を担う。新王国成立後はノーフ公爵位を継ぎ、初代特殊法監督局長に就任。特殊法案件において王家や高位貴族すら裁き得る強大な権限を持つ組織を率いることになる。
姉に対する忠誠は絶対的だが、単なる追従者ではない。必要とあれば問題点を率直に指摘し、制度の欠陥を見抜く実務家でもある。特に特殊法監督局が強大な権力を持つことによる腐敗の危険性を早くから指摘した人物の一人。姉と新王国を支える、若き実務派の中心人物である。


サディーク・ジャリーディ

宰相ジャバル・ジャリーディの嫡子で、サフィーナの側近の一人。モサーネド、ザミールとは学院時代からの親友であり、三人で次世代の国家運営を担うことを期待されていた。父親譲りの優れた政治感覚と事務処理能力を持ち、膨大な書類を凄まじい速度で処理しながらも、内容を正確に把握することができる。
王太子マカーンの婚約破棄騒動では、ザミールとともにサフィーナを擁護し、マラークの行為が自作自演であることを冷静に指摘した。新王国建設では、旧貴族制度をそのまま維持するのではなく、魔術を国家の基盤とする新体制に相応しい爵位制度を提案。固有魔法を持つ家系を中心に爵位を再編する案を示し、カヌーン魔導王国の新たな貴族制度の基礎を作った。
性格は辛辣で現実的。過去の王侯貴族が残した愚行の記録を読んでは、容赦のない感想を漏らす一方、制度として再発防止を図ろうとする建設的な思考の持ち主でもある。新法制定では中心人物の一人として『王国特殊法』の成立に尽力。父ジャバルが旧王国を支えた世代なら、サディークはその経験を制度へ変換し、新王国へ受け継ぐ世代を代表する人物である。


ザミール・タベイエッヤ

軍務卿カーレサ・タベイエッヤの嫡子で、サフィーナの側近。モサーネド、サディークとは無二の親友であり、将来の軍事を担う人材として育てられた。王立学院では既に警備に携わっており、王族が通う学院の安全維持にも関わっていた。そのため、婚約破棄騒動でマカーンがサフィーナに突きつけた冤罪についても、学院に設置された監視魔道具の記録を確認し、マラークの自作自演であることを証明した。
軍人らしい行動力と判断力を持つ一方、単純な武人ではない。新王国の制度設計にも積極的に関わり、特殊法監督局の必要性や権限について現実的な問題提起を行う。特に、王族や高位貴族をも拘束できる組織が強大な権力を持つことで腐敗する危険を指摘し、制度そのものを慎重に設計しようとする姿勢を見せた。
サフィーナとはマカーンとの婚約破棄後に急速に距離を縮め、やがて婚姻。彼女の夫となり、女王となる妻を公私両面から支える存在となる。軍人としての責任感と、国家制度を考える柔軟な頭脳を併せ持つ青年であり、新王国では軍事だけでなく統治を支える重要人物となっていく。


アフクーム

旧アクバラー王国最後の王后であり、カヌーン魔導王国初代女王サフィーナの師ともいうべき女性。アライヒ公爵家の出身で、幼少期から王后教育を受け、政治、外交、軍事、法など統治者として必要な知識を身につけた。王太子イルカーの妃候補として育てられ、同じ王后候補だった親友たちと切磋琢磨した末、イルカーに容姿を好まれたことで王后となった。
実際には夫である国王イルカーに代わって国政を担い、宰相ジャバルら政府首脳とともに衰退した王国を支え続けた。愚王が続くアクバラー王家に絶望しながらも、国民を守るため最後まで職責を果たす。その一方で、王家そのものを存続させることには執着せず、必要であれば自らの子供を含め王家を排する覚悟も持つ。
サフィーナを単なる後継者ではなく、自分を超える統治者として認め、政変では彼女の決断を全面的に支持。旧王家や腐敗した貴族の粛清を自ら最後の仕事として引き受けた。新王国成立後は王太后となり、本人の希望で女官長としてサフィーナを補佐する。厳格ながら情に厚く、国家と民を第一に考える、アクバラー王国最後にして最も偉大な統治者の一人である。


ジャバル・ジャリーディ

アクバラー王国の宰相。歴代王家の愚行の尻拭いに追われ続け、精神的にはすっかり疲弊しているが、国家と国民への責任感だけは最後まで失わなかった。三十代という若さで宰相を務める優秀な政治家であり、外交、内政、財政など広範な分野に通じる実務家。若いころにはお忍びで庶民生活を経験しており、気心の知れた相手には砕けた庶民言葉を使う。
王后アフクーム、外務卿ハガル、軍務卿カーレサ、神官長ハイカルとは長年にわたって国を支えてきた同志。王家に絶望しながらも、無用な内戦を避けるため政変を画策し、サフィーナが新たな統治者となる道を整えた。
普段は「もう引退したい」「もう無理」と愚痴をこぼすなど、疲れ切った苦労人として振る舞う。しかし、いざというときには極めて冷静で、国家全体を見渡した判断を下す。息子サディークには自身の政治能力が受け継がれており、新王国では宰相職を退いて三師の一人としてサフィーナを支える。最後まで王国のために働き続けた、典型的な「有能なのに苦労ばかりする宰相」である。


ハガル・ナイザキ

アクバラー王国の外務卿。王家の外交音痴によって生じる諸外国との問題を一身に引き受け、何度も国際的な危機の尻拭いをしてきた苦労人である。そのため外務卿という役職は代々「最もなりたくない大臣」の座に君臨している。ジャバルらとともに国王を支えながら、実際には国王の失策によって失われた信頼を少しずつ取り戻すことに尽力してきた。
特に先々代国王イルケマーマが隣国スィマヒヤの王女ヴァリアを侮辱した事件では、経済制裁によって崩壊寸前となった王国のため、必死に交渉を続けた。その後も国際社会から低く見られていたアクバラー王国の信用回復に奔走し、ようやく国の生産力と貿易を立て直し始めていたところで、王太子マカーンの婚約破棄騒動に再び頭を抱えることになる。
普段は疲れた表情を見せるが、外交官としての能力は高く、国家間の力関係や相手国の事情を冷静に分析できる人物。新王国では旧職を辞して三師の一人となり、外交面からサフィーナを支える。国家の信用が一朝一夕では築けず、一度失えば取り戻すのが困難であることを誰よりも知る男である。


カーレサ・タベイエッヤ

アクバラー王国の軍務卿。長年にわたり解体状態だった軍の再編を成し遂げ、国防軍を実戦運用可能な状態まで立て直した功労者である。護国の女神ディファーの結界に依存して軍備を軽視してきた王家に対し、外敵から国を守るためには軍事力が必要だと訴え続けてきた。3代数十年に及ぶ改革の末、ようやく新生国防軍を完成させた。
穏やかで面倒見がよく、疲れ切ったジャバルを幼子のように慰めるなど、仲間内では母性的な一面も見せる。しかし軍務に関しては極めて現実的で、必要とあれば容赦なく決断する。政変の際にはモサーネドとともに王城制圧を指揮し、旧王家を排除して新体制への移行を成功させた。
息子ザミールには軍人としての能力だけでなく、国家を守る者としての判断力を教えている。新王国では旧王国の軍務卿を退き、三師の一人としてサフィーナを補佐する。軍とは戦うためだけのものではなく、戦わずに済ませるためにも必要なものだという現実を理解する人物。長年の軍制改革によって新王国の安全保障基盤を築いた立役者である。


ハイカル・アズミ

主神ビダーヤ神殿の神官長を務めていた聖職者。神々への信仰を持ちながらも、神託や加護を盲目的に信じる人物ではなく、現実を冷静に見据える柔軟な思考の持ち主である。奉仕活動を通じて下町の民とも親しく交流しており、気心の知れた仲間には庶民的な言葉遣いも見せる。
アクバラー王家が代々愚王を輩出する理由について神託を求めた際、始まりの神ビダーヤから「護国の女神ディファーが白痴美を好むため、それは呪いではなく祝福だ」という衝撃的な回答を受け取った人物でもある。
ジャバル、アフクーム、ハガル、カーレサらとは同志として国を支えてきた。神職者でありながら政治や社会の現実にも通じており、神々の都合と人間の幸福が必ずしも一致しないことを理解している。新王国では旧来の宗教体制から離れ、新たな主神アダーラを迎える時代を見届ける人物。神と人との関係を考えるうえでも重要な存在である。


ディファー

護国の女神。アクバラー王国の王家に代々加護を与え、王国を外敵の侵略から守ってきた神である。その加護によってアクバラー王国は数百年にわたり武力侵攻を受けずに済んだが、その一方で王家は「女神の結界があるから軍は不要」と考えるようになり、軍備を軽視。さらに外交まで疎かにするようになったため、結果として国力の低下を招く一因となった。
ディファーの加護が王家から失われなかった最大の理由は、初代以来途切れることのない王家の美貌にある。彼女は極端な面食いであり、王家の中性的で華やかな容姿を好んだ。そのため、王族には優秀な頭脳や武勇があっても、それが統治者として活かされにくいという奇妙な現象まで起きていた。神々から見ても、その「祝福」はむしろ呪いに近いものとして問題視されている。
しかも時代が進むにつれてディファー自身の好みが変化し、従来の美少年・美青年系から筋骨隆々とした男らしい容姿へと興味が移りつつある。本人に悪意はないのだろうが、その気まぐれに人間の国家が翻弄された結果、アクバラー王国は滅亡へと至った。作中世界における「神の加護を無条件に信じることの危うさ」を象徴する女神である。


アダーラ

正義と裁き、法と秩序を司る神。アクバラー王国では主要神とは見なされていなかったが、新たな国家の建設を見守る中で、サフィーナたちが制定しようとしていた『王国特殊法』に興味を抱き、人間たちへ取引を持ち掛けた。特殊法監督局の公正性と清廉さを保証するため、監督局職員との誓約を引き受け、違反者には神罰を下すことを約束する。
その対価として最初はカヌーン魔導王国の主神となることを要求したが、サフィーナがあまりにもあっさり受け入れたため、本人のほうが驚くことになった。実際には比較的若い神であり、神々の中では意外なほど謙虚で真面目。尊大な態度を装いながらも、内心では人間との交渉に緊張しているという人間臭い一面を持つ。
婚姻と出産の神ウィラーダを妻とし、特殊法に関わる神具の製作にも協力。白い結婚判定具や虚偽判定具など、人間だけでは実現困難だった「客観的な真実を判定する力」を提供した。カヌーン魔導王国の主神となったことで神格も上昇し、初代女王サフィーナの戴冠式では自ら王冠を授ける。
神でありながら、人間を支配することよりも人間と共存することを望む存在。アクバラー王国を苦しめたディファーの「祝福」とは対照的に、人間との契約と相互理解によって信頼を築こうとする新時代の神である。


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