OB組の参戦
~海常の場合~
「黄瀬からメール来たか?」
「うん、来たよ。合同合宿じゃないんだね」
「まぁ、中身は似たようなもんだろ」
海常高校卒業生、元バスケ部の笠松、小堀、森山はとあるファストフード店で卒業以来初めて顔を合わせた。とはいっても、卒業式は3日前。大して久しぶりではない。話題は2年後輩の黄瀬涼太が寄越したメールについてである。
「赤司主催でバスケ大好き人間でのお泊まり会か」
どうせ卒業してヒマだから付き合ってやってもいい。と思いつつ、実際に開催されるのはGWだ。大学生活が始まって1ヶ月にも満たない時期だから、正直そんな余裕があるかどうかは疑わしい。
「またファルトレクやるんだな」
「つーか、そっちがメインっぽい?」
「あのスレの1000って明らかに赤司っぽいしねー」
3人もあのスレのことは知っている。ネット情報を集めまくる森山が発見したのだ。スレ民たちに結構応援されていて、嬉しさも感じたり照れくさくなったりもした。
「ファルトレクやるなら、リベンジ出来るな」
「……次の日は地獄見たからな……」
「連休なのに体がちっとも休まらなかったよね……。疲れ切って勉強に障りが出たし」
地獄だった翌日(=合宿最終日)の練習を思い出すと遠い目になってしまう。帰宅したらぐったりとしてしまって、予定していた勉強も出来なかったくらいだ。3人とも推薦で進学を決めていたから受験に影響はなかったのだが、翌日からの学年末考査に影響が出てしまうのではないかと戦々恐々とした。学年末で赤点でも取ろうものなら、卒業に影響が出る。卒業取り消しこそないだろうが、赤点を取ったり追試を受けたりすると場合によっては卒業延期ということはありえるのだ。まぁ、仮令卒業延期となっても1週間卒業が延びる程度なのだが、そうすると卒業式への参加資格はなくなってしまう。大学進学に障りはないとは言え、外聞は決してよくない。強豪バスケ部のレギュラーとしてそれなりに校内でも有名な3人のうちの誰かがそんなことにでもなろうものなら、とんだ恥さらしだ。
「一応可愛い後輩の頼みだし。俺らも新しい環境でストレス感じ始めてる時期だろうから、丁度いいんじゃないかな」
その森山の言葉が3人の行動を決定した。
~秀徳の場合~
「うぜぇ、轢く。ぜってー轢く」
元秀徳高校バスケ部宮地はいつもの口癖を連呼していた。目の前には3年間ともに汗を流した大坪と木村もいる。
「ったく、ツンデレと笑い上戸からのメールがうぜぇ」
ここ連日、後輩である緑間と高尾からGWのお誘いメールが毎日のように入ってくる。それが鬱陶しい。折角卒業して穏やかな日々を過ごせるかと思ったのに、卒業したその日から毎日メール攻勢だ。
「前回の合同合宿メンバー+洛山・陽泉か。要はキセキ獲得校+誠凛ってことだな」
「赤司が呼びかけたらしいな。前回不参加だったからか」
同じメールが同じ頻度で届く大坪と木村は苦笑している。大抵宮地が先に切れてくれるおかげで自分たちは落ち着いて苦笑するだけで済んでいる。沸点の低い友人に苦労することもあれど、こういう面では結構重宝する友人でもある。
「だが、高尾の主張にも頷けるな」
高尾のメールには『またケードロやるらしいから、リベンジしましょー! 負けっぱなしは悔しいっすよ!!』とあった。確かにあの結果はたいそう悔しい。何しろ、全員逮捕されての誠凛完全勝利だ。WC優勝校とはいえ、創立2年目の新設校。つまり3年生はいないながらでのあのチームワークと行動力だ。それが羨ましくもあり、ライバルとして厄介だとも思える。秀徳は三大王者の一角とはいえ、新3年にレギュラーがいなかったことがネックでもある。神奈川の海常、京都の洛山、秋田の陽泉と違って、東京都予選で誠凛・桐皇と対戦し勝利せねば全国大会にはいけないのだ。レギュラーという点では全員が残っている誠凛、バランスよく残っている桐皇に比べれば不利であることは間違いない。尤も古豪であるゆえの層の厚さがあるから、そう簡単に負けるとは思えないが、実際の試合経験という意味での経験値が絶対的に不足している。誠凛の1年ベンチメンバーにも劣る。彼らは全国大会の準決勝あるいは決勝で(決して最良とはいえないまでも)デビューを果たしており、それはある種の度胸付けにもなっているはずだ。
つまり、何がいいたいかというと1年前には全く気にも留めていなかった誠凛は今や最大最高のライバルとして秀徳の前に立っているのだ。
となれば、仮令バスケは関係ない遊びのケードロであろうとも完膚なきまでに叩き潰されたあの記憶は忌々しいものとして残っているというわけで、そうなるとやっぱりリベンジしたいと思わなくもないのだ。
「俺らが行くって言わねー限り、緑間も高尾もメール攻撃やめねーだろうし。ま、いいんじゃね?」
何処か諦めたような、それでいて挑戦的な目をした宮地の言葉に、大坪と木村は頷いたのだった。
~桐皇の場合~
「で、当然参加するんやろ、諏佐」
「お前の暴走止められるのは俺しかいないしな」
「とかいうて、ホンマは悔しいんやろ? お前最後まで逃げてたからな」
退寮のための荷造りをしている諏佐に、楽しそうな笑みを浮かべて今吉が問いかける。今吉は既に荷造りを終え、あとは搬出の順番が来るのを待つだけだ。既に卒業式を終えたとはいえ、2人はギリギリまで寮に住んでいた。2月末の前期日程が終わるまで荷造りする余裕なんてなかったのだ。他のキセキ獲得校の3年が殆ど推薦で進学を決めているのに対し、桐皇の2人は一般受験だ。何しろ、桐皇はまだ歴史の浅い学校であり、ある程度の歴史のある他校と違って指定校推薦枠も殆どなければ、一般の推薦枠も少ない。そうなると、2人が望む大学の推薦枠があるとも限らず、或いは一般入試では厳しい同級生に席を譲らざるを得ない面もある。幸いにして2人の成績は悪くなく(というかトップクラス)、国立大学への進学希望のため、2次試験に向けての勉強があったというわけだ。前回の合同合宿に参加したのも受験直前の気分転換だったといえる。とても体力的にハードな気分転換だったが、それでも久しぶりに全力で体を動かすのはいいリフレッシュになったと思う。
「そういう今吉だって、リベンジしたいんだろ」
「せやなぁ。3年8人もおって、全部誠凛に手玉に取られたよってなー。やっぱ悔しいやろ」
ニヤリと今吉は笑う。ぶっちゃけ作戦負けした。誠凛を舐めていたわけではないが、いや、舐めていたのかもしれない。だから負けたのだ。自分のように策謀を巡らさずともチームワークとストレートな作戦で誠凛は見事な完全勝利を収めた。仮令遊びとはいえ、あそこまで綺麗に負けてしまうと悔しさとともに妙に感心してしまう。そんな誠凛はじめとしたライバルたちとまたあのゲームが出来るかと思うと、今吉はらしくもなくワクワクとした。いかな妖怪サトリとはいえ、中身は18歳の高校生(卒業済み)だ。まだまだ子供の部分も多い。
「若松によれば青峰が妙に張り切ってるらしいぞ」
「あいつも負けず嫌いやよってなぁ……。火神にひっかかったんが悔しいんやろ」
2人とも大学進学後はバスケを続けるつもりはない。入学予定(まだ合格発表前だが)の大学のバスケ部はそれほど強くもないし、2人とも大学では将来を見据えたサークルを選ぶつもりでいる。競技としてのバスケは飽くまでも高校時代までと決めている。
けれど、バスケが嫌いなわけではない。強い相手とバスケを楽しめるのならばこれを断る理由はない。しかも、『お泊まり会』はバスケだけではない。
「ゴールデンウィークが楽しみやな」
妖怪サトリはニヤリと笑い、諏佐は『面倒なことにならなきゃいいが』と内心溜息をつくのであった。
~陽泉の場合~
「滅多にない紫原の頼みじゃ。聞いてやるのもよかろう」
「だなー。どうせ4月からは俺らも東京にいるんだし、丁度いいだろ」
岡村と福井は東京に向かう新幹線の中でそんな会話を交わした。4月からの住まいであるアパートの契約と下準備のために上京するところだった。つい先ほど、見送りに来た巨人兵の後輩は言った。『GWに赤ちんがバスケ部のお泊まり会やるってー。モアラと福ちんも来てねー。絶対だよー。他の3年来てるのにオレの先輩だけ来ないとか寂しいしー』と。妙に素直に、甘えて。あまりに素直すぎて気持ち悪いとか思ってないったら思ってない。そもそも紫原は素直だ。自分に素直すぎてお菓子を食べまくり、自分に素直なあまり周りへの配慮をしないというだけで。そんな紫原が素直に甘えたのだ。『(モアラと福ちん来ないと)寂しい』と。思わずキオスクに走り『何故、赤飯がないんじゃー』と叫んだ岡村は悪くない。
そして2人は氷室から教えられたまとめサイトを開く。
「あいつらこんなことしてやがったのか」
「楽しそうじゃのう……」
こんなスレッドを見たら、紫原が甘えるのも当然かもしれない。紫原はあれで中学時代の部活仲間をそれなりに好いている。それに自分たち陽泉の仲間も好いている。緑間と並ぶツンデレゆえにそれを態度に出すことは滅多にないが、愛称で呼ぶのが何よりの証拠だ。
「学校対抗なら、誠凛にリベンジできるな」
「バスケではないがのう。それでも楽しみじゃな」
ワクワクとした表情を隠さずに福井が言い、岡村が頷く。絶対防御と言われた陽泉の無失点記録を破った唯一の存在、超攻撃型チームの誠凛。あの試合がきっかけで紫原は少しだけ後輩らしい可愛さを持つようになった。可愛げのある後輩になった瞬間に自分たちの引退が決定したのは寂しいことではあったが、卒業後とはいえそんな後輩と共に遊べるのであれば、これほど嬉しいこともない。
赤司はじめ他のキセキの面々たちと殆ど面識のない2人はただ純粋に、GWのお泊まり会を楽しみにするのであった。
~洛山の場合~
「オレの拒否権は何処にある……」
黛は引越しトラックの助手席で頭を抱えた。先ほど届いたメールは、母校の後輩主将からのものだった。『5月3・4・5日に2泊3日でバスケ部有志のお泊まり会をやる。集合時間は……』という内容を読んで、黛は頭痛を感じた。参加を問うものではない。参加は決定済みなのだ。まぁ、まだ予定は入っていないからそれは構わないのだが。それでも一応は参加のお伺いを立てて(仮令それが命令に近くても)、自分の意思を確認するものではないだろうか。
どうやら、卒業したからといって中2病患者のチート後輩からは簡単には逃れられないようだった。
~OB組大集合~
「こうして集まるのは初めてだな」
呟いた大坪の言葉に集まった男たちは頷いた。
とあるカラオケボックスの一室に11人の大男たちが集まっていた。その平均身長は186.82cm、同年代の平均身長を15cm(18歳男性の平均身長は171.07cm)も上回っている。11人もの大男が集まるとなれば、誰かの部屋でというのも狭すぎて無理なため、カラオケ店で集まったのだ。その部屋はそれほど狭いわけでもないが、規格以上に大きい男たちが集まっていれば、相対的に狭く感じるのは仕方のないことだった。
「誠凛のカントクちゃんからメール届いたやろ?」
用件を切り出したのは召集をかけた今吉だった。
先日それぞれの後輩たちから誘われた(若干1名、誘われたのではなく命令されたのだが、当人はプライドにかけてそれを隠している)OBたちは、その『お泊まり会』に全員参加を決めていた。ただそれだけならば、今吉はこんな招集をかけはしなかっただろう。しかし、自分たちが当初予測していたものとは今回のゲームは違っている。在校生を含め、殆どのメンバーが予想していたのは前回と同じ学校対抗の『FBIvs盗賊団』だ。
けれど、今回誠凛の監督相田リコから送られてきたメールで通達されたのは、学校対抗ではなく、本部(相田リコ・桃井さつき、他参加校監督)が決定したチームによるケードロだった。いや、警察&泥棒ではない。ICPO&マフィアだ。
「学校対抗じゃねーんだな」
誠凛へのリベンジに燃えていた前回参加校は少しばかり残念だった。誠凛に勝利して誠凛にあの地獄のメニューを味わわせることを密かな目標としていたのに。尤も彼らは知らない。誠凛はあの地獄のメニューを定期的に味わわされていることを。その頻度は主にリコの機嫌によるものであるという恐ろしい真実を。
「だな。ICPOがPGと現役主将だから、OBだと俺と福井と今吉か」
「現役組が氷室と日向、伊月、中村、若松、赤司、高尾、降旗で合計11人」
「自分でいうのもなんやけど、えげつないメンバーやな」
「禿同」
今吉の言葉に全員が頷いてしまう。チート高校生赤司と妖怪サトリ。笠松と福井とて全国屈指のPGで駆け引きは得意分野だ。PGとしては伊月・高尾・降旗は大人しめだが、それは飽くまでも前述の4人に比べてであって、伊月も高尾も全国大会で活躍しているのだから、一筋縄で行くわけはない。おまけに創部2年目にしてチームを全国制覇に導いた主将である日向。主将経験者である3年たちからすれば、彼が一番厄介なのではないかとも思える。誠凛は今回参加する学校の中では一番マトモな部員が揃っている。誠凛の中で問題児扱いされる火神とて、他校に行けば間違いなく優等生な後輩だ(成績はともかく)。況や他の1年生をや。それでも部員たちはそれなりに個性派揃いだし、全てが順風満帆というわけでもないだろう。しかも、新設校ゆえに全てを1から自分たちで作り上げてきている。それに何よりも大人の指導者を持たない誠凛を同級生の監督と共にここまで引っ張ってきたのだ。並大抵の精神力・統率力ではない。
実はこのチーム分けには監督たちも一枚噛んでいる。秀徳の現主将は参加条件に合わず参加していないが、それ以外の6校の主将を同じチームにしてはどうかという意見が、誠凛首脳陣(リコ・日向)に一目置いている海常の武内監督から出されたのだ。同学年ながらも既に2期主将を務めている日向から新主将となった中村・若松・氷室も何かを得ることが出来るのではないかと。通常の部活動であれば2学期になる頃には主将交代しているためそれなりにこの時期には主将らしくなっている。しかし、WC出場のためにギリギリまで3年生が残っていたバスケ部はその分主将交代も遅く、未だに新主将たちは『新』の冠が外れないのだ。決して無能ではない(でなければ主将に指名などされない)が、同輩の先達がいるのであれば交流を深くするのも良いはずだ。頼れる同輩がいるのはきっと心強いだろう。何しろ彼らには『厄介な天災もとい天才の後輩がいる』という共通点というか共通の頭痛の種があるのだから。
「こりゃマフィア側は作戦練らないとな」
好戦的な視線を笠松・今吉・福井に向けるのは宮地だ。言葉に出したのは宮地だけだったが、全員が楽しそうなワクワクとした好戦的な目を3人に向けている。特に諏佐の目がギラギラと輝いていたのはきっと気のせいだろう。
「で、今吉が俺たちを集めたのはそれだけを言うためじゃないだろ?」
そんな中で冷静に言葉を発したのは大坪だった。
「ああ、これだけやったらメールでも済む話やしな。まぁ、メールアドレスなんてお互い知らへんけど」
そう言って今吉は今回召集した意図を告げた。
曰く、自分たちはこの1年散々後輩たちに面倒をかけられた。けれど今となってはそれも懐かしい思い出になっている。IHやWCの敗戦経験を経て、クソ生意気だったキセキたちも多少は『後輩』らしくなってきた。仲良し誠凛ほどではないが、それなりに先輩後輩としての心の交流なんてものも持っている。つまり、ぶっちゃけて言えば後輩は可愛い。
そんな後輩(キセキ)たちは今回のお泊まり会を楽しみにしている。特に前回不参加だった赤司と紫原は今からテンションが上がっているらしい。ともなれば、キセキのみならず可愛い後輩たちが楽しめるように準備万端整えるのは自分たち卒業生の役割ではないのかと。
そう言った今吉の言葉に程度の差はあれ、卒業生たちは頷いた。それは強制参加だった黛とて同じだ。色々文句は言いたい後輩ではあるが、入学直後から主将を任され1年ながらに色々と背負わされた赤司を労ってやりたい気持ちは少しくらいはなくもない。
「勿論、それだけやあらへんけどな。折角学校の垣根取っ払ってのゲームやし、おもしろうしたいやろ」
「それはそうだな。準備期間が1ヶ月近く取られてるしな。しかも寝返りありと来た」
今吉の言葉に笠松が頷く。チームごとの作戦をこの期間に立ててよいということだろう。
「現役生はこれから新年度に向けて色々忙しいから、俺たちが率先して動くのもいいかもしれないね」
小堀が呟けば、それに同意する声もあがる。彼らとて大学進学を控え様々な準備はあるが、4月に入った今、その殆どは終わり、後は入学式を待つだけだ。
入学後も様々な学校行事はあるが、入学直後のオリエンテーション程度で後はサークル参加しなければ特に問題はない。推薦で進学を決めた者とてそれは入学後にバスケ部に入ることが条件となるスポーツ推薦ではない。全国大会出場、あるいは上位入賞の実績がより条件のよい推薦枠獲得につながったというだけだ。その証拠に全員『バスケ部』に入る予定はない。高校で『選手としてのバスケ』をやりきった感じが全員にあり、あとは楽しみ程度に留めておきたいといった状態なのだ。何しろ、最後の1年間をこれまでのバスケ人生の中で最高だろうと思えるチームで戦ったのだ。この先どんなチームに出会おうとも満足できるとは思えなかった。
ともあれ、ハードな部活に在籍する予定もなく、まだバイトも決めていない段階であれば、いくらでも時間はある。であれば、最後となるだろう後輩たちとの馬鹿騒ぎに全力で下準備してもいいではないか。
「じゃあ、OBが中心になって現役に呼びかけて、作戦練るか。LINEあたりでグループ作って、そこで打ち合わせすればいい」
大坪が言えばそれに笠松が待ったをかける。
「黄瀬が言ってたけど、確か黒子がまだガラケーらしい。だったらLINEは無理だろ」
「うちの青峰もやな。あいつガサツやよってスマフォだと壊すやろいうてまだガラケーや」
「大坪、うちの緑間もガラケーだぞ」
更に他にも数名ガラケー派の名前が挙がる。どうやら半数はガラケー派らしい。部活漬けの毎日を送っている高校生には通話とメールのできるガラケーで事足りるのだろう。実際、ここにいるOB組も大学進学を機にスマフォデビューしたものが大半だった。
「今時自宅にパソコン持ってない家も少ないだろうけど、まずは自宅でネットできるか確認だな。んで、全員環境があれば、スカイプで打ち合わせしたりできるだろ」
「スカイプなら文字チャットも出来たはずだし、そっちでもいいんじゃね?」
「つーか、細かい打ち合わせはそれぞれのOBでやれればそれでよくね? 後輩どもは俺らに従えってことで」
「赤司が従うかねぇ……」
「従わせんだろ、笠松と今吉だぜ」
わいわいと言い合いながら、11人はそれぞれの後輩たちにネット環境の有無を尋ねるメールを送信する。誠凛には笠松が中村経由で連絡した。丁度部活動の昼休憩にあたるだろう時間帯だ。春休み中の現在、全校が今日練習日であることは確認済みである(誠凛の情報は本部つながりの桃井が相田から聞き出していた)。
程なく全員からネット環境ありとの返事を得て、更にOB組はメールを送信する。因みに日向は勘がいいのか、部員全員の了承の下、全員のメールアドレスを記載しており『OB組の皆さんで必要な方はご利用ください』と追記してあった。
2通目のメールでは帰宅後スカイプIDを取得すること、取得したら同チームのOBにIDを知らせることを指示した。これで打ち合わせの下準備は完了だ。
バスケ以外で言葉を交わすのはほぼ初めてだった11人である。けれど、バスケ好き+厄介な後輩を持つという共通項もあるせいか、たった1時間弱の間に旧知の仲のように気の置けない関係になっていた。
早速、ICPOの3人とマフィアの8人に分かれて相談を始める。
彼らの基本スタンスは後輩たちを楽しませることだ。これからまた1年過酷なバスケの戦いに挑む彼らに、その前にたっぷりと楽しい時間を与えてやりたい。バスケではライバルとはいえ、ライバルは敵ではない。ともにバスケを愛する者同士として交流が持てるのならばそれは決して彼らのマイナスにはならないはずだ。仲間でありライバル。そんな関係もいいではないか。
バスケに関しては天才で才能溢れるキセキな後輩たちではあるが、一高校生としてはどちらかといえば不器用で危なっかしい面も多い。そんな可愛い(容姿・外見はともかく)後輩たちを導くのも自分たちの役目だ。恐らくこれが最後になるだろうからこそ、目一杯楽しませてやりたい。
1年間主将として、或いは最高学年として後輩たちを見てきた彼らはすっかり先輩気質になっている。馬鹿な子ほど可愛いというが、手の掛かる後輩ほど構ってやりたくなるのだ。
「よし、じゃあ、マフィア側は早けりゃ明日の夜に最初の打ち合わせだな」
「OB組でLINEグループ作っておこう」
「おー、じゃあ、ID交換しようぜー」
「クソ。ICPO人数少ねえからなんか寂しいぞ」
「けどその分濃いからええんとちゃう?」
「そういや、後輩どもは主将ばっかりだから一応敬語もちゃんと使えるメンバーばっかりだな」
楽しそうな表情を隠しもせず、11人は和気藹々と会話を進める。誘われたときには面倒臭いと思いもしたが、今では企画した赤司に感謝している。GWに会ったら頭を撫で回してやろうと密かに決めるOBたちだった。
「俺らからあいつらへの最後の置き土産だ。楽しませてやろうぜ」
「それ以上に俺らが楽しむけどな」
ハッスルしたOB組により、発案者赤司も本部の監督陣も予想もしなかったようなケードロが幕を開けることになるのだった。
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