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遥けき空の彼方〈未完放置〉

超絶美貌のお義父様

名前がない(中華風の名前がないだけ)と言ったら、鳳珠が名前をくれた。

子供(但し中身30代半ば)にも判るように、鳳珠は綺麗な楷書で『悧曄』だと教えてくれた。

麻幸己は漢字文化圏日本の出身である。

ついでに国文科卒でもある。

漢字検定は受けていないが、国語は得意中の得意だったし、共通一次(センター試験の前身。麻幸己が受けた年が最後の共通一次だった)では200点満点中198点と言う高得点を弾き出し、それが勉強に関しての唯一の自慢だったりした。

更に言えば、モトの世界では小説家だったこともあり、結構漢字は知っているほうだと思っている。

「怜悧の悧と……明らかの曄か……」

ぽつりと呟くと、鳳珠が驚いたように麻幸己を見た。

「そなた……文字が判るのか」

文字で書いて見せたくせに何を今更……と思わないでもないが、鳳珠にしてみれば、取り敢えず字も見せてみたと言う程度のものでしかなかった。

そりゃそうだろう。

麻幸己は外見幼児なのだ。5歳児なのだ。ハナタレで、汚れまくって遊びまくるガキんちょなのだ。………………普通なら。

「やはり……聡いな」

いや、聡いというレベルじゃない。これが普通の5歳児なら、そりゃもう、よっぽどの英才教育を受けてると考えるべきだろう。

「お前は聡いからな。この名がよかろう」

どうやら拾ったときから名前を考えていてくれたらしい鳳珠に、麻幸己はじーんと感動。

(若いのに、中々出来た人っぽいなぁ)

そんなことを思う麻幸己。

外見は鳳珠のほうが15、6歳は上だろうが……中身は鳳珠が15、6歳若いだろう。

「ほーじゅさま、ありがとうございます」

取り敢えず、5歳児らしくしてみる麻幸己。

「…………」

何故か鳳珠に呆れたような目で見られた。

「…………」

わざとらしかったかったかと麻幸己はだらだらと冷や汗をかく。

だって、呆れたような顔の鳳珠は……その超絶美貌のせいで、とっても冷たく見えたのだ。

「この邸の中で己を偽る必要はない。普通にしていろ」

この子供は思っていた以上に賢いと鳳珠は改めて思った。

舌ったらずに「ほーじゅさま」と呼んだ悧曄。

それまでの悧曄はとても幼児とは思えぬ物言いをし、態度だった。

が、それが周囲に不審と思われることを理解しているのだろう。

だからこその「ほーじゅさま」だ。

「確かに、お前の物腰、態度、言葉遣いは子供にしては大人びすぎている。人によってはクソ生意気に思う者もいるだろうし、その聡さは特異なものと映ろう。邸の外では年相応な言葉遣いが余計な面倒もなかろうが、この邸の中ではお前らしくあればよい」

その言葉に麻幸己は目を見開く。

目の前のこの青年は思いのほか度量が大きそうだと。

突然現れた不審な幼子。記憶喪失を装い、明らかに何かを隠している自分。

そして、幼児らしからぬ態度。

そんな怪しさばりばりの自分に対して、鳳珠はこの国でも有力な貴族の一族だ。

普通なら警戒するところだろうに……。

「……ありがとうございます」

だから、麻幸己は素直に礼を言った。

「鳳珠様、私はここで何をすればいいですか?」

拾われて、ただで置いてもらおうなんて思わない。

取り敢えず、元の世界では大学時代から1人暮らしをしていて、1人暮らし歴は20年近い(尤もここ数年は同棲状態だったが)。家事は一通り出来る。

とはいえ……ここに電気はない。当然、ガスもない。掃除機も洗濯機も炊飯器もない。

どれだけのことが出来るか解らないが……でも何かは出来るだろう。

「私はお前を使用人として連れてきたわけではないぞ」

麻幸己の申し出に鳳珠は思いがけない言葉で応える。

成り行きで拾ってしまった子供だったが、鳳珠には麻幸己を使用人として扱う気など、初めからなかった。

「でも……」

「私が拾ったのだ。お前は私の……養女格として、この邸にいればよい」

「鳳珠様の……養女格……って……」

鳳珠はこの国でも別格扱いの大貴族・彩七家の御曹司のはず。その鳳珠の養女格とは……。

いや、私そんな柄じゃないし……

そう思いはしたが、既に鳳珠は決めているようで、聞く耳を持たない感じだ。

「でも……」

「私がそう決めたんだ。気にする必要はない」

やっぱり、聞く耳なんて持っちゃいない。

「だけど……」

「しつこいぞ、悧曄。お前は今日から私の娘だ」

鳳珠はきっぱりと宣言し、麻幸己はそれを受け入れざるを得なかったのである。

 

 

 

 

 

娘だと言われ……麻幸己は鳳珠を義父とすることが決まり。

鳳珠は当然のように家人に麻幸己を娘とすることを伝え、家人も極自然にそれを受け入れていた。

麻幸己は元の世界では極一般庶民でしかなかったが、付き合いの関係で、それなりにマナーなども学んでいたし、周りの影響もあり年齢相応(30代半ば)の落ち着きと気品があった。

その立ち居振る舞いはある程度この世界では『元は名家の出身ではないか』と思わせるものがあり、それ故に家人たちも鳳珠の言葉を至極当然のものと受け取ったのだ。

こうして、麻幸己は『黄鳳珠の養い子・悧曄』として、生きていくことになったのである。

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