「いいこと? 無理をしないで確り寝ているのよ」
ロザリアは恐い顔をして、何度も念を押した。
「でも……」
「でも、じゃないの。無理をして悪化したらどうするの? 貴女は次期女王にならなくてはならないのよ。自覚してちょうだい」
起き上がろうとしたアンジェリークを無理遣りベッドに押し込め、ロザリアは言う。
「……うん……」
渋々とではあったがアンジェリークは頷いた。
「あとで様子を見にくるわ。確り眠るのよ」
そう言い置いて、ロザリアはアンジェリークの部屋を出た。
アンジェリークの部屋を出たロザリアはその足で聖殿へと向かった。但し育成や自己アピールの為ではない。アンジェリークの女王就任を望み、自分は彼女を支えていこうと決意しているロザリアだから、自分を守護聖に売り込むようなことはもうやめていた。育成だけは民の要望もあるし、責任もあることから行なってはいたが。
目指す守護聖の扉の前まで来ると、逸る気持ちを抑えるように深呼吸する。扉をノックし、返事を待つ。だが、暫くしても中からの応《いら》えはない。何度が繰り返したが、全くの無反応だった。
「オスカーなら、いませんよ」
溜息をついたロザリアに、隣の部屋から出てきたリュミエールが声をかける。
「どちらにいらっしゃるのでしょう? リュミエール様ご存じありませんか?」
「さあ……。今日は一度も姿を見ていませんから」
こちらも溜息混じりにリュミエールが応える。
「そうですか。失礼しました」
怒ったような、落胆したような表情をしてロザリアは頭を下げると、去っていく。
去っていくロザリアの後ろ姿を見ていたリュミエールはオスカーの執務室に目を向けると、深く溜息をついた。
昨夜の、オスカーの傷ついた表情が忘れられない。アンジェリークに拒絶され、傷つき絶望したような表情が……。
(彼女が女王としての道を選んでくれたことを喜ぶべきなのでしょうが……)
だがこれではオスカーもアンジェリークも不幸になってしまうのではないか……再びリュミエールは溜息をつく。
昨夜以来、オスカーの姿を見ていない。あの責任感が強く職務に忠実なオスカーが職務を放棄し館に閉じこもってしまっているのだ。
(オスカー……アンジェリーク……)
リュミエールはその繊細な顔に、苦しそうな表情を浮かべた。
「はぁい、どうぞ」
ロザリアが扉をノックすると中から陽気な声が応えた。
「失礼いたします、オリヴィエ様」
扉を開けて、部屋に入る。オスカーの部屋を訪ねた後ロザリアはアンジェリークのことを相談する為にオリヴィエの許を訪れたのだ。
「あら、お姫さま、どうしたの?」
陽気な笑顔を浮かべて、オリヴィエが言った。
(あら……?)
陽気な表情を浮かべているくせにどことなく陰を背負っているオリヴィエにロザリアは気づいた。無理にいつもと同じ陽気な表情を作っている。
「ご相談にまいりました。アンジェリークのことで」
「アンジェリークの?」
オリヴィエは、無理に作っていた表情が消え、真剣な表情になった。
(やっぱり、ご存じなんだわ)
「ええ。ご存じでいらっしゃるのでしょう? 昨日のこと。アンジェリークとオスカー様の……」
率直に言う。
「あんたも、知ってるんだ……」
溜息をついて、オリヴィエが言った。その表情は苦痛を堪えているようだった。
「わたくし……どうしたら良いのか判らなくて……」
アンジェリークは泣いていた。もともとアンジェリークはすぐに泣いてしまう泣き虫だった。けれど、あんなに哀しい涙は見たことがなかった。
「こればっかりは……どうしようもないんじゃない?」
冷たく聞こえるセリフをオリヴィエは言った。声に苦さが滲む。自分も昨夜オスカーに何も言ってやれなかった。
「あの子……自分の想いを圧し殺してしまって……。オスカー様を傷つけてしまったと……泣いているんです。自分だって傷ついているのに……」
女王に相応しい少女だと思った。初めはなんて頼りない無知な少女だと、鼻にもかけずにいた。けれど、やがて彼女に魅了され、彼女を女王にと望み、支えたいと思った。だから彼女が女王になれるように、試験に協力してきた。
アンジェリークが責任を自覚するようになって頼もしく思っていた。ロザリアは既に補佐官としての目で女王としてのアンジェリークを見ていたのかもしれない。だから、あれほど深くなっていた彼女の想いに気づくこともなかった。いや、彼女の恋に気づいてはいたが、あれほど深いものだとは思ってもいなかったのだ。
「わたくし……間違っていたのでしょうか……? わたくしがもっと真剣に試験に取り組んでいたら、アンジェリークはあんな選択をせずに、幸福になれたのでしょうか……?」
アンジェリークの涙が、ロザリアに自分を責めさせていた。自分が女王候補としてアンジェリークと張り合っていたら、アンジェリークは女王候補としての責任を捨て恋を選ぶことが出来たのではないか。だが、自分が女王になるには、どう考えてもあと3ヵ月近くはかかるだろう。そうすれば、宇宙の崩壊は進んでいく。間に合わないこともあるのだ。だから、アンジェリークは恋を選び、責任を放棄することが出来なかったのではないか。
「あんたが自分責めてどうするのよ。もうことは起こっちゃったのよ。後悔したって遅いのよ」
冷たくなる声を自覚しながら、オリヴィエは言った。それは自分に向けた言葉でもあった。自分がエリューシオンに贈り物をしなければ。そうすれば、建物はもう少しは少なかったはずだ。自分が多分一番早くから贈り物をしていたから。
「あんたは、アンジェリークが早く立ち直れるように、気をつけてあげなよ。そして、女王になったアンジェリークを支えてあげて。女王は孤独なものだから、さ……」
まして、恋を封じてまで選んだ女王の位であれば尚更……
「ええ……それは、勿論ですわ……」
オリヴィエの言葉に、深い溜息をつきながらロザリアは頷いた。
「よろしければ、アンジェリークを見舞ってあげてください。あの子、昨夜のことがショックだったみたいで、熱を出してしまいましたの」
ロザリアは哀しそうに微笑んで、言った。
「わたくしでは、アンジェリーク、想いを曝け出すことは出来ないみたいなんです。ぎりぎりのところで我慢してしまいますもの……」
「そうね。わたしなら、あのコも思いっきり泣けるかな……」
オスカーには何もしてやれなかったが、傷ついたアンジェリークには、少しでも役に立ってやりたかった。笑顔を守ってあげたくて『お姐さん』役を演じてきたのだから。
(眠れない……)
ロザリアが出ていって、独りになったアンジェリークは寝返りを打つ。
昨夜は思いっきり泣いてしまった。ロザリアは何も言わずに、ただ自分を泣かせてくれた。涙が渇れるほど泣き続けて、やがて泣き疲れて意識を失うように眠ってしまった。目覚めたら、熱が出ていた。
目を閉じると、また涙が出てきた。ロザリアがいるときには、虚勢を張ることが出来ていた。あれ以上心配をかけたくなくて『もう大丈夫よ』なんて強がりを言った。けれど、本当は大丈夫なんかじゃない。
「オスカー様……」
閉じた瞼に昨日のオスカーの表情が浮かぶ。アンジェリークに愛を告げたときの真剣な表情が。そして、傷ついたことを隠そうとして微笑んだ顔が……。
「アンジェリーク、入るよ?」
扉の外から、オリヴィエの声がした。アンジェリークが応えるよりも早く、オリヴィエが部屋に入ってくる。慌ててアンジェリークは起き上がる。
「熱出しちゃったんだって? ロザリアから聞いたよ」
アンジェリークの寝ているベッドに腰掛けながら、オリヴィエは優しく言った。
「あらら。真っ赤なお目々して。泣いてたのね」
そっと指先でアンジェリークの涙を拭う。
「オリヴィエ様……わたし……」
オリヴィエの優しい仕草に、堰を切ったように涙が溢れる。
「我慢しなくていいよ」
優しい声でオリヴィエが言う。その言葉な弾かれたように、アンジェリークはオリヴィエの胸に顔を埋めた。
オリヴィエは全てを知ったうえで、こうして訪ねてくれたのだ。その優しさが嬉しかった。思いっきり、自分の心の中のものを吐き出してしまいたかった。ロザリアの前では出来なかった。自分を女王にと望んでいるロザリアの前では。けれど、自分の想いを知っていたオリヴィエであれば出来るから。それを知っていたから、オリヴィエは訪ねてきてくれたのだ。
「わたし……嬉しかった……オスカー様がわたしのこと、好きだって言ってくれて……嬉しくてあの方の胸に飛び込もうと思ったんです。わたしも貴方のこと好きですって、そう言って……。でも、出来なかった。好きなのに……オスカー様のこと、わたし、傷つけてしまった……!」
オリヴィエの胸に顔を埋めたまま、アンジェリークは叫ぶように言った。オリヴィエはただ、アンジェリークの金色の髪を優しく撫でる。
「好きなんです……オスカー様のこと、好きなんです……! 女王候補なんて、捨ててしまっても構わなかった。女王になんてならなくても良かった。オスカー様の想いに応えたかった……! なのに……出来なかった……」
「あんたは優しいすぎるのよ、アンジェリーク。責任感が強すぎるのよ。エリューシオンや民を見捨てられなかったんでしょう?」
こんなことを言っても慰めにはならないだろう……けれど、言わずにはいられない。自分を責めるだけのアンジェリークを見てはいられない。
「違うんです……。多分、わたし、恐かったんです……。軽蔑されるのが……エリューシオンの民や女王陛下や、ディア様や……わたしに期待してくれた人たちに応えずに、自分1人の我侭を通して、軽蔑されてしまうのが……」
それは違うよ、とオリヴィエは心の中で呟いた。自分たちが知っているアンジェリークは、自分たちが愛しているアンジェリークはそんなことに怯える少女ではない。きっと自分を責めるあまりそんなふうに自分を貶めるようなことを考えてしまっているのだ。オスカーを傷つけてしまった自分が赦せなくて、どんどん自分を貶めて傷つけようとしているのだ、アンジェリークは。
「だけど、あんたのその選択は、たくさんの人を幸せにするんだよ。あんたを女王にと望んでる全ての守護聖とあんたの大事な民と女王陛下たちをね。自分を責めちゃ駄目」
こんなことが言いたいわけではないのに、とオリヴィエは自分を責める。こんな言い方ではアンジェリークを追い詰めてしまう。
「ねぇ、アンジェ? あんたの正直な心を聞かせて。オスカーを好きね?」
アンジェリークを優しく抱きしめながらオリヴィエは言った。腕の中のアンジェリークが頷く。
「でも、エリューシオンの民も大好きでしょ?」
再び、アンジェリークは頷く。
「エリューシオンの皆を幸せにしてあげたいんでしょ?」
「はい」
「崩壊に向かってる世界を、助けたいって思ったんだよね?」
「ええ、そうです、オリヴィエ様」
オリヴィエは質問しながら、アンジェリークをいたわるように髪を撫でる。
「だったら、それでいいじゃない。宇宙は崩壊の危機に瀕してるから、一刻も早く新女王に誕生してもらわなきゃならない。エリューシオンの民はあんたを慕ってるから、あんたじゃなきゃ幸せに出来ない。あんたは、自分の気持ちの中で優先しなきゃいけないことを選んだだけよ」
何も、女王になったからといって、全てを捨てることはないのだ。オリヴィエはそう思った。
「いい? 前にも言ったけど。想うのは自由なんだよ、アンジェリーク。女王が恋してたって、誰にも責められやしない。あんたはオスカーへの想いを抱いたまま女王になればいい」
冷たく厳しいようなことをオリヴィエは言う。けれどその口調は飽くまでも優しい。
「でも、わたしはオスカー様を傷つけてしまったのに……」
躊躇うように、アンジェリークが言う。女王になったらこの気持ちは封じるつもりだったから。自分は女王で彼はただの守護聖なのだと思い込むつもりだったから。
「それは、オスカーの気持ち次第でしょ? あいつもそんなにやわじゃないし、もう少しすれば立ち直るわよ。それにあいつが一度や二度振られたくらいで諦めるとは思えない。あれで結構しつこいのよ、あいつ」
ポンポンとアンジェリークの頭を叩いて、オリヴィエは言った。オスカーの想いが本物なら、立ち直ったオスカーは自分の想いを認めて、それを抱えていくだろう。報われないと判っていても想いを捨てるようなことはしないはずだ。そしてオスカーの想いがどれほど真剣で重いものかは、十分に知っているつもりのオリヴィエだった。
「アンジェリーク、女王は永遠に女王じゃないのよ。あんたは女王になるけど、いつか、また、普通の女の子に戻るときが来るんだ。それまで、待てばいいじゃない」
はっとしたように、アンジェリークが顔をあげる。
「オスカーを傷つけたこと後悔してるなら、そのときには自分からオスカーの所へ行けばいいじゃない」
「そんな、自分勝手なこと……」
オリヴィエの言葉に、アンジェリークは眉を寄せる。
「いいんじゃないの、それでも。オスカーがあんたのこと赦せなければ、あんたは振られるだろうけど。オスカーに任せればいいじゃない。全ての判断をオスカーに委ねて。それをオスカーを傷つけた自分への罰にすれば?」
我ながらひどいことを言ってるなと苦笑しながら、オリヴィエは言った。だが、とにかく今はアンジェリークの気持ちを前向きな方向に持っていくことが大切だ。誰だって傷ついて、自分を責めて、責任感と義務感だけで幸福でない女王なんて望んでいないのだから。
「オリヴィエ様……」
冷たいようなひどいようなことを言いながら、暖かいオリヴィエの心が嬉しかった。
「そう、ですね。いつか、普通の少女に戻ったら……そのときは……」
出来るかどうか判らない。けれど、オリヴィエの心遣いに応えたかった。そして、態々オリヴィエに足を運ぶように頼んでくれたロザリアの心遣いに。
自分で傷つけてしまった人を想い続けるなんて自分勝手もいいところだ。けれど、報われないかもしれない想いをずっと持ち続けることも、辛いことだ。その辛さが贖罪になるかもしれない。
いや、自分勝手でもいい。この想いを持ち続けることで自分はきっと幸福になれる。オスカーと共にいられればそれだけで幸福になれる。だから、自分はきっと幸福な女王になれる。幸福な女王はきっと優しい心で世界を導いていけるだろう。
「わたし、自分の気持ち、大事にします。女王になって、幸せな女王になって、そして……いつかオスカー様に……」
アンジェリークは、漸く微笑むことが出来た。
「痛ててて……」
痛む頭を押さえながら、オスカーは起き上がった。
「眠っちまったのか……」
こんなときでも眠ることが出来るのか、とオスカーは自嘲した。
昨日アンジェリークに愛を告げて、見事に玉砕した。遣り切れなくて、絶望が心を充たして、帰ってから自棄酒をかっくらった。
仕事にいかなければならなかった。だが、とてもそんな気にはならなかった。アンジェリークを女王にする為の女王試験の為の務めなど、今のオスカーに出来るはずはなかった。
だから、サボタージュした。守護聖になって初めて。
「情けないな、俺も……」
振られたくらいで世界が終ってしまったような気になってしまうなんて。けれど、自分はそれほど真剣だったのだ。
「『女王アンジェリーク』に仕える、か……。出来るのかオスカー?」
自問自答する。けれど、仕えなければならないのだ。オスカーは深い溜息をついた。
だが、最初はこうなることを望んでいたのではなかったのか。アンジェリークこそが女王に相応しいと思ったからこそ、エリューシオンに贈り物をし、出来得る限りの協力を惜しまなかったのではないか。
「そうさ……俺は初めから、アンジェリークこそ女王にと望んでいたはずだ……炎の守護聖として……」
アンジェリークが自分との恋より女王として生きることを選んだのであれば、自分は守護聖として接するしかないのだ。
「守護聖として仕えていくさ。新女王陛下に……」
自嘲と共にそんな独り言を吐き出す。
オスカーは自分の恋を封じることを決意した。
オスカーがアンジェリークと正反対の決意をした頃3人の守護聖が人目を憚るようにして王立研究院へ向かっていた。ジュリアスたちの決定に不満を持っていたマルセルとゼフェル、そしてランディだった。
「やっぱりやめよう、マルセル、ゼフェル。ジュリアス様の決定に逆らったら拙いよ」
マルセルに誘われて出てきたものの、ランディは躊躇っていた。ジュリアスたちの決定に不満はある。けれどそれが慣習というのならば仕方のないことだ。それにジュリアスのことは尊敬している。そのジュリアスの命令に逆らうことには躊躇いがある。
「ジュリアスに逆らうのが恐いのかよ」
馬鹿にしたようにゼフェルが言う。
「そんなわけじゃないけど……でも、決定したことに逆らったりしたら……」
ランディはもごもごと口篭もる。自分だって、あの決定に納得していないのだから。
「じゃ、1人で帰れば? 僕は1人ででも行くよ。大丈夫だよ。アンジェはちゃーんと気持ちの整理つけてるんだから。でなきゃ、毎日育成の依頼になんて来ないはずだよ。それとも、ランディはアンジェが女王にならなくってもいいの?」
ズンズンと、いつものマルセルには似合わぬ歩調でマルセルは歩いていく。その口調も常とは違って随分強気だった。
「いや、そんなことはないけど……」
「だったらいいじゃない。愚図愚図してると、誰かがアンジェ攫っていっちゃうよ。オスカー様も、オリヴィエ様もアンジェにかなり本気になっちゃってるもん。僕はイヤだよ。絶対、アンジェに女王様になってほしいんだもん」
大好きなアンジェリークに絶対に女王になってほしい。そうすればずっと一緒にいられるから。誰かのものになったアンジェリークなんて見たくないから。オスカーもオリヴィエも、十分すぎるほど魅力的な『大人の男性』だとマルセルは思っている。だから、もしかしたらアンジェリークはどちらかの気持ちを受け入れてしまうかもしれない。そうなったら、ずっと一緒になんていられない。
「そうそう、このままじゃ誰かがかっ攫っていきそうだもんな。俺はアンジェ以外の女王なんて認める気はないぜ」
ゼフェルも強い口調で言う。ルヴァが柄にもなく、アンジェリークの前に出るとデレデレになってしまうことを知っている。奥手のルヴァが強気の行動に出るとは思わないが、1日も早くアンジェリークが即位するにこしたことはない。
ズンズンと早足で歩いていた所為で、あっという間に王立研究院の育成の間についてしまう。
ランディが止める間もなく、マルセルはエリューシオンへ緑のサクリアを送り始める。続いて、ゼフェルが鋼のサクリアを贈る。そして、2人がサクリアを送り終わったとき、伝説の島は目前に迫っていた。建物の数は70件。あと1件で伝説の島に到達するのだ。
「あとはおめーだけだぜ」
ゼフェルが顎をしゃくって、ランディを促す。
「……ああ……」
迷っていたランディだったが、漸く決意した。進み出て風のサクリアを贈り始める。先程までの風のサクリアの数値は145。少し強めに力を送れば、建物が建つ。伝説の島に。そして女王試験が終了し、新女王が誕生する。
「なにやってんのよ! あんたら!!」
ランディのサクリアがエリューシオンに届き始めたとき背後から鋭い声がかかった。オリヴィエとリュミエールが、見たこともないような恐い顔をして、立っていた。
「げ、拙い」
慌てて逃げようとするゼフェルの首を、オリヴィエが掴む。
「ジュリアスの命令に背いて、勝手にサクリア送ってんだね!?」
オリヴィエが怒りを露に叫ぶ。
「何ということを、貴方たちは……!」
いつもは優しげなリュミエールの表情が怒りを含んで険しいものになっている。
「何だってんだよ……」
2人の常にない怒りの表情にたじろいで、ゼフェルは後退る。
周りの騒動を感じながらも、ランディはエリューシオンにサクリアを送り続けた。
ランディがサクリアを送り終わると、伝説の島に白いドームの建物が建っていた。
「やったぁ!」
「やったぜ!」
マルセルとゼフェルが異口同音に歓びの叫びをあげる。
「しまった!」
オリヴィエとリュミエールは自分たちの失敗りに臍を噛む。
「これじゃ、もう、どうしようもないよ……」
オリヴィエが絶望にも似た声で呟く。オスカーとアンジェリークの関係を修復する前に即位するときが来てしまうなんて。
「ああ……」
リュミエールが遣り切れない哀しみを含んで、溜息をつく。
「とうとう、エリューシオンは辿り着いたんだ! これでアンジェリークが女王様だ!」
マルセルが歓びの声を上げたとき、伝説の島が眩い光に包まれた。
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