アンジェリーク

哀しみの必要

部屋で休んでいたアンジェリークは、王立研究院の研究員によって眠りを妨げられた。すぐにエリューシオンへ行くようにと告げられる。エリューシオンが伝説の島に到達したのだと。

「エリューシオンが?」

アンジェリークは慌てて飛び起き、服を着替える。

今日は育成の依頼はしていない。誰かが贈り物をしてくれたのだ。

研究員に導かれて王立研究院へ向かいながら、アンジェリークの心の中は複雑だった。勿論エリューシオンが到達したことに歓びはある。けれど漸く決意を新たにしたばかりだったのだ。自分の力で、到達させたかった。女王になる責任を再確認する意味を込めて。

「大神官が待っている。すぐに行くがいい」

王立研究院では既にパスハが遊星盤を準備して待っていた。

「はい」

頷くとすぐにアンジェリークは遊星盤に乗り込んだ。そしてエリューシオンを目指す。

大陸に近付くとエリューシオンに建物が充ちていた。

美しい自然と町――完成された大陸がそこにあった。見渡すばかりの荒野だった大陸が、優しさと美しさに満ちた大陸へと成長していた。

エリューシオンに降り、大神官の館へ行くと、大神官が歓びに満ちた顔で待っていた。

「あっ、天使様。たった今、天の女王様からお告げがあったです。夜空の星が増えるけどいいですかって言われたです。綺麗なお星様が増えるなら大歓迎です! 天使様。早くお星様をいっぱい貰ってきてくださいですー」

手を振りながら、大神官は声いっぱいに叫ぶ。その声にも歓びが満ちている。大神官の背後にはエリューシオンの民たちがいる。どの顔も歓びに輝いていた。

(貴方たちを見捨てなくて良かった……)

アンジェリークの心に暖かいものが広がっていった。辛い選択だったけれど、自分の選択は間違っていなかったのだ、と、今のアンジェリークには信じられた。

「うん。皆心配しないで待っててね」

アンジェリークは本心からの笑みを浮かべて民たちを安心させると、中央の島へ向かった。中央の島からは夜空に向かって眩い光の柱が伸びていた。

その光の柱の前に来ると、アンジェリークの頭の中に直接語り掛けてくる声があった。現女王の声だった。

「それでは、アンジェリーク。星々を、生命を、力を……この宇宙の全てを送ろう。全てを慈しみ、導く心を持って、静かに目を閉じ心の扉を開くのだ……」

女王の言葉に従って、アンジェリークは目を閉じた。体がふわりと浮き上がるような感じと共に、どこかへ引き寄せられていくようだった。

「……アンジェリーク。さぁ、ゆっくりと目を開けて……」

言葉に従って目を開くと、そこは漆黒の闇だった。ただ1点だけが光り輝いている。

「あ、女王陛下!」

闇の中に女王が立っていた。女王のいる周辺だけが、光っている。

「ありがとう、アンジェリーク。そなたのおかげで星々の移動は無事に終わった。世界は救われたのだ。滅びゆく宇宙の悪い影響を新しい宇宙に与えないようにわたしがここに留まり、こちらの空間を閉ざす。ゆえに今ここで女王の座をそなたに譲ろう。エリューシオンの人々を導いた気持ちを忘れずに、2つの世界を……頼む、アンジェリーク……」

女王が淡々とした声で告げる。けれど、その内容にアンジェリークは衝撃を受ける。空間を閉じるには大きな力が必要となる。そして、そんな力を使ってしまったら女王は戻ってこないのではないか。

「そんな、女王陛下……!」

アンジェリークの叫びよりも早く、女王はアンジェリークを新宇宙へと戻した。

 

 

 

星々も無事に移動し、漸く世界が落ち着きを取り戻したとき。アンジェリークの即位の式が行なわれようとしていた。

女王は戻っていない。そして補佐官であるディアも。守護聖たちが全力を挙げて主星中を探した。けれど、2人の姿はどこにもなかった。

いつまでも女王が不在であっては世界のバランスが崩れてしまう。聖地での1日は下界では1年になる。僅かな間も女王が不在であってはならないのだ。折角世界は救われたのに、そんなことになってしまっては女王の意志は無駄になってしまう。だから、ジュリアスたちはアンジェリークの即位の式を行なうことを決定した。

扉の前に控えていたアンジェリークは係官に促され、扉を開け謁見の間へ入った。女王となる責任を改めて自覚しながら、ゆっくりと足を進める。居並ぶ守護聖たちの間を通って。

視界に赤い髪が入る。炎の守護聖オスカーの姿が。

(……オスカー様……)

一瞬、アンジェリークの足が止まる。あれ以来オスカーとは逢っていなかった。試験終了から今日まで、共に忙しくて顔を合わせることはなかった。

エリューシオンの民の歓びに満ちた表情を見て、自分の選択は間違っていなかったと確信したアンジェリークだった。けれど今、その確信は再び揺らいでしまう。

オスカーの常に自信に満ちた精悍な貌が、明らかに窶れている。堂々とした明るさをまとっていたはずなのに今の彼には陰が寄り添っている。

再び歩きだしたもののアンジェリークの足は重かった。

「女王と守護聖の名においてここに、試験の終了と新たなる女王の誕生を宣言する。アンジェリーク、女王の座へ」

目の前にいるジュリアスが、アンジェリークを促す。けれど、アンジェリークは足が動かなかった。

(いいの……? 本当に、これでいいの……?)

心の中に迷いが生じる。目の端でオスカーを盗み見る。オスカーは何の感情も浮かべずにただ立っている。

(エリューシオンの民を見捨てたわけじゃない。宇宙だって救われたわ。わたしは責任を果たした……)

迷いのままにアンジェリークは首を振ってしまう。即位を拒むように、横に微かに。守護聖たちの表情に動揺が走る。場が騒つく。

(アンジェリーク……)

女王の玉座を前に、躊躇っているアンジェリークを、痛ましいものを見るようにオリヴィエは見つめた。リュミエールもジュリアスもクラヴィスも、それは同様だった。

「何を言っているのだ、アンジェリーク。これは女王に選ばれたお前の義務なのだぞ」

アンジェリークの心は痛いほどに判る。けれど、それでは宇宙の均衡は保てない。だから、ジュリアスは敢えてきつい口調で言った。

「アンジェリーク……お前に全て託した女王の信頼を無にしてほしくはない……」

アンジェリークの苦しみを理解しつつも、クラヴィスが言う。声に苦渋を滲ませて。辛い選択を強いることになるが、それが彼女に課せられた使命なのだ。

辛そうなクラヴィスの声に、はっとしたようにアンジェリークは顔をあげた。

(そうだったわ……。わたしは2つの世界の女王として皆を導いていかなきゃならないんだわ。それに……決めたじゃない。女王になろうって。心の中に想いを抱いたまま女王になろうって。そして女王の務めを終えたら、そのときは……)

決意を新たにして、顔をあげる。その表情には最早迷いはなかった。

「謹んで女王の御位をお受けいたします」

そう言って、アンジェリークが一歩踏み出したとき、女王の玉座を光が包んだ。そして光が引いたとき、そこには女王とディアの姿があった。

「どうやら即位の儀には間に合ったようだ」

「陛下、ご無事で!」

「思ったより手間取ってしまってな。……すまぬ。皆には心配をかけてしまったな」

女王はベールの陰で微笑んだ。女王の声が柔らかさを帯びて告げる。が、次の瞬間には常のものに戻ってしまう。

「即位の儀の前に……もう1人の女王候補、ロザリア・デ・カタルヘナをこれへ」

女王がそう告げるとロザリアが謁見の間に入ってくる。いつもどおりの颯爽とした自信に満ちた歩調で。そして、その顔は満足そうな笑みを浮かべていた。

「ロザリアはアンジェリークに及びこそしなかったが、女王となる素質と能力は素晴らしいものがあった。今回の経験を生かして、その能力を世界の為に役立ててほしいのだが……どうであろう、アンジェリーク」

無論、アンジェリークに否やはなかった。自分が女王になったときには、ロザリアに補佐官になってほしいと望んでいたから。

「いいこと、アンジェリーク。あんたってば相変わらず何も知らないし、頼りないことこのうえないわ。だからわたくしがついていてあげることにしたのよ。頑張ってもらうわよ、新女王陛下」

ロザリアは照れ隠しのようにつんとすまして言った。アンジェリークが女王になったとき、補佐官として彼女を支えてあげたい。ずっとそう思ってきた。口に出したことはなかったけれど。だが、たびたびアンジェリークとはこれからの宇宙の在り方について話し合ってきていた。だからアンジェリークも何となく気づいてくれていたようだったが。それでも、素直に『よろしくお願いいたします』なんて言えなかった。照れ臭くて。

「では、アンジェリーク。改めて女王の座と力をそなたに譲り渡そう」

新たな女王とその補佐官を満足そうに見つめ、女王は微笑んだ。

「わたしたちの役目は終わりました。もう、貴女がたと言葉を交わすことはないでしょう」

ディアが常にも増して優しい微笑みを浮かべて告げる。少しだけ寂しそうな色を滲ませて。

「256代目にして新しき世界の初代女王、アンジェリークよ、女王の玉座へ!」

女王は高らかに宣言すると、光に包まれ、その姿を消した。長い歳月を共に過ごした親友と共に。

アンジェリークはゆっくりと女王の玉座へ向かった。自らに課せられた責任を噛み締めながら。

(わたしは女王になる……。宇宙を愛し、支え、導く女王に……)

責任は重い。けれど大丈夫。ロザリアがいてくれる。女王試験を通して得た、最高の親友が。

玉座に就き、振り返ると、ロザリアが頷いた。わたくしがいるわよ、心配しないで――そう告げるように。

「ここに新女王アンジェリーク陛下の即位を宣言する」

ジュリアスが宣言する。この瞬間から、アンジェリークは正式に女王となったのだ。宇宙を統べる女王に。

「新女王にぜひ挨拶したいという者が……」

クラヴィスが告げる。

「え?」

即位の式の打ち合せでは、そんなことは聞いていなかった。この後は守護聖の代表であるジュリアスとクラヴィスが忠誠を誓う言葉を告げて終わるはずだったのに。

扉が開くと、占いの館の主任占い師サラと王立研究院の所長パスハが入ってきた。

「おめでとう、アンジェリーク。いえ、女王陛下とお呼びしなくてはなりませんのね」

複雑そうな表情で、サラは告げた。

「惑星の民たちも、心から陛下を慕っておりました。その育成を指導できたことをわたしは光栄に思います」

こちらはサラとは違って、常の無表情さで告げる。だがその声には歓びに似たものが混じっていた。直接力は貸せないまでも、2つの大陸の成長を見守ってきた者として新女王に敬愛の念を抱き始めていたから。

「わたしもですわ、新女王陛下。陛下のお役に立てたことを一生誇りに思います。最後に陛下と世界の幸福を祈らせてください。全ての世界を愛し全ての人に愛されますように」

心からそう願いながら、サラが告げる。サラも新女王の恋を知っていたから。

新女王はよく占いの館に訪ねてきた。だから、彼女の恋を知っていた。その想いが少女期にありがちな憧れの強い淡い恋ではなく、本当の、深い想いであることも知っていた。だから、女王の座を選んだと知ったときは驚いた。自分は恋の為に全てを捨てた。恋を貫く為にパスハと共に全てを捨てたのだ。けれど、アンジェリークは恋を捨てて、自分に課せられた使命を選んだ。辛い選択をしたのだ。自分自身にとっても、相手にとっても。

だからこそ、本当に幸福になってほしいと願わずにはいられなかった。

2人は、それだけを告げると、飛空都市へと戻る為に退出していった。

扉が閉じられると同時に、ジュリアスがアンジェリークの前に進み出た。

「新女王陛下の御即位をお祝い申し上げます。わたしは思いもかけなかった暖かい光の存在を陛下に教えていただいたような、そんな気がしております。偉大なる新女王陛下。光の守護聖ジュリアス、永遠の忠誠を捧げます」

よくぞ辛い選択をしてくれた……心の底からそう思いながら、ジュリアスは告げた。誰にも出来なかった、前女王ですら出来なかったことを――自分とクラヴィスの関係を修復した少女。自分の心の中に柔らかな暖かい光を齎らした少女。自分はこの女王の為に全身全霊をかけて仕えよう。ジュリアスはその決意と共に、女王に忠誠を誓う。僅かばかりの寂しさを感じながら。

ジュリアスが許の位置に戻ると同時に、クラヴィスが進み出る。

「……アンジェリーク。お前もやはり女王の座を選ぶか。それがお前の運命であり、わたしの運命でもあるのか。……女王とは唯一の存在であるがゆえ、その身には常に孤独の影がさす。それをお前は選んだ」

そう告げてクラヴィスは微かに溜息をついた。こうして寂しさと哀しみを伴って忠誠を誓う日が再び来ようとは思わなかった。だが、あのときとは違う。あのときは自分の哀しみだった。けれど、今クラヴィスの心にある哀しみはアンジェリークとオスカーの心を思ってのことだった。

「だが覚えておいてほしい。お前をいつも見ていたものが少なくとも1人はいたということを……」

1人――オスカーはいつもアンジェリークを見つめていたのだ。そのことを決して忘れてほしくなかった。自分の心を閉ざすようなことはしてほしくない。そんなことをしたら決して幸福にはなれないから。いや1人ではない。オスカーだけではないのだ。自分もジュリアスも、リュミエールも、オリヴィエも、ルヴァも……。皆が、アンジェリークが幸福になることを望んでいるのだ。

クラヴィスが告げている間に、ジュリアスはオスカーに目配せする。次はお前だ、と。

無言で促され、オスカーは躊躇った。守護聖として女王アンジェリークに仕える。そう決意したはずだ。全ての想いを封じて、守護聖としての立場に撤しようと。だが、躊躇いがあった。本当に出来るのかと……。

クラヴィスは許の位置に戻ると、視線でオスカーを促した。2人に促され、オスカーは進み出る。

(初めて女王に謁見したときですら、これほど緊張はしなかったな……)

心の中で苦笑しながら、オスカーはアンジェリークの前に出た。

(こんなの、打ち合せにはなかったわ……)

アンジェリークは戸惑い、視線をジュリアスに向ける。ジュリアスは何でもない顔をして立っている。クラヴィスも、ロザリアですら同様だった。

一瞬の沈黙――事情を知る守護聖たちは緊張し、固唾を飲んで見守る。

「陛下の御即位をお祝い申し上げます」

前以て考えていたとおりに言葉が出た。声が震えなかったことにオスカーは安心した。

「この炎のオスカー、陛下に永遠の忠誠を捧げます」

オスカーが忠誠を誓う言葉を口にしたとき、幾人かの守護聖が心の中で安堵の溜息をついた。

(女王としてのわたしを認めてくれた……)

アンジェリークは複雑な気持ちだった。オスカーは既に割り切ってしまったのだろうか。けれどこれで、自分は彼と公的には巧くやっていけるはずだ。安心した思いと、寂しく感じる気持ちが混在していた。

その思いがアンジェリークの表情に出てしまう。遠くにいる守護聖には気づかれなかっただろうが、正面にいたオスカーにはその僅かな表情の変化が読み取れた。その途端にオスカーの口から自分でも思っていなかった言葉が零れた。

「……心より誓います。今までの俺の、女王候補のお嬢ちゃんへの想いと同じくらい、真剣な気持ちで……」

俺のことを忘れるな。君は俺を捨てて女王の座を選んだのだ。俺を拒絶し、傷つけて、女王として生きることを選んだのだ――そう、告げるように。

言葉は如何にもオスカーらしく気障だった。口調も甘く聞こえるものだった。だが、隠れた棘があった。事情を知る者であれば気づいてしまう棘が。

途端に安堵していた守護聖たちの間に緊張が走った。

――やはり、まだ傷は塞がっていないのだ。アンジェリークの即位は早すぎたのだ、と……。

アンジェリークの顔色が変わったことに気づきオスカーは後悔した。なんてことを言ってしまったのだと。すっと目を反らすと、ジュリアスの隣へ並ぶ。

気まずい沈黙が場を充たす。それを払うようにリュミエールはアンジェリークの前に進み出ると柔らかな微笑みを浮かべた。

「おめでとうございます、新女王陛下。女王候補であられたときの陛下の明るい笑顔は、いつもわたくしに限りない幸福を与えてくださいました。これからは陛下のお側にお仕えするのを幸福とし水の守護聖の任を務めたいと思います」

いつも以上に柔らかな優しい声でリュミエールは告げる。貴女が女王になってくれたことはわたくしにとってとても幸福なことなのですよ。言外にそう告げるように。

リュミエールの柔らかな言葉に、アンジェリークはほっとする。そして、緊張していた場も、僅かに和む。

よくやったとでも言うように頷くクラヴィスの隣にリュミエールは並ぶ。アンジェリークからは見えない位置で、リュミエールの表情は曇っていた。嘘を言ったわけではなかったが、本心でもなかった。いや、もう1つの本心ではあった。アンジェリークを女王にと望む気持ちも確かにあったのだから。ただ、アンジェリークには本当に幸福になってほしかった。だから、これが正しいことであるのか、未だにリュミエールは迷っていたのだ。

「……陛下、お気づきにならなかったかもしれませんが、俺はずっと陛下のお役に立ちたいと思っていました。女王候補だった陛下の為に自分の力が役に立つのが本当に嬉しかったです。いつも一生懸命でした。今日からは女王候補ではなく女王陛下の為に、この風の守護聖ランディ、全力を尽くします」

ランディが告げる。幸いアンジェリークが女王になったことで自分の恋は女王への忠誠心と昇華させることが出来そうだった。僅かな寂しさを伴いはしたが、これが一番良いことなのだと自然に思えた。

「アンジェリーク。やっぱり女王様になっちゃうんだね。僕……僕ホントはね」

ランディに続いてマルセルが進み出た。アンジェリークを女王にと望んでいたのにマルセルは複雑だった。女王の玉座に就いたアンジェリークはとても遠い存在に思えたから。一緒にいたくて、アンジェリークを女王にと望んだのに。

「ううん、なんでもないよ。新女王陛下や前女王陛下のように僕も一生懸命頑張ります」

自分が望んだとおりの結果になったのだから、それでいいではないか。アンジェリークはきっと新しい世界を作っていくのだ。これまでの女王のように、自分たちの前に全く姿を見せないなんてことはないはずだ。自分にそう言聞かせながら、マルセルは宣言した。

「そっか……おめー女王になっちまうんだな、アンジェリーク。オレもおめーに言ってやりたいことが色々あったんだけど、な。もうしょーがねーや。新女王陛下。オレも俺の出来る限りのことで陛下の力になります。……これでいいよな?」

ゼフェルも、マルセルと同じだった。大好きだから一緒にいたくて女王に選んだ。けれど、逆に遠い存在になりそうで恐かった。

お子さまたちの身勝手な言葉を聞きながら、オリヴィエは心の中で怒っていた。

(いったい誰の所為でこんな拙いことになったと思ってんだろう。でも、ま、仕方ないか。あとは時間に任せるしかないしね)

心の中では溜息をつきながら、オリヴィエはアンジェリークの前に立った。

「おめでと、新女王陛下。大好きだったアンタにとびっきりの美しい夢を贈るよ。但しオリヴィエからじゃなく夢の守護聖からだけど、ね。よろしくね、新女王陛下」

女王には公私の区別を確りつけてお仕えするよ。でもわたしはいつでもあんたの味方で『お姉さん』だからね。心の中でそう付け加える。それがアンジェリークに通じたのか、正面に立つ少女は笑って微かに頷いた。

その表情で、アンジェリークが落ち着きを取り戻していることを確認し、オリヴィエは安心して一歩退いた。

「アンジェリーク。貴女ならきっと素晴らしい女王となるでしょうね。でも時には大変なこともあるかもしれません。そんなときは立ち止まって周りを見てみてください。わたしは……いえ、わたしたちはいつでも陛下と世界の為に守護聖としてお力になるのですから」

言葉を選びながらルヴァは告げる。愛らしい天使のような少女。守ってあげたい少女。彼女の為になら、自分は何でもしてあげよう。――わたしでは頼りにならないかもしれないけれど、辛いことがあったら話してくださいね。それくらいなら、してあげられますから。言葉に出さずにそう告げる。

全ての守護聖が忠誠を誓ったとき玉座が光に包まれる。光が引くと、女王の装束に身を包んだアンジェリークが現れる。

「我々守護聖一同、新女王アンジェリークに心よりの忠誠を……」

クラヴィスが厳かに告げる。

「2つの世界の新女王、アンジェリーク陛下に永遠の栄光を!」

ジュリアスが高らかに宣言した。

そして新女王アンジェリークの治世が始まるのだった。

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