テニスの王子様

Reset*Restart-1stGrade21~40

男心は単純明快(忍足視点)

イヤやな。やっぱり……俺の横には彰子いてへんと。

彰子の隣におるんは、やっぱり俺やないとあかん。

 

 

 

 

 

テニス部の合宿が始まって、正直憂鬱な気分やった。

ちょっと前まではごっつう楽しみやった。

朝から晩までテニス三昧。他の事はなんも考えんでええ。

そして24時間彰子と一緒や。

普段かてほぼ1日中彰子と一緒にいてるとはいえ、1つ屋根の下といえんことはないけど、同棲しとるわけでもないしな。離れてる時間はあるわけやし。

それが合宿の1週間は誰憚ることなく24時間彰子と一緒や。まぁ、他のテニス部メンバーもいてるけど。

GWの立海との合同合宿よりは彰子も時間の余裕あるはずやし、何より仁王というお邪魔虫もいてへんことやし、フリータイムは彰子独占したろうと思うてた。

一気に距離詰めることは出来ひんけど、徐々に俺のことを意識し始めてる彰子にもっと意識してもらえるように頑張ろう! なんて思うてたんや。

勿論テニスはテニスで頑張るつもりやった。高等部が全国大会に出るんは5年ぶりやったし、正直なところ立海の戦力が劣っとる今年は狙い目やったしな。

テニスはテニスで頑張りつつ、恋する侑士くんとしては彰子へのアプローチも頑張るつもりやった。

けど、状況が変わってしもうた。

彰子に彼氏が出来たから。

俺も多少は知っとる相手。テニス部の先輩。

そのことを彰子から知らされたときは頭真っ白になったわ。

俺のことなんとも思うてへんのか……意識してくれとったと思うたんは俺の都合のいい勘違いやったんか……俺はやっぱりただの『お友達』に過ぎひんかったんか……。

ぐるぐるとそないなことが頭ん中周って。

『いつもどおりの俺』の振りするんで精一杯やった。

 

 

 

 

 

それから俺と彰子との関係は変わった。接するときは今までと同じ『お友達』やけど。

でも一緒に過ごす時間は殆どのうなった。授業中くらいになってしもうた。

朝は彼氏である関さんが彰子を迎えに行く。昼休みは関さんと彰子はランチやし、放課後はやはり関さんが彰子を送っていく。

練習が終われば、マネージャーの彰子、部長の跡部、副部長の俺が最後まで部室に残って翌日の練習の確認やらちょっとしたミーティングをし、3人同時に部室を出る。そこまでは今までと変わってへん。けど、そこからが違う。

それまでは校門まで3人で歩き、跡部は車で、俺と彰子はバスで帰宅する。彰子と俺は2人で……。ほんの30分程度とはいえ俺にとっては1日の中でかなり重要な大切な時間やった。それがのうなってしまった。

今は部室を出ると関さんが彰子を待ってる。部室で待たへんのは跡部と俺に対する前副部長としての気遣いやろうけど……。そして、関さんは彰子を連れて行ってしまう。あの人も自家用車通学やから、自分の車に彰子を乗せ、送っていってしまう。

「忍足……」

跡部が何処か心配げな声で俺に言葉をかけるくらいには情けない顔してるんやろうなぁ……。

「まだ、諦めきれへんねん。女々しいなぁ、俺も」

そう言うて苦笑するしか出来ひんかった。

彰子のことを諦めたらええんや。そう思いはする。

彰子には彼氏が出来たんやから。

関さんはええ人やし、凄い人なんも知っとる。跡部でさえ一目置いて敬意を表するほどの人なんやから。

あの人やったら、不器用で寂しがり屋で泣き虫な彰子のこともちゃんと守ってくれるやろうし、包み込んで幸せにするやろうって……確信できる。

もう俺の出番はあらへん。少なくとも男としての俺の出番はあらへんのや。

俺に出来ることは、彰子の最初の友達として見守ることだけや。

そう思うのに。

割り切れへん。

思い切れへんのや。

 

 

 

 

 

ずるずると自分の気持ちを引き摺ったまま夏休みになった。

色々計画してたんや。ほぼテニス三昧とはいえ、僅かながらに休みはあるしな。

その休みには彰子誘って海に行こうとか、遊園地に行こうとか……大勢のほうが喜ぶやろうから、ほんまはイヤやけど、跡部たちも誘うか、とかな。

きっと彰子は喜ぶやろうなぁ……なんてこと思いながら、計画してた。

でも、それも全部無駄になった。彼氏もちの女の子を男ばっかりの遊びに誘うわけにもいかへんからな。

女々しいわ、忍足侑士!

自分を叱りつけてもやっぱり出るのは溜息ばっかり。

自棄になって昔の女に連絡したろうかと思いさえしたけど、それさえも面倒臭うて、自宅に帰ればただぼんやりとする日が続いてた。

そんな状況下で、この合宿や。

あんなに楽しみやった合宿が苦痛以外の何者でもない。

彰子も関さんも公私の区別つけるから、練習中に2人が恋人同士の素振りを見せることはあらへん。彰子は忙しゅうコート中走り回ってるよって、関さんと話すこともない。寧ろ練習中は跡部や俺と接する時間のほうが長いやろ。部長・副部長とマネージャーとして。

そんなときの彰子は以前と全く変わらへん。俺も全身全霊の精神力振り絞って今までどおりに接する。彰子に不審がられんためにな。

もし彰子が俺の気持ちに気付いてしもうたら、あいつのことやから『申し訳ない』と思うに違いない。彰子の心は関さんに向いてるんやから、俺に応えることは出来ひん。せやから申し訳ないって気に病むやろう。そんなことさせとうないから、俺は精一杯お友達の顔するしかあらへんねん。

精神修行してる気分になるわ。

それが一層強くなるんは、休憩時間。練習の合間の短い休憩時間は、選手の休憩であってマネージャーである彰子自身は忙しく動き回ってるから別に問題あらへんのやけど、ランチタイムになる昼休憩は結構しんどい。

彰子は当然のように関さんとランチを摂るからな。これが校内やったら、俺等はカフェテリア行かへんかったから、目にすることはなかったけど、合宿やとそうもいかへん。同じ場所でランチを摂ることになるよって、嫌でも目に入るし声も聞こえる。

「なんか、彰子ちゃんが遠くに行っちゃったみたいで寂C……」

オムライスをつつきながらしょんぼりと慈郎が言う。

「仕方ねぇだろ。長岡は……関先輩の彼女になったんだから」

岳人の声も面白くなさそうや。

2人とも懐いてたしな……。

あんなに賑やかだったはずのランチタイムがまるでお通夜みたいや。彰子1人いぃひんだけで。

「ほな、お先に」

関さんとおる彰子を見とうあらへんから、さっさと食事を済ませて席を立つ。この場を暗くしてる原因は俺にもあるわけやし。

ああ、早よ思い切らんと、根暗な侑ちゃんになってしまうわ……。

 

 

 

 

 

そないなことを思うてた俺やったけど、思い切られへんことがはっきり判った。

きっかけは、初日のフリータイムやった。

食後、ミーティングまでの時間を持て余した俺は跡部とミニゲームでもやろうとコートに向かったんや。

何も考えんと没頭するにはテニスが1番やからな。

跡部もそれが判ってたみたいで何も文句言わんと付き合うてくれた。俺が本気で没頭出来る試合が出来るんは跡部しかいてへんから。

けど……コートには先客がいてた。

関さんと……彰子。

彰子の楽しげな笑い声がしてた。

関さんが何かを言い、彰子が楽しげにそれに応える。ボールを打ち合いながら、楽しそうに。

胸が焼けるようやった。嫉妬で。

違う!!

そう思うた。

違う!! 彰子がいる場所はそこやない!!

そう、思うた。

彰子は俺の隣にいてるべきなんや。彰子の側におるのは俺でないとあかんのや。

そう、強く思うたんや。

諦められへん。

諦め切れへん。

生まれて始めての本気の恋や。

彰子のこと、泣かせとうない。彰子の笑顔を守りたい。彰子を幸せにしたい。

そう、ずっと思うてた。

せやから、彰子が関さんを好きなんやったら……関さんを好きな彰子ごと見守るしかあらへんって、自分に言い聞かせとった。

それが間違いやったんや。

俺は彰子を独占したいんや。彰子には俺しか見て欲しくないんや。

彰子が泣くなら俺のことで泣かせたい。俺以外のことでは泣かせとうない。俺が彰子を笑顔にしたい、俺が彰子を幸せにしたい。

俺がいてることで、彰子の感情が全て動く。そうしたいんや……。

うわぁ……なんや俺かなり醜いんとちゃうか。

独占欲の塊やんか。

けど、それが俺の紛れもない本当の想い。

恋なんてそんなもんや。

「跡部、やっぱ、俺、彰子のこと諦められへんわ」

立ち止まり、呟く。

「……んなこと、始めっから判り切ってることじゃねぇか」

何処かホッとしたような声で跡部が応じる。

無理に諦める必要はあらへん。俺は彰子のことを好きや。そして……いつか必ず彰子を俺の腕の中に抱くんや。

けど、それはまだ今やあらへん。

今すぐ取り戻したい。無理矢理にでも彰子を関さんから引き離して、俺のものにしてしまいたい。

せやけど……俺が欲しいんは彰子の体やあらへん。彰子の心も、体も、存在全てが欲しいんや。

焦ったらあかん。じっくり待たなあかん。必ずチャンスは来るんや。

初めから長期戦は覚悟してたんやないか。

鈍感で恋愛に鈍い彰子が相手なんやから。まぁ、関さんっちゅう彼氏が出来たことで少しは彰子も恋愛のスキルがつくかもしれへんし。

今は『いいお友達』ポジションキープや。彰子が何でも相談出来るポジションをな。そこからチャンスは生まれるはずやし。

「やっと吹っ切れたわ」

目の前の霧が晴れた感じや。

「なぁ……忍足。本当にあの2人が恋愛関係だと思うか?」

突然の跡部の言葉に「はぁ?」と我ながら間の抜けた声が出る。

「いきなり何言うてんねん」

そう問うが跡部の視線はコートにいる彰子と関さんに向けられとる。

「お前が冷静じゃねぇことが判ってたから今まで言わなかったんだが……」

余りにも2人の交際は唐突過ぎる、と跡部は言うた。2人ともそれ以前には互いを意識している素振りは欠片もなかった。関さんはまぁ、ああいう人やから綺麗に隠してただけかもしれへんし、そもそも俺等があんまりあの人を意識してへんかったから気付かんかっただけかもしれんけど。せやけどもし彰子が関さんのこと意識しとったらそれは俺等かて気付いたはずや。晩生で不器用な彰子がそうそう恋愛感情を隠せるとは思われへんからな。

「それにタイミングが絶妙すぎるだろう」

言われてみれば……そうかもしれんな。

彰子が関さんに告白され付き合うことにした日。俺等は跡部経由で冷泉さんからの情報を聞いたんやし。俺の元カノたちの不穏な動き。関さんと冷泉さんは幼馴染らしいから、その情報を関さんが知ってたとしても不思議はない。

「……考えすぎやないか?」

俺にとって都合がよすぎるやろ、それは。

あの2人がほんまは付き合うてないとか、ホンマは彰子は関さんのことをなんとも思うてへんのやないかとか……余りに俺に都合よすぎやろ。

「かもしれんな」

跡部にしても情報が少なうて、確信は持てへん感じやった。

「打算で恋人を作れるほど、長岡は器用じゃねぇしな」

溜息混じりに跡部は呟いた。

器用じゃない……か。

確かに恋愛には不器用やけど……『恋愛』やあらへんかったら?

何らかの裏があっての『恋人』なんやったら、彰子はそれを受け入れる気がする。

テニス部にしろ、生徒会にしろ……他人のためのことやったら、彰子はかなり大人な物の考え方をするしな。

だとしたら、跡部の勘も強ち外れてるとは言えへんかもなぁ……。

けど……もし裏があるんやとしたら。

それは彰子が冷静に考え、そうすることが今はベストだと判断したっちゅうことになる。

となると……その裏事情が解決しぃひんことには俺や跡部が何言うても無駄やな。

つまり、関さんと彰子の『交際』は続く。

俺の立ち位置は変わらへんっちゅうことや。

まぁ、気持ちは楽になるけどな。

「跡部、俺の気持ちは変わってへん。彰子が関さんと本当に付き合うてるとしても、裏に事情があるんやとしても、俺の気持ちは1つや。俺は彰子を好きや」

そう、ただそれだけや。

せやから、現時点で俺と彰子両方にとって1番いいと思える行動をとる、それだけのことや。

今はじっと時機を待つだけのこと。

 

 

 

 

 

 

俺は、彰子のことを本気で好きやから。

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