armoniosamente~よく調和した(忍足視点)~
4限目の授業が偶々顧問の授業で、俺は顧問に跡部と綾弥への伝言を頼まれた。今日は自分は部活に出られへんっちゅーてな。
てか、センセ、あんた殆ど部活に顔見せへんやんか。ほんま顧問とは名ばかりで。
榊監督が懐かしいわ。あのセンスはどうかと思うねんけどな。あと、『行ってよし』も…。まぁ、それはテニスとは関係あらへんからええねん。
けど、榊監督は『監督』って俺らが呼ぶほどにはきっちり俺らを指導してくれはったからなぁ。トレーニングスケジュール組んで、合宿やら練習試合やら組んで。俺らは監督の示したメニューに従うて練習しとれば良かったんやもん。
なのに、高等部の顧問はテニスのことよう判っとらんような爺ちゃん先生やから、俺ら生徒の…特に部長・副部長・マネージャーの仕事多すぎやっちゅうんじゃ。
因みに部長は跡部で、副部長は何故か俺で、マネージャーが綾弥と滝や。滝は選手でやることに限界感じとったらしゅうて、高等部に入ってからはマネージャーやってんねん。
せやから、2年の初めに跡部と俺が部長・副部長になってからは、トレーニングメニューやら合宿やらなんやらの重要で且つ煩雑な仕事は4人でやらんとあかんかった。
いつものことやし連絡なんて必要ないやんなどと思いながら、俺は弁当を持って、いつもの屋上へ行く。
教室や学食で食おうもんならギャラリー五月蝿いよってな。ほんまに蠅やで。ぶんぶん五月蝿いっちゅうねん。
『跡部様ご一緒させてくださいませ』
『忍足さん、隣宜しいでしょう?』
宜しゅうないわ!
結局落ち着いて飯も食われへんから、こうしていつの間にやら俺たちは屋上に逃げてくるようになったん。
屋上は俺らテニス部レギュラーの専用区域になっとって、他の生徒は入って来ぃひんのや。
教室や学食が五月蝿うなるよって他の生徒に迷惑かかるから言うて跡部が教師陣に交渉して、特別許可もぎ取ってくれてな。テニス部以外入れへんようになっとるねん。
屋上に行けば、既に岳人とジローがいて。俺と前後して、宍戸、滝、鳳、日吉、樺地がやってくる。
これに跡部を加えて…中等部時代からお馴染みのメンバーや。いや、一人加わったな。
紅一点、綾弥や。
綾弥は高等部からの外部入学生で、1年のときに俺や跡部のクラスメイトやった。
中学時代はテニスをしとったこと、あの跡部に物怖じせんと対等に付き合えることから、跡部がテニス部のマネージャーに勧誘したんや。
当時は綾弥も入学したばかりでうちのテニス部の特殊さを知らんかったよって気軽にOKして、後から呆然としとったわ。
まぁ、それでも嫌がることなくマネージャーやって、今では部員の信頼厚い有能マネージャーや。
高校選抜の合宿なんかにもマネージャーとして参加しとるよって、他校のメンバーにも評判はええしな。
「あれ、跡部と綾弥は来ぃひんの?」
「跡部は生徒会の仕事があるって言ってね、生徒会室」
と跡部と同じクラスの滝が答えれば
「綾弥も以下同文」
と綾弥と同じクラスの宍戸も答える。
ああ、5月やもんなぁ。確かに生徒会行事目白押しや。昼休みまで仕事しぃひんといかんのか。大変やなぁ。
「なんだよ、あいつらになんかあったのか?」
弁当を広げながら「顧問が今日は部活に来られへんのやと」と岳人に答えれば「いつものことじゃねぇか」と宍戸に返される。
「ほんっとに役に立たないよね、あの顧問」
滝は黒い笑顔を浮かべとるし…。
「その分、跡部部長と綾弥先輩の負担が大きいんですよね…」
鳳も溜息混じりに応じる。
中等部時代は榊監督が組んでくれはったトレーニングメニューが名ばかりの顧問に組めるはずものうて、その分の仕事は跡部と綾弥に回される。
跡部も綾弥も2年の後半からは生徒会のトップ2やし、忙しいことこの上ないっちゅう状況やった。
俺や滝もトレーニングメニュー組むのに協力はするけど、やっぱり中心は跡部と綾弥やしなぁ。
放課後はテニス部に掛かりきりになるよって、自然生徒会の業務は昼休みに2人が目を通して指示を出し、放課後に他の役員が動くっちゅうことになっとるらしい。偶にコートに役員が跡部たち呼びに来ることもあるくらいやし。
「最近綾弥とランチ出来なくて詰まんないC」
ブチブチとジローが零す。
無理もないなぁ。3年になってから跡部と綾弥がここに来たんは数えるほどやし。
ジローは特に綾弥に懐いとって、しょっちゅう抱きついたり膝枕要求したりしとるくらいや。
綾弥もジローをぬいぐるみかなんかと勘違いしとるみたいで、よう抱きしめとるし。見とると、ペットと飼い主みたいで妙に微笑ましい。
「侑士、携帯鳴ってる」
「あ? ああ、メールやな」
岳人に言われて携帯を見ればメール着信しとる。
ピピピっと操作してメールを開くと、今付き合うとる女からのメールやった。
「そろそろ、こいつも潮時やなぁ」
メールを見て溜息が漏れる。『もう1週間も会ってないんだよ。今日は会えるんでしょうね』やと。
1週間くらいでグダグダ抜かすなっちゅうねん。
「えー、もう別れちゃうの? 早くない?」
呆れたようにジローが言うが…。しゃーないやろ。
「うざいんや。彼女面しおって」
「彼女だろ…」
宍戸も呆れたように溜息をつく。
「跡部といい忍足といい、爛れてるよね」
だから、その黒い笑顔はやめれっちゅうねん、滝。
「跡部よりましや。俺は不特定多数やないもん。特定多数やし、同時進行はしてへん。あいつよか誠実やろ」
跡部は特定の『彼女』を作らんとセックスフレンドっちゅう位置づけで複数の女がいてる。俺は『彼女』ゆうことにしてその時は1人だけと付き合う。長く続くかっちゅうたらそれは別問題なんやけどな。
因みに俺の『彼女』は全部他校。氷帝の女なんかと付き合うたら、そいつが自慢しまくるやろうし、絶対に苛めが起こる。面倒はごめんやからな。
というか、高校生のほうが少ないかもしれへんな。年上のほうが楽やし。年上のプライドがあるのか別れるときにあんまり見苦しい真似しぃひんから。
取り敢えず女には『部活あるから無理』とだけ返信。直ぐに再返信あって『テニスと私とどっちが大事なのよ!』とか…。阿呆ちゃうか。
『テニスに決まっとるやろ。お前とはこれまでや』と返してさくっとメモリー削除。メモリーにあるヤツからしかメールも電話も受けんように設定しとるからな。
「侑士…それあんまりじゃね?」
俺の返信を横から覗き込んでた岳人が溜息混じりに言うけど…がっくん、私信覗くなんて行儀悪いで。
「しゃーないやろ。今の俺にとってはテニスが一番大事なんやから」
既に高等部3年。大学は医学部に進むよってテニスやる余裕はあらへんやろ。
個人病院とはいえ、親父はそこそこ大きな病院経営しとるし、俺は一応長男やし。姉ちゃんも医学部やけど…跡取りは俺やしなぁ。
跡取りやから仕方なく医者になるんやあらへん。親父の姿を見て、俺も医者になりたいって思うたんや。せやから、大学では真剣に医学を学ぶ。テニスはすっぱりとやめる。
だから…テニスに打ち込めるんは、高等部まで。
まもなく始まる都大会。そして関東・全国。負けてしもうたら、そこで俺のテニスは終わりや。
1つでも多く勝ちたい。少しでも長くテニスしときたい。
せやから、今はテニスに集中したいんや。
「女の代わりなんていくらでもいてるけど、この時間は二度と戻らへんのやで。今しかあらへんのや、俺がテニス出来るんは」
俺の言葉に、皆なんともいえない顔をする。全員がテニス馬鹿や。けど、ずっとテニスを続けられるとは思うてへんからな。
「そう…ですね」
鳳が溜息をつく。
この中でプロを目指しとるやつはいてへん。それぞれが『家』を背負うとるから。正直、青学の手塚・越前や立海の真田・切原といった何の柵ものうプロ目指せるヤツが羨ましい。
まぁ、自分で選んだ道やから後悔はしぃひんけど。
俺の言葉になんやら暗い雰囲気になってしもうた。折角のいい陽気やのに、暗い顔はあかんやろ。
「俺のことはええねん。宍戸はどないなん。彼女出来たんか」
「なんで俺に振るんだよ!」
いや、いてへんやろうなと思うたからって言うたらまた怒るやろうな。
「いねぇよ。面倒臭ぇ。そんなの作る暇あったら俺もテニスする」
それはそうやな。宍戸は大学でもテニスはするみたいやけど。
「なんや、宍戸。もしかしてチェリーかいな」
「どうしてそうなるッ!!」
そんな顔真っ赤にして怒るなや。図星か。
「俺はてめぇや跡部みたいな下半身無節操男じゃねぇんだよ!!」
下半身無節操って…それ、前に綾弥が俺と跡部に言うた言葉やな…。
「俺かて跡部とは違うで。一緒にするなや」
「変わんないC」
反論すればあっさりとジローに切り捨てられる。お前かて人のこと言われへんやろ。羊の皮かぶった狼のくせしおって。
「そういえば、最近跡部の女関係の噂聞かないね」
俺の言葉にふと思い出したように滝が言う。
「っつーか、全部手ぇ切ったって噂なら聞いたぜ」
跡部の場合、お手軽な学内の女を相手にしとる所為か結構噂は絶えへんし、噂になるんも早い。
面倒になるから学内の女はやめとけっちゅうたんやけどなぁ。
「だから、また綾弥ちゃんと噂になってるC」
「あの噂は年中行事みたいなものですからね」
鳳が苦笑を漏らす。
確かに年中行事みたいなもんやなぁ。学期の変わり目に必ず立つ噂。
『跡部と綾弥が出来てる』っちゅーのは学期初めに毎回のように噂になる。
特に2年にあがったときと2年の秋は凄かった。秋なんて跡部が会長、綾弥が副会長になったこともあって、これまで以上に綾弥と跡部が一緒にいてること多かったから。
テニス部のマネージャーで、1年・2年時は跡部と同じクラス。しかも生徒会でも一緒。ほぼ一緒に行動しとるようなもんやったからな。
大概は外部生が入ってきたり、情報が不足しがちな長期休み明けに決まりごとみたいにこの噂が出る。
『休みの間にお2人の仲が進展!?』っちゅうてな。
まぁ、俺らはそんな噂笑って聞き流すんやけど。
綾弥は女にしては背が高くて性格もさばさばしとって…凡そ女らしゅうない。
顔はしいて言えば綺麗なほう、っちゅう程度で特別美人でも不細工でもない。
髪は肩に掛かる程度の長さはあるけど、その言動と中性的な顔立ちからも『女』っちゅう感じはしぃひん。俺らの中にも綾弥を女扱いしてるヤツはいぃひんのやないか。
一応、体力面とか気遣うし、遅うなった日に1人で帰宅させたりはしぃひんけど。送っていくんは自家用車通学の跡部が多いな。
どっちかっちゅうと男よりも女にモテるタイプで、下級生の中には『綾弥お姉さま』なんて呼ぶやつもいてるくらいやし。
「でも今度の噂は結構真実味あるよね。時期も時期だし」
意味ありげに滝が言う。
そうやな。確かに高校3年ともなると、校内には婚約の噂が立ち始める。主に女子生徒にやけど。
氷帝は所謂お坊ちゃん・お嬢様学校や。政財界の子息令嬢ばっかりが集まってる。まぁ、そうやないヤツもいてるけど、他の学校に比べればその割合は格段に多い。
その所為か、高校3年の時期には早いところでは婚約なんて話も出る。まぁ、大学部よりは少ないみたいやけど。
綾弥はお嬢様っちゅうわけやあらへんけど跡部の基幹企業の重役の娘やし、跡部は跡部でこの氷帝でも別格扱いの財閥の御曹司やしなぁ(まだ親父さんは跡継いでへんから取締役の1人にすぎんらしいけど)。
跡部が綾弥をごっつう信頼しとることは周知の事実やから、そんな噂も出るんやろうな。
跡部のファンの中には『跡部様の隣に並んで許せるのは綾弥さんだけだわ!』なんて言うてるやつもいてるくらいやし。全く見知らん相手に跡部を取られるくらいなら綾弥のほうが許せるってことらしいわ。
けど…
「有り得ねぇよな、跡部と綾弥って」
岳人が笑う。他のやつらも頷いとる。なにせ
「「「「あの兄貴がいる限り綾弥に男はできない」」」
滝・宍戸・岳人の声が重なる。
ジローも鳳も日吉も樺地でさえも否定せずに頷いとる。
そう、あの、妹超大切溺愛しまくりな兄ちゃんいてるから、綾弥が彼氏作るなんて無理やわ。
しかも、あの兄ちゃん、ごっつう美形やし、背も高いし、頭もええし。性格かて悪うはないし。超弩級に重度のシスコンさえなければ完全無欠のええ男や。
そないな兄ちゃんが傍におって、他の男に目ぇ向くはずあらへんもんな。
「ま、どうせいつもの噂だし、1ヶ月もすりゃ今までみたいに消えるんじゃね」
笑って言った岳人の言葉はそこにいる全員に共通やったと思う。
俺らは、いや、俺はほんまには綾弥のことを解ってはおらんかったんや。
綾弥が何を考え、何を想い、何を感じ…そして跡部とどうなっとるのか。
綾弥の想いも、苦しみも、哀しみも…
───俺は何も解っとらんかった。
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