テニスの王子様

a Tre~三重奏~

addolcendo~優美に(跡部視点)~

切れ切れの、切なげな声が聞こえる。

いつもは凛とした声で指示を出すこいつが、こんなに甘く艶かしい声をあげるのは俺の腕の中だけだ。

いかにも優等生なこいつが、男の腕の中でこんなにも淫らに踊るなんて、誰も想像しないだろう。

俺だけが知る姿。

「いや…もう…やめて」

切なげに願う声。

普段は決して聞くことのない甘い声音に俺の支配欲が満たされ、そして更に強く願う。もっと俺を求めろと。

「嫌じゃねぇだろ。こんなにも蜜零して悦んでやがるくせに」

こいつが欲しがっているものを敢えて与えない。

もっと乱れて淫らになる姿を見てぇから。

「馬鹿跡部…ッ」

口ではそう言いながらも、躰は快楽を求めて揺らぐ。淫らに艶かしく俺を煽る。

「あーん? そう言いながらも欲しがってるじゃねぇか。この淫乱」

指で、言葉で煽る。もっともっと乱れるように。

「誰の…所為よっ…」

「俺様だなぁ」

答えながらも指と舌で刺激を与えれば、やがて耐え切れなくなったかのようにこいつは願う。

「お願い…跡部…もう…ッ」

「こんなときくらい名前で呼べよ、綾弥」

「…景吾…来てっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と綾弥の関係が始まったのは、1年前。

一人の女がこんなにも長く続いたことはない。

長くて2~3ヶ月。短ければ1回きり。大概はそんなもんだ。

中学時代から女に不自由したことはねぇ。

性的な欲望を覚えるようになったころから、処理する為の女には事欠かない。

大抵の女は俺が望めばあっさりと足を開く。望まなくても開く。

だが、綾弥は違った。

高等部からの外部入学生。全教科満点という成績とその美貌から直ぐに有名になった天野綾弥。

それがこいつだった。

帰国子女ということもあってか、全く俺たちテニス部のことを知らず、その所為か俺たちに何の先入観もなく1人のクラスメイトとして接してきた。

俺たちが学内である種特殊な存在だと理解した後もそれは全く変わらなかった。

そして、何事にも冷静沈着、クラスメイトにも何かと頼りにされる存在。

どこか近寄りがたいらしい俺とは違って気さくな綾弥は、いつのまにか俺と一般生徒のパイプ役のようになっていた。

だから、俺が生徒会長に就任した2年の秋には、当然のように綾弥が副会長になった。

既にその頃には俺と綾弥の関係は始まっていて、それからはこの生徒会室が俺たちの情事の場所になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちに偏見を持たない綾弥を俺はテニス部のマネージャーに誘った。

俺から誘うことなどめったにない。しかし、こいつならば…そう思ったのだ。

そして、それは間違いなかった。

元々、留学先のドイツではテニスをしていたという綾弥。嗜み程度だと綾弥は言っていたが、十分プレーヤーとしても通用する実力は持っていた。

だが、部活でテニスをするほどでもないとも言っていたから、マネージャーとして勧誘したのだ。

綾弥は俺の期待に十分過ぎるほどに応えた。誰もが認める有能なマネージャーとして。兄が大学でスポーツ科学を専攻しているらしく、トレーナーの役割さえも果たして見せた。

綾弥は俺のみならず、あの忍足からも信頼されるほどになった。

テニス部にとってなくてはならない存在に。

そんな綾弥だからこそ、言えたのだろう。

俺の女関係についてこいつは苦言を呈してきたのだ。

「あのさ…プライベートなことにまで口出ししたくはないんだけど。あんたの乱れた関係やめたほうがよくない?」

2年になったばかりのある日、こいつは部室で俺にそう言った。

部室には俺と綾弥の2人。

既に部長になっていた俺は綾弥と2人で間近に迫った都大会についての確認をしていたのだ。それがひと段落したところで上記綾弥の台詞となったわけだ。

それまでにも綾弥は呆れたように『この性欲魔人』などと言うことはあったが、ここまではっきり言うことはなかった。

「てめぇには関係ねぇだろ」

「それが関係あるんだよね…」

綾弥は溜息をつきながら言う。俺様に惚れたのかと揶揄えば、『馬鹿か、てめぇは』と凡そ女らしくない言葉が返ってくる。

「あんたに切られた女の何割かが私のところに来るのよ。なんとかしてってね」

綾弥はうんざりしたように言う。初耳だった。

「なんでお前のところに」

「私があんたに一番近い女って思われてるからでしょ」

それでも恋人とは思われていないらしい。無理もねぇ。凡そこいつは女らしくない。

いや、普通にしていれば普通に女なのだが、俺たちテニス部と接するときはその女らしさが消える。

男と女ではなく、ただ『友人』そう見える雰囲気になる。

まぁ…下級生の女どもには『綾弥様はそこらの男より数段男前』などと言われてはいるが。

「いい加減面倒臭いのよ。あんたの女関係の尻拭いは」

綾弥は再び溜息をつく。

「オトコノコには女には判らない性衝動とかあるでだろうから、すっぱりさっぱり女遊びやめろとは言わない。本当はめっちゃ言いたいけど。でもせめて学内の女の子はやめなよ」

「どこにそんな時間があるってんだ」

学校の授業、部活。プライベートな時間なんて殆どねぇ。

何よりもテニスに打ち込めるのは高等部までだ。外で女を見繕う時間があればその分はテニスに費やしたい。

大学に進めば、跡部の後継者としての仕事が増える。後継者であることも仕事も厭う気はねぇが…テニスからは離れざるを得なくなる。

「大体、学外で出会う女は仕事がらみ家がらみだ。そんなのに手ぇ出したら余計面倒なことになる」

ばれちまったら責任だの結婚だのって話になる。

「だったら…自分で処理してれば?」

「そんなこと出来るわけねぇだろ」

「……普通の中高生はやってるはずですが」

「俺様はやらねぇんだよ」

綾弥は呆れたように俺を見る。

不意に…それまで意識したことのなかった綾弥の美貌に意識を囚われた。

化粧など全くしていないのに艶やかな唇。どこか潤んだような瞳(後から聞いたら眠かっただけだと抜かしやがった)。

際どい話をしていた所為か、これまで女として意識したことなどなかった『女』の綾弥が目の前にいた。

「だったら…てめぇが俺の相手をしろ」

気づけば…俺はそう言っていた。

「なに…馬鹿なこと言ってんのよ」

綾弥は俺を驚いたように見る。だが、自分の言葉に驚いているのは俺のほうだった。けれど、どこかで俺はこいつを欲しがっていたんだと唐突に理解した。

「綾弥が相手してくれりゃ、俺は他の女で処理しなくて済む。そうすりゃお前の面倒も減るだろうが」

言いながら、逃げられないように、ソファに座る綾弥を追い詰める。

「馬鹿なこと言わないでよ。私はあんたに惚れてない」

「知ってるさ。お前は忍足に惚れてるんだろ」

「……」

俺の言葉に綾弥は目を逸らす。

「だが、あいつはお前のことをそうは思ってねぇ」

「…判ってる」

綾弥は苦しげに眉を寄せる。途端に綾弥の表情が女になる。

欲しい。そう思った。

「惚れてなきゃセックス出来ねぇわけじゃねぇ。惚れてなくても快楽はあるぜ」

背けられた顔の耳元で囁く。耳朶を愛撫するように舐めあげながら。

初めてだろう感触に綾弥の躰に震えが走る。物慣れない反応に北叟笑みながら、ジャージのファスナーを下ろし、胸に手を這わす。

「あいつには別に女がいる。お前が割り込む余地はねぇよな? 辛いんじゃねぇか」

綾弥を手に入れる為に、耳に言葉の毒を流し込む。愛撫の手は休めずに。

「俺を利用すりゃいい。快楽で忘れさせてやるぜ」

我ながら卑劣な手を使うと呆れつつも、今はこいつが欲しい。それだけしか考えられなかった。

「私は…あんたに抱かれても惚れたりなんかしない」

「誰もそんなこと望んでねぇよ。そっちのほうが都合がいい」

恋愛なんて面倒なだけだ。欲望だけ処理出来ればいい。

「…ここでするの?」

「今すぐお前を抱きたいからな」

既に俺の欲望は育ってる。綾弥を抱きたいってな。

「初めてなんだから…お手柔らかに」

顔を背けたまま、綾弥は言う。

「任せておけ。初めから快楽に溺れさせてやる」

それを実行する為に俺は綾弥に口付けた。

掌に吸い付いてくる、柔らかな白い肌。

未知の体験をすることに緊張している細い躯は俺の与える些細な刺激にも敏感に反応する。

一つ一つ丹念に綾弥の躰を愛撫し、調べ、快楽の源を暴き立てる。

俺の腕の中で快楽に踊れ、啼け、歌え。

「跡部…やだ…怖い…」

花弁が蜜に塗れ、吐息が甘く零れるようになると、綾弥は震えた。

未知の感覚…紛れもない性の快楽への恐怖に。

「大丈夫だ。俺に任せておけ」

綾弥の不安を宥めるように口づける。舌を絡め、唾液を絡め、吐息を奪い…ただ綾弥が与えられる快楽のみしか認識出来ないように。

「変…なの…跡部…」

明らかに感じ、上り詰めようとしている躰は小刻みに震える。

「こういうときは名前で呼ぶもんだぜ、綾弥」

「景…吾…」

いつもとは違う声の色。いつもはない、女の艶を纏った声。

それは俺の雄を強く刺激した。

「……そろそろ行くぜ」

俺にとってもこの展開は予想外の出来事だったから…避妊具なんて準備してなかった。

いつもの俺であれば避妊具なしでの性交は絶対にしない。遊びの女に、妊娠なんてされたら面倒だからな。

だが綾弥なら、もしそうなっても構わない。何故かそう思った。

そして、何の隔たりもなしにこいつを味わいたかった。

綾弥の中は初めてということもあって狭くきつかった。

綾弥自身も痛みを感じているようで、眉を寄せ躰が受けた痛みの大きさをその表情が物語っていた。

口付けを与え、秘められた花芽に刺激を与え、綾弥の強張りを解く。

綾弥の中が俺に慣れたところで緩やかに律動を始める。ゆっくりとだが確実に綾弥に快楽を与える為に。

破瓜の痛みに歪んでいた綾弥の表情がやがて快楽に染まっていく。

切れ切れに漏れる綾弥の甘い吐息。縋るかのように俺の背に回された綾弥の細い腕。

全てが俺の雄を煽り、俺を追い立てた。慣れているはずの俺が、まるで未経験のチェリーボーイであるかのように…綾弥を貪った。

初めての交わりで綾弥は達し、これまでにない悦びの中で俺は精を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めての経験から俺が飛ばしすぎた所為で、綾弥は動けなかった。

俺は執事に綾弥の自宅へ連絡を入れさせ『テニス部の打ち合わせが長引いた』と称して綾弥を俺の家に泊めた。両親が取引先の招待で海外へ出かけていたことも幸いだった。

対応に出た綾弥の母親はそれまでの付き合いから俺を信頼していたし、『きちんとした大人』である執事が連絡したこともあって不審は抱かず反って恐縮していたほどだった。

しかし、綾弥の兄は違った。

綾弥には4つ年の離れた兄がいて─この兄が所謂シスコンというヤツだ。

俺たちに『綾弥の兄ちゃん、ちょっと危ないんやないか』とまで言われるほど綾弥を溺愛していた。

その日も綾弥の携帯に電話をしてきて『遅くなっても兄さんが迎えに行くから、外泊なんて辞めなさい』と言っていたほどだった。

流石に綾弥は処女喪失した日に家族に顔を見られるのを恥ずかしがり、『何時になるか判らないし、もう跡部のお宅で色々準備していただいてるから』と兄を宥めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

避妊していなかったことを綾弥に責められ、俺は直ぐに主治医にアフターピルを処方させた。

「高校生で妊娠は拙いし、跡部だって遊びの相手が妊娠したら困るでしょ」

綾弥は俺にそう言った。

俺たちの関係が始まってからまもなく、綾弥はピルの服用を始めた。家族には『テニス部の合宿や大事な試合に生理が重なると嫌だから』と言って婦人科で処方してもらったのだ。

「本当はIUDつけようと思ったんだけど…お医者様に出産経験がないと難しいって言われたの」

綾弥はそう言った。IUDは所謂避妊リングのことだ。

俺だってゴムはつける。妊娠を望まない関係でゴムをつけるのは当然のことだし、最低限の礼儀だと俺は思ってたからな。

だから、態々そこまでと思わないではなかった。

「妊娠することでのリスクは女のほうが大きいんだもの。女の側がより気をつけるのは当然じゃない」

綾弥は平然としてそう言った。

「それに、無節操な下半身をお持ちの跡部様はどこで盛るか判りませんから」

クスっと笑う綾弥に、俺がその期待に応えてその場で押し倒したことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして始まった俺たちの関係は今も続いている。

授業と生徒会とテニス部。俺と綾弥の時間はほぼ同じだけの制約を受け、自由な時間など殆どない。

他のやつらのように学校帰りにホテルにしけこむなんて時間はねぇ。

互いに学生の身だから、綾弥が外泊出来る日も殆どない。綾弥の家はそれなりにいい家で、母親は専業主婦だから始終家にいる。外泊などもってのほかだ。

だから、自然、俺たちのセックスはこうして校内になる。ごく稀に休日にホテルに行く程度か(ラブホテルなんてもんじゃなく、普通にシティホテルだがな)。

それでも1年も抱き合っていりゃぁ、互いの躰のことはよく判る。ましてや綾弥の躰を仕込んだのは俺だ。

こいつの躰は俺に一番に反応する。俺にとっても一番具合がいい。尤も綾弥は俺以外の男は知らねぇんだが。

綾弥を手放さない為に、綾弥が俺の腕から逃れられないように、綾弥の躰を快楽で縛り付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の腕の中で綾弥は普段のこいつからは考えられないほど『女』になる。

その姿を知るのは───俺だけだ。

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