原作開始を回避した【完結】
原作開始を何とか回避したくてジタバタ足掻いている工藤有希子です。
苦節30ウン年。なんとかなりそう。というか、何とかなったっぽい。
結論から言えば、新一はコナン化することもなく、黒づくめの組織には関わることなく済んだ。
そして、TVでは、黒の組織の壊滅報道がなされている。現在、新一は高校2年生の秋。そう、原作開始前に黒の組織は壊滅したのだ!
やったぁ!
うん、新一が中学のころから、『あれ? 原作から遠ざかってない?』と思うことがちらほら起きてはいたんだよね。
それに気づいたのは小五郎ちゃんの事務所にちょっとした用事があって顔を出したとき。そこにいるはずのない人がいたんだよ。
当時、原作開始3年前。まだ小五郎ちゃんと出会っていないはずのトリプルフェイスこと降谷零と死んでいるはずの松田陣平、諸伏景光、萩原研二が! 伊達航は当時まだ生きていたけど、知り合いという描写はなかったはず。
小五郎ちゃんは伊達航を後輩だと紹介してくれて、その伊達航からの縁で警察学校同期組と知り合いになったらしい。伊達航は小五郎ちゃんが警察を辞めた後に目暮警部からの紹介で知り合ったそうだ。
それで、帰宅後に優作に『小五郎ちゃんのところでイケメンに会ったわ』とハート付きで言えば、ヤキモチ妬きな優作は彼らのことを調べてくれた。そこで彼ら全員の所属を知ることが出来た。尤も公安所属で潜入調査中の降谷零と諸伏景光は調べられなかったんだけど、優作の伝手を使っても判らない時点で、彼らが隠された部署所属ということは想像がついたよね。
だから、それからは出来るだけ積極的に新一を彼らに関わらせた。当時新一は警察官か探偵かで将来を迷っていたから、現職の警察官から話を聞くのはいいことだって促して。彼らも後輩になるかもしれない新一のことを邪険にはせず、寧ろ可愛がってくれた。捜査一課の伊達君もだし、降谷君も新一の優秀さをかなり気に入って、あれこれと教えてくれていた。時には事件の情報も守秘義務に抵触しない範囲で教えてくれて、新一が報道された情報から展開する推理に舌を巻いたらしい。それからは伊達君と降谷君と諸伏君は熱心に警察官になることを勧めてくれていた。
新一も誇りをもって職務に当たっている彼らに憧れを抱いたようで、将来の夢が警察官になることに随分傾いていたように思う。
原作展開から遠ざかっていると感じたのはそれだけではない。
英理のところで事務員として宮野明美が働いていたのだ。名前は違っていたけど、彼女がデスクに飾っていた写真は宮野志保と一緒に写っているもので、彼女は宮野志保のことを妹と言っていた。彼女は降谷君の紹介で英理のところに勤めることになったそうだから、公安で保護されて一時的な仮の身分を与えられたのだろう。だから、私も出来るだけの協力ということで一見して彼女が宮野明美とは判らないようにした。別に変装させたわけじゃない。メイク術で印象を変えただけだ。そこは元女優だし、黒羽盗一から変装術を教えられていたからね。
「雅美ちゃん、メイク合ってないわ! 私が教えてあげる」
そう言って、灰原雅美こと明美ちゃんに変装メイクを伝授した。印象ががらりと変わって、英理たちには驚かれたけど、いつ組織にバレるかと恐れていた明美ちゃんや降谷君には感謝された。まぁ、私は何も裏事情は知らないふりで、可愛くなった雅美ちゃんに喜んでるふりしておいたけど。
なお、雅美ちゃんは哀ちゃんという妹と同居しているそうだ。ということは、宮野姉妹は組織から逃げられたのだろう。原作開始前に志保ちゃんが組織から抜けたのならば、恐らくAPTX4869は開発されていない可能性が高い。つまり、新一がコナン化する可能性がかなり低くなったということだ。
それが原作開始2年前のことで、明美ちゃんが英理のところに来てから暫くして、降谷君と小五郎ちゃんから諸伏君を匿ってほしいと依頼を受けた。
優作が警察の協力者として色々やっていたから話が回ってきたのだろう。優作と私のコネクションというのはかなりの多方面に亘っていて、それを小五郎ちゃんは知っていたし、降谷君も把握していたのだと思う。だから、諸伏君を守るのに丁度いい隠れ蓑になると思われたのかもしれない。
そこで初めて降谷君と諸伏君は自分たちの所属を明かしてくれた。まだ彼らはNOCバレしていなかったけれど、どうやら諸伏君のバックアップ周辺がきな臭い。だから先手を打って諸伏君は組織の任務中に死亡したことにして、潜入解除するらしい。当然私たちにはどんな組織かということは明かされなかったけど、潜入中であることと正体がばれないように匿ってほしいという最低限の情報は教えてくれた。勘の鋭い新一も諸伏君に気付くだろうという降谷君の判断で私たちと同様に事情を明かされた。当然、危険性も説明され、安全に対しては最大限の配慮をするとも言われた。
優作は新一を弟のように可愛がってくれている彼らのことをとても気に入っていたし、その彼らが日本のために日々危険と隣り合わせで頑張っていることも知っていた。だから、彼らの要請を受けた。私も反対しなかったし、新一も同じだ。寧ろ新一は憧れの降谷君に頼ってもらえたことが嬉しかったらしくて、力強く頷いていた。
原作の新一なら、その組織に興味を持ち首を突っ込みかねなかったけれど、今の新一は好奇心は場合によっては身を亡ぼすということを知っているから、与えられた情報以外のものは欲しなかった。ただ、新一は『お兄ちゃんが出来る』と喜んでみせて、緊張していた諸伏君はそれで肩の力が抜けたらしい。
諸伏君は碧川燿という偽名で優作の秘書として同居することになった。当然、変装メイクは私が教えて、燿君が諸伏君とは判らないようにした。実際に同期の松田君も萩原君も伊達君も彼が諸伏君だとは判らなかった。
松田君たち同期3人は警視庁内の公安協力者となっているらしく、諸伏君と降谷君の所属と大まかな状況は知っているらしい。情報量としては私たちと大差はないようだけど。
更に、燿君や降谷君との連絡係ということで風見裕也も紹介された。
私は何もしていないのに、原作のキャラクターとしては死んでしまった人たちが生きている。これって、私以外に誰かが救済しているということだろうか? それとも原作では主人公だった新一が色々変わってきているからバタフライエフェクトで原作展開とは違っているということなんだろうか?
もしかしたら……小五郎ちゃんは私と同じなんじゃないかなんて思いもした。彼が積極的に降谷君と関わっているように思えたから。だけど、その確証はない。ただ、小五郎ちゃんがただの探偵ではなく、公安の協力者であるのは間違いではない気がする。
正直なところ、降谷君の同期の警察学校組や宮野明美といった原作で死んでしまう人たちの救済というのは全く考えていなかった。
私には新一が原作のような工藤新一にならないようにするだけで精一杯だったから。死ぬことを知っていても助けようとはしないことに罪悪感を感じなかったといえば嘘になるけれど、私にとって大切なのは新一と優作の2人だけだ。
多少範囲を広げても精々親友の英理と幼馴染の小五郎ちゃん、その2人の愛娘である蘭ちゃん。新一と優作、毛利家の3人、この5人さえ無事ならばそれでいい。そして、新一がコナンにならなければ、英理たちが危険な目に合うことは避けられると考えていた。新一がコナン化して『名探偵コナン』が始まらなければ、彼らの安全は守られる。
ただ、新一や優作は探偵になってしまえば、推理を披露するようになれば危険が付きまとうことになるから、そうならないように必死で立ち回っていたのだ。
けれど、一度だけ、工藤家以外のためにも動こうと思った。それが、変装メイクの師であり、優作の友人でもあり、新一の親友の快斗君の父でもある黒羽盗一の事故死阻止だ。
尤も、これは何かをしたわけではない。というか私が動く以前に既に誰かが動いていたようだ。多分、私と同じような存在が。
彼の死亡がいつだったのかははっきりとは覚えていない。何しろ前世で『まじっく快斗』を読んだのは1回か2回くらいだったし、既に前世から30年以上が経っている。『名探偵コナン』だって大まかな流れと主要人物くらいは覚えていても細かいことまでは覚えていない。
怪盗キッドの活動に8年間空白期間があることは覚えていたから、新一が9歳のときに起こるのだろうと予想を付け、新一が小学校に入ったころから気を付けていた。
けれど、そこで気づいたのだ。新一が小学校に入るころには既に怪盗キッドが出現しなくなっていたことに。怪盗キッドには優作も因縁があり、推理ショーをせずに済むし殺人事件が起こるわけでもないから、予告された場所に赴いて対決したりしていた。けれど、新一が幼稚園に入って間もなくの対決を最後にキッドの予告状は届かなくなっていた。
そして、新一が8歳になったころ、怪盗キッドは正式に警察に対して『引退宣言』をしたのだ。それと同時に優作がICPOの友人から世界的な規模の組織が1つ壊滅したという情報を得た。それがキッドと因縁のあった組織かどうかは判らないけれど、キッドの引退宣言と併せて考えれば、そういうことなのではないかと思う。
初めて家族以外のために動く決意をしたけれど、何もしないままに黒羽盗一は救済されていた。一応、その後も注意していたけれど、結局何事も起こらず、マジシャン黒羽盗一は今も世界中のステージで活躍している。
更にもう1人の存在が、彼と出会ったことが私に、私以外の転生者たちの存在を確信させた。転生者に出会ったことはないけれど、恐らく私のように『名探偵コナン』を知っている存在はいるのだろうと思う。そして、その存在は私とは違って積極的に救済に動いていたのだろう。
新一が中学2年の時、彼と出会った。
それは新一にとっては大変な事件だった。その事件によって新一は将来の可能性を1つ潰されたのだ。
その日、新一は私と一緒に買い物に来ていた。米花町から少し離れた場所にあるショッピングモール。丁度季節の変わり目で新たなシーズンの新一の服を買うことが目的だった。成長期の新一はワンシーズンで服が合わなくなる。我が息子ながら何を着ても似合うから、私は張り切って新一の服を選んでいた。新一もそんな私に苦笑しつつ文句を言わずに付き合ってくれていた。なんて出来た息子!
一通り買い物も終わり、レストランで一服しているときにそれは起きた。東都では日に数件起こると言われる殺人事件が。
ご遺体が発見され叫び声が上がっても新一が原作のコナンのように走り出すことはなかった。新一は捜査に首を突っ込むことなく、現場に居合わせた一般人として極当たり前の行動を取るだけだった。通報されてやって来た警察官の指示に従っていた。
けれど、1人指示に従わなかった自称探偵の男のせいで、新一は怪我をすることになった。
自称探偵の男はまるで原作の新一のように捜査に加わり、そして推理ショーを始めたのだ。犯人と被害者の関係を、犯人の心情を推量して暴露し、彼らのプライバシーを全く無関係の赤の他人がいる場で晒し上げたのだ。
そのことに犯人は逆上した。このとき現場にいた警察官は無能と罵られても仕方がないと思う。逆上した犯人が自称探偵の男に襲い掛かり、当然探偵の男は抵抗する。それを止めようとする警察官を振り切り、なおも探偵の男を襲う。逃げた探偵の男が向かった先には私たちがいた。咄嗟に新一を庇ったけれど、結果としてそれは意味を為さなかった。
犯人は追いついた探偵の男に襲い掛かり、探偵の男は犯人を突き飛ばす。突き飛ばされた犯人は新一にぶつかり、持っていたナイフは深々と新一の大腿部に突き刺さった。逆上していた犯人は全く無関係の少年に傷を負わせたことで正気に返り、そこを警察官に取り押さえられた。
新一の傷はかなり深く、新一は蹲った。直ぐに救急車が呼ばれ、私たちは病院へと搬送された。取り乱した私は女性警察官に付き添われ、連絡を受けた優作が来るまで、ただ狂ったように新一の名を呼んでいたらしい。
幸いにして新一の傷は太い動脈を傷つけてはおらず、命に関わるようなことはなかった。けれど、神経を傷つけていた。医師からは日常生活を送る分には何の問題もなく、趣味であればスポーツも可能と言われた。趣味であれば可能ということはアスリートになるのは無理ということだ。新一の夢はJリーガーだった。中学生の全国選抜にも選ばれ、将来を嘱望されていた。けれど、この事件によって、新一の夢は断たれたのだ。
世界に誇るマルチ作家である工藤優作と伝説の女優藤峰有希子の愛息を襲った悲劇はマスコミの格好のネタだった。新一の年齢を慮って実名こそ出なかったけれど、連日マスコミはこの事件を取り上げた。自称探偵の暴走による悲劇として。そのことによって自称探偵は刑事罰こそ受けなかったものの社会的制裁を受けた。
でも、私たちにはそんなことはどうでも良かった。自称探偵は己の軽率な行動によって1人の少年の将来が奪われたというのに謝罪にも来なかった。犯人だった男性からは警察を通して真摯な謝罪があったというのに。ああ、勿論、犯人や探偵の男を制御できなかった警察官からの謝罪もあった。
沢山の人がお見舞いに来てくれた。蘭ちゃん、英理、小五郎ちゃん、阿笠博士、快斗君と青子ちゃん、クラスメイトやサッカー部の部員。彼らは新一のショックを思ってサッカーのことには触れずにいてくれた。けれど何処か腫れものを触る扱いに新一は悲しそうに寂しそうにしていた。
新一と親しくしてくれている松田君、萩原君、伊達君もお見舞いに来てくれた。そして、彼らは現場にはおらず関係なかったのに警察の不手際だと謝罪してくれた。当時はまだ潜入捜査中だった降谷君と諸伏君も人目につかない時間帯に来てくれた。そして同じように謝罪してくれた。
新一は気丈に振舞っていた。Jリーガーになる夢は叶わなくなったけれど、自分にはまだ他の夢があるから大丈夫だと。私も優作も無力だった。ただ、新一の傍で見守ることしか出来なかった。
そんなときに新一の支えとなってくれたのが当時研修医だった浅井成実君だった。彼は全く無関係の人間だったからこそ、新一が家族や親しい人には話せないことを聞き出すことが出来た。彼に吐露することによって、新一は心の整理を付けられたのだ。そうして漸く、新一は私と優作の前で涙を流し悔しいと泣くことが出来たのだった。
「なんであの探偵はあんなことしたんだろう。あの探偵が犯人の彼のことを、殺された彼の友人のことをあんなふうに晒さなければ、彼は逆上なんてしなかった。俺に怪我をさせて罪を増やすこともなかったのに。俺は探偵になりたいって思ってるけど、あいつみたいにはなりたくない」
新一はそう言った。新一は原作の『工藤新一』とは全くの別人になっていた。Jリーガーという夢を代償にして。
自称探偵が己の好奇心のままに行動し、自己顕示欲のために行なった推理ショーで全く関係のない自分が被害を受けた。そのことで新一は常々私や優作が言っていた『仮令犯罪者であっても相手の心を想像し思い遣らねばならない』ということを身を以て知ったのだ。
その後、新一は悲しみも悔しさも吹っ切って、前へと進み始めた。そんな新一の許を時折成実君が訪ねてきてくれて、彼は松田君たちと同じく、兄のような存在へとなっていった。
新一が退院するころには、原作の修正力も随分弱くなっていたように思う。
組織に宮野志保がおらず、肝心のAPTX4869を作れる存在がいない。しかも、新一が出会うはずのない人々と出会っている。10億円強盗や『ピアノソナタ「月光」殺人事件』も起きようがない。灰原哀も存在しえない。原作において死ぬはずだった人物たちが生きている。毛利蘭と工藤新一は両片想い状態ではなく、蘭ちゃんには新一ではない恋人がいる。最早、原作の流れにすることは難しくなっていたのかもしれない。
けれど、修正力によって宮野志保の代わりになる存在が生まれないとは限らない。油断は出来ない、そう思い気を引き締めた。
そこに更に原作から遠ざかることが起きた。工藤夫婦のアメリカ移住だ。
「ハリウッドの知り合いがアメリカへの移住を勧めてきているんだが、どう思う?」
優作が私と新一にそう告げた。優作の作品は世界中で翻訳され、様々な国で出版されている。中でもド派手なアクションが展開される一部シリーズはアメリカで映画化され、人気を博していることもあって、ハリウッドからシナリオを手掛けないかというオファーがあったらしい。そして、そのためにアメリカに来ないかと誘われたのだ。君に日本は狭すぎるだろう? そんなふうに言われた。
その言葉にはカチンときた。色々な分野で『〇〇が活躍するには日本は狭すぎる』なんてことはよく言われることだけど、それって日本を凄く見下していると思う。確かに科学やスポーツにおいては日本よりも海外のほうが環境が整っていることも多い。けれど、日本にいるからといって活動が制限されるわけではない分野だってある。作家業なんてその最たるものだと思う。
大体、優作の作品の本当の良さは日本語であって初めて理解できるものだ。日本語は世界で一番美しい言葉だと思っている。日本語の語彙の多種多様さは世界に類を見ないと思っている。その美しく多様性のある言語を駆使して優作や日本の作家は作品を生み出す。海外の言語でも韻律や同音異義語もあるだろうけれど、日本語ほどではないだろうと思っている。世界中の言語に精通しているわけではないから、想像でしかないけれど。
「父さんがアメリカに行くなら、俺は日本に残るよ。俺は日本が好きだから、国外に移住とか考えられない。期間を決めて一時的にっていうならまだしも移住はない」
優作の問いにそう答えたのは新一だ。きっぱりとアメリカ行きを拒否する。
「新ちゃん、優作はアメリカに移住するつもりなんてないわよ。決めてるなら、勧められたなんて言わずにはっきりと自分の意思として『アメリカ移住を検討している』って言うはずだわ」
優作は単にこういう打診があったと告げただけだ。でも多分、新一が見聞を広げるために行きたいと言えば、新一の大学卒業くらいを目途に新一の留学に付き合うくらいの感覚での移住を検討しようと考えていたのだと思う。
「流石有希子。私のことは何でもお見通しだね」
「伊達に16年あなたの妻やってないから。私も今の新ちゃんが留学するメリットはないと思うわ。寧ろ日本で学ぶことが今の新ちゃんには大切だと思う」
今新一の周囲には頼りになる大人が沢山いる。その彼らと交流を深めることで、新一は色々なことを学び吸収しているのだ。
「そうだね。では移住の話は断ろう」
こうして工藤家の渡米話はなくなったのだった。
原作開始まであと2年、こうしてまた一歩、原作から遠ざかることが出来た。
「暫くこちらを離れることになります」
新一が高校生になった夏、燿君こと諸伏君がそう言って工藤家を出ていった。詳しくは守秘義務もあって話せないけれど、任務が大詰めを迎えたからと。
そう、このとき『黒の組織』の壊滅作戦が始まったのだ。そのときは判らず、後日組織壊滅報道がなされてからあれはそういうことだったのだと気付いたのだけれども。
報道によれば、組織壊滅作戦は日本警察主導の許、イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・スペイン・ロシア・インド・中国・アメリカの諜報機関が協力して行なったらしい。優作も国際的な巨大犯罪組織の壊滅に興味を持ち、作戦協力していたICPOの知り合いに話せる範囲でいいからと取材していた。その結果、原作とは違って、アメリカからFBIの参加はなかったらしい。飽くまでもFBIは国内の捜査機関だから当然と言えば当然だった。
そういえば、雅美ちゃんこと明美ちゃんや諸伏君からライ(諸星大・赤井秀一)らしい人物の話は聞いたことがない。諸伏君が話さないのは当然として、ほぼ一般人の明美ちゃんなら、蘭ちゃんや私や栗山さんとの女子トークでポロっと恋バナとして存在を匂わせようなものだけどそれもなかった。もしかして、赤井秀一はこの世界だと黒づくめの組織には関わっていなかったのかな。関わっていたとしても国内限定だったのかも。
まぁ、原作開始阻止! と思っていたから、新一が小学1年生のときの『さざ波回』は起こさないように一家全員でタヒチに行ってピエロのお兄さんこと赤井秀一との出会いはなかったけど、もしかしたら、それもあって原作から離れていったのかもしれない。
組織が壊滅し、残党掃討作戦も終わり、事後処理も片付いたからと、燿君は諸伏景光へと戻り、警察官に復帰した。それと同時にこれまでは滅多に訪れなかった降谷君も日中にも顔を見せるようになった。
「長く潜入していたから、暫くは休めと長期休暇を無理やり取らされました」
そう言って降谷君は我が家を訪れ、存分に新一で遊んでいた。日本が大好きで頭の回転も良く推理が得意な新一のことを降谷君はとても気に入っていて、弟のように可愛がってくれている。同期の友人たちの中で降谷君はその役目ゆえに新一との交流が一番浅かった。それを埋めるかのように降谷君は新一を構い倒していた。ついでに警察庁への勧誘をしまくっていたけど。でも現場捜査官になりたいという新一に毎回断られていた。
黒づくめの組織が壊滅したとはいえ、まだ気は抜けない。そう思って迎えた、新一高校2年の1月13日。原作で新一がコナン化する日。
その日は蘭ちゃんの都大会優勝を祝って、工藤家・毛利家でトロピカルランドへとやって来た。そして、何故か宮野姉妹(組織壊滅によって本来の名前に戻った)と成実君、降谷君はじめ警察学校同期組、更には伊達君の奥さんのナタリーちゃんも一緒。総勢15人という大所帯になった。
ジェットコースターでは原作でもあった殺人事件が起きたけれど、そこは警察官組の中で最も階級の高い降谷君と捜査一課の伊達君が仕切り、素早く対応してくれた。新一も優作も推理を展開することなく、降谷君と伊達君、やって来た目暮警部に犯人と動機を伝えていた。
なお、当然ながらジェットコースターに怪しい黒づくめの男2人はいなかった。
その後は気を取り直してとランドの他の施設を回って、子供返りしたような警察学校組と新一を見守りつつ(蘭ちゃんと志保ちゃんは何処か呆れたような眼をしていたけど)、存分に遊園地を楽しんだ。なお、現在蘭ちゃんと志保ちゃんはとても仲が良くて、園子ちゃんを含めた3人で遊んでいるらしい。志保ちゃんも保護された当時に比べると笑顔が増えて明るくなった。そんな志保ちゃんを巡って恋の鞘当てが起きているみたいだけど、そこは保護者枠で父親化している小五郎ちゃんと自称妹となった蘭ちゃんが目を光らせている。というか、あなた方志保ちゃんとは10歳近く歳が離れているでしょうに! お巡りさん、こいつらです! ってこいつらが現職お巡りさんだった。取り敢えず恋の鞘当てに新一が参戦する気配はない。頭の良い志保ちゃんは新一の良い話し相手になっていて、あれは最早男女関係なく互いが良き理解者で好敵手同士といった感じだろう。
存分に皆楽しんで、(ジェットコースター殺人事件以外)何事もなくその日は終わった。翌朝突然新一が幼児化していることもなく、どうやら原作開始は完全に回避できたと判断してもよさそうだった。
30数年間張りつめていた気が抜けて、知恵熱ではないけれど数日寝込んだのは仕方がないと思う。
ただ、新ちゃん、『遊び疲れて熱出すって、母さんガキか。心はガキで体はオバサンってことかな』とか! そんな口の悪い子に育てた覚えは……あ、私の口の悪さのせいかもしれない。尤も優作が『母さんに失礼だろう』と拳骨食らわせて叱ってくれたけど。
新一はコナンにならず、黒の組織は壊滅した。そして、新一は探偵ではなく警察官となった。地方公務員試験を受けての警視庁入庁だったから、降谷君がとても悔しがっていた。そんな降谷君に伊達君は勝ち誇った顔をし、松田君と萩原君は刑事課ではなく警備部(機動隊)に勧誘して断られ、再度伊達君に勝ち誇った顔をされていた。うん、同期組大人げない。そんな先輩たちに新一は乾いた笑いを漏らしていた。
完全に原作世界から離れたせいか、東都の犯罪率は低くなった。毎日のようにどこかで起きていた殺人事件は減り、GWや夏になればどこかが爆破されていたのもなくなった。
ああ、これで、新一と優作は守られたのかな。勿論、警察官である新一は常に危険と隣り合わせだけど、原作のコナンの比ではない。自称探偵として自分の責任によって危険に巻き込まれることもなくなった。
漸く安心できる。
新一も独立したこともあって、私は晴れ晴れとした気持ちで、優作との第二の新婚生活を楽しむことにしたのだった。
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原作修正力さんは成り代わり主と関係のないところで起こる原作改変(救済)によって生存値を削られまくって、肝心のコナン化当日には息絶えていたらしいです。
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