カヌーン魔導王国

試験の多い魔導王国王家

エピローグ 国王と王妃と第一側室

5人の王子のうち3人が試験に不合格となった事実に国王ザイームは溜息をついた。

王女4人は全員試験に合格し、それぞれ降嫁先も決まり、婚約者とは良好な関係を築いている。試験に合格した第一王子と第二王子も同様に、兄弟仲もよく、伴侶との関係も良好だ。

合格出来なかった3人の王子は国王にとって不本意な関係の下に生まれた子供たちだ。他の6人と同様に愛情を注ぎ、接してきたつもりではあったが、やはり愛妻である王妃サダーカと信頼する第一側室ミサークの子らに較べれば、蔑ろにしていた部分はあるかもしれないと反省しきりだった。

ザイームはサダーカと幼いころから婚約を結び、良好な関係を築いていた。政略で結ばれた婚約ではあったが、二人は互いに恋情を懐き、それはやがて愛情へと変わった。相思相愛の理想的な婚約者はやがて王国の安寧を齎す相思相愛の理想的な王太子夫妻となった。

しかし、そんな二人に悲劇が襲った。王国を流行り病が襲い、サダーカが罹患した。そして生死の境を彷徨ったサダーカは命を繋ぎとめた代償として、子を望めなくなったのだ。

年老いた先の侍医に変わり着任したばかりの宮廷侍医にその診断を告げられた時、ザイームは王太子位を辞することを決意した。王位は既に後継を得ている弟に継がせればいい。

しかし、数々の試験に合格していたザイームは理想的な国王となると見做されており誰もが彼の即位を望んだ。サダーカは離縁し、子を得られる妃を娶るべきだとザイームを説得しようとした。けれどザイームは頑なにそれを受け入れなかった。

そんな時に某伯爵から側室を娶ってはどうかとの提案が為された。サダーカは王太子妃として国民に慕われているし、ザイームにとってはかけがえのないパートナーだ。だったら王家の血を繋ぐためと割り切り、側室を迎えてもいいのではないか。子を望めぬ王太子妃に閨は負担になるだろう。王太子の欲を吐き出すためにも王家の血を繋ぐためにも側室は必要だと。

これには様々な貴族家が賛同した。これまでの国王は側室を娶ったことはない。けれど、王家の血を繋ぐためには必要な措置だ。側室は次代の王を産む。それはつまり外戚として権力を持てる可能性が生まれたということだ。

そうして選ばれたのがミサークだった。ミサークは最初に側室を提案した伯爵の娘である。娘を側室にするために提案したのだろうが、その程度の下心はどの貴族にもあるから特に問題視はされなかった。

しかし、ザイームがミサークを選んだ理由はサダーカからの推薦があったからだった。ミサークはサダーカの学院時代からの友人だったのだ。彼女であればザイームを任せられるとの確信があり、サダーカはミサークを側室にと望んだのだった。

ミサークが側室となってから3か月後にはミサークは妊娠した。妊娠しやすい日を選んでの房事だったため、結果が出るのは早かった。そして第一王子カサムが生まれた。

だが、この時には既に王宮侍医とミサークの父伯爵の罪が暴かれていた。ミサークの懐妊から半年後、王太子妃サダーカが子を宿したのである。たとえ子が出来ないとしても愛し合う二人が閨を共にするのは当然だった。そして、その愛は実を結んだのである。

当然、サダーカが妊娠できない体になったと告げた王宮侍医は取り調べを受けた。その結果、ミサークの父伯爵に買収され、虚偽を告げていたことが判明した。

全ての罪が暴かれたころ、サダーカは第二王子カルフを出産した。正当な王位継承者が生まれたのである。

父の罪を知り、王位を継承するサダーカの子が生まれたことに安堵したミサークは、己と父に毒杯を賜るよう願った。王家を謀ったのだ、それが妥当だと。第一王子に関しては王籍から抜き、神殿に預けるように進言した。

しかし、王太子妃サダーカはそれを拒んだ。第一側室であるミサークはサダーカの良き相談相手であり、夫であるザイームとはまた別の意味での心の支えとなっていた。そんな彼女を死なせることなど出来なかった。

結局、サダーカの不妊を偽りはしたがそれを真実にするために薬を盛ったり害しようとはしていなかったので、罪は多少減じられた。ミサークの父は強制隠居し、ミサークの兄が爵位を継いだ。侍医は医師の資格を剥奪され、王宮侍医を解雇された。表沙汰にすれば様々な影響の大きい事件だけに、内々に処理されたのだった。

だが、この側室の存在はカヌーン王家に余計な面倒を招くことになった。それが第二側室だ。隣国の押し付けによりなし崩し的に第二側室を認めることになり、国王ザイームのうっかりにより愛妾まで作ることになってしまった。

幸いにしてカヌーン王家の特殊な試験制度のおかげで愚かな王子たちは排除出来たが、この世代の混乱の原因は全てザイームの間抜けさによるものだと守護神たちは確信していた。

そして、如何に婚姻に制約を設けようとも、結局後嗣の問題が解決しないことには円満な一夫一婦制は維持できないのではないかと神々は考えた。

元々カヌーン魔導王国の副主神ウィラーダは結婚と出産の神であり、一夫一婦制を望んでいる。だから、カヌーン王家で初めて側室を娶ったザイームには不満があった。けれど、側室を娶る原因となったのは後嗣を得るためだ。

ならば、国王・王太子・貴族家当主(次期当主も含む)夫妻には確実に子が生まれ、成人するという加護を授ければいいとウィラーダは考えた。そうすれば、後嗣問題で側室を求めたり離縁して再婚するなんてことも防がれる。ウィラーダの望む一夫一婦制での長く円満な夫婦関係構築が可能になるはずだと女神は考えた。

国王ザイームの治世の終盤、カヌーン魔導王国の王家及び公爵家には加護が与えられた。それは夫婦の間には必ず1人以上の子が生まれること。その子供は健やかに成長し、成人すること。更に両親の美点を受け継ぎ、家門の固有魔法を継承すること。

王家と6公爵家に限定された加護とは言え、この加護によりアクバラー王国時代に起こった様々なトラブルの多くが回避されることになったのである。

この加護を知った特殊法監督局では『うちの守護神様たち、過保護じゃね?』なんて会話が交わされたとか。

ともあれ、法律が多く王家に試験が多いカヌーン魔導王国は、過保護な年若い神たちの実験場的な加護与えられまくりな国となり、長く続いていくのである。

 

意味を決めて名前を付けたら、王子全員『カ』で始まる名前になったうえ、真面な王子は3文字、阿呆な王子は4文字になった…。偶然とはいえ、こんなこともあるんだなぁ(笑)

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