無事、お引越しが完了しました。工藤優希改め山城未耶弥10歳です。
現在新たな
「ほんに
本丸一の好々爺だった三日月はほわほわと笑っています。惨状派ラスボスなんて風評被害の激しかった三日月ですが、我が本丸では燭台切に続いての太刀2振目の古参刀剣として皆を見守るおじいちゃんポジションでした。ほわほわおっとりとして可愛いおじいちゃんでした。怒らせると誰よりも怖いし、いざというときには1000年を超える古刀らしい老獪さを見せていましたが、何もなければほわほわ爺でした。縁側でお茶飲んで草餅食べてるのが本当に似合う爺です。
「本当にね! ああ、僕の姪っ子がこんなにも可愛い」
ニコニコと笑うのは燭台切。我が本丸の初太刀として、歌仙・薬研と共に本丸運営の中心にいた彼は多くの本丸と同じように本丸のオカンでした。見た目は夜の帝王なのにね! 長船派って謙信景光以外は歌舞伎町で天下取ってる系外見なのに、ギャップが凄かったな。燭台切が口説くのは女性じゃなくて野菜で、般若は女性じゃなくて骨董品口説いてたからな。
歌仙はそんな三日月や燭台切に何も言わず、ずっと私の頭を撫でています。うん、摩擦熱で禿げそう。
でも一番の問題は一期でした。さっきからずっと無言で私の写真を撮ってます。薬研や前田を隣に配置してデザートあ~んとかさせてました。ブラコンを拗らせている一期にしてみれば、今の私は粟田口の妹刀みたいな感じなのでしょう。本丸についたときから一眼レフ首にかけっぱなしです。
「ねぇ……家族団欒じゃないよ? ミーティングだよ! これからの色々を確認しなきゃいけないんだから! こんのすけ!!」
このままでは埒が明かないと、こんのすけを呼び出します。流石に前世のこんのすけは既に廃棄処分となっているので、新しいこんのすけです。尤も新しいのはボディだけで中身は糟糠の妻的な長年連れ添ったこんのすけですが。なお、
「はい、主様!」
ポフンと白い煙とともに現れた我が家のこんのすけは、他の本丸に比べると体が小さい。子ぎつね仕様らしい。私が成人するころには同じように成体なるらしいけど。政府の術者さん、結構どうでもいいところに拘り見せるよね。あ、また口調崩れた。もう面倒だからこれでいいや!
「こちらが
そう言ってこんのすけは全員のタブレットにデータを送信してくれる。ちなみにこの時代のこの世界ではまだスマホもタブレットも登場していない。コナンの原作だと、作中で途中からガラケー→スマホへの移行が行なわれてるからなー。まぁ、20年を超える連載だったから、途中で電子機器が変化するのは仕方ないよね。
こんのすけが送信してくれたデータは、これまでのコナンオタクの考察好きな人々の努力の結晶。あの膨大な原作の全事件が網羅されている。うん、結構時期が被ってるの多いな。まぁ、20年以上の連載だからしょうがないけどね! この事件が全て起こったら、1日に3件以上の事件が同時進行で起こったりすることになるけど大丈夫かな。
「……こんのすけ、もしかして、この世界って新一がコナン化してから組織壊滅までループする?」
二次創作には2つのパターンがあった。一つは原作と同じく1年弱の間に全ての事件が起こっているというもの。もう一つは新一がコナンになって以降組織壊滅までは3月31日をもって原作開始時の4月に戻るというもの。原作開始時が2018年だとしたら2019年3月31日が明けると2018年4月1日に戻るというものだ。そう考えないと色々面倒だからね。17歳の1月にコナンになってるから、本当に時間経過するなら、コナンや新一のメイン活動期間は新一高校3年生になるはずなんだけど、ずっと毛利蘭たち、高校2年生だからねー。まぁ、高校3年だと進学問題とかあって、事件にかまけてられないもんね、毛利蘭も鈴木園子も世良真澄も服部平次も。だから、色々考えちゃ負けだ!
「うわぁ、この時系列で事件起こるんですか? っていうか、この世界の住人、記憶どうなってるんですかね。1月に弟さんが幼児化して小学1年生になるのに、4月にはまた小学1年生でしょう? 入学後の1月に転校してきたのに転校前の4月から12月も普通に存在してるし」
「国広、ここはフィクションの世界なの。磯野界なの。考えちゃダメ」
そう。所謂サザエさん時空だ。季節は経過するし記憶も出来事も人間関係も継続するけど、西暦も年号も進まないの。
「そうですね、弟
こんのすけは言う。こういったフィクション時空は原作終了時点、後日譚の番外編がある場合は最も未来の番外編終了時点、続編があれば続編終了時点で世界そのものが動きを止める。世界が消滅するわけではないけれど、この場合は新一の息子が謎解きをして『僕は工藤コナン、探偵さ!』とドヤ顔した時点で時間が止まるのだ。新一や毛利蘭は組織壊滅作戦直後に再会して、それ以降は出てこない。最後の場面が二人の再会から何年後かも明記はされていない。ついでに言えば工藤コナンの母が誰かも明言されてない。更に言えば、主要キャラたちのその後も全く描かれてない。
「多分、ループを認識できるのは私たちだけだと思う。あとは私と同じ異世界転生してる存在とか、異世界トリップしてる存在だね」
他の漫画のループ時空でも確認されているんだけど、トリップ組はループを認識できる人と出来ない人がいるらしい。原作に関与している人は自覚してるみたい。転生組は今のところループ自覚者は見つかっていないそうだ。そして、審神者である私や刀剣男士は本丸という別時空にいるからループによる認識阻害は起きない。これも他のループ時空任務に就いている他の審神者と刀剣男士によって確認されている。
「ヲタクによる救済という名の
スコッチの景光はややこしい! 私たち審神者や刀剣男士にとってはこの字は『かげみつ』だからなー。まぁ、普通は『景』で『ヒロ』読みはしないからねぇ。
私を渋々と燭台切に引き渡した歌仙が資料を見ながら言う。二次創作で多いのは警察学校同期組の救済と浅井成実・宮野明美の救済だよね。でも、どれも救済しちゃダメだと思うの。特に浅井成実の自殺は新一の探偵としての在り方に大きく影響を齎すんだから。尤もそれ以降も被害者や被害者遺族の感情や人権は相変わらず無視で推理ショー繰り広げてるから、影響受けたと言っても首を傾げたくはなるんだけどねー。
ただ、原作が長くなると、成実の死による罪の意識も薄れる。っていうか、忘れてるよね。だって、成実の死によって芽生えたはずの命の尊厳への想いがあれば、楠田陸道の死体損壊なんてことが起きる筈はない。原作ではスルーされてるし、赤井もキールもそれを罪とは思ってないっぽいけど。諜報機関であるCIAのキールはともかく、捜査機関所属の赤井がそれを認識してないとかどうなんだろう。そして、一般人のはずの我が弟は? 赤井を助けるためなら組織の下っ端で犯罪者の死体なんてどうなってもいいとでもいうのだろうか?
「大将、皺」
正面に座っている薬研(歌仙から燭台切の膝の上に移動したから薬研との相対位置も変化)が人差し指で眉間を
「赤井秀一の死亡偽装、か」
私が睨むように見ていた文字列に気づいた燭台切が慰めるように頭を撫でてくる。
「こんな狂ったことを仕出かす弟のことも、歴史を守るためには容認しなきゃいけないんだよね。せめて原作が終わった後に、ちゃんと新一がこれを罪と感じて裁かれることを願うわ」
少なくとも原作で新一が、コナンがこれについて悔いている描写はない。フィクションであればそれでもいい。でも、少なくとも、ここでの新一たちは生きた存在だから。
「原作に描写がないだけで、弟御が苦しんでいる可能性もあるだろ? 主は今まで原作では描写されてない色々なことを経験してるはずだ。あの漫画は事件以外は殆ど心理描写もない。物語の展開に関係ない描写は省かれちまってる。そのときが来て、弟御がどう感じてるのか探って、罪悪感がないようならそのときはまた考えよう」
燭台切の隣に座っていた般若はそう言いながら顔を覗き込んでくる。その目はとても穏やかで優しく私を労わってくれる。そうだね。原作にはない描写一杯あるもんね。それに組織壊滅後から最後の場面まで数年ある。そこで新一たちは犯した罪に向き合い、償っているかもしれない。もし、償っていないなら、そこは姉として何としても償うように誘導したいところだ。
「太郎、蛍、この楠田さんの死体損壊の後さ、ちゃんと供養してあげたいから協力してね」
せめて姉として、弟のやったことで楠田陸道の魂が迷わないようにはしたい。
「勿論です」
「うん、判った」
太郎と蛍丸の御神刀2振は頷いてくれた。
「あ、救済阻止計画の前に、本丸運営のことも話し合っておきたいんだけど」
大体のことは話し合ってるんだけどさ。基本的に私はこちらの歴史改変阻止が任務だから、この世界のことが片付くまで一般の任務はしなくてもいい。まぁ、暇してる時期は出陣したり遠征に出したりもするけど。
「刀剣男士は現状の12振でいこうって言ってたけど、御神刀・霊刀・仏刀は呼ぼうかなって思ってるんだよね。今でさえこの世界って結構穢れが強いし、負の念が酷いから。本丸の守りを固める意味でも、彼らはいてくれたほうがいいと思うんだ」
だから、御神刀の石切丸と次郎太刀、霊刀のにっかり青江、仏刀の数珠丸恒次・江雪左文字・山伏国広、彼らは顕現しようと思う。救済阻止に関しては結構術を使うことになるだろうから、そのサポートとしても御神刀にはいてほしい。それに死者が半端なく多い世界だから、せめて新一や父が関わることになる死者の供養をするために仏刀関係者にもいてほしい。
「術のフォローということであれば、父上にもいていただいたほうがいいかもしれませんな。あの方は尤も古い刀ですゆえ」
「あと、大将の守りを固めるために、短刀も今剣と愛染あたりに来てほしいところな。短刀の最古刀と愛染明王の加護持ちだから、この穢れが多い世界にゃ心強い」
粟田口長男と短刀兄貴の言葉にそれもそうかと頷く。となると、石切丸、次郎太刀、にっかり青江、数珠丸恒次、江雪左文字、山伏国広、小烏丸、今剣、愛染国俊の9振か。いっそあと3振顕現して、全4部隊にしたほうがいいかな。そのほうが育成もしやすいし。いや、新人とベテランで育成するほうがいいかな。そのほうが多少のパワーレベリングは出来る。短刀・脇差と太刀以上で分けてレベリングすればいいし。ベテラン12振は皆カンスト極だから、どんな戦場でもどんとこい状態だしね。
「じゃあ、早速明日から鍛刀しようか。同時に戦場マップ新しいから、開放もしないとね」
「主、パワーレベリングする気だね?」
戦場マップを先行開放すると告げたら、それだけで歌仙には私の計画が判ったみたいだ。流石初期刀! っていうか、皆苦笑してるから判ってるか。
「新たに加わる9振は現世での役目を割り振るかい?」
「んー、絶対的な経験値が不足するだろうから、振るとしたら原作開始後かな。基本的にキャラとの接触はなしの方向で、バックアップ担当だね」
顕現して50年以上経っている12振は『人』としても円熟・成熟しているけど、これから呼ぶ9振はそうではない。そんな圧倒的に『人』経験が足りない彼らに
歌仙の問いかけに応じると、皆了解と頷いてくれた。うん、この感覚懐かしい。全部言わなくても判ってくれる阿吽の呼吸というか。
「では我らの役目もおさらいしておくか」
燭台切から私を受け取り膝に乗せた三日月が話を進める。
「我ら12振のこの世界での戸籍やら経歴を作らねばならぬからな。その役目に応じてこれから行動せねばならぬし」
そう言って三日月が示したのは、役割分担表。成人設定組は直ぐにでも活動開始だし、潜入するにあたっての経歴も作らないといけない。まぁ、担当分野を決めて名前と年齢を決めたらそれらしい経歴を政府が作ってこの世界の記録に組み込んでくれる。ちなみに卒業アルバム的なものには集合写真撮影日にいなかったパターンのワイプ的な写真が追加されるらしい。どんな術なのかは知らないけど凄い。用意周到! これなら万一降谷零とかに怪しまれて詳細調査されても大丈夫だね!
「我らの現世の名は主が決めるか? ああ、この機会に主から名を与えられるのも良いな」
「うん、名を与えるのはいいんだけど、書類提出まで時間ないし、適当に決めたくないから、それはまた別の機会にね」
三日月の提案に苦笑する。審神者の中には刀剣男士に
「現世任務でつける名前は私たち以外の他人も呼ぶから、字とは別のほうがいいでしょ」
字は名付けた者と当人しか知らないほうがいいし、現世任務で使う名前とは別のほうが安全だ。それに魂の名前ともいうべき主がつけた名前を気軽に赤の他人に呼ばれるのも刀剣男士としては不快だろうから。
結局、全員姓は私と同じ山城で、歌仙が兼定、薬研は薬研、燭台切は光忠、三日月は宗近、一期は一期、太郎は太郎、般若は長光、前田は真亜、鳴狐は名城、骨喰が藤四郎、堀川は国広、蛍丸は蛍という名にした。前田と鳴狐だけ、ちょっとだけ違うけど、他は銘や刀工名でつけられた。薬研は名前としてはちょっと微妙だけど、コナンなんて変な名前も罷り通る世界だし、基本的に薬研は他人と関わらないから問題ないだろう。
それぞれの役割としては、以前決めた通りになる。帝丹高校担当が骨喰と国広、コナンと少年探偵団担当が前田と蛍丸、毛利探偵の周辺担当でポアロ潜入が鳴狐、黒の組織潜入が般若、一期は直接組織に潜らず般若の協力者として一応一般人設定で行くことになった。それから、燭台切は捜査一課。但し、警察学校入学からの正式な警視庁入庁だと歴史改変がどうのこうのってのに抵触するから、宮内庁からの出向になる。歌仙、薬研、三日月、太郎は本丸待機。
三日月は私の父親設定だから、原作キャラには関わらなくても現世には関わるってことで、一応宮内庁職員ということになってる。この宮内庁職員は審神者の現世任務の際の勤め先として存在している部署、神祇局書陵部調査室の調査官ということになる。燭台切もそこからの出向という扱いだ。
それぞれの刀剣男士と私の関係は、三日月が父、歌仙・燭台切・太郎・一期・般若が叔父。薬研は弟で、鳴狐は義兄、前田・骨喰・国広・蛍丸は義弟。義兄と義弟は血の繋がりがなく父が養子を取ったという形になる。流石にこれだけの姉弟は多いし、顔が似てない問題もあるし。うん、叔父二人が組織関係者で叔父1人が警察官で父が極秘部署の職員って、めっちゃコナン化した弟に怪しまれそう。まぁ、成人設定組は警察官の燭台切以外は弟に接触しないけどさ。あ、兄設定の鳴狐も接触はするか。
新一担当の2振は新一が帝丹高校入学までは待機、コナン担当の2振も原作開始年度の4月まで待機になる。鳴狐は原作開始1~2年前くらいにポアロにバイトに入り、安室が登場する前に辞めることになる。その後は元バイトの常連として接触だ。
一期は普段はバーテンダーになるらしい。情報屋の協力者ならそういう設定のほうがいいかな。既存のバーじゃなくていっそのこと経営しましょうかなんて黒鋼さんから提案もあった。そうすれば他の短期任務でやってくる刀剣男士との情報交換もしやすいし。え、経営するなら経理担当の博多藤四郎も勧請したほうがいい?
組織に潜る般若の表向きの職業は古美術専門のフリーライター。趣味に走ったな!
「僕、子供たちを叱らない自信がない」
捜査一課に潜入する燭台切は溜息をつく。あー、確かにな。燭台切は私と一緒によく海外の警察ドラマ見てたもんなぁ。『CSI』シリーズ(私はNYが好きで燭台切は無印のLVが好きだった)とか『BONES』とか『クリミナルマインド』とか。国内ドラマだと『科捜研の女』とか。現場保存の徹底とか証拠の大切さとかドラマで見てきてるから、よくアニメのコナンを見るときには皆で『証拠汚染ー!!』って叫んだものだ。
「別に叱っていいと思うよ。原作補正で言うことを聞くことはないと思うけど」
でも、原作が終わってもこの世界が続くなら、叱り続けて正しいことを教えてくれた存在って大事だと思うし。
「そうだね。原作にいない僕が原作のキャラクターである子供たちに影響を与えることはないだろうし。せめてカッコいい警察官でカッコいい大人でありたいよね」
ニッコリと燭台切は微笑む。うん、子供たちを叱り捲るんだろうな。いいぞいいぞ、どんどんやれ。弟は両親に殆ど叱られたことないし(毛利蘭絡みで母から理不尽に叱られたことはあるけど、あれは理不尽なものだから弟には全く響いてない)、原作見ても小五郎のおじさん以外からはほぼ叱られてないし、結構堪えると思うんだよね。何度も何度も叱られれば。新一の頭の良さは今のところIQの高さと知識・回転の良さによるもので、そこに想像力とか共感力とかはない。原作を見るにそれはコナンになっても同じ。だから、燭台切がコナンを叱り諭すことで何かを感じるようになってくれたらいいなと思う。まぁ、燭台切は恐らく原作関与組の中では一番苦労することになるんだろうな……。ごめんね、燭台切。でも、この12振の中だとあなたと国広が一番コミュ力高いから。流石に国広に警察に潜入しろってのは無理があるから。
「で、大将。救済阻止はこの5人でいいんだな? ってことは次は4年後か」
一通り役割分担の確認も終わったところで薬研が言う。
「そうだね、4年後の松田陣平。ただ、その前に救済とは別に原作改変の動きがあるかもしれないとも思ってるんだ」
灰原関連での宮野夫妻の死亡は18年前だから、この世界では既に起きている。赤井秀一の父の失踪も既に起きている。浅井成実の父の事件も既に起きている。初代怪盗キッドの死亡事故も起きてる。だから、ここはスルーしても大丈夫。
注意が必要なのは今から2年後の赤井秀一の組織潜入。宮野明美に当たり屋からのハニトラ(ロミトラとも言われてるけど)だね。二次創作ではこれを阻止しようとしてるものも結構ある。これを阻止してしまうと、明美が赤井を組織に紹介した事実がなくなって、明美の銀行強盗もなくなり、明美の死亡もなくなる。明美が死ななければ、宮野志保が灰原哀になることもなくなる。つまり、原作の主要キャラクターが一人消えてしまう。だから、注意が必要。
それから5年後の赤井の組織からの逃亡。ここで明美を連れて逃げるパターンの改変も阻止しないといけない。この二次創作はあまり多くないとは思うけど、全くないわけじゃないし。ここで明美が組織から逃げられたら、やっぱり宮野志保が灰原哀になる必要性が消えてしまう。
「その改変、しようとする奴がいないといいんですけど。関わりたくないです、毛唐には」
国広、色々複雑だよね。アメリカのせいで兼さんと引き離されたもんね……。この任務終わるまで明石国行は絶対に勧請しないでおこう。彼も蛍丸絡みでアメリカには色々思うところがあるらしいから。
「というか、この2つに俺たちが関わることは可能なのか? これは日本で起こることなのか?」
あっ。骨喰の疑問も尤もだ。確か、拠点が何処かとか明言されてないよね。宮野志保は原作開始時には国内の製薬会社の研究所にいたはずだけど。あ、でも、確か出会ったときは大学生設定で日本国内の大学に通ってたはずだし、10億円強奪事件も国内だから、ずっと日本にいるって考えても大丈夫かな。
「調査確認事項として担当官に伝えておきます。万一国外だった場合は海外出張していただかねばなりませんし」
海外だったら、態々国外に出てまで原作改変するかな、ヲタクたち。熱意はともかく
「そうだね。そうしておいて。あともう一つ、これは警戒度低いけど、原作開始2年前つまり5年後の浅井成実の月影島移住も要注意かな」
これは重要度低いと思うけど。それからなんか忘れてな…あ! 劇場版! アイリッシュとキュラソーも生きてる設定の二次創作多かったから、そこも注意しておいたほうがいいな。でも劇場版って時期が判りにくい。
こんのすけに『漆黒の追跡者』と『純黒の悪夢』関係の出来事もチェックしておくように頼んで、一先ずはこれでいいかな。
「じゃあ、5年前から警戒ですね。それまでは主君にはのんびりとしていただきましょうか」
前田が言う。いやいやのんびりしてる暇はない。2年の間に新たに呼ぶ9振をカンストさせて極にして再度カンストさせないといけないからね。
「大将、前世とは違うんだぞ。あんたは今幼子なんだ。学校に通って、確り食って遊んで、9時には寝ないといけない。あの頃みたいな無茶な進軍は出来ねぇぞ」
あー、そうだった! 私今、まだ10歳だった! 学校、通わないとダメかなぁ……。
「ダメに決まっておりますな」
にっこりと笑ういち兄怖いです。
「僕と三日月、燭台切で差配して出陣はさせるから育成は問題ないさ」
歌仙の言葉に頷いて許可を与える。出陣は審神者の役目だけど、審神者が承認していれば近侍でも指揮は取れる。この状況なら許可するしかないもんね。
霊力を篭めた水晶を用意しておけば私が外出してても手入れは出来るし、中傷撤退を徹底しておけば大丈夫だろうけど。検非違使も出さないようにして。池田屋と延享は検非違使出したほうが楽だから、寧ろそこは出すけど。
「さて、もう時間も遅い。引っ越しも終わったばかりで疲れているだろう。もうお休み、主」
おお、もう10時過ぎてた。まぁ、まだ戸籍とか整ってないから明日は学校にも行けないけど。
「それと主さん、本丸の中ならいいけど、外に出たら子供らしくね? 今のミーティングの主さん、どう見ても三十路過ぎの落ち着きでしたよ」
国広が指摘する。あー、刀剣男士に囲まれてたらすっかり感覚が前世に戻ってた。まぁ、態度がおばあちゃんじゃなかっただけ許して!
「うん、判った。気を付けるね、国広お兄ちゃん」
10歳児を意識して国広に返事をすれば、国広が『僕の妹がこんなにも可愛い!』って
「では、主君、参りましょう」
「これから当分、俺と前田が夜警担当するからねー」
立ち上がった前田と蛍丸に手を引かれる。幼子の姿の私だから幼い姿の前田と蛍丸が一緒に寝るらしい。
「じゃあ、おやすみ、皆。また明日ね」
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主の去った居間では残った刀剣男士とこんのすけによる話し合いが続いていた。
「我らが愛しき娘のためにも父君や弟君には己が罪を償ってほしいものよな」
三日月が薄らと微笑みながら言う。それは主である勘解由には見せることのない、どこか冷たい笑みである。
刀剣男士が話し合うのは主が憂えていたこれから家族が犯す罪と罪の意識の欠如をどうするのかということだった。
主が娘として姉として、これから罪を犯す両親や弟にそれを自覚して償ってほしいと願っていることを彼らは理解していた。歴史を変えることは出来ないから、それらの罪を未然に防ぐことは出来ない。優しい主はこれから家族が罪を犯すと判っていながら止めないことに対して、またその罪によって犠牲になる被害者に対して複雑な思いと罪悪感がある。ゆえに罪を犯すことを防げないのであれば、罪を罪として自覚させ、全てが終わった後に償えるようにしたい、そう願っている。ならば、彼女の刀剣男士としてその願いを叶えるため、彼らは力を尽くす所存だ。
「こんのすけよ、原作では組織壊滅から最後の場面まで、時間があるのであったな」
「然様でございますね。組織壊滅から原作終了まで数年時間がございます。その時間は歴史の空白でございますゆえ、何をするも自由でございますよ」
こんのすけは三日月の望む答えを告げる。
このこんのすけ、体こそ新たなものであったが、中身は前世の勘解由に仕えた管狐である。宮内庁神祇局陰陽部こんのすけ課召喚係の術者がかつてのベテラン審神者で今世の少女審神者のために稲荷神の許へと戻っていた管狐を再度召喚したのである。つまり、こんのすけは見た目こそ子ぎつねであるが中身は勘解由や刀剣男士と共に50年以上を戦ってきた歴戦の
原作の最終回では組織壊滅後新一が毛利蘭の許へ戻った場面の後は空白のコマが続き、最後の場面へと移る。最後の場面は新一の息子コナンが謎解きをし『工藤コナン、探偵さ』とドヤ顔のアップで物語は終わる。つまり、組織壊滅から息子が推定7歳になるまでの情報は一切ないのだ。そこにどれだけの時間が経過しているのか、組織壊滅後原作のキャラたちがどうなったのか、一切明記されていない。
「であれば、我らが何をどう行動しようと歴史改変には当たらぬということですな」
「そうだね。
一期と燭台切も凄みのある笑みを浮かべつつ言う。
「ならば、もしかしたらその空白期間に弟御をはじめご家族が罪を償っていてもおかしくはないね」
「ああ、そう考えるのが妥当だろうなぁ」
最も壮絶な笑みを浮かべるのは勘解由の第一の側近である初期刀歌仙と懐刀薬研。
「問題は、あの原作からすると、弟君たちの行動が罪に問われない可能性があることですよね。モブキャラには罪が適用されても主要キャラクターの罪は罪として認識されない世界ですし」
「ああ。スルーされて罪に問われない可能性もあるな」
脇差コンビは眉を顰めて指摘する。それは指摘されるまでもなく全員が判っていることだ。そして、この会話は全員が理解していることの再確認のためのものだった。
「罪に問われなくても、贖罪の気持ちがあればいいのに」
「そうですね。ただ、今の環境では難しいかと」
鳴狐と太郎は眉を顰めて呟く。犯罪として認定されなくともせめて彼らに自らの罪を悔いる気持ちがあり、贖罪のために自ら行動を起こすのであれば、敢えて動かずに見守る選択肢もある。けれど、少なくとも原作の言動からは彼らが贖罪をするとも思えない。ならば、罪として裁かれるよう動く。但し、裁くのは飽くまでも原作世界の存在でなければならない。そのために、原作キャラが自首するならよし、しないのなら組織壊滅後に警察が逮捕するように仕向けるまでだ。
「弟君を罪に問うなら、楠田の死体損壊か? だが、確か物的証拠はなかったはず」
「我らで見つけるのは難しいでしょうね。弟君の罪は軽微なものの積み重ねでしょう。ああ、毛利小五郎への傷害罪は適用できるでしょうか」
「映画版ではスケボーで公道走ってますから道路交通法違反ですよね」
「父君と母君は色々な書類関係での文書偽造かな。弟君がコナンとして学校に通ったり病院に行ったりしているから、少なくとも住民票と保険証はあるはずだろう?」
「それから、赤井秀一を匿っているから、犯人隠避じゃないかな」
「赤井……あれって、日本国内での捜査許可あるの?」
「なさそうですよね。そこは調べてもらいましょう」
「毛唐が我が国で短筒を撃ちまくっておるのが許せぬな。我が国で好き勝手しおって。俺よりも若い国のくせして図々しい」
「爺さん、この中にあの国より若い奴はいないぜ?」
「全刀剣みてもあの国より若いのは和泉守兼定と長曽祢だけだな」
「ほほう。若造が随分と粋がっておるな」
「若造だから粋がってるんでしょ」
「若者の過ちを正すのは年長者の務めですな」
「我が国で好き勝手な振る舞いをしたことの責任は取っていただかねばなりますまい」
「燭台切は捜査一課だったな。そういった問題提起と証拠集め、頼むよ」
「了解。でも出来れば降谷あたりに彼らの罪を知らせておきたいね」
「コナンが無戸籍で母親の江戸川文代も実在しないことを教えておけば、そこから調べるんじゃないか」
「ああ、赤井と違って彼は最後まで捜査官であることは忘れなかったからな」
「そもそも赤井はスタートからして私怨だからね。捜査官という意識がどれだけあったのかも怪しいよね」
「降谷だけじゃなくて公安のモブにも知らせておいたほうがいいね。モブのほうが原作補正かからないから、まともな判断が出来そうだ」
「公安モブとして誰か潜入する?」
「役目がないのは……中々癖が強いものばかりだな。三日月、太郎、石切丸、数珠丸、青江、江雪、山伏、次郎。父上は見た目が子供だから無理だし。僕が行くしかないかな」
「いや、初期刀の旦那は大将の傍にいてもらわねぇと」
「消去法で行くと青江か山伏かな。でも山伏は公安ってタイプじゃないよね。青江かな」
「見目が若いが、降谷が童顔だから大丈夫だろう。では青江は公安に潜入ということで申請しておくよ。原作開始時に公安にいればいいだろう」
次々と意見を出し、最終的には歌仙が判断を下す。原作キャラたちが原作開始後に犯す罪をリストアップし、実際にそれが行なわれた時点で燭台切と青江が証拠を押さえていく。最終的にどうするのかは青江たちが集めた証拠を見て公安の判断に委ねることにした。勿論、その証拠集めの過程で青江は公安(主にモブ)にコナンたちの異常さを認識させて罪に問う方向へと誘導していくことになる。
「では、任務完了時に主が心置きなくこの世界を去ることが出来るよう、我らも力を尽くそう」
「応!」
歌仙の言葉に刀剣男士たちは力強く応じたのだった。
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一方、優希の去った工藤家では、新一が両親に猛抗議をしていた。
「なんで! なんでだよ! どうしてあっさり優希を引き渡したんだよ!!」
突然姉が出て行ってしまった。公安警察を名乗る男たちに連れていかれてしまった。姉はそれに抵抗するどころか自ら進んで家を出て行ってしまった。両親はそれをあっさりと認めてしまった。それが新一には理解できない。
「そうするより他にはないんだ」
優作は絞り出したような声で息子に応じる。そう、そうするより道はなかった。娘の安全のためにはそうするより他にはなかったのだ。やってきた役人は公安警察を名乗っていたが、恐ろしかったのは彼ではない。黒木と名乗った役人は肝の据わった男ではあったが恐ろしさは感じなかった。恐ろしかったのは優希の新たな父となるという、名乗りもしなかったもう一人の美貌の青年だ。ずっと首筋に研ぎ澄まされた鋭利な刃物を押し付けられている気がした。ただ一瞥されただけなのに。彼は優作や有希子の許可など求めてはいなかった。優希を連れていくことは決定事項だと、お前たちに優希を守ることは出来ぬと突き付けているようだった。
「新一、お前は優希が事件に巻き込まれていたことに気づいていたかい? 優希から話を聞いたり相談されたりしたかい? 父さんも母さんも気づかなかったし何も聞いてはいなかった。優希は話してもくれなかった。当然だ。国家が保護せねばならぬような事件に巻き込まれたというのに、私たちは優希の変化に気づきもしなかったのだからね」
やってきた黒木は警視庁ではなく警察庁の公安部だった。つまり、優希が巻き込まれたのは国家に関わる犯罪だ。それほどの犯罪に巻き込まれたのであれば、優希はどれほど恐ろしくどれほど不安だっただろう。けれど、自分たちは家族なのに全くそれに気づかなかった。そんな自分たちは優希の選択に何かを言う資格などないのだ。
ここに優希がいれば『気づかなくて当然だから! 何もなかったから! 寧ろ刀剣男士と再会できるってんでウキウキしてたし機嫌よかったから! ごめん、父さん!!』と叫んだだろう。
「優希はいつもと変わりがなかったよ! きっと大した事件じゃない! 証人保護プログラムの実験のために、大した事件でもないのに扱いやすい子供の優希を選んだのかもしれないじゃないか!」
新一には双子の自分であれば優希の変化に気づかない筈はないという自負がある。全く根拠もなく事実ではない自負であり、これまでも様々な優希の変化を見逃しているのだが、それでも新一は姉のことを誰よりも知っているのは双子の弟である自分だと思っていた。姉の優希は母に似た美しい少女だった。父に似た聡明さも持つ少女だった。ただ誰にも似ず控えめな少女でもあった。自己主張が強く自己顕示欲も強い工藤家にあってそれが乏しいのが姉だった。そんな姉はいつも穏やかに優しく自分を見ていてくれたはずだ。
「実験のために選ぶならそれこそDV被害女性や暴力団関係事件の目撃者を選ぶだろう。態々面倒な未成年を選ぶはずはない」
「でも……!」
父の言葉に感情が納得できず、反論しようとする新一に父の強く咎める声が返った。
「いい加減にしないか、新一! 優希はこのままでは命の危険があると判断された。だから保護されたんだ! お前は優希が殺されてもいいというのか」
初めて聞く父の強い怒りを含んだ声に新一は言葉を失った。そうじゃない、優希が殺されるなんてダメだ。でも、どうして離れなきゃいけないんだ。理屈は判っても感情はどうしても納得しなかった。
「ねぇ、優ちゃん、新ちゃん。私たち、随分優希を蔑ろにしてきたのね」
これまで黙っていた有希子が呟く。ずっと彼女は家族のアルバムを見ていた。優希の存在を確かめるかのように。
「どういうことだよ、母さん」
「これよ」
そう言って有希子はアルバムを二人に示す。
始まりのページは新一と優希が生まれたばかりのころ。赤ん坊の新一と優希はいつも一緒で、楽しそうに遊んだり笑ったり泣いたりしている姿が二人1セットで写真に収められていた。ハイハイするようになり、歩くようになり、それでも二人は双子らしく仲良く一緒に写っていた。父が新一を抱き上げ、母が優希を抱き上げ、仲の良い4人家族の写真がそこにはあった。
けれど、幼稚園入園を機にそれは一変する。入園式の写真はある。運動会の写真もある。お遊戯会の写真もある。けれどその枚数は明らかに新一に比べて少なかった。そして、遊園地、海、山、様々な家族で出かけた旅行の写真に優希の姿は何処にもなかった。他人である毛利蘭の姿はあるのに。
これらの現象は原作補正の結果だ。新一と毛利蘭が出会ったことによって原作に関わるエピソードも発生するようになった。だから、原作補正により優希の存在は薄められたのだ。どれほど彼らが娘や姉を愛していようと大切に思っていようと仕方のないことだ。
「これは……」
「まるで、優作と私、新ちゃんの三人家族みたいでしょ?」
あの美貌の青年の言った言葉は本当だったのだ。自分たちは優希を疎外していたのだ。
「優希が、幸せになってくれたら、それでいいわ」
有希子は静かに涙を流す。その有希子の言葉を優作も新一も受け入れるしかなかった。
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私の男士たちが将来のために策を巡らし、二度と戻ることのない実家では家族が絶望に打ちひしがれていたそのとき、私は何も知らずに前田と蛍丸に抱き締められて深い眠りに就いていた。
こうして、私の新たな審神者生活と歴史修正阻止任務が始まったのだった。