全世界異世界召喚対策委員会――唯一の神を信じる少年は、異世界の神々を悪魔と呼ぶ――

 神々の会議というものは、想像されるほど神々しいものではない。

 少なくとも、議題が「異世界召喚による地球人の拉致被害をどう防ぐか」だった場合は。

「では、全世界異世界召喚対策委員会、臨時会合を始める」

 円卓の上座に座る伊弉諾尊の声が、神域に響いた。

 会場には、世界各地の神話に名を残す神々が集まっていた。オーディンは長い髭を撫で、ゼウスは指先に小さな雷を転がしている。アテナはすでに資料を読み終え、インドラは眉間を押さえていた。玉皇大帝の前には、分厚い報告書が積まれている。

 円卓の中央に、いくつもの映像が浮かんだ。

 下校途中の少年。部活動中の少女。教室ごと消えた高校生たち。修学旅行のバスごと姿を消した生徒たち。

「召喚された人間は、異世界で勇者や聖女と呼ばれ、魔王討伐を命じられる。帰還できる保証はない。帰ってきても、心身に傷を負っている者が少なくない」

 伊弉諾尊が告げると、会場の空気が重くなった。

「他所の世界の人間を、本人の同意もなく戦争に使う。しかも、召喚先の神々がそれを後押ししている場合まであるとはな」

 オーディンが低く唸った。

「抗議だけで止まる相手なら、ここまで被害は増えていないでしょう」

 アテナは資料を指先で揃えた。

「召喚術を使う王族や魔術師に自制を求める一方、被害が発生した場合の保護策も必要です。ただ、毎回こちらが救出に向かうのでは限界があります」

「ならば、召喚された人間自身が、召喚先の思惑に左右されず生き延びられるようにするしかない」

 思金神が言った。議事の整理と対策案の作成を担当する彼は、しばらく資料を眺めていたが、やがて顔を上げた。

「ひとつ、試してみたい案があります」

「聞こう」

「信仰に一切の揺らぎがない、一神教の信者を召喚先へ送り込んだらどうなるでしょう」

 雷を転がしていたゼウスの手が止まった。

「……どういう意味だ?」

「本人にとって神はただ一柱。それ以外の超自然的な存在は神ではない。そう確信している人間です。召喚先の神々が祝福を授けに現れても、神として認めないでしょう」

「衝突は避けられんな」

 アテナは即答した。

「ええ。ですが、召喚先の神々が地球人を勝手に連れ去り、勇者に仕立て上げること自体が問題なのです。彼らが自分たちの行為の危険性を理解するきっかけになるかもしれません」

「実験対象を危険にさらすわけにはいかん」

 伊弉諾尊が釘を刺した。

「本人の安全を最優先にする。生命力、身体能力、精神耐性、危険察知、回復力。各自の権能から必要な加護を提供し、どんな状況でも命を落とさぬようにする。ただし、こちらから直接接触はしない。余計な誤解を招くからな」

「賛成です」

「異議なし」

 会議は長く続き、地球側の神々はそれぞれの力を提供することに決めた。

 彼らが見落としていたのは、ひとつだけだった。

 命を落とさないことと、周囲が無事で済むことは、まったく別の問題なのである。

 

 

 

 その頃、日本のある高校では、真壁誠が昼休みの弁当を食べていた。

「真壁って、ほんと何があっても落ち着いてるよな」

 向かいに座った友人が言った。

「そうかな」

「昨日、校門の前で犬に吠えられてたときも、全然慌ててなかったじゃん」

「犬が吠えるのは、犬の自由だからね」

「そういうところだよ!」

 友人は笑った。

 真壁誠は、ごく普通の高校二年生だった。成績は中の上。運動神経は平均的で、喧嘩をしたこともない。休日にはゲームをし、試験前には勉強する。特別な才能も、目立った野心もなかった。

 ただひとつ、彼には揺るがないものがあった。

 唯一の神への信仰である。

 誠は日々の暮らしに感謝し、過ちを犯せば反省し、正しいと信じることを静かに実践していた。信仰を他人に押しつける気はない。人にはそれぞれ考えがあり、自分の信念を理解してもらう必要もないと思っていた。

 ただ、彼は超自然的な存在について、ひとつの明確な考えを持っていた。

 神はただ一柱。それ以外の超自然的な存在は、神ではない。

 その分類に例外はなかった。

 放課後、誠は書店に寄るつもりで校門を出た。そこで足元に円形の光が広がった。

「……これは」

 地面に魔法陣らしき紋様が浮かび上がり、周囲の景色が歪む。

 誠は、漫画や小説で見た展開を思い出した。

「異世界召喚、でしょうか」

 光が強くなる。足元の感覚が消えていく。今日は書店に寄る予定だったのだが、と誠は少しだけ残念に思った。

「もし困っている人がいるなら、できる範囲で手助けしましょう」

 次の瞬間、彼の姿は消えた。

 

 

 

 王城の大広間に歓声が響いた。

「成功だ! 勇者召喚が成功したぞ!」

 王族、騎士、宮廷魔術師、神官たちが、光の中に現れた少年を取り囲んだ。黒髪に学生服。困惑はしているものの、取り乱してはいない。

 王は、魔王軍が国境を越え、各地の村や町を脅かしていることを説明した。召喚された者に一方的に戦いを押しつけている自覚は、王には薄かった。国が滅びれば民が死ぬ。だから勇者の力を借りるのだと、彼は信じていた。

 誠は周囲を見回した。豪華な広間、見慣れない服装の人々、窓の向こうに広がる異国の街並み。夢にしては、あまりに現実感がある。

「事情は分かりました。僕にできることでしたら、協力します」

 誠が礼儀正しく頭を下げると、王は感激し、神官たちは涙ぐんだ。

 彼らはまだ知らない。少年の身体に、地球の神々が用意した規格外の加護が宿っていることを。

 

 

 

 翌日、王宮では勇者の能力を確かめるための訓練が準備された。

「まずは剣の扱いから始めましょう」

 騎士団長は、誠に訓練用の剣を差し出した。

 誠は両手で握り、教わったとおりに構えた。そして、試しに軽く振ってみた。

 木製の標的が消えた。

 標的の後ろにあった土壁も、その向こうの石柱も、一直線に吹き飛んでいた。訓練場の端には、空まで見通せそうな穴が開いている。

 その場にいた全員が沈黙した。

「……すみません。力加減を間違えたようです」

 誠は申し訳なさそうに頭を下げた。

 騎士団長は、手にしていた訓練計画書をゆっくり閉じた。

「訓練は……必要ないかもしれません」

 魔力量や身体能力を測定しようとした魔術師たちも、測定器を次々と壊す結果に終わった。最終的に王宮は、誠に細かな訓練を施すことを断念した。彼が力の使い方を知らないことは確かだったが、教えるために用意した道具のほうが先に壊れてしまうのだ。

「勇者殿は、すでに我々の理解を超えておられる」

 騎士団長は、そう結論づけるしかなかった。

「普通の高校生なのですが……」

 誠は首を傾げた。彼自身には、自分が変わったという実感がなかった。

 王は、勇者の力を信じて魔王討伐を託すことにした。

 誠は同行を申し出た騎士たちの安全を考え、ひとりで出発した。

「皆さんを危険にさらすわけにはいきませんから」

 王はその言葉に感動し、騎士団長は目頭を押さえた。

 そして誠は、魔王城へ向かって歩き始めた。

 

 

 

 魔王軍の斥候が誠を見つけたのは、その日の夕方だった。

 ひとりの人間が、武器一本だけを携えて魔王軍の支配領域を歩いている。斥候たちはすぐに仲間を呼び、道を塞いだ。槍が突き出され、矢が放たれ、魔法の火球が飛んだ。

 誠は身を守ろうと剣を振った。

 飛んできた矢は砕け、火球はかき消え、兵士たちは武器も鎧も切り裂かれた状態で地面に倒れた。命までは奪っていない。ただ、戦う力を失っている。

 誠は倒れた兵士たちを見下ろし、静かに祈った。できることなら、彼らがこれ以上罪を重ねずに済むように。そして、これ以上の犠牲を出さずに魔王を止められるように。

 彼は再び歩き出した。

 魔王軍は次々と防衛線を築いた。第一防衛線は一瞬で崩れ、第二防衛線は誠が森を横切った際の余波で吹き飛んだ。第三防衛線では、将軍が率いる精鋭部隊が一斉に襲いかかった。

 誠は剣を構えた。彼に戦いの駆け引きは分からない。どの技が優れているのかも、相手の魔法の理屈も知らない。ただ、向かってくるものを止めようと、できるだけ人を殺さないように剣を振った。

 それだけで、戦場は静まり返った。

 将軍は地面に倒れ、兵士たちの武器はすべて砕けていた。遠くの砦には大きな裂け目が走り、空には雲が一直線に割れている。

 誠はしばらく周囲を見回したあと、道を確かめるように地図を開いた。目的地はまだ先だった。

 その後も、魔王城へ至る道にいた魔物や兵士たちは、誠を止めようとした。だが、彼の歩みを止められる者はいなかった。彼は必要以上に攻撃せず、倒れた者たちを避けて進んだ。それでも、彼が通った場所には壊れた武器と、深くえぐれた地面が残った。

 

 

 

 魔王城では、敗報が相次いでいた。

 東部軍、南部軍、北部砦。誇り高い将軍たちも、強固な防衛陣地も、黒髪の少年を止めることはできなかった。

 魔王は玉座から立ち上がった。黒い角、巨大な翼、禍々しい魔力。その威容は、長年にわたって人間たちを恐怖させてきた。

 彼は魔力を全身に巡らせ、城の守護結界を最大出力で起動させた。玉座の間を幾重もの障壁が覆い、床には古代の魔法陣が浮かび上がる。魔王の力をもってすれば、並の勇者なら一歩も踏み込めないはずだった。

 だが、城門が吹き飛んだ。

 誠は崩れた門を見て、困ったように眉を下げた。触れたつもりはなかった。近づいただけで、門のほうが耐えきれずに壊れたのだ。

 城内の魔物たちが一斉に襲いかかる。誠は必要以上に傷つけないよう気をつけたつもりだったが、剣を一振りするたびに廊下や壁が崩れ、塔の一部まで砕けていった。

 彼は壊れた壁を見つめ、心の中で反省した。力を使う前に、もっと慎重になるべきだったのだろう。けれど、どうすれば加減できるのかは、まだ分からなかった。

 玉座の間では、魔王が全力の魔力を放った。黒い奔流が誠を飲み込もうと迫り、床も柱も粉々に砕ける。誠は逃げず、剣を握り直した。

 そして、一度だけ振った。

 魔王の魔力は消えた。幾重もの守護結界は紙のように裂け、玉座の間の半分が吹き飛んだ。城の背後にそびえる山肌には、巨大な裂け目が走った。

 魔王は意識を失い、床に倒れていた。

 誠は剣を鞘に収めた。自分のしたことを確かめるように周囲を見渡し、それから小さく息を吐いた。

 魔王軍の残兵たちは、恐怖と安堵の入り混じった表情で少年を見つめていた。誠は彼らに背を向け、城を出た。これで、ひとまず戦いは終わったはずだった。

 

 

 

 地球側の神々は、観測映像を前に沈黙していた。

「魔王が一撃で倒れたぞ」

 ゼウスが呟いた。

「魔力量、身体能力、精神耐性、危険察知……すべて測定限界を超えている」

 思金神が報告書を見下ろした。

「お前が加護を配分したのだったな」

 伊弉諾尊が言った。

「提案したのは私だ。最終決定は委員会だぞ」

「責任の押しつけ合いをしている場合か!」

 アテナは額を押さえた。

「問題は、魔王討伐のあとです。あちらの神々が、勇者に褒美を授けに来るでしょう」

 会議場に、嫌な沈黙が落ちた。

「……本人は、我々とあちらの神々を区別できるのか?」

 オーディンの問いに、誰も答えなかった。

 

 

 

 魔王討伐から三日後、王都は祝祭に沸いていた。

 王は誠を城へ招き、盛大な宴を開いた。魔王軍の脅威は去り、人々は長年の恐怖から解放された。誠は英雄として称えられたが、本人はどうにも落ち着かなかった。

 大通りには花が撒かれ、家々の窓には色とりどりの布が飾られた。広場では楽師たちが演奏し、子供たちは木剣を振り回して勇者の真似をしている。誠が馬車で通りかかると、人々は歓声を上げ、感謝の言葉を口々に投げかけた。

「勇者様、ありがとう!」

「あなたのおかげで、父が帰ってきます!」

 その声を聞くたび、誠は窓越しに頭を下げた。自分がしたことが誰かの暮らしを守ったのなら、それは素直にうれしかった。一方で、魔王城を半壊させたことを思い出すと、どうしても胸が痛む。

 王宮の記録官は、誠の功績を後世に残そうと、戦いの様子を詳しく聞き取ろうとした。

「魔王は、どのような技で倒されたのですか?」

「普通に剣を振っただけです」

「その剣技の名は?」

「特にありません」

「では、必殺技の掛け声などは?」

「……ありませんでした」

 記録官は羽ペンを止め、深刻な顔で隣の補佐官を見た。英雄譚に必要な要素が、ことごとく欠けている。しかし、魔王城の残骸と各地から届く報告書は、少年が成し遂げたことを否定しようがないほど雄弁だった。

 結局、記録官は「勇者、無名の一閃をもって魔王を討つ」と書き記した。誠がそれを知ったら、きっと「一閃というほど格好いいものではありません」と困った顔をしただろう。

 料理は美味しかった。特に肉料理は絶品だった。しかし、誠は早く元の世界へ帰る方法を見つけたいと思っていた。王は帰還の方法を必ず探すと約束し、誠は礼を述べた。

 その夜、誠の部屋にまばゆい光が差し込んだ。

 空間が揺らぎ、黄金の光が渦を巻く。そこに現れたのは、異世界の神々だった。人間離れした威厳を持つ者、頭上に光輪を戴く者、獣のような姿をした者。彼らは勇者に祝福と褒美を授けるため、姿を現したのだ。

 誠は彼らを見つめた。人間ではない。尋常ならざる力を持ち、超自然的な存在感を漂わせている。

 彼の中で、結論はすぐに出た。

 神はただ一柱。それ以外の超自然的な存在は、神ではない。人間を勝手に召喚し、戦いに駆り立てる世界を支える存在ならば、なおさら受け入れる理由はなかった。

 神々が祝福を授けようと手を伸ばした、その瞬間だった。

 誠は剣を抜き、迷いなく振り下ろした。

 黄金の光が弾け、神々の防護結界が砕け散った。中央にいた神の身体が吹き飛び、神殿の柱を何本もなぎ倒して消えた。残る神々は、ようやく自分たちが攻撃されたのだと理解した。

 彼らは反撃しようとしたが、誠の剣は結界を裂き、神力を散らし、転移の術式すら断ち切った。神々は一斉に逃げ出した。誠は彼らの姿を追い、神界へ通じる道を見つけると、そのまま踏み込んだ。

 

 

 

 異世界の神界は、短時間で大混乱に陥った。

 神々は防壁を展開し、隠蔽術を使い、別の領域へ転移した。だが、誠は加護によって神々の居場所を見失わず、行く手を阻む結界も容易に突破した。神界の壮麗な宮殿は崩れ、光の橋は裂け、神々は次々と逃げ場を失っていく。

 誠は言葉をかけなかった。彼にとって、彼らは神ではない。信じる神に敵対する存在であり、言葉を交わして理解し合う相手ではなかった。相手が何を望み、何を説明しようとしているのかを確かめる必要もない。彼の判断は、最初から揺らがなかった。

 地球側の神々は、その一部始終を遠隔観測していた。

「誰も接触するな。絶対にだ」

 伊弉諾尊は、会議場の全員に念を押した。

「仮に我々が姿を見せたら、どうなるか分からん」

「同じように追い回される可能性は高いな」

 オーディンが深刻な顔で頷いた。

「加護を盛りすぎたのではないか」

「ちょっと盛っただけだ」

「ちょっとではない!」

 伊弉諾尊の怒声が、神域に響いた。

 異世界の神々は、ついに最後の手段を選んだ。勇者を地球へ帰す。召喚元へ強制的に送り返すのだ。

 全神力を転送陣に注ぎ込み、座標を召喚元へ固定する。誠が最後の神殿に踏み込んだとき、神々は巨大な転送陣を起動させた。

 光が床から立ち上り、空間そのものが歪む。誠は足元に広がる術式を見下ろした。自分をどこかへ飛ばそうとしていることは分かったが、抵抗する理由はなかった。元の世界に戻れるのなら、それでよかった。

 彼の姿が光の中に沈んでいく。

 神々は最後まで距離を取り、誰ひとり近づかなかった。やがて光が消え、神界には疲れ果てた神々だけが残された。

 長い沈黙のあと、神々の長は決議を告げた。

「今後、地球から人間を召喚することを全面的に禁止する」

 反対する者はひとりもいなかった。召喚術を使ったのは人間たちであり、神々はそれを後押ししていた。彼らは、自分たちの世界の常識が、別の世界の人間にとっては何の意味も持たないことを身をもって知ったのだ。

 

 

 

 真壁誠は、自宅のベッドで目を覚ました。

「……あれ?」

 見慣れた天井。カーテンの隙間から差し込む朝日。机の上には、読みかけの本が置かれている。制服も鞄も、いつもどおりだった。

 異世界に召喚され、魔王を倒し、神界を駆け回り、元の世界へ戻ってきた。あまりにも荒唐無稽な出来事だった。

「……不思議な夢だったな」

 誠は顔を洗い、朝食を食べ、制服に着替えた。いつものように鞄を持って家を出る。

 途中で、近所の犬が吠えた。

 誠は足を止め、犬に軽く会釈した。

「おはようございます」

 犬は吠えるのをやめた。

 誠は満足そうに頷き、再び歩き出した。今日も平和な一日が始まる。

 彼は知らない。自分が異世界で何をしたのか。地球の神々がどれほどの加護を与えたのか。そして、世界中の神々が、自分の存在を恐れていることも。

 彼にとっては、ただの夢だった。

 

 

 

 数日後、全世界異世界召喚対策委員会は臨時会合を開いていた。

「報告します。異世界側で、地球人召喚の全面禁止が決定された模様です」

 思金神の報告に、会場には安堵の空気が広がった。

「結果としては、成功か」

 伊弉諾尊が言った。

「成功と呼んでよいものかは、議論の余地があるでしょう」

 アテナは肩をすくめた。

「少なくとも、今後の地球人召喚被害は減るはずです」

 オーディンが頷いた。

「本人は、何も知らないのだな?」

「すべて夢だったと思っているようです」

「ならば、それでよい。彼の平穏な生活を乱してはならん」

 伊弉諾尊は会議を締めくくろうとした。

 そのとき、思金神が控えめに手を挙げた。

「ところで、次に同じような事態が起きた場合は、別のタイプの人間を――」

「却下だ」

「まだ何も説明していません!」

「説明を聞く必要がない!」

 ゼウスが笑いをこらえ、オーディンが咳払いをした。インドラは額に手を当て、玉皇大帝は議事録に大きく「実験案、却下」と書き込んだ。

「この委員会の目的は、被害を防ぐことだ。新たな被害を生み出すことではない」

「……承知しました」

 思金神は、ようやく引き下がった。

 会議は終了し、世界中の神々はそれぞれの神話圏へ帰っていった。

 地球は今日も平和だった。

 そして、どこか遠い異世界では、召喚術の研究が再開されていた。ただし、地球だけは除外して。

 二度と地球人を召喚しない。何があっても。

 異世界の神々は、その決意を決して忘れなかった。

 なにしろ、彼らは身をもって学んだのだ。

 世界を救った勇者が、必ずしも神々に感謝してくれるとは限らない。

 そして、地球には――自分たちの常識など通用しない少年が、今日も普通の高校生として暮らしているのだから。