切り捨て御免

ディアマンテ・フラヴィア・ビスカルディーニ

十八歳。
ビスカルディーニ侯爵家の長女であり、物語開始時点では第一王子リヴィオの婚約者。
五歳のときに結ばれた婚約を、貴族として果たすべき責務の一つとして受け入れている。
リヴィオに恋愛感情は抱いておらず、彼に求めるものは愛情ではなく、王太子としての責務を全うすること。
婚約者が男爵令嬢イッポリタと関係を持っていると知っても、嫉妬に駆られて取り乱すことはない。
何度も忠告の機会を設け、王家の制度や将来について冷静に確認する一方、リヴィオが忠告を拒絶し続ける様子を、日時や場所、目撃者、発言内容とともに正確に記録していく。
感情と事実を切り分け、憶測ではなく確かな証拠によって判断を下そうとする姿勢は一貫している。
侯爵家の誇りと王家への責務を重んじ、相手が王太子であろうとも、果たすべき責任を放棄する者に未来を預けることはない。
毅然とした態度と揺るぎない信念を持つ、聡明な令嬢である。


リヴィオ・マンリオ・クリスティネッリ

第一王子であり、物語開始時点では王太子。
側妃ロミーナの息子で、長子相続の原則によって王太子に立てられた。
ビスカルディーニ侯爵令嬢ディアマンテとは幼少期から婚約しているが、彼女を愛するつもりはないと公言し、王太子妃としての務めを果たそうとする彼女の忠告を疎ましく思っている。
学院で出会った男爵令嬢イッポリタに夢中になり、二人の関係を「真実の愛」と称して、婚約者への不誠実や王族としての責務を軽視する。
公式行事の欠席、授業や職務への怠慢、護衛や側近の遠ざけなど、問題行動を繰り返す一方、自らの立場が周囲の支えによって成り立っていることを理解していない。
ディアマンテから何度も改善の機会を与えられながら、それを拒み続けた結果、ついには王太子の地位を失い、婚約も解消される。
失脚後、彼女が自分を縛ろうとしていたのではなく、王太子として責務を果たせるよう支えていたのだと気づく。
しかし、理解したときにはすでに遅く、彼が失ったものの大きさを思い知ることになる。


フィオリーノ・オットリーノ・クリスティネッリ

王妃セヴェーラの息子で、リヴィオに続く第二王子。
異母兄とは対照的に、自らが王族であることを理解し、将来の責務を見据えて行動している。
学院では特定の派閥にこだわらず、さまざまな貴族の子女と交流を持ち、学業にも励んでいるため、教師たちからの評判もよい。
兄の振る舞いを憂慮しながらも、感情だけで判断するのではなく、事実を確かめ、必要な対応を取ろうとする。
ディアマンテからリヴィオの行動に関する確認を依頼されると、王家の一員として調査に協力する。
やがてリヴィオが王太子の地位を失うと、新たな王太子に立てられ、ディアマンテとの婚約を打診する。
彼女が婚約を受け入れるかどうかを、身分や立場だけで決めるのではなく、王太子としての責務や王太子妃に求めるものについて、率直に自らの考えを伝える。
自分が誤る可能性を認め、必要なときには反対意見を述べてほしいと考える姿勢が特徴。
周囲の忠告を受け入れ、互いに支え合う関係を築こうとする、誠実で責任感のある王子である。


イッポリタ・エーベ・サルヴァ

サルヴァ男爵家の一人娘で、リヴィオの恋人。
婚約者はマケーダ子爵家の三男、カルミネ・イタロ・マケーダ。
父はもともと王都で商会を営んでいた平民で、遠縁の男爵家を継いだことで貴族となった。
そのため、イッポリタ自身も社交界での立ち居振る舞いや貴族としての作法を十分に身につけていない。
しかし、学んで身につけようとするよりも、王太子であるリヴィオに近づき、彼の寵愛を得ることを優先している。
ディアマンテに対しては、婚約者としての立場を顧みず、親しげな呼び方や無礼な発言を繰り返す。
リヴィオとの関係を「真実の愛」と信じ、それを理由に自分たちの行動が認められると考えている。
リヴィオの権威を背景に王太子妃候補のように振る舞い、学院の上級貴族向け施設を利用するなど、身分や秩序を軽視した行動も目立つ。
だが、リヴィオが王太子の地位を失うと、彼女を取り巻いていた待遇や特別な立場も失われていく。
自身の行いが記録されていたことを知り、事態が思いどおりにならなくなってからも、なおリヴィオの愛を主張する。
彼女の物語は、愛を掲げることと、社会の中で責任を果たすことは別であると示している。


ヤコポ・デジデリオ・ブラマーニ

ブラマーニ子爵家の令息で、ディアマンテに仕える護衛騎士。
主人公のそばで安全を守るだけでなく、彼女が王太子リヴィオの問題行動を記録する際にも重要な役割を担う。
ディアマンテがカルミネから理不尽な言葉を浴びせられたときには、すぐさま二人の間に立ち、侯爵令嬢に対する無礼をたしなめる。
王太子の行いを正したいのであれば、礼を尽くし、然るべき手続きを踏むべきだと説き、ディアマンテに責任を押しつけることを許さない。
主人の指示に従って日時や場所、発言内容などを記録し、彼女が感情に流されず事実を積み重ねていく過程を支える。
リヴィオが忠告を聞き入れず、周囲の人間を遠ざけていく中でも、ヤコポは職務を忠実に果たし続ける。
リヴィオが失脚した後、王宮でディアマンテに迫ろうとする場面でも、彼女の前に立って殿下を制止する。
身分や権力に惑わされず、主人の尊厳と安全を守る姿勢は一貫している。
冷静な判断力と確かな忠誠心を備え、ディアマンテが信念を貫くうえで欠かせない存在である。


アウローラ・シビッラ・ザンピエーリ

ザンピエーリ伯爵家の令嬢で、ディアマンテの侍女兼学友。
主人に近い立場から日常を支え、リヴィオの行動を記録する作業にも協力している。
単に噂を集めるのではなく、誰が何を見聞きしたのか、直接確認できた事実なのか、それとも伝聞なのかを区別し、正確な情報を整理することを重視している。
日時や場所、目撃者、発言内容といった記録の形式を確認し、必要に応じて学院内での行動や関係者の証言を調べるなど、慎重で実務的な一面を持つ。
ディアマンテがリヴィオに対して毅然とした態度を崩さず、忠告を続ける姿を間近で見守っている。
主人の冷静さを理解しつつも、彼女が本当に悲しみを感じたことはないのかと尋ねるなど、その内面にも目を向けている。
感情に流されず、事実を積み重ねて王家の判断を支えるというディアマンテの方針を理解し、必要な場面で着実に力を貸す協力者。
華やかな社交の場だけでなく、記録の整理や事実確認といった地道な仕事を通じて、主人の信頼に応えている。
ディアマンテが責務を果たすための、心強い友人であり補佐役でもある。


カルミネ・イタロ・マケーダ

マケーダ子爵家の三男。
イッポリタ・エーベ・サルヴァの婚約者であり、彼女がリヴィオと親密な関係にあることを知りながら、積極的に止めようとはしない。
イッポリタとの婚約は、マケーダ子爵家が資金援助を行う代わりに、カルミネが婿入りして男爵位を継ぐという家同士の契約に基づくものだった。
そのため、この婚約は彼個人の恋愛だけでなく、家の将来にも深く関わっている。
物語序盤、リヴィオとイッポリタが人目もはばからず抱き合っている場面をディアマンテとともに目撃するが、彼女に対しては気まずさや怒りを向け、なぜ二人を放置しているのかと責める。
王太子の行動を正す責任をディアマンテに求める一方、自分自身は婚約者の不貞を知りながら沈黙しており、問題に向き合うことができない。
イッポリタを止められない無力さや、自らの利益を失うことへの恐れから、他人に責任を押しつけようとする人物である。
しかし、ディアマンテの記録によって事実が明らかになり、婚約者の不誠実さが家同士の関係を損なうと、彼自身も父から厳しく問いただされることになる。
やがて、自分もまた傍観者であるだけではなかったと理解するが、その気づきは遅すぎた。