ソルヴェイ・カロリーネ・ラーシャルード
ラーシャルード公爵家の令嬢で、本作の主人公。
銀色の髪と青い瞳を持つ、気品ある美しい女性。
幼い頃から父セバスティアンに大切に育てられ、ヴィルヘルムとは長い時間をともに過ごした末に婚約した。
十歳の誕生日に贈られた本や、一緒に乗馬をして笑い合った日々など、彼との思い出を何よりも大切にしている。
ところが、公爵家に身を寄せていた従妹のブリギッタが、特殊なスキル「盗心」を使ったことで事態は一変する。
父は娘への関心を失い、婚約者もまた、ソルヴェイとの思い出を別の女性との記憶として認識するようになってしまった。
突然、最も信頼していた二人から遠ざけられたソルヴェイは深く傷つくが、母ロヴィーサの支えを受けながら、異変の真相を追っていく。
やがて盗心スキルが封印され、父と婚約者の愛情や記憶は元に戻るものの、彼らに裏切られたように感じた苦しみまで消えるわけではない。
相手が謝罪し、再び愛情を示したとしても、以前と同じ関係に戻るとは限らない。
誰かに愛されることだけを自分の価値とせず、誰を許し、誰と生きていくのかを自分自身で選ぼうとする、芯の強い女性。
ブリギッタ・シーンバリ
両親を亡くし、叔父にあたるセバスティアンのいるラーシャルード公爵家に引き取られた、元男爵令嬢。
淡い薔薇色のドレスや豪華な宝石を身につけ、恵まれた暮らしを手に入れることに強い執着を抱いている。
公爵令嬢として生まれ、美しい容姿や豊かな財産、愛情深い父親、そして理想的な婚約者まで持つ義姉ソルヴェイを妬み、自分こそが彼女の持つものを手に入れるべきだと思い込んでいる。
彼女には、他人が抱く異性への強い愛情を奪い、その対象を自分へと置き換える特殊なスキルが備わっていた。
ブリギッタはその力を利用してセバスティアンの愛情を自分に向けさせ、さらにソルヴェイの婚約者ヴィルヘルムまで奪っていく。
しかも、愛情だけでなく、相手とソルヴェイが積み重ねてきた大切な思い出までも、自分との記憶であるかのように書き換えてしまう。
自らの行為を他人の幸福を奪うことではなく、本来手に入れるべきものを取り戻すことだと正当化し、ソルヴェイを憎み続ける。
しかし、聖教会の調査によってスキルの存在が明らかになり、盗心は封印される。
公爵家から追放され、罪に対する裁きを受けることになっても、最後まで自分の過ちを認めようとしない。
望むものを手に入れるために他人の心を盗んだ彼女は、愛情と幸福の本当の意味を理解できないまま、その力を失うことになる。
ヴィルヘルム・アロルド・エルマンデル
エルマンデル侯爵家の次男で、ソルヴェイの婚約者。
輝くような金髪と新緑を思わせる緑の瞳を持ち、細身ながら鍛えられた長身と、貴公子らしい端正な顔立ちが印象的な青年。
ソルヴェイとは幼い頃から親しく、十歳の誕生日に本を贈られたことや、初めて一緒に乗馬をしたこと、彼女が熱を出した際に見舞いを重ねたことなど、多くの思い出を共有してきた。
婚約が決まった日には、これから先もずっと彼女の隣にいたいと告げるほど、ソルヴェイを大切に思っていた。
しかし、ブリギッタの「盗心」スキルによって愛情を奪われ、ソルヴェイに向けていた親愛の情はブリギッタへと移り変わってしまう。
さらに、幼い頃からソルヴェイと築いてきた記憶まで書き換えられ、彼女を婚約者ではなく、関心の薄い相手として扱うようになる。
本人には自分の異変を自覚することができず、ソルヴェイが苦しんでいることにも気づけなかった。
侯爵である父ナータンや母マデレイネが異変を察したことをきっかけに、事態は少しずつ明らかになっていく。
盗心スキルが封印されると、ソルヴェイとの記憶と本来の愛情を取り戻し、自分が彼女をどれほど深く傷つけたかを知る。
心から謝罪し、彼女の気持ちを急かさないと誓うが、愛情が戻ったからといって信頼まで簡単に取り戻せるわけではないことを思い知らされる。
セバスティアン
ラーシャルード公爵家に婿入りした男性で、ソルヴェイの父。
ブリギッタの実父の弟にあたり、両親を亡くした姪を一時的に公爵家へ迎え入れた人物でもある。
もともとは娘を深く愛し、帰宅すればその日の出来事を尋ね、話に耳を傾け、好物の菓子を買って帰るなど、愛情を惜しみなく注いでいた。
ソルヴェイの成人を誰よりも喜び、成長してからも大切な娘として接していたが、ブリギッタの「盗心」スキルによってその愛情を奪われてしまう。
以降はブリギッタの表情や願いばかりを気にかけ、実の娘であるソルヴェイが寂しさを訴えても関心を示さなくなる。
本人は自分の変化を疑うこともなく、娘との大切な思い出さえブリギッタとの記憶として認識するようになっていた。
しかし、盗心スキルの封印によって本来の愛情と記憶を取り戻すと、目の前にいるソルヴェイが自分の娘であることを改めて実感する。
そして、自分が娘の助けを求める声に耳を傾けず、傷つけてしまった事実に気づき、深い後悔に苛まれる。
スキルの影響下にあったとはいえ、娘が苦しんだ時間までなかったことにはできないと理解し、許しを求めるのではなく、まず謝罪を伝えようとする。
愛情を取り戻した後も、失った信頼を再び築くためには時間が必要であることを突きつけられる父親。
ロヴィーサ・エドラ・ラーシャルード
ラーシャルード公爵夫人で、ソルヴェイの母。
夫セバスティアンと娘を大切に思い、落ち着いた判断力と深い愛情をもって家族を支える女性。
ソルヴェイが父や婚約者との関係に悩み、涙を流して自分のもとを訪れたときも、すぐに娘を否定したり責めたりすることなく、その手を握り、静かに話を聞く。
そして、夫とヴィルヘルムがほぼ同時にソルヴェイへの愛情を失ったことに不自然さを感じ、娘一人に苦しみを背負わせないため、自ら行動を起こす。
ヴィルヘルムの両親に事情を尋ね、彼の言動や記憶の食い違いを確かめることで、単なる心変わりでは説明できない異変を明らかにしていく。
やがて聖教会の調査を通じて、ブリギッタが他人の愛情と記憶を改変する「盗心」スキルを使っていたことが判明すると、その封印と真相の究明に関わる。
ブリギッタに対しては、自分が望むものを得るために他人の心を奪った行為を厳しく指摘し、娘を傷つけた責任を曖昧にはしない。
一方で、夫セバスティアンもスキルの被害者であったことを理解しながら、彼が娘を傷つけた事実まで消えるわけではないと考えている。
事件後は、ソルヴェイに「誰かを許すことは義務ではない」と伝え、父や婚約者との関係をどうするかは本人が決めてよいのだと諭す。
娘の気持ちを尊重し、自分自身の意思で未来を選び直せるよう寄り添う、強く思慮深い母親。