婚約者の務めかと

クレスセンシア・アルカンタル

アルカンタル公爵家の令嬢で、グラセス王国の王太子デメトリオの婚約者。
将来の王妃となることを見据え、王立翰林学院で学び、王太子を支えるための知識や判断力、調整能力を磨いてきた才女である。
デメトリオが複数の令嬢との恋愛に溺れ、婚約者としての自分を顧みなくなっても、感情に任せて相手を責めることはない。
彼女にとって重要なのは、個人の恋愛感情そのものではなく、その選択が周囲や王家、貴族社会にどのような影響を及ぼし、どのような責任を生じさせるかという現実である。
冷静沈着で理性的な彼女は、関係者を集め、既存の制度や必要な条件を示すことで、デメトリオと彼を取り巻く人々に自らの選択の意味を理解させようとする。
その姿勢は、王太子の地位や婚約を失う結果を招いても揺らがない。
一方で、決して何も感じていないわけではなく、王妃となる未来や、デメトリオと築いてきた信頼が失われたことも理解している。
婚約解消後は、王妃になるために身につけた能力を自分自身の未来のために生かす道を模索する。
与えられた立場に依存せず、自らの知性と判断力で新たな人生を切り開いていく女性である。


デメトリオ

グラセス王国の王太子で、クレスセンシア・アルカンタルの婚約者。
金色の髪と整った顔立ちを持ち、生まれながらに恵まれた地位にあり、望めば大抵のものが手に入る環境で育ってきた青年である。
本来ならば、王立翰林学院を卒業した後、国王のもとで本格的に政務を学び、クレスセンシアとともに王国を支える立場になるはずだった。
しかし、彼はダフネをはじめとする複数の令嬢との恋愛に夢中になり、学業や王太子としての務め、さらには婚約や家同士の約束を軽んじるようになる。
彼の言動には、愛する女性たちの気持ちを理解しているつもりでありながら、彼女たちが置かれた立場や将来にまで思いを巡らせることができない未熟さが表れている。
クレスセンシアに対しても、自分の気持ちを理解し、支えることこそ婚約者の務めだと考え、彼女が制度や責任を重視する姿勢に反発する。
しかし、国王による問いただしや関係者との協議を通じて、自分の恋愛が相手の人生だけでなく、家族や王家、王国の制度にまで影響することを突きつけられる。
やがて王太子の地位と婚約を失い、自らが当然のものと思い込んでいた未来が、自分自身の選択によって失われたのだと向き合うことになる。
彼の物語は、愛を語ることと、その愛に伴う責任を引き受けることの違いを浮き彫りにする。


ダフネ

ボルケ子爵家の令嬢で、カバジェ伯爵家の次男フィデルの婚約者。
王立翰林学院の中庭で王太子デメトリオと親密に過ごしているところを、クレスセンシアに目撃される。
婚約者がいる身でありながら王太子との関係を深めていく彼女にとって、デメトリオは身分の違いを越えて自分を愛し、周囲が反対しても自分を選んでくれる特別な男性だった。
彼との恋愛は、単なる王太子の寵愛ではなく、自分自身が望まれ、選ばれているという確信に支えられていたのだろう。
しかし、王太子との関係が明るみに出たことで、フィデルとの婚約は継続が困難となり、両家の間で婚約解消に伴う補償や今後の取り決めを協議する必要が生じる。
デメトリオは彼女が自分を愛しており、従来の婚約を望んでいないと主張するが、恋愛感情だけで家同士の約束や現実的な問題を消し去ることはできない。
クレスセンシアは彼女を公然と辱めるのではなく、関係者が負うべき責任と必要な手続きを明らかにしていく。
そしてデメトリオが王太子の地位を失った後、ダフネ自身もまた、彼との関係を続けることを本当に望むのか、改めて考えることになる。
かつて信じていた「自分を選んでくれる特別な男性」と、王太子という立場を失った彼は同じなのか。
恋愛への憧れと、現実の人生をともに歩む覚悟との間で、自らの選択を問い直す令嬢である。