エヴェリーナ・ライラ・レンネゴード
レンネゴード公爵家の令嬢で、かつて王太子ヨナタンの妃を務めた女性。
銀糸のような長い髪と、夜明けの空を思わせる紫がかった黒い瞳を持ち、その儚げな美しさと気品ある所作から、社交界では「月の姫君」と呼ばれている。
美貌だけでなく、学問や礼儀作法、政治、経済、外交儀礼、領地経営にも精通した才女であり、幼い頃から王太子妃となることを見据えて研鑽を積んできた。
婚約者だったヨナタンが努力を怠り、公務に必要な知識や判断力を身につけようとしなくても、彼を支えることが自分の務めだと考え、必要な準備や書類の整理を引き受けてきた。
しかし、結婚初夜に夫から「お前を愛することはない」と告げられ、妻として尊重されることも望めない現実を知る。
それでも感情に流されることなく、王太子妃としての責務を果たしながら、弟たちや家族と協力して次代への引き継ぎを進めた。
三年間の務めを終えた後は、ヨナタンとの離婚を受け入れ、持参金と領地を実家へ戻して公爵令嬢としての生活を取り戻す。
誰かに愛されることや評価されることに執着せず、自らの責任を誠実に果たしたうえで、自分自身の人生を歩み始める女性である。
ヨナタン・カール・エリアソン
王妃を母に持つ第一王子で、エヴェリーナの元夫。
金色の髪と青い瞳、すらりとした長身を備え、容姿だけを見れば王族にふさわしい華やかさを持つ。
しかし、その外見とは裏腹に、努力を嫌い、面倒な課題を後回しにしがちな性格。
幼い頃から周囲に甘やかされ、自分が真剣に取り組まなくても誰かが何とかしてくれる環境で育ったため、王族としての責任や公務の重さを十分に理解していない。
婚約者のエヴェリーナが優れた知識と判断力で自分を支えていることにも気づかず、むしろ自分より優秀な彼女に不快感を抱いていた。
学園で出会ったトーヴァは、彼の言動を何でも褒め、厳しい指摘をしないため、ヨナタンにとって心地よい存在となる。
結婚初夜にはエヴェリーナに愛さないと宣言しながら、王太子妃としての彼女の働きには依存し続けた。
やがて離婚すれば妻の持参金や王太子妃領を自由に使えると考えたが、それらが公爵家へ返還される取り決めを理解しておらず、自らの署名がある書類を前に愕然とする。
王太子の地位を失った後は臣籍降下して男爵となり、辺境の小領地を治めることに。
これまで他人に任せてきた仕事に直面し、妻の支えがどれほど大きかったかを思い知ることになる。
トーヴァ
裕福な平民の家に生まれ、王立ハルネス学園でヨナタンと親しくなった女性。
王族として扱われることに慣れたヨナタンに対し、彼の言葉を感心して聞き、行動を褒め、勉強や課題を怠けても責めることがなかった。
そのため、エヴェリーナから必要な指摘や助言を受けることを快く思っていなかったヨナタンにとって、トーヴァは自分を否定せずに受け入れてくれる心地よい相手となり、二人は周囲の目も気にせず親密になっていく。
トーヴァは王太子妃という身分や、その立場から得られる華やかな暮らしにも強い憧れを抱いていた。
王太子妃となるための身分要件を満たす目的でバックマン伯爵家と養子縁組を結び、ヨナタンが王太子であり続ける限り、いずれ自分も王太子妃となり、エヴェリーナのような美しい衣装や宝石、多くの侍女に囲まれた生活を送れると信じていた。
しかし、ヨナタンが王太子の地位を失うと、彼が約束していた持参金や領地が自分のものにならないことを知り、期待は大きく裏切られる。
さらに、王太子妃でなくなったことで伯爵家との養子縁組も解消され、庇護を失うことに。
辺境の男爵となったヨナタンとの暮らしにも不満を募らせ、彼を責めるようになる。
ヨナタンと同じく、相手の現実よりも自分に都合のよい未来を信じていた人物である。
ヴィルマル・レオナルド・レンネゴード
レンネゴード公爵家の長男で、エヴェリーナの弟にして次期公爵。
姉を深く気遣い、彼女が王太子妃として過ごした三年間の苦労をよく理解している。
ヨナタンが王太子としての務めを果たせていたのは、本人の能力や努力によるものではなく、エヴェリーナが陰で公務の準備や書類の確認、式典の手配などを引き受けていたからだと知っている。
そのため、姉を愛さず尊重もしなかった元義兄に対しては、呆れと怒りを隠さない。
ヨナタンが王太子妃領や持参金を自分のものにできると思い込んでいたことにも、貴族社会の基本的な慣習さえ理解していないと厳しい評価を下す。
一方で、姉に対しては常に優しく、彼女が相手を責めずに済ませようとする姿勢にも理解を示している。
父とともに、エヴェリーナがこれ以上ヨナタンを支える必要はないと考え、王家との協議や次代への引き継ぎを進める。
離婚後も、辺境へ移ったヨナタンの報告書に目を通し、その領地経営の不手際を姉と話題にすることがある。
率直で、時には辛辣な物言いもするが、その根底にあるのは姉への愛情と、公爵家を担う者としての責任感である。
エヴェリーナが自分の人生を取り戻し、穏やかな日々を過ごせることを心から願っている。