アナスタシア・アルセーニエヴナ・チェルノヴァ
チェルノヴァ大公家の令嬢にして、カラリェーヴァ王国の次期女王と目される十八歳の少女。
艶やかな黒髪と涼やかな灰青色の瞳を持ち、生まれながらの高貴さと気品を備えている。
王立ネヴゾロヴァ学院では一目置かれる存在だが、周囲からの評価に執着することはなく、常に落ち着いた態度を崩さない。
頭の痛い問題に直面しても感情的にならず、相手の言動を冷静に見極める聡明さの持ち主である。
一方、心を許した相手には柔らかな表情を見せ、特にクリメントと過ごす時間を何よりも大切にしている。
従兄イヴァンから一方的に婚約者扱いされ、その恋人であるマリーナから恋敵と誤解されるが、そもそもイヴァンとの婚約を承諾した事実などない。
王位を女性が継承するこの国において、いずれ自らが女王となる立場にあり、王太子妃の座を争う必要もない。
身勝手な思い込みに振り回されながらも、他人の都合に自分の人生を左右されることなく、心から愛するクリメントを自らの伴侶に選ぶ。
気品と知性、そして揺るぎない意志を兼ね備えた、未来の女王にふさわしい令嬢である。
クリメント・アンドレーエヴィチ・シャホフ
シャホフ公爵家の令息であり、王立ネヴゾロヴァ学院でも屈指の秀才として知られる貴公子。
端正な顔立ちに落ち着いた物腰を備え、学業だけでなく剣術にも秀で、礼儀作法に至るまで申し分のない文武両道の人物である。
温厚篤実な性格で、誰に対しても礼節を忘れないが、アナスタシアに対してはひときわ細やかな気遣いを見せる。
彼女の好みをよく理解しており、好きな蜂蜜入りの焼き菓子を持参したり、二人で過ごす時間を大切にしたりと、何気ない振る舞いの中にも深い愛情が表れている。
アナスタシアもまた彼の前では普段より表情が柔らかくなり、互いに想い合っていることは周囲から見ても明らかである。
しかし、次期女王の配偶者は将来の王配となるため、正式な婚約の発表には慎重な検討が必要とされていた。
アナスタシアがイヴァンの婚約者だという根も葉もない話を聞いた際には、穏やかな笑顔の奥に不穏な気配をのぞかせる一面もある。
卒業記念舞踏会では、彼女への想いを公然と告げ、本人の意思を何よりも尊重する姿勢を示した。
愛する人を一途に想い、その選択を受け止める誠実さを備えた、アナスタシアにふさわしい王配候補である。
イヴァン・アルノーリドヴィチ・クレスチヤニノフ
カラリェーヴァ王国の現女王エレーナの唯一の子であり、アナスタシアの従兄にあたる青年。
王家唯一の男子という立場にあるが、女性による王位継承を定めたこの国では、男子であることが王位継承の資格を意味するわけではない。
学業の成績は決して悪くないものの、自分に都合のよい結論を思いつくと、そこに至るまでの過程を省略してしまう悪癖がある。
アナスタシアとは婚約候補者という関係にすぎないにもかかわらず、将来結婚する可能性があるのだから、すでに婚約者と称しても問題ないと考えるなど、物事を自分本位に解釈しがちである。
また、マリーナに対して将来迎え入れると告げ、彼女が王妃になれるという期待を抱く原因を作っている。
しかし、本人は王配と国王の違いも十分に理解しておらず、アナスタシアと結婚して王配になれば、いずれ王位継承制度を変えられるのではないかと、具体的な根拠もなく夢想している。
卒業記念舞踏会では、皆の前でアナスタシアとの婚約を認めさせようとするが、正式な婚約が成立していない事実を突きつけられることになる。
自らの願望を現実と取り違え、周囲を巻き込んでしまう、思い込みの激しい人物である。
マリーナ・プローホロヴナ・オシペンコ
オシペンコ男爵家の令嬢。
淡い金髪に明るい茶色の瞳、愛らしい顔立ちを持ち、華やかなものを好む少女である。
イヴァンから愛されていると信じて疑わず、いずれ彼に正式に迎えられ、自分が王妃になる未来を思い描いている。
アナスタシアがイヴァンの婚約者候補であると知ると、彼女を恋敵と見なし、自分こそが愛されているのだから身を引くべきだと迫る。
しかし、アナスタシアにはイヴァンと婚約した事実がなく、そもそも王太子妃の座を目指してもいない。
マリーナはイヴァンの言葉を自分に都合よく受け取り、その意味を確かめることなく、望む未来が実現すると信じ込んでいる。
学院では、将来王妃になる者として礼儀作法や歴史、外交を学ぶ必要性を語り、周囲の令嬢たちにも自分を支えるよう求めるが、彼女たちは困惑するばかりである。
男爵令嬢である自分が王妃になることへの周囲の反応も、嫉妬によるものだと解釈してしまう。
卒業記念舞踏会では、自分が信じてきた未来と王国の現実との食い違いが明らかになり、イヴァンとの関係も揺らぐことになる。
自らの願望を信じるあまり、現実を見失ってしまう騒動の当事者である。
エレーナ・インノケンチェヴナ・クレスチヤニノヴァ
カラリェーヴァ王国の現女王であり、イヴァンの母。
女性による王位継承を定めた王国を治める立場にあり、王族としての責任と制度の重要性を理解している。
息子イヴァンがアナスタシアとの婚約を既成事実のように語り、王配になれば男子相続への変更も可能になると考えていることを知ると、冷静にその誤りを指摘する。
王配とは女王の配偶者であって、王位を継承する者ではない。
王家唯一の男子であるという理由だけで、国の制度を変えられるわけでもない。
エレーナは、こうした基本的な事実を息子に改めて理解させようとする一方、アナスタシアが誰を配偶者に選ぶかについては、本人の意思を尊重する姿勢を明確にしている。
また、クリメントがアナスタシアとの婚約を望み、彼女の心に従うと述べた際には、その意向を受け入れ、正式な手続きを進めることを認めた。
息子に対しても、王族という立場を理由に特別扱いすることなく、事実と責任に基づいて判断する人物である。
卒業記念舞踏会での一連の騒動を通じ、王国の秩序を守る女王としての威厳と、次代を担うアナスタシアの意思を尊重する姿勢を示す。