王侯貴族に恋愛は必要ない

エレノア・フォン・アシュフォード

アシュフォード公爵家の長女であり、レオナルト王太子の婚約者。
幼い頃から、将来の王妃となるべく教育を受け、王宮のしきたりや外交の作法、国を支える者としての教養を身につけてきた。
誰よりも優秀であることよりも、いつか王太子の隣に立ったとき、彼が安心して背中を預けられる女性でありたいと願い、日々努力を重ねている。
穏やかで誠実なレオナルトを深く尊敬し、疲れた彼のために好みの紅茶を用意したり、政務の悩みに耳を傾けたりと、婚約者として細やかな気遣いを欠かさない。
一方で、誰に対しても優しい彼がほかの令嬢に微笑みかける姿を見ると、胸に寂しさや嫉妬が生まれてしまう。
王太子妃にふさわしい自分であろうとするあまり、そんな感情を抱くこと自体を恥じ、思い悩むことになる。
しかし、母セレスティアや友人ミレーヌとの対話を通じ、感情を持つことと、その感情に振り回されることは違うのだと学んでいく。
王太子の婚約者としての誇りを失わず、一人の女性としての恋心も大切にすること。
その答えを自ら見つけようとする、責任感が強く、ひたむきな令嬢である


レオナルト王太子

エレノア・フォン・アシュフォードの婚約者であり、将来、一国を背負う立場にある王太子。
穏やかで誠実な人柄の持ち主で、身分の上下にかかわらず相手の話に耳を傾け、困っている者がいれば自然に手を差し伸べる。
学院でも学びを怠らず、講義の課題について質問する令嬢には、相手が理解できるよう丁寧に説明する。
その誰に対しても変わらない優しさは、王太子としても一人の人間としても、彼の大きな美点である。
将来の国政について真剣に考え、政務に悩むこともあるが、エレノアの意見に耳を傾け、彼女の考察や助言を高く評価している。
彼女が用意する紅茶や、負担を軽くしようとする気遣いにも支えられているものの、その献身を当然のように受け止めてしまい、彼女自身が何を感じているのかを十分に理解できていなかった。
やがて、以前よりも距離を感じるようになったエレノアの変化に気づき、彼女の本心を知ろうとする。
自分が彼女に甘えていたのではないかと振り返り、これからは喜びも寂しさも率直に話してほしいと願うようになる。
誰にでも優しい王太子であると同時に、婚約者と心を通わせ、互いに支え合う関係を築こうとする青年である。


セレスティア

アシュフォード公爵夫人であり、エレノアの母。
優雅で聡明、どのような場でも取り乱すことなく、公爵夫人としての務めを完璧に果たす女性である。
家庭では夫を敬い、娘を慈しみ、相手の心を察しながらも、答えを急がせずに見守る温かさを持っている。
エレノアにとっては、何よりも尊敬する存在であり、王妃となるための心構えを学んできた人生の手本でもある。
娘が王太子妃としての自分に疑問を抱き、レオナルトへの恋心や嫉妬に苦しんでいると知ったときも、感情を抱くことそのものを否定しない。
王侯貴族には責務を果たすための理性が必要であり、妬心のままに他者を傷つけたり、王太子の立場を顧みずに振る舞ったりすることは慎むべきだと、厳しさをもって教える。
一方で、寂しさを感じることまで禁じる必要はないと説き、感情が生まれることと、その感情に従って行動することの違いを娘に示す。
王太子妃に必要なのは何も感じない心ではなく、感じた心を正しく扱う力なのだという言葉は、エレノアが自分自身の答えを見つける大きな支えとなる。
母として娘を愛しながらも、ただ甘やかすのではなく、自ら考え、自ら選ぶ力を育もうとする、気品と慈愛に満ちた女性である。


ミレーヌ

エレノアの友人であり、彼女が胸の内に抱える悩みに気づき、そっと寄り添う女性。
学院の庭園で、レオナルトがほかの令嬢に親切にする姿を見つめ、難しい表情を浮かべていたエレノアに声をかけたことから、友人の心の揺れに向き合うことになる。
普段は、エレノアの表情を見て「今にも哲学の講義を始めそう」と冗談めかして言うなど、親しみやすく、相手の緊張を和らげる一面を持つ。
しかし、友人が本当に悩んでいるとわかれば、からかうような態度を引っ込め、真剣に話を聞く。
レオナルトを特別な存在だと思うあまり、ほかの令嬢に向けられる彼の優しさに嫉妬してしまう――そんな自分を責めるエレノアに対しても、王太子妃にふさわしくないとは思わないと伝える。
その一方で、王太子妃になるために重ねてきた努力や、その立場の大変さを自分がすべて理解できるわけではないことも率直に認める。
そして、自分だけで答えを出そうとするエレノアに、母セレスティアへ相談してみるよう勧める。
友人の気持ちを勝手に決めつけたり、安易な答えを押しつけたりせず、必要な相手に助けを求める道を示す存在である。
エレノアが自分の心と向き合うきっかけを作った、思いやり深く、率直で頼もしい友人である。