フォスティーヌ・ド・シュペルヴィエル
シュペルヴィエル子爵家の令嬢で、本作の主人公。
淡い緑の瞳を持ち、優雅な物腰と礼儀正しい振る舞いの裏に、冷静な判断力と確かな意志を秘めている。
商業に関する知識や数字を扱う能力に優れ、会計整理、商人との交渉、社交行事の手配、領地管理に関する助言まで幅広くこなす才女。
婚約者ロイクとの結婚を見据え、将来のための勉強と考えてフロベール伯爵家を支えてきた。
しかし、彼女の献身は次第に当然のことと見なされ、伯爵家の人々は自分たちが負うべき責任まで彼女に押しつけるようになる。
問題点を指摘し、一緒に考えようと何度も働きかけても、彼らが真剣に耳を傾けることはなかった。
家族との対話を通じて、自分が相手の家のすべてを背負う義務などないと気づいたフォスティーヌは、ついに婚約解消を決意する。
困っている人を助けたいという優しさを失わず、それでも他人の都合に自分の人生を明け渡さない。
自らの能力と意思で未来を選び直そうとする、聡明で自立心の強い女性。
ロイク・ド・フロベール
フロベール伯爵家の跡継ぎで、フォスティーヌの婚約者。
貴族としての立場と家名を重んじる一方、家計や領地経営に関する知識と責任感に乏しく、自らが把握すべき問題を父親や婚約者に任せきりにしている。
フォスティーヌが会計整理や商人との交渉をこなし、家の問題を解決してくれることを当然のように受け止め、彼女が何度も一緒に学ぼうと提案しても真剣に応じなかった。
閉山した金山の収益を前提とする帳簿の問題を指摘されても、自分で原因を考えるのではなく、フォスティーヌに修正を任せようとする。
彼にとって、婚約者とは自分を支えてくれる存在であり、彼女自身の希望や負担について思いを巡らせることは少なかった。
財務省の監査によって家の問題が明らかになっても、まずフォスティーヌを頼ろうとする姿勢は変わらない。
しかし、彼女から婚約解消を告げられると、初めて自分が彼女に頼りすぎていたことを認め、これからは学び、相談すると約束する。
それでも、彼女が何年も前から伝えてきた言葉に耳を傾けなかった事実は消えない。
失いかけて初めて大切さに気づいた婚約者を前に、これまでの自分と向き合うことになる人物。
エマ・ド・フロベール伯爵夫人
フロベール伯爵の妻で、ロイクの母。
貴族社会における社交や家の体面を重視し、茶会などの催しを盛大に行うことにこだわっている。
招待客へのもてなしや周囲からの評判を気にするあまり、費用が予算を超えても、支払いを先送りにしてでも従来どおりの社交を続けようとする。
フォスティーヌの能力を高く評価しているものの、その評価は彼女への感謝というより、面倒な仕事を任せられる便利さに結びついている。
茶会の準備だけでなく、商人への支払い交渉や領地の水路補修に関する書類の整理までフォスティーヌに任せ、将来はフロベール家に嫁ぐのだから当然の勉強だと考えている。
仕事の内容や責任の所在を確認しようとするフォスティーヌに対しては、細かいことを気にしすぎると不満を示し、彼女の協力を義務のように扱う。
財務省の監査では、社交費の超過や支出管理の問題を指摘されても、貴族としての体面を保つ必要性を訴える。
しかし、フォスティーヌから、借金を増やしてまで社交を続けることと、身の丈に合ったもてなしをすることは違うと諭される。
家の暮らしを見直す必要に迫られ、自らの価値観と向き合うことになる人物。
エクトル・ド・シュペルヴィエル
シュペルヴィエル子爵家の当主で、フォスティーヌの父。
娘の話に真摯に耳を傾け、彼女自身の意思と人生を尊重する、穏やかで思慮深い人物。
フォスティーヌが婚約者の家でどのような仕事を引き受けてきたのかを聞くと、感情だけで相手を非難するのではなく、過去の取引記録や支払いの経緯を確認し、事実に基づいて状況を判断しようとする。
娘が商人との交渉に関わったことで、複数の取引先がフロベール伯爵家への支払いを待っていたことを知ると、返済計画が明確でない点を問題視する。
また、婚約を続けるべきか悩むフォスティーヌに対しては、相手の家の事情を優先する必要はなく、婚約を続けるかどうかは本人が決めてよいと伝える。
娘が婚約解消を決意した後も、その判断を支持し、相手から責任を押しつけられないよう正式な手続きで対応する姿勢を示す。
フォスティーヌが自分の人生を生きることを何より大切に考え、必要なときには父親として力強く支える存在。
娘を一方的に守るだけでなく、彼女が自分の意思で選択し、その結果を引き受けて歩んでいけるよう背中を押す、頼もしい父親である。
テレーズ
フォスティーヌの母で、シュペルヴィエル子爵家の女性。
新しい魔道具の開発に取り組んでおり、設計図を広げて性能や改良点を検討するなど、研究開発に熱心な一面を持つ。
冷却性能を備えた魔道具の試験では、稼働時間を延ばすための魔力消費の削減を課題としており、フォスティーヌから商業や輸送の現場を踏まえた提案を受けると、その意見を柔軟に取り入れて設計を改善していく。
娘の能力を認め、仕事の面でも対等な相談相手として接している。
母親としては、フォスティーヌが誰かの役に立とうとする優しさを大切にしながらも、その善意を利用される必要はないと教える。
婚約者の家の仕事を当然のように押しつけられている娘に対して、相手にも責任を持ってもらうべきだと伝え、自分を犠牲にすることと人を助けることの違いを示す。
娘が悩みを打ち明けた際には、その手を取って気持ちに寄り添い、家族の一員として支える。
フォスティーヌの聡明さや自立心を理解し、彼女が自分の能力を健全な形で発揮できるよう見守る、温かく頼もしい母親。
魔道具の開発者としての探究心と、娘の人生を尊重する母としての深い愛情を併せ持つ人物である。