瑠璃
天河宮家の長女。
十八歳。
黒檀の髪を背の中ほどまで伸ばし、薄鈍の瞳を持つ。
涼やかな目元や整った顔立ちは、父・天青によく似ている。
幼いころから宮家の娘として厳しい教育を受けており、礼儀作法にも教養にも優れ、長女としての務めを果たすために努力を重ねてきた。
物心ついたころには継母の桃簾が母として側にいたため、長らく実母の存在を知らずに育った。
十六歳で成人した際、桃簾が実母ではなく継母であると知った後も、母に愛されたいという願いを捨てられず、理不尽な仕打ちに耐え続けてきた。
異母妹の翡翠が失敗するたびに責任を負わされ、桃簾からも認められない日々を送っていたが、ある出来事をきっかけに、ついに自分の気持ちを口にする。
祖母や父、兄の支えを得ながら、他人の愛情を得るために自分を犠牲にする生き方を変え始める。
穏やかで礼儀正しく、責任感が強い一方、自分に厳しく、つい自分のせいだと考えてしまうところがある。
傷ついた過去と向き合いながら、自分自身の人生を歩もうとする令嬢である。
桃簾
天河宮家当主・天青の後妻であり、瑠璃の継母、翡翠の母。
四十二歳。
薄紅の髪を結い上げ、常盤色の瞳を持つ。
年齢を重ねても人目を惹く美貌を保ち、華やかで愛嬌のある顔立ちをしている。
帝の娘として生まれ、幼いころから父帝に甘やかされて育ったため、自分の望みが叶うことを当然と考えている節がある。
失敗をしても許され、欲しいものを与えられてきた経験から、自分の言動を省みることが苦手で、思いどおりにならないことがあると周囲に責任を求める。
実の娘である翡翠を溺愛し、娘の失敗や礼儀を欠いた振る舞いさえ庇う一方、瑠璃には厳しく当たり、妹の不始末まで姉の責任として押しつけてきた。
瑠璃の黒檀の髪を見るたびに亡き前妻を思い出し、姑に似ていることも気に入らず、彼女を遠ざけている。
天青が最後には自分に譲歩すると信じ、長年その立場に甘えてきたが、瑠璃が我慢をやめ、家族が問題に向き合うようになると、次第に立場を失っていく。
最後まで自分の非を認めず、他人を責め続ける人物である。
翡翠
桃簾の娘であり、瑠璃の異母妹として育った少女。
十四歳。
灰桜の髪と木賊色の瞳を持ち、顔立ちは母の桃簾によく似ている。
母から溺愛され、何をしても庇ってもらえる環境で育ったため、自分の行いに責任を持つことや、他者から注意を受け止めることに慣れていない。
客人の前で礼儀を欠いた際にも、姉の瑠璃から必要な注意を受けたことを反省するより、恥をかかされたと不満を抱き、母に訴えて姉を責めさせようとする。
桃簾もまた翡翠を叱ることなく、瑠璃に責任を負わせるため、翡翠は自分が悪いとは考えず、母の庇護を当然のものとして受け入れている。
父と兄が瑠璃の言い分にも耳を傾けることに不満を示し、自分だけが大切にされていないと思い込むこともある。
やがて出生にまつわる事実が明らかになり、家族の問題が表面化すると、母とともに天河宮家を去ることになる。
しかし、新しい環境でも自分の振る舞いを省みず、姉を恨み続ける。
誰かに世話をしてもらうことを当たり前と考えてきた翡翠にとって、これからは自分自身の行いと向き合うことが大きな課題となる。
天青
天河宮家の当主であり、瑠璃と天藍の父。
黒紅の髪に薄鈍の瞳を持ち、すらりとした体躯と威厳のある顔立ちを備えている。
落ち着いた物腰で、物事を冷静に判断する人物。
家の務めや礼儀を重んじ、翡翠が客人の前で礼儀を欠いた際にも、年齢を理由に責任を免れることはできないと考え、瑠璃だけに責任を負わせる桃簾の言動をたしなめる。
これまで桃簾の振る舞いに問題があることを知りながら、帝への配慮や家庭内の問題という意識から、十分に対処できずにいた。
瑠璃がしっかり者であることに甘え、彼女がどれほど傷ついているのかを見過ごしてきたことを、後に深く反省する。
娘が自分の気持ちを口にするようになってからは、父としての責任を改めて自覚し、瑠璃に謝罪するとともに、彼女が何を望んでいるのかを聞こうと努める。
桃簾に対しては長く譲歩を重ねてきたが、翡翠の出生に関する真実が明らかになり、家族を守るための決断を迫られると、毅然とした態度を示す。
厳格さと家長としての威厳を持ちながらも、過ちを認め、家族との関係を改めようとする父親である。
天藍
瑠璃の兄であり、天青の息子。
瑠璃とは顔立ちがよく似ており、妹と同じく天河宮家の血筋を感じさせる人物である。
普段は落ち着いており、状況を冷静に見極めて発言する。
桃簾の振る舞いや翡翠の我儘を快く思っておらず、翡翠が礼儀を欠いた際にも、何があったのかを確かめようとするなど、道理を重んじている。
母親にあたる桃簾に対しても、間違いがあれば事実を指摘し、譲歩することと何をしても許すことは違うと明言する。
瑠璃が長年、継母に認めてもらおうと努力し、妹の機嫌を損ねないように言葉を選んできたことも理解している。
しかし、それまで妹が自分で対処できると考え、桃簾の言動を見過ごしてきた面があり、瑠璃がどれほど傷ついていたのかを十分に考えてこなかったことを悔いる。
家族の問題が深刻になると、これ以上瑠璃が傷つく姿を見たくないという思いから、桃簾に対しても強い態度を取るようになる。
後には妹に謝罪し、これまでの自分の態度を振り返る。
瑠璃が自分らしい人生を取り戻していく過程で、父や祖母とともに彼女を支える、頼もしい兄である。
瑠璃の祖母
天河宮家の祖母であり、瑠璃にとって幼いころから慕ってきた大切な存在。
灰青の瞳を持ち、年齢を重ねても背筋の伸びた凛とした佇まいを崩さない。
厳格な性格で、礼儀作法にも家の務めにも妥協を許さず、周囲に対しても筋を通すことを求める。
桃簾にとっては、何かにつけて自分を戒める煙たい姑だが、瑠璃にとっては、自分の努力や苦しみを正しく見つめ、理解してくれる存在である。
瑠璃が継母に初めて言い返した際にも、母親に逆らったことを責めるのではなく、長い間よく耐えてきたと労い、彼女が自分を責め続けてきた心の癖に気づかせようとする。
人に愛されないことと、その人に価値がないことは別だと教え、瑠璃が自分自身を大切にするための支えとなる。
また、家族の問題に対して感情だけで判断せず、祖父や天青とともに事実を確認し、必要な決断を下す場にも立ち会う。
桃簾が最後まで自分の行いを省みようとしないことを残念に思いながらも、本人が変わる意思を持たなければならないと理解している。
厳しさの奥に深い思いやりを持ち、瑠璃が自分の人生を選び直すための心の拠り所となる女性である。
瑠璃の祖父
天河宮家の祖父。
家の記録を管理し、日々の家政から親族の系譜に至るまで、細かな事実を把握している人物である。
人の心を見抜く祖母に対し、祖父は記録と事実を見逃さない存在として描かれる。
感情や思い込みだけで物事を判断せず、確かな情報をもとに家族の問題を整理しようとする。
桃簾と翡翠をめぐる問題では、これまで表に出ていなかった翡翠の出生に関する事実を瑠璃に伝え、彼女が自分自身で判断するために必要な情報を明らかにする。
家族の血縁や家の立場に関わる重大な問題を曖昧にせず、必要なときには厳しい決断を下す姿勢を持つ。
桃簾が帝の娘という身分を盾にして責任を逃れようとした際にも、身分によって特別扱いされることのない環境で暮らすことが、彼女には必要なのかもしれないと告げる。
祖母や天青とともに家族の今後を考え、瑠璃が不当に傷つけられ続ける状況を終わらせるために動く。
名前は本文に記載されていないが、家の歴史と事実を把握する立場から、物語の核心に関わる役割を担う人物である。
燐灰尼
先々帝の妹にあたる、元藍晶内親王。
現在は尼門跡を預かる高齢の尼僧であり、天河宮家の祖父の異母姉でもある。
皇族としての高い身分を持ちながら、身分や家柄によって人を特別扱いすることをよしとせず、過ちを犯した者は相応の責任を負うべきだという考えを貫いている。
宮家の事情にも通じており、桃簾と翡翠が天河宮家を去った後、二人が暮らすことになる尼門跡で彼女たちを迎える。
尼門跡では、日々の勤行や掃除、炊事などの作務を行い、皆が決まりを守って暮らすことが求められる。
燐灰尼は、身分を理由に務めを免除することはせず、正式に得度して尼僧として生きる道についても、形だけの出家では意味がないと説明する。
過去の行いを振り返り、過ちを認め、改める意思があることを大切にしているため、桃簾と翡翠が自分たちは悪くないと主張し続けても、無理に反省を強いることはしない。
自らの行いを見つめ直すかどうかは本人が決めることだと理解している、厳格で公平な人物。
二人がこれからどのように生きるかを考えるための場を整える役割を担っている。