エメリーヌ・クロード・ド・サンテール
サンテール侯爵家の令嬢で、第二王子シャルル・エドガール・ド・ヴェルデの婚約者。
王家から婚約を打診された際、彼女は王子への恋心からではなく、王家が必要とする役割を果たすために、その申し出を受け入れた。
侯爵令嬢として相応しい教育を受け、歴史、外交、法制度、領地経営、財政、王家の儀礼など、王族の伴侶に求められる知識を身につけている。
婚約者としてシャルルの公務を支え、外交の場で失礼がないよう資料を整え、王宮の行事でも彼の立場を損なわぬよう振る舞ってきた。
しかし、彼女にとってそれらは恋人への献身ではなく、引き受けた責務を果たすための行動にすぎなかった。
ある夜会で、シャルルから平民の仕立屋ヨランドとの恋を理由に婚約破棄を宣言されるが、エメリーヌは取り乱すことなく、むしろ安堵とともに申し出を受け入れる。
自分が婚約者に選ばれた経緯や王族の婚姻制度について冷静に説明し、王子の思い込みを一つずつ明らかにしていく姿は、彼女の聡明さと揺るぎない意志を際立たせる。
王家の事情を理解しながらも、自分の人生を犠牲にすることまでは受け入れない。
婚約破棄を通じて王宮での責務から解放された彼女は、侯爵家の領地へ戻り、これからの人生を自分自身で選ぶ新たな一歩を踏み出す。
シャルル・エドガール・ド・ヴェルデ
ヴェルデ王家の第二王子。
第一王子ガエタンとコロンブ王妃の死によって王位継承順位第一位となり、王太子として国を担う立場に置かれた。
侯爵令嬢エメリーヌを婚約者とし、彼女から公務の支援や細やかな配慮を受けてきたが、その行動を当然の責務とは考えず、自分への恋愛感情や執着の表れだと思い込んでいる。
街の仕立屋で働いていた平民の女性ヨランドと出会うと、身分や慣習に縛られない「真実の愛」を見つけたと信じ、公式の夜会でエメリーヌに一方的な婚約破棄を宣言する。
さらに、自分の婚約はエメリーヌが侯爵家の権力を利用して強引に結ばせたものだと主張するが、それは婚約成立の経緯を理解しないまま抱いた誤解だった。
エメリーヌから王族の婚姻制度や自分が婚約者に選ばれた事情を説明されても、なかなか現実を受け入れられない。
ヨランドを妃に迎えようとする一方で、王太子妃に求められる資格や王位継承者としての責務を軽視し、王家と貴族院の審議によって継承者としての適格性を問われることになる。
最終的に王位継承者の資格を失っても、エメリーヌが自分を愛していたはずだという思い込みを捨てきれない。
自分の望みを優先するあまり、他者の意思や立場を理解しようとしなかった彼の姿は、王族に求められる責任の重さを浮き彫りにする。
ヨランド
街の仕立屋で働いていた平民の女性。
シャルル・エドガール・ド・ヴェルデと出会い、彼から愛情を向けられるようになったことで、王族と平民という身分の違いを超えた恋の相手となる。
シャルルは彼女との関係を「真実の愛」と呼び、恋愛は義務やしきたりに縛られるべきではないと主張する。
そして、ヨランドを選ぶために、長年の婚約者であるエメリーヌとの婚約を破棄すると宣言する。
ヨランド自身もシャルルの言葉を信じていたようで、夜会では彼の背後に立ち、婚約破棄の成り行きを見守っている。
しかし、エメリーヌがあっさりと婚約破棄を受け入れ、王族の婚姻には個人の恋愛感情だけでは乗り越えられない制度上の条件があると説明すると、ヨランドの立場も大きく揺らぐ。
翌日の会議では、シャルルに伴われて王家と貴族院の関係者の前に出席するが、王太子妃として迎えられるための身分上の条件や正式な手続きが整っていないことを突きつけられる。
彼女が王妃の地位を望んでいたのか、あるいは純粋にシャルルの愛を信じていたのかについては、作中では明確に語られていない。
エメリーヌも、ヨランド自身が悪意をもって行動したとは考えていない。
恋を貫こうとする二人の未来は、最終的にも明らかにされておらず、彼女が今後どのような人生を選ぶのかは、読者の想像に委ねられている。
ベネディクト・シャルリーヌ・ド・リボー
シャルルの母である側室。
かつては公爵家の令嬢であり、国王の婚約者でもあったが、国王が真実の愛の相手であったコロンブを王妃に迎えたことで、自らは側室として王宮に残ることになった。
息子を深く愛しており、シャルルが王位を継ぐためには、王宮を支え、貴族たちとの関係を保つ能力を持つエメリーヌのような女性が必要だと理解している。
そのため、シャルルが夜会でヨランドとの恋を宣言し、エメリーヌとの婚約を破棄しようとした際には、これ以上騒ぎを大きくしないよう息子をたしなめる。
そして、エメリーヌを控え室に呼び、婚約を考え直してほしいと頼む。
シャルルはまだ若く、恋に夢中になって周囲が見えなくなっているだけであり、時間が経てば王族としての責務を理解するはずだと考えているからだ。
エメリーヌが王家の事情を理解しながらも婚約継続を拒むと、ベネディクトは、王家を守るためには彼女のような人材が必要なのだと訴える。
しかし、エメリーヌから、王家のために婚約者となったからといって、何をされてもよいわけではないと告げられ、言葉を失う。
彼女の言動には、息子を救いたいという母親の愛情と、王家の安定を守りたいという切実な思いが表れている。
一方で、その願いを叶えるためにエメリーヌが再び犠牲になることを期待してしまう点には、王家の事情を優先せざるを得ない立場の苦悩もにじむ。
悪意から行動しているわけではないが、善意だけでは他者の意思を尊重できないことを示す人物でもある。