恋敵?いいえ、最強の相棒ですわ!

フロレンシア

エチェバルリア公爵家の令嬢で、シガンダ公爵家嫡男ナサリオの婚約者、のちの妻。銀糸のような長い髪と蒼銀の瞳を持つ、優雅で知的な美貌の持ち主で、同世代からは「淑女の鑑」と評される才媛である。教養だけでなく領地経営に関する能力にも非常に優れ、新しい農法や灌漑水路、牧畜改良、商人との共同事業など、数多くの改革を実現している。数字や費用対効果を正確に見極め、感情に流されず現実的な判断を下す統率者としての資質も高い。
一方、婚約者であるナサリオからは誕生日の贈り物も手紙への返事もなく、学院では堂々と別の令嬢と付き合う姿を見せられるなど、徹底して蔑ろにされている。しかし彼女はそれに怒りをぶつけることなく、「相手に期待するだけ無駄」と冷静に割り切り、自分の責務を淡々と果たしていく。政略結婚そのものにも覚悟を決めており、ナサリオに愛情や夫婦としての親密さを求めるのではなく、家と領地、そして王国のために最善を尽くす道を選ぶ。
実は国王から、ナサリオに代わってシガンダ公爵領の実質的な経営を担うという密かな役目を託されている。男尊女卑の強い王国で、女性が領地を治めることを認めさせるための最初の一歩となる存在でもある。冷静沈着で完璧な公爵令嬢でありながら、親友マカリアの前では悪戯っぽく笑い、冗談を交わす年相応の少女らしさも見せる。ナサリオへの恋情はとうに失われているが、代わりに自らの人生を自分の意思で切り開こうとする強い意志を秘めた女性である。


マカリア

イリバルネ男爵家の令嬢で、フロレンシアに仕える専属侍女。幼いころからフロレンシアと共に育ち、主従という身分を超えた親友となった女性である。屋敷では完璧な侍女として振る舞い、学院では別人のように甘ったるく可愛らしい令嬢を演じ、ナサリオの恋人として振る舞う。その二つの顔を自在に使い分ける高い演技力こそが、彼女の最大の武器である。
その正体は、フロレンシアとナサリオの関係を陰から支える最重要人物。ナサリオの女癖の悪さを逆手に取り、将来彼が愛人を囲うことを前提として、「正妻にとって都合のいい愛人」になる計画を自ら引き受ける。学院ではナサリオの自尊心を徹底的にくすぐり、彼が自分に夢中になるよう仕向ける一方、彼の金銭の使い道まで巧みに管理し、賭博や余計な愛人に浪費しないよう誘導する。結婚後もナサリオが領政や公爵家の実務に関わらないよう、彼にとって楽しいことを与え続けるという、いわば「ナサリオを無害化する役目」を担う。
軽妙でお茶目な性格で、心の中ではナサリオに容赦のないツッコミを入れる一方、フロレンシアに対しては極めて忠実で深い愛情を抱いている。五歳のころから仕えてきた「一番大切なお嬢様」の幸せを何より優先し、自分の人生さえそのために使う覚悟を持つ。母から受け継いだ演技力や変装の才もあり、必要とあれば大胆な工作もこなす。表向きには「婚約者の恋敵」だが、実際には誰よりもフロレンシアを理解し支える最強の相棒である。


ナサリオ

シガンダ公爵家の嫡男で、フロレンシアの婚約者、のちの夫。金髪碧眼の美貌に恵まれ、家格も申し分ない青年だが、その内面は極めて自分本位で、学業・実務能力ともに低く、努力することを嫌う。幼少期から優秀な家庭教師による最高の教育を受けてきたにもかかわらず、学院の成績は芳しくなく、婚約後の三年間だけでも十人もの令嬢と付き合ってきたほど女癖も悪い。
最大の問題は、自分以外の人間を自分の都合のために存在するものと考えている点にある。婚約者であるフロレンシアが他の女性といる自分を咎めないことさえ、「自分に惚れているから逆らえない」と都合よく解釈し、実際には完全に見限られていることに気づかない。女性は男性に従うものという価値観も強く、フロレンシアを公爵家の仕事を担わせるための妻として扱い、自分は遊んで暮らすつもりでいる。自尊心だけは高い一方、内心には小心なところもあり、親に追加の小遣いをねだることすらできない。
しかし、物語後半では思わぬ形で人生が変化する。フロレンシアの計画によって公爵家から退かされ、辺鄙な土地で暮らすことになった彼は、元騎士の庭師から庭木の剪定を教えられたことをきっかけに、初めて夢中になれるものを見つける。それが庭造りだった。貴族令息として生きていた頃には発見できなかった才能を開花させ、やがて庭師として名を知られるまでになる。根本的な自信過剰さや放蕩者としての性格は残るものの、最後には「役に立たない跡継ぎ」ではなく、自分自身の才能によって人生を見つけた人物として描かれる。