「彼女をどのような立場に置かれるつもりですか」と聞かれたら…

ランベルト

ランベルトは、エフフエ王国の第一王子として生まれ、幼い頃から次代の国王となることを定められていた青年である。
金髪碧眼の端正な容貌と、剣術によって鍛えられた均整の取れた体躯から「太陽の王子」と称され、社交界では華やかな存在として知られている。
二年前に父王が即位したことで正式に王太子となったが、その立場に必要な政治的自覚や判断力は十分に備わっていなかった。
政略によって婚約したディートリンデが自分を愛していると勝手に思い込み、婚約者としての彼女の献身を当然のものとして受け取る一方、学園で出会った男爵令嬢ピーアを寵愛する。
ピーアとの関係について問われた際にも、彼女を王妃にすることの不可能性や、側室・愛妾という制度の意味を理解せず、激情のままディートリンデに婚約破棄を言い渡してしまう。その結果、王太子としての重責を担う資格を失い、弟に王位継承の道を譲ることとなった。
晩年になって初めて、自分がディートリンデと真摯に向き合わなかったことの意味を理解する。最後には、彼女への感謝と後悔を胸に抱きながら生涯を終える、哀れな王子である。


ディートリンデ

ディートリンデは、エフフエ王国の名門ブライテンバッハ公爵家の令嬢であり、ランベルトの婚約者として王家に迎えられた女性である。
銀髪に蒼い瞳を持つ静謐な美貌と、細身ながら女性らしい優雅な肢体から「月女神の貴婦人」と称される。また、その卓越した知性と判断力から「智の女神の愛し子」とも呼ばれている。
彼女が婚約者に選ばれた理由は、公爵家との政略的な結びつきを作るためだけではない。王太子としての能力に不安を抱えるランベルトを支え、将来の王妃として王家を運営する能力を見込まれていたからである。本人もその役割を理解し、婚約者として必要な務めを淡々と果たしていた。
ランベルトがピーアを寵愛していることを知っても、感情的に責めることはせず、彼女をどのような身分に置くつもりなのかを冷静に確認する。側室ならば養子縁組と教育を、愛妾ならば別の対応を、と王太子妃となる者として必要な手配を考えていたのである。
しかしランベルトはその合理性を嫉妬と誤解した。
結果として婚約は破談となるものの、その後ディートリンデは別の公爵家へ嫁ぎ、王太子となった義妹を支える相談役として才能を開花させていく。


ピーア

ピーアは、エフフエ王国のダマー男爵家に生まれた令嬢である。
学園で王太子ランベルトと出会い、その寵愛を受けるようになった。
高位貴族令嬢たちとは異なる素朴さや無邪気さが、王太子にとって新鮮な魅力となったと考えられる。
しかし、その恋愛は単純な純愛ではなかった。貧しい実家での暮らしに辟易していたピーアは、王太子に愛されることで贅沢な生活を手に入れ、やがて王妃となることを夢見るようになる。
自分を侮ったと感じた高位貴族令嬢への復讐まで思い描き、讒言や自作自演によって自らを被害者として演出し、ランベルトの庇護欲を巧みに刺激していった。
だが、ピーア自身もランベルト自身も、王族の婚姻制度や身分秩序について理解していなかった。男爵令嬢である彼女はそのままでは王妃になれず、ランベルトも彼女を迎えるための現実的な手段を講じなかった。
最終的にランベルトが廃太子となると、ピーアは望んでいた王宮生活とは程遠い南部の離宮へ送られる。そこで裕福な商人を誑し込み逃亡し、自らが描いた夢を自らの手で失うこととなった。