旧王家の血筋って、それ、敵ですよね?

バルブロ

バルブロはベーヴェルシュタム王国王太子の第一王子で、15歳にして次期王太子の筆頭候補と目されていた少年である。
王族として整った容姿と恵まれた環境を与えられて育った一方、学問は中の下、武芸は下の上と、能力そのものは決して秀でていない。さらに努力を嫌う怠惰な性質と、優秀な者への嫉妬心を持ち合わせている。
婚約者のシェスティンや側近のクリストフェル、ラーシュは、そんな彼を支えるために選ばれた存在だった。しかしバルブロは彼らの配慮を理解せず、自分より身分が低い相手から賞賛されることに心地よさを覚えていく。
やがて田舎の男爵令嬢アネッテと恋に落ち、「身分違いの真実の愛」という物語に陶酔。さらにアネッテが旧王家オーバリの末裔だと聞かされると、それを無批判に信じ、現王家の建国理念すら理解していない発言を繰り返す。
彼の最大の問題は悪意よりも、自分の立場と責任を理解するための努力を怠ったことにある。


シェスティン・セーデルバリ

シェスティン・セーデルバリは、海上貿易の拠点として栄える西部領地を治めるセーデルバリ公爵家の令嬢であり、バルブロの正式な婚約者である。15歳という若さながら、自分の立場と王家との婚姻が持つ政治的意味をよく理解している現実的な少女だ。
彼女との婚約は単なる恋愛ではなく、王家と建国功臣の家系との血縁を結び、王権を安定させるための重要な政略結婚である。しかも豊かな公爵領からもたらされる持参金や化粧料は、まだ財政的に余裕のない王家にとって大きな意味を持つ。
シェスティン自身も、凡庸で怠惰なバルブロを支えることが自分に与えられた役割だと理解していた。
しかし彼女は、バルブロが自分の支えを理解せず、優秀な婚約者への劣等感を募らせ、男爵令嬢との恋に溺れていく姿を冷静に見つめていた。
最後まで彼の更生を期待しようとしたものの、旧王家を持ち上げる発言を聞いたことで完全に見切りをつける。
冷静沈着で知性的だが、決して冷たい人間ではなく、幼い側近たちとともにバルブロを支えようと努力した少女でもある。


クリストフェル・ボクルンド

クリストフェル・ボクルンドは宰相を父に持つ15歳の少年で、バルブロの側近候補として幼いころから彼を支えてきた。将来は父の後を継いで宰相となることを期待されている。
冷静で頭の回転が速く、政治や王族の立場についても同年代とは思えないほど現実的な理解を持つ。そのため、バルブロの側近というより「軌道修正係」「尻拭い係」と呼んだほうが実態に近い。
婚約者のシェスティン、もう一人の側近ラーシュとともに、バルブロの未熟さを補いながら彼自身が成長することを願っていた。しかし当のバルブロは、三人の努力を自分への圧力や能力への否定と受け取り、彼らに劣等感を抱くようになる。
クリストフェルはそれでも最後の機会を与えようとし、アネッテを正妃にするつもりなのか、王族としての立場を理解しているのかを問いただす。ところがバルブロが旧王家オーバリを「尊き血」と持ち上げたことで、彼は完全に見限る。
普段の理性的な態度を捨て、呆れと苛立ちを隠さずバルブロを追及する姿は、長年の苦労を象徴している。


ラーシュ・ビョルケル

ラーシュ・ビョルケルは魔術師団長を父に持つ15歳の少年で、バルブロの側近候補の一人である。将来は父の後を継いで魔術師団長となることを期待されており、王立魔術学院においても魔術師団長家の後継者として相応しい教育を受けている。
三人の中では最も飄々とした雰囲気を持ち、クリストフェルが理詰めで物事を考えるのに対し、ラーシュは軽妙な言葉で本質を突くタイプである。
バルブロに対しても幼いころから遠慮なく苦言を呈しており、今回の騒動では「オーバリ家の末裔だと思っているなら、なぜ生かしているのか」と、バルブロが想像すらしていなかった問題を突きつけた。これは冷酷さからではなく、現王家と旧王家がどのような歴史的関係にあるかを理解しているからこその発言である。
シェスティンやクリストフェルと同じく、これまではバルブロを支え、ともに成長しようとしていた。しかし彼が王族として必要な最低限の歴史認識すら持たないことを知り、ついに見切りをつける。
軽い口調の奥に、次代を担う者としての責任感を持った少年である。


アネッテ・ニリアン

アネッテ・ニリアンは、地方のニリアン男爵家の長女であり、バルブロが「運命の恋の相手」として夢中になった少女である。柔らかなローズピンクの髪がふわふわと肩を覆い、大きなチェリーピンクの瞳はいつも潤んでいる。小柄で愛らしく、庇護欲をそそる容姿は、恋愛物語のヒロインを思わせる華やかさを持つ。
ニリアン領は旧王家オーバリの避寒地だったため、戦火を免れて王都より古い服飾文化が残っており、アネッテは幼いころから領民に「お姫様」のように扱われて育った。その結果、男爵令嬢としての本来の身分と、地方領主の娘としての扱いを混同し、自分は非常に高貴な存在だと思い込んでいる。
王立魔術学院で旧王家の歴史を知った彼女は、自身の髪と瞳が「オーバリ王家の色」だという市井の噂を根拠に、滅亡した王家の末裔なのではないかと考えるようになる。
そしてバルブロもその妄想を受け入れたことで、二人は「尊き血筋による真実の恋」という幻想に陥っていく。しかし歴史上の事実ではオーバリ王家の王族はイングヴェによって処刑され、実際の王家の特徴も彼女とは異なる。
彼女の悲劇は、地方での「お姫様扱い」と古い文化、そして恋愛物語への憧れが複雑に重なったことにある。