ミーリツァ
アブディエフ侯爵家の嫡女にして、14歳にして侯爵位を継いだ本作の主人公。
幼いころから次期当主として教育を受け、母エヴァンジェリーナを支えながら領政や貴族家の務めを学んできた。
父エゴールが入り婿としての責務を果たさず、愛人と庶子を囲っていたこともあり、父への情はほとんどなく、むしろ侯爵家の「負債」「汚点」と認識している。
母の死後、自らが正式な侯爵であり、入り婿である父には当主代理となる資格がないことを毅然として示した。
さらに、母が生前から進めていた廃籍手続きを完了させ、エゴールを侯爵家から完全に排除する。
冷静で聡明、礼儀と貴族としての矜持を重んじる一方、年相応の少女らしい感情も持ち合わせている。
婚約者イラリオーンとは五歳の頃から婚約しており、彼を深く信頼している。
女侯爵として家を守り、領政に励む決意を固めるが、母を亡くしたばかりの14歳の少女でもある。
最後には母を偲び、泣くことを自分に許す姿から、強さの奥にある繊細さがうかがえる。
イラリオーン
ハレヴィンスキー公爵家の令息であり、ミーリツァの婚約者。
ミーリツァより3歳年上で、彼女が5歳のときに婚約して以来、将来の「女侯爵の夫」として必要な教育を受けてきた。
昨年成人した後はアブディエフ侯爵家で暮らし、当主補佐としてエヴァンジェリーナとミーリツァを支えていた。
エヴァンジェリーナの病が判明してからは、病床にある彼女と幼い次期当主を支え続け、葬儀にも寄り添った。
エゴールが長年家を顧みず愛人と庶子を囲っていたことも知っており、その対極にある誠実な人物として描かれている。
ミーリツァに対しては過保護に干渉するのではなく、彼女自身の判断を尊重しながら必要なときには支える姿勢を取る。
ミーリツァがエゴールを侯爵家から排除した際にも、自分の出番がなかったことを冗談めかして口にする程度で、彼女の決断を見守った。
将来はミーリツァの夫として侯爵家を支え、ともに信頼関係を築いていく存在である。
エヴァンジェリーナ
アブディエフ侯爵家の先代侯爵であり、ミーリツァの母。
夫エゴールを入り婿として迎えた女侯爵である。
もともとは同格の家の第二子を婚約者としていたが、隣国との戦争で婚約者を失い、やむを得ず子爵家第四子だったエゴールを迎えることになった。
貴族としての教育が不足していたエゴールに配偶者教育を施そうとしたものの、本人が学ぶことを拒んだため、父ボリスラーフとともに彼の役割を事実上「後継者を得るための夫」と割り切っていた。
エゴールが愛人を囲って本邸に寄り付かなくなった後も、ミーリツァの成長と侯爵家の維持を優先していた。
父ボリスラーフの急逝により予定より早く侯爵位を継承すると、多忙な中でも娘に後継者としての仕事を教え続けた。
しかし体調不良を見過ごした結果、病が発覚した時には余命わずかとなっていた。
死を悟った彼女は、娘が自分の死後も家を守れるよう、エゴールとの離縁や廃籍に必要な準備まで進めていた。
最期まで母として、そして侯爵として娘を守り続けた女性である。
エゴール
アブディエフ侯爵家に入り婿した元子爵家の第四子。
後継者としての教育を受けておらず、本来なら婚家で配偶者教育を受けるはずだったが、本人に学ぶ意思がなく、貴族としての役割や入り婿の立場を理解しないまま年月を過ごした。
エヴァンジェリーナとの間に嫡女ミーリツァが生まれると、侯爵家の本邸を離れて王都の別宅に愛人タマラとその娘エリカを囲い、侯爵家から支給される品格保持費で生活していた。
妻の父ボリスラーフの葬儀にも僅かに顔を出しただけで、その後は家に寄り付かず、エヴァンジェリーナが病に倒れても支えることはなかった。
妻の死後、侯爵家を自分が掌握できると考え、愛人と庶子を伴って突然本邸を訪れる。
しかし実際には、ミーリツァが未成年であっても正式な侯爵であり、入り婿である自分に当主代理の資格はない。
さらに再婚すれば婚家から出なければならず、廃籍手続きも完了していたため、最終的には爵位も家籍も失い平民となる。
自らの立場を最後まで理解できなかった、典型的な「乗っ取り入り婿」の失敗例である。
コンスタンチーン
メニシコフ公爵家の当主であり、アブディエフ侯爵家の後見人。
ボリスラーフの親友の息子で、王家・公爵家・侯爵家が長い歴史の中で血縁関係を築いていることもあり、ミーリツァとは比較的血の近い一族にあたる。
ボリスラーフから後見人に指名されており、エヴァンジェリーナ亡き後も十四歳のミーリツァを支えるため侯爵家に滞在している。
エゴールとの対面では、彼が「入り婿」でありながら貴族家の後継に関する法律を何も理解していないことに呆れつつも、法律の内容を丁寧に説明するなど、面倒見のよい一面を見せる。
ミーリツァが正式な侯爵であり、エゴールには当主代理の権利がないこと、さらに再婚すれば婚家から出なければならないことなどを明確に示し、彼の身勝手な企みを完全に打ち砕いた。
ミーリツァにとっては後見人であると同時に、困ったときに頼れる年長者。
物語の最後には、入り婿による問題を根本から防ぐため「絶許法」の改正案まで検討するなど、侯爵家だけでなく貴族社会全体の秩序を守ろうとする人物でもある。
ボリスラーフ
アブディエフ侯爵家の先々代侯爵であり、エヴァンジェリーナの父、ミーリツァの祖父。
長年侯爵家を率いてきた重鎮であり、家の将来を見据えて後継者教育や一族の秩序を重視していた。
娘エヴァンジェリーナの夫となったエゴールが、入り婿として必要な教育を身につけようとしないことを早くから見抜き、エヴァンジェリーナとともに彼の役割を限定した。
エゴールが愛人を囲い、侯爵家を顧みなくなった後も、家の継承を第一に考え、将来的には離縁する方針を取っていた。
エヴァンジェリーナが侯爵位を継ぐ前に事故で急逝したが、生前から次代の継承について周到な準備を進めていた。
特に、ミーリツァが成人する前にエヴァンジェリーナまで亡くなった場合を想定し、入り婿ではなくメニシコフ公爵コンスタンチーンをミーリツァの後見人に指名していたことからも、その慎重さがうかがえる。
娘と孫を守るために制度と一族の力を活用し、エゴールによる侯爵家の乗っ取りを未然に防ぐ土台を残した人物である。