現実的な異世界召喚聖女

広瀬美琴

異世界ターリキ王国に「聖女」として召喚された日本人女性。
見た目は17歳ほどの黒髪黒瞳の美女だが、その実は50代半ばまで社会人として生きてきた人生経験豊かな女性である。元教育関係者で、それなりの役職も経験しており、礼儀や社会常識、契約や労働に関する感覚を身につけている。
そのため、異世界召喚されたからといって王族や神殿に盲目的に従うことはなく、自分が「本人の同意なく異世界へ連れてこられた被害者」であることを明確に主張する。
神々から事情を知らされたうえで自ら異世界召喚を受け入れ、守護神・登利津芙媛の加護によって生命・安全・尊厳を守られている。
収納魔法、言語能力、認識阻害など数々の恩恵も授けられている。
召喚直後から王家と神殿を相手に毅然と交渉し、聖女の職務を「魔の森の瘴気を祓うこと」に限定。さらに雇用契約を結び、勤務時間、休日、時間外手当、危険手当、俸給などを明文化するという現実的な方法で自らの立場を確立した。
冷静で合理的だが、決して冷たい人間ではない。誠実な者には礼を尽くし、民衆のための慰問や炊き出し、治療院での仕事まで自ら引き受ける面倒見の良さも持つ。
一方で、聖女だから尽くして当然という無理解や傲慢さには容赦がない。
最終的には「聖女」という役割そのものから離れ、自らの人生を取り戻す道を選ぶ。
異世界で元の世界と合わせて100年を超える人生を送りながら、最後には穏やかな老後を迎えた、現実感と芯の強さを併せ持つ女性。


アルフォンソ

ターリキ王国の文官で、クーニクル侯爵家の子息。聖女召喚の場に居合わせた王国側の実務担当者の一人であり、第一王子エンリケの側近ではない。
召喚された美琴に対して最初から申し訳なさを感じていた数少ない人物で、王国の事情や聖女召喚の裏側についても隠さず説明したことから、美琴の信頼を得る。
登利津芙媛の加護によって地球側の倫理観や人権意識を強く理解するようになり、自国の聖女召喚がいかに身勝手な行為だったのかを改めて認識する。
その後は美琴の補佐官となり、教育係、世話役、目付け役、さらには秘書官として彼女を支えることになる。
王族や神殿の都合よりも、契約と職務、そして聖女本人の意思を尊重する実務家である。美琴の無茶とも思える要求にも、契約書や制度を確認しながら淡々と対応する現実派。
美琴が「聖女」ではなく一人の人間として扱われるべきだと理解しているため、彼女の味方として最後まで行動する。
王城内の事情にも通じており、エンリケやその側近たちの愚かさに頭を悩ませる苦労人でもある。
美琴が王都を去る際にはその逃亡を助け、後に彼女と人生を共にする伴侶となる。五人の子をもうけ、さらに孫やひ孫にも恵まれた。
最終的にはかつての文官としての立場を離れ、美琴とともに穏やかな生活を送る。
派手な英雄ではないが、誠実さと責任感によって一人の聖女を支え続けた人物である。


ナサニエル

ターリキ王国の神官。
聖女召喚の場にいた神殿側の人間でありながら、召喚そのものに疑問と罪悪感を抱いていた誠実な聖職者である。
神殿の一部が王子や権力者の思惑に乗り、聖女召喚を私欲のために利用したことを苦々しく思っている。
美琴が召喚直後に周囲を観察し、自分とアルフォンソを「信用できそうな人物」と見抜いたことで、彼女の事情説明役に選ばれる。
美琴に対しては終始誠実で、魔の森の瘴気についても、聖女召喚が本来必要なほどの危機ではなかったことも含め、知っている事実を正直に伝える。
大神官長や王家の意向よりも、聖職者としての良心を優先する人物である。
その後、美琴の補佐官に任命され、神殿側の教育係・案内役として彼女を支える。
登利津芙媛の加護によって現代日本的な人権意識や労働観を理解するようになり、聖女を神殿の所有物のように扱う考えを完全に否定するようになる。
美琴が神殿で働く際には、彼女の職務と契約が守られるよう尽力する。
アルフォンソとは立場こそ王城側と神殿側で異なるものの、聖女を守り支えるという一点では意気投合する。
美琴にとっては、異世界で初めて出会った「自分を利用するのではなく、自分の意思を尊重してくれる大人」の一人。
神殿の腐敗や権力欲に対して苦い思いを抱えながらも、最後まで聖職者としての良心を失わない人物である。


アドリアナ

ターリキ王国筆頭公爵家の令嬢で、かつて第一王子エンリケの婚約者だった女性。
社交界では「当代一の淑女」と称されるほど優秀で、教養、判断力、社交能力のいずれにも秀でている。
その一方で、実は現代日本から転生してきた人物であり、美琴と同じ時代を生きた同世代の女性としての前世の記憶を持つ。
エンリケからは自分に惚れて公爵家の権力を利用して婚約を迫ったと思われていたが、実際には王妃の強い希望によって結ばれた政略婚約だった。
エンリケが自分より身分の低い男爵令嬢ドリタを寵愛し、自分を疎んじるようになったことについても、むしろ婚約解消の好機と冷静に捉えている。
登利津芙媛から聖女召喚の事情を知らされると、美琴と同じ日本人として彼女を支えることを決意。
聖女の後見人という立場を得ることで、美琴をエンリケの欲望から守ると同時に、自身の婚約解消も実現させた。
美琴とはすぐに意気投合し、この世界の常識、社会制度、生活習慣、貴族社会のしきたりなどを教える良き友人となる。
公爵令嬢としての立場だけでなく、転生者として現代日本の価値観を理解しているため、美琴が異世界で感じる戸惑いや孤独にも寄り添える存在。
気品と知性を備えながらも、友人のためなら怒りを露わにする情の深さも持ち合わせている。
美琴が王都を去った後も彼女との交流を続け、その穏やかな第二の人生を支える人物である。


エンリケ

ターリキ王国の第一王子。
隣国王女である王妃を母に持ち、筆頭公爵家の令嬢アドリアナを婚約者とするなど、王太子となるための条件だけを見れば申し分ない立場にある。
しかし、本人の資質には大きな問題があり、愚かで短絡的、そして自分が次期国王になることを当然と考えている。
にもかかわらず、その能力不足を自覚しておらず、未だ正式な王太子には指名されていない。
自分より優秀なアドリアナを疎み、彼女が自分に恋い焦がれて婚約を迫ったと勝手に思い込んでいる。
一方で、身分の低い男爵令嬢ドリタを「可憐で庇護欲をそそる女性」として寵愛し、アドリアナを見下すことで優越感を得ていた。
王太子の座を確実なものにしたい側近たちに唆され、「聖女と結婚すれば自分が国王になれる」と考え、聖女召喚を画策した張本人の一人。
歴代聖女が王子と結ばれることが多かったという記録を、自分に都合のいい成功例としてしか理解していない。
召喚された美琴が自分に媚びるどころか、王子という身分そのものを理由に敬意を払うことさえ拒否すると激しく憤る。
「高貴な自分が愛でてやれば受け入れるのが当然」という価値観の持ち主で、美琴から明確に拒絶されても自分の非を理解できない。
聖女召喚によって王位への道を開くどころか、王家への不信と混乱を招く原因となり、最終的には神罰の対象となる。
自身の欲望と傲慢さによって、自らの立場を崩壊させていく人物である。


登利津芙媛

美琴を守護するため、高天原から彼女に付き添って異世界へ渡った神。伊邪那美尊をはじめとする高天原の神々から、美琴の生命、安全、尊厳を守るためのさまざまな権能を託されている。
美琴の魂と人生を守ることを最優先としており、異世界の神々や王家、神殿の都合よりも美琴本人の意思を尊重する。
日本人が異世界召喚によって一方的に利用される現状を憂慮した神々によって結成された「全世界異世界召喚対策委員会」の一員として、美琴の召喚を支援した。召喚を完全に阻止することが難しい以上、召喚される人間に守護神をつけ、誘拐した側に好き勝手をさせないという対策を講じている。
性格は非常に大らかで親しみやすく、時に神らしからぬほど俗っぽい。美琴に対しても堅苦しい神として振る舞うことは少なく、彼女の愚痴を聞き、悪知恵を授け、王家や神殿を相手にした交渉を楽しそうに見守っている。
姓名による束縛を警戒した美琴の策を「策士じゃの」と面白がるなど、共犯者のような距離感でもある。
美琴が苦しんだときには優しく寄り添い、彼女が「聖女を辞めたい」と弱音を吐いた際にも、その意思を否定せず逃げ道を用意した。
最終的に美琴が穏やかな人生を送れるよう見守り続け、死後にはその魂を故郷へ送り届ける役目まで担う。
神としての使命と、一人の人間を慈しむ情愛を併せ持つ、美琴にとって最も強い味方である。