アンネリーン・ベイレフェルト
ベイレフェルト公爵家の令嬢であり、物語の中心人物の一人。
王太子フェリクスの婚約者として幼い頃から王妃教育を受け、政治、社交、貴族社会の作法に精通した才媛である。
冷静沈着で感情に流されにくく、状況を客観的に見極める能力に優れている。
一方で、フェリクスに対しては婚約者としての責務だけでは割り切れない想いを抱いており、彼が自分を女性として見ていないことに密かな寂しさを感じている。
フェリクスから王朝交代計画を打ち明けられた際には、王家への忠誠よりも国の安定を優先し、計画を支持。
自らの婚約破棄と「断罪」を政治的茶番として受け入れ、最後まで役割を演じ切る。
ドリカとは対照的に、身分を権力や贅沢のためではなく責任として捉える人物。
王朝交代後は女子爵として領地を治め、最終的には十年にわたり独身を貫いた末、かつての婚約者フェイルと再び結ばれる。
フェリクス・アンシンク
アンシンク王家の第一王子にして王太子。
幼少期から次代の国王となるべく教育され、政治や統治について高い能力を身につけた優秀な青年である。
しかし、王族として生き続けることに強い疲労と閉塞感を抱えており、「国王になること」そのものを望んでいない。
学園時代に男爵家の庶子ドリカと出会い、身分や責任から解放されるような恋に惹かれることで、王位継承から逃れる決意を固める。
アンネリーンに相談した結果、彼女や両公爵家、親友クンラートを巻き込み、アンシンク王朝そのものを交代させる計画を開始。
自ら愚かな王太子を演じ、王家の失政を誰の目にも明らかなものにしていく。
その一方で、王太子としての財産を商業活動によって増やし、計画によって生じた損失を補填する周到さも持つ。
最終的には王族の身分を捨て、「フェイル」という名の平民として商人になる。
自由を得た後もアンネリーンへの想いを捨てきれず、十年後に彼女と再び夫婦となる。
クンラート・エトホーフト
エトホーフト公爵家の嫡男で、フェリクスとアンネリーンの幼馴染。
フェリクスにとっては王子としてではなく、一人の人間として接することのできる数少ない親友であり、王朝交代計画における最重要人物の一人でもある。
王弟を祖先に持つエトホーフト家は王位継承権を有しており、アンシンク王家に代わる新王家として選ばれることになる。
クンラート本人はフェリクスとは異なり、王として国を背負うことを受け入れる覚悟を持つ人物。
政治的判断力と社交性を備え、フェリクスが演じる「愚かな王太子」と対照的に、理想的な次期統治者として振る舞うことで貴族たちの支持を集める。
王朝交代後はエトホーフト朝初代国王となり、新国家の安定化に尽力する。
フェリクスを王位から解放したことについて複雑な思いを持ちながらも、彼の自由を尊重し、後にはアンネリーンとの関係を再び結び直すきっかけも作る。
友人としての情と国王としての責任を両立させる人物である。
ドリカ・ホル
ホル男爵家の庶子で、フェリクスが学園時代に恋に落ちた少女。
身分の低い生まれながら、王太子との恋愛によって一気に王妃へと上り詰められると信じ、貴族社会における自分の立場を急速に高めようとする。
フェリクスにとっては王族としての責任や周囲の期待を忘れさせてくれる存在であり、彼女の言葉に慰められたことで一時的に強く惹かれていく。
しかしドリカ自身は、フェリクス個人への愛情と同時に、王太子という身分、権力、財産への憧れも強く持っていた。
貴族社会の作法や上下関係を十分に理解しないままアンネリーンを敵視し、彼女から虐げられたという主張を繰り返す。
さらに後には自作自演の被害まで作り出し、王太子妃の座を確実にしようとする。
しかし調査によって主張の多くが虚偽であることが判明し、最終的に家から除籍され、矯正教育を目的とする修道院へ送られることになる。
イフナース・アンシンク
アンシンク王家の第二王子で、フェリクスの弟。
兄フェリクスとは異なり、王族として与えられた地位や身分を当然のものとして受け止めている。
自尊心が強く、自分が王子であることそのものに大きな価値を感じている人物であり、貴族社会における身分秩序を疑うこともない。
物語では、フェリクスの公開断罪によってアンネリーンが王太子妃の座を失うことになった直後、彼女の功績に対する「褒美」として自分との婚約を申し出る。
しかしアンネリーンにとって、彼女を公衆の面前で辱めたフェリクスの弟と結婚することは決して褒美ではなく、むしろ屈辱の延長にすぎない。
そのため「それが褒美になると?」と一蹴される。
この場面は、アンネリーンが身分だけを見て女性を扱う価値観を拒絶する象徴的な場面となっている。
イフナース自身は大きな陰謀の中心人物ではないものの、アンシンク王家が持つ「王族であれば相手より上」という価値観を端的に体現する人物である。