トルデリーゼ・アルテンブルク
トルデリーゼ・アルテンブルクは、エッシェンバッハ王国の名門アルテンブルク公爵家に生まれた唯一の現実的な後継候補であり、次期公爵として育てられた少女である。
幼いころから同格のバイルシュミット公爵家の三男ヴォルデマールと互いに想い合っていたが、王家の政治的都合によって第二王子ザームエルとの婚約を強いられた。
そこで彼女は感情に流されることなく、次期公爵として必要な知識と能力、そして公爵令嬢としての気品を身につけていく。
完璧な淑女となった彼女は、怠惰で自尊心ばかりが高いザームエルにとって最も劣等感を刺激される存在となり、結果として彼から「高慢ちきな嫌味女」と疎まれることに成功する。
しかし、その努力は単なる婚約破棄のためだけではない。
ザームエルが成長して相応しい婿となる可能性も最後まで考え、貴族令嬢としての責務を果たそうとしていた。
十年に及ぶ忍耐の末、婚約破棄を告げられた彼女が見せたのは涙ではなく、ようやく自由になれたという安堵の笑顔だった。
ヴォルデマール・バイルシュミット
ヴォルデマール・バイルシュミットは、アルテンブルク公爵家と並ぶ名門、バイルシュミット公爵家の三男である。
幼いころからトルデリーゼ・アルテンブルクと親しく育ち、互いに初恋の相手となった。
両家も二人の結婚を望み、婚約はほとんど成立しかけていたが、王家が公爵家同士の結びつきを警戒したことで、その未来は突然奪われる。
トルデリーゼが第二王子ザームエルとの婚約を強いられた後も、ヴォルデマールは彼女への想いを捨てなかった。
ただし、彼は感情だけで動く男ではない。
ザームエルの性格を分析し、彼がトルデリーゼを嫌うよう仕向けるための環境を整え、さらにギーゼラをザームエルの前に送り込む遠回りな策まで実行した。
そこにはトルデリーゼを愛する一途さと、目的達成のためには長期的な計略を巡らせる冷静さが同居している。
婚約破棄が成立した後は、十年間待ち続けたトルデリーゼと再び向き合い、二人だけの幸福な未来を歩み始める。
ザームエル
ザームエルは、エッシェンバッハ王国の現国王と愛妾ゲルトルーデの間に生まれた青年である。
周囲からは便宜上「第二王子」と呼ばれているものの、愛妾の子であるため王位継承権を持たず、正式な王族としての権利も持たない。
本来なら成人後には母方の家格に応じた爵位を与えられて臣籍へ下る運命だった。
ところが母と祖父の画策によって、裕福なアルテンブルク公爵家の後継者トルデリーゼとの婚約を結ぶことになる。
ザームエル自身は自分がいずれアルテンブルク公爵になれると思い込んでいた。
容姿だけなら誰もが認める美青年で、王子様然とした華やかさを持つ。
しかし内面は怠惰で努力を嫌い、自尊心ばかりが高いうえ、優秀な人間への劣等感も強い。
自分を無条件に褒め称えるギーゼラに惹かれ、「真実の愛」だと信じ込む。
そして自ら婚約破棄を宣言するが、それによって公爵家の後ろ盾を完全に失う。
最終的には望んでいた公爵位とは正反対に、ギーゼラの実家であるディーツ男爵家へ婿入りする。
ギーゼラ・ディーツ
ギーゼラ・ディーツは、王都から遠く離れた地方に領地を持つディーツ男爵家の令嬢である。
非常に裕福な家の娘ではなく、社交界で育った経験もなかったため、貴族社会の礼儀作法や王族に関する知識に乏しい。
一方で、非常に愛らしく可憐な容姿を持ち、その美貌は彼女を王都へ呼び寄せた派閥の長にも認められていた。
彼女にはもう一つ大きな特徴がある。
それは、市井で流行している恋愛小説を現実と重ね合わせてしまうほどの夢見がちな性格だ。
王太子に近づくよう勧められた際も、王太子と王子の違いを理解しておらず、王立学院で出会った美貌のザームエルを「物語に登場する王子様」だと思い込んで恋に落ちる。
自分を褒めてくれるザームエルを全面的に肯定し、彼から愛情を向けられることで、自分こそ物語のヒロインなのだという思い込みを強めていく。
一方、ザームエルの婚約者であるトルデリーゼを「意地悪な悪役令嬢」だと決めつけ、周囲からの敬遠や忠告まで彼女の仕業だと思い込む。
最終的にはザームエルと結ばれるものの、その代償として彼をディーツ男爵家へ迎えることになる。