聖女
A国の片隅にある〇〇村で暮らしていた、ごく普通の平民の娘。
水神の祠で祈ったことをきっかけに泉を湧かせたことで「水の乙女」「奇跡の乙女」と呼ばれ、瞬く間に聖女として知られるようになった。
本人は自分を特別な存在だとは考えておらず、故郷の家族や村人たちを大切にする、素朴で穏やかな少女である。
彼女が与えられた力は、世間が期待した万能の奇跡ではない。
癒しの力を振るうことも、作物を自在に実らせることもできない。
彼女の本来の役目は、水の恵みをもたらし、神殿で祈りを捧げることで大地の保水力を高め、人の力だけでは防げない大規模災害を食い止めることだった。
しかし、その役割を理解されないまま王家に囲い込まれ、民衆からは「聖女を怒らせれば災害が起こる」と誤解されていく。
やがて王家によって魔女と断じられ、投獄された末に命を奪われる。
それでも本人は神を恨まず、天界で家族と故郷の無事を喜ぶ。
自分を殺した者たちについても「自業自得」と淡々と受け止めるほど、最後まで穏やかで素朴な心を失わなかった。
神様
A国が古くから信仰してきた祭神。
人間には計り知れないほど長い年月を生き、天候や大地の変化を見守ってきた老神である。
威厳こそ備えているものの、その性格は意外なほど気さく。
聖女との会話では「そうかそうか」「~じゃのう」と穏やかな老人のように話し、彼女のことを一人の人間として大切に扱っている。
彼は未来に起こる大規模な旱魃を予測し、人間の技術だけでは対処できないと判断して聖女を地上へ遣わした。
聖女に与えた水の恵みも、大地の保水力を高める祈祷も、彼女を特別扱いさせるためのものではない。
災害から人々を救うための、いわば神からの救済措置だった。
ところが人々は、聖女が現れた理由を正しく理解できなかった。
さらに王家による囲い込みによって本来必要だった巡礼が妨げられ、その結果として災害を防げなくなってしまう。
神はその一部始終を見届けながら、人間自身が「人の力で何とかする」と選択したことを尊重し、以後は聖女を遣わさないことを決める。
聖女には申し訳なさを抱いており、彼女が次の人生では平凡で穏やかに暮らせるよう取り計らう。
神罰を下す恐ろしい存在ではなく、人間の自由意思を尊重しながら静かに見守る存在である。
国王
A国を統治する王。
聖女の噂が急速に広まった際、彼女を王家の管理下に置くことを決め、王子の婚約者という立場まで与えて囲い込んだ人物である。
本人にとって聖女は、ひとりの少女というよりも、国家の安定を左右する極めて重要な存在だった。
しかし、そこに大きな誤算があった。
聖女には本来、各地の神殿を巡って祈りを捧げる役目があったにもかかわらず、王家による囲い込みがその活動を妨げてしまったのである。
さらに「聖女を蔑ろにすれば神罰が下る」という誤った歴史認識が広まったことで、国王と近臣たちは次第に聖女そのものを危険視するようになる。
民衆の不安が高まる中、国王側は「たった一人の聖女のために国民が犠牲になる」という認識に傾き、彼女を魔女と断じて排除する道を選ぶ。
結果として、自分たちが恐れていた旱魃を防ぐために必要だった存在を、自らの手で失うことになった。
国王は国家を守ろうとしたつもりだったのかもしれない。
しかし、聖女を「人」ではなく「国家のために利用する力」として扱ったこと、そして神の意図を理解しないまま恐怖と疑念を膨らませたことが、最終的にA国の破滅へとつながった。