妹を盲信溺愛する婚約者には愛想が尽きた

リンセ

リンセは伯爵家の令嬢で、物語の主人公。
貴族学院の最終学年に在籍する、可憐で愛らしい少女である。
レオーネからも「可憐というのはこういうこと」と評されるほど、清楚で柔らかな魅力を持つ。
性格も穏やかで思いやり深く、家族や領地のことを考えられる現実的な一面を備えている。
もともとは身分の事情から容易には結ばれない相手、ルプスと密かに想いを通わせていたが、侯爵家からの婚約申し込みを父に受け入れられ、望まぬままハバリーの婚約者となった。
ところがハバリーは妹セルドを何よりも優先し、約束を何度も破ったうえ、セルドを気遣わないという理不尽な非難まで浴びせてくる。
リンセはそれでも婚約者の家との関係や実家の利益を考えて耐えていたが、やがてレオーネに相談し、婚約解消へと進む。
婚約解消後は長年想い合っていたルプスと結ばれ、彼の興した伯爵家を支える賢夫人となる。
外見の可憐さだけでなく、苦境の中でも感情に流されず自分の未来を選び取る芯の強さが魅力の女性である。


レオーネ

レオーネはアウリャル侯爵家の長女で、リンセにとって学院時代から慕う「お姉さま」のような存在。
凛々しく麗しい美貌と高い知性を備え、学院時代から多くの生徒たちの憧れだった。
後に第2王子ネムルの妃となり、王族としても高い品格を身につけている。
一方で身内に対しては非常に厳しく、弟ハバリーと妹セルドの問題行動を以前から把握していた。
特に、セルドの「病弱で可憐な妹」という虚像を盲信するハバリーには強い憤りを抱いている。
リンセが婚約生活の苦しさを相談すると、彼女の境遇をすぐに理解し、婚約解消に向けて両親や夫、義弟と協力して行動を開始する。
リンセを実家の問題処理に巻き込んだことにも責任を感じており、彼女を守ることを優先する。
物語後半では、ハバリーの廃嫡、セルドの出家、父の隠居、そして夫の侯爵家継承という大改革を主導する。
冷徹に見えるほど厳しい言葉を使うこともあるが、その根底には家族や被害者をこれ以上苦しませないという強い責任感がある。
美貌だけでなく、決断力と統率力を備えた女性である。


ハバリー

ハバリーはアウリャル侯爵家の嫡男で、リンセの元婚約者。
同学年の貴族令息として外見や家柄には恵まれているが、妹セルドへの盲目的な溺愛によって判断力を失っている。
セルドを「病弱で可憐な天使」と信じ込み、彼女が体調を崩したと言えば学院や婚約者との約束を平然と放り出し、セルドが誰かに嫌われていると言えば相手を悪者と決めつける。
リンセとのお茶会も七度にわたって一度も実現させず、それどころか婚約者であるリンセにセルドを優先するよう要求していた。
本人には悪意があるという自覚が薄く、自分こそ妹を守る正義の兄だと思い込んでいるところが大きな問題である。
さらに、侯爵家嫡男としての地位を当然のものと考え、自分が婚約を破棄されるという事実すら受け入れられないほど自尊心が強い。
最終的には、妹と父親の愚行を含む一連の問題の責任を問われて廃嫡され、カデナ男爵家へ婿入りすることになる。
整った貴族青年としての外見と、幼稚で偏った内面との落差が特徴的な人物。


セルド

セルドはアウリャル侯爵家の次女で、ハバリーが盲目的に溺愛する妹。
兄からは「病弱で可憐、愛らしく健気な天使」と扱われているが、実際の姿はその評価とは大きく異なる。
身体的には健康そのもので、王宮筆頭侍医による診察でも病気は認められず、作中では「仮病」と評されるほど。
学院の課題や自分に都合の悪い予定があると体調不良を訴える一方、観劇や祭りなど自分が楽しみにしている行事では元気いっぱいに振る舞う。
外見上は小柄ながら極端に肥満しており、本文では「むちむちとお肉たっぷりの腕とお腹」「横にだけ巨漢」と表現される。
その一方で、自分を可憐でか弱い少女だと信じ、涙や甘え、上目遣いを駆使して兄の庇護を引き出す。
気に入らない相手について「自分を嫌っている」と兄に訴え、ハバリーに相手を排除させてきたため、学院では周囲から避けられている。
姉レオーネや母リェフにはその本質を見抜かれており、家族からの無条件の庇護も最終的には失う。
物語終盤では厳しい修道院へ送られ、これまでの怠惰な生活から強制的に切り離されることになる。
可憐な少女を演じる自己認識と、周囲から見た現実との落差が最大の特徴である。