クゥクーの娘

フィエリテ・クレアシオン・ド・シュエット

ティーグル王国の筆頭公爵家、クゥクー公爵家の長女であり、16歳にして現当主となった本作の主人公。
輝くプラチナブロンドの髪とサファイアの瞳を持つ、同年代では並ぶ者のない美貌の持ち主で、優れた教養と気品、冷静な判断力を備えた公爵令嬢である。
幼い頃から次期当主として厳しい教育を受けており、身分に相応しい威厳と淑女としての礼節を身につけている。
一方で、母アンソルスランを早くに亡くしたことで、まだ少女でありながら大きな責任を背負うことになった。
婚約者ブリュイアンには歩み寄ろうと努め、贈り物や茶会など細やかな配慮を重ねていたが、彼の怠慢と増長によってその努力は踏みにじられる。
夜会では義妹メプリと共に一方的な糾弾を受けるものの、感情的に騒ぐことなく、事実を一つずつ示して相手の勘違いを論破していく。
実は王太子サジェスフォルスを実父に持つ王家の血筋であり、クゥクー公爵家が王家の血脈を守る特殊な役割を担ってきたこととも深く関わっている。
誇り高く聡明でありながら、他者への情も厚い女性である。


ヴェルチュ・サクレ・ド・ティヨル

フォーコン公爵家の後嗣であり、19歳の若き公爵。
王妹を母に持つ王族の血筋に連なる高位貴族で、輝くブロンドの髪とアメジストの瞳、鍛えられた長身の体躯を備えた、同世代を代表する美丈夫である。
フィエリテとは幼い頃からの親しい間柄で、本来なら彼女の婚約者となるはずだった人物でもある。
しかしヴェルチュ自身がフォーコン公爵家の後嗣であり、婿入りによって家を継ぐことが難しかったため、正式な婚約には至らなかった。
前クゥクー公爵アンソルスランの死によってフィエリテの婚約者を早急に決める必要が生じ、候補から外された経緯を持つ。
その後、ブリュイアンの人物像を知ったヴェルチュは、いずれ婚約解消になると見越しながら静かに状況を観察し、必要となればすぐ動けるよう準備を整えていた。
普段は飄々としており、フィエリテには軽口を叩くことも多いが、実際には非常に思慮深く、政治的な先読みもできる人物。
王太子サジェスフォルスにも劣らぬ腹黒さを秘めながら、フィエリテを陰から支える存在であり、最終的には彼女の正式な婚約者となる。


ブリュイアン・コレリック・ド・フォルミ

コシュマール侯爵家の三男で、18歳。
くすんだ金髪と濁った緑の瞳を持つ、中背でひょろりとした体格の青年である。
顔立ちそのものは整っているものの、実際の能力や人格はその外見から受ける印象とは大きく異なる。
フィエリテの婚約者として選ばれたのは、彼が特別に優秀だったからではなく、クゥクー公爵家側が「適度に愚かで、フィエリテの邪魔をしない婿」として妥協したためだった。
本人はその事情を知らず、フィエリテが自分の美貌や才能に惚れ込み、望んで婚約したのだと思い込んでいる。
学園では容姿と成績によって周囲から持ち上げられていたため、自尊心ばかりが肥大し、高位貴族社会で自分がどの程度の存在なのかを理解できなかった。
公爵家で受けるべき当主補佐教育も怠り、自分が次期公爵だと勝手に思い込むようになる。
そんな中、メプリと出会い、彼女が語るフィエリテへの虚偽の被害話を何の確認もせず信じ込む。
やがてメプリとの関係を深め、婚約者の前で堂々と不貞を働いた末、夜会でフィエリテへの婚約破棄と追放を宣言する。
自分を「正義の執行者」と信じながら、最後まで自らの無知と増長に気づけなかった人物である。


メプリ・リュゼ・ド・サンスュ

16歳。
ヴュルギャリテの連れ子であり、フィエリテの義妹となった少女。
栗色の髪と緑の瞳を持つ華奢な体つきで、一見すると愛らしく親しみやすい少女に見える。
しかし、貴族社会の常識や礼儀作法、教養をほとんど身につけておらず、自分を公爵令嬢だと思い込んでいることが彼女の最大の問題である。
もともとは平民として育ち、母ヴュルギャリテがペルセヴェランスの愛人となったことで公爵家敷地内の別館に住むようになった。
フィエリテとはほとんど交流がなかったにもかかわらず、自分が別館に閉じ込められていることや社交界から遠ざけられていることを「フィエリテに虐げられている」と解釈する。
そして、自分の境遇を悲劇として語り、ブリュイアンの同情と好意を引き出すことに成功した。
ブリュイアンとの仲を深めた後は、フィエリテから婚約者を奪うことを当然のように考え、彼女を追い出せば自分が公爵令嬢になれると信じるようになる。
自分に都合の悪い事実は認めず、周囲の忠告も自分への悪意と受け取るため、最後まで現実との隔たりを理解できない。
母と共に公爵家を乗っ取ろうとした結果、重大な罪に問われることになる。


ペルセヴェランス・デクラン・ド・サンスュ

フィエリテの父で、前クゥクー公爵アンソルスランの夫。
マルシャン子爵家の次男として生まれ、優れた補佐能力を買われてクゥクー公爵家の婿に選ばれた人物である。
アンソルスランとは政略結婚だったものの、婚約期間を通じて深い信頼と家族愛を育み、結婚後には互いに愛し合う夫婦となった。
アンソルスランがクゥクー公爵家の特殊な役目を担うことになった際には、その苦しみを理解しながらも彼女を支え続けた。
ヴュルギャリテによる罠にはめられた後も、妻に隠し事をせずすべてを打ち明け、アンソルスランと協力して彼女からフィエリテを守っている。
妻の死後も再婚する意思はなく、娘が成人して公爵位を継承するまで支えることを選んだ。
最終的にヴュルギャリテと再婚したのも愛情からではなく、公爵家との法的な関係を断ち、フィエリテを守るためだった。
本人は自分の判断の甘さや弱さを悔いているが、実際にはフィエリテを深く愛する父親であり、長年にわたって公爵家と娘を守るため苦労を重ねてきた人物である。


アンソルスラン・プリエール・ド・シュエット

前クゥクー公爵で、フィエリテの実母。
享年31歳。
輝くプラチナブロンドの髪とサファイアの瞳を持ち、娘フィエリテとよく似た美貌の女性だった。
クゥクー公爵家の長女として生まれ、16歳でペルセヴェランスと結婚し、17歳で王太子サジェスフォルスの「添臥」を務め、18歳でフィエリテを出産した後、公爵位を継承した。
ペルセヴェランスとは政略結婚だったものの、互いに深く愛し合う夫婦となり、娘フィエリテと息子エヴェイユをもうけている。
聡明で芯が強く、夫がヴュルギャリテの罠にかかった際にも感情的に責めることなく、事情を聞いたうえで公爵家の影の者を使って相手を調査するなど、冷静かつ大胆な判断を下した。
王家とクゥクー公爵家に課せられた特殊な役目によって、自身もまた大きな犠牲を払った人物であり、その経験を通じて王家の古い慣習がもたらす苦しみを理解していた。
娘フィエリテの将来を案じ、ヴェルチュとの婚約も考えていたが、二人とも後嗣であることから調整に時間がかかり、実現を見届けることなく31歳で亡くなった。
短い生涯ながら、フィエリテとペルセヴェランスの人生に大きな影響を残した女性である。


サジェスフォルス・ミゼリコルド・ド・スュクセオヌール

ティーグル王国の王太子で29歳。
プラチナブロンドの髪とサファイアの瞳を持つ長身の男性で、王家の次代を担う人物である。
フィエリテの実父でもあるが、その事実は公にはされていない。
幼い頃、クゥクー公爵家のアンソルスランを「添臥」として経験し、その結果フィエリテが生まれた。
王家の伝統として受け入れていた制度だったが、成長してその裏にあるアンソルスランやペルセヴェランスの苦しみを知ったことで、従来の慣習に疑問を抱くようになる。
現在は王家の悪習である「添臥」を廃止するために動いており、クゥクー公爵家、とりわけフィエリテをその役目から解放したいと考えている。
普段は王太子として冷静沈着に振る舞う一方、実の娘であるフィエリテには人知れず強い愛情を抱いている。
そのため、彼女の新公爵就任を祝う夜会でブリュイアンたちが婚約破棄騒動を起こした際には激しく怒り、あえて彼らを逃がさず、その場で処断する機会として利用した。
王族としての威厳と政治的な計算高さを持ちながら、娘を守ろうとする父親としての情も併せ持つ人物である。


エヴェイユ・シャンス・ド・シュエット

13歳。
ペルセヴェランスとアンソルスランの間に生まれたフィエリテの実弟で、クゥクー公爵家の長男。
母譲りのプラチナブロンドと父譲りの琥珀色の瞳を持つ、成長期らしい細身の少年である。
男子であるため、本来ならクゥクー公爵家から分家を興す予定だったが、伯父シャン・シャッスのフレール侯爵家に後継者がいなかったため、5歳で養子に入り、以来そこで後継者教育を受けている。
そのためヴュルギャリテ、メプリ、ブリュイアンとは面識がなく、彼らが自分の存在を知らなかったことが夜会で大きな意味を持つことになる。
幼い頃に母を亡くし、5歳で姉とも離れて暮らすことになったため、フィエリテへの愛情は非常に強い。
姉を敬愛する重度のシスコンであり、姉を傷つけようとする者には容赦がない。
一方で、育ての父であるシャン譲りの冷静さと毒舌も持ち合わせており、13歳とは思えないほど鋭い言葉でメプリやブリュイアンの勘違いを切り捨てる。
特に彼らがピグリエーシュ伯爵位を継ごうとした際には、爵位の仕組みと自分自身の存在を突きつけ、彼らの計画を完全に崩壊させた。
フィエリテにとって頼もしい弟であると同時に、クゥクー公爵家の血統と未来を象徴する存在でもある。